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キミにコイをした。  作者: なち
彩日十題
40/52

ひねくれ者のおまえのことなんて、 前編



 理子のスパルタ指導のお陰か、何とか期末試験を赤点無しで乗り切った。

 クリスマスの予定を話し合った事は無いが、特別なイベントで、それが付き合って初めてのクリスマスとあれば、示しあわなくてもデートと決まっているものでは無いだろうか。理子に予定を窺ってはいないが、当然そのつもりだろうと思っていた。だからこちらも、紀子と義兄に相談して自分でも出来る程度のデートプランを考えていたわけで。

 赤点も免れ、両親の許諾もあり、障害なんて無い筈。

 それなのに冬休みまで残すところ数日、という平日の火曜日。その昼休みの部活のミーティングで、部長である寺門が神妙な顔で提案したのは。

「自主練プラス飲み会?」

 寺門の言葉を繰り返す日向が、おかしそうに片眉を上げた。わざわざ顧問が休みにしてくれたというのに、何故好き好んで自主練なんて、とその顔は言いたげだ。寺門の提案はクリスマスイブ当日の話だ。飲み会はすなわち、クリスマス会。

「ぶっちゃければ寂しい独り身同士、集まろうぜって事だ」

 女子にも話はついているからムサくない、と寺門が主張すれば、狭い部室の中に犇く部員達がどよめいた。家に居ても寂しい日だが、男だけで集まるのも惨めったらしい。けれど女が居れば華やぐ、テンション上がる、と見慣れた女子部相手でも問題がない、と断言する部員達が口々に寺門を持て囃す。

「テラさん素敵!」

「さすが部長!!」

 それに対して寺門は両手を上げて、大袈裟に頷いてみせる。

 ヒートアップしているのは独り身の部員ばかりで、該当しない彼女持ちは異様なテンションに腰が引いている。

「朝から晩まで寂しくないぞっ!」「おー!!」

 と一致団結したロンリーガイ。すでにその主張が寂しい事に気付いていないのだろう。

 佐久間が一年早く引退をして暴走を食い止める奴が居ないから、暑苦しい集団は『寂しかったクリスマス』を題材に未成年の主張を繰り返している。もう一人の副部長である日向は基本傍観の姿勢だし、こういう時の適切な鎮め方を知らないから、暴走気味の寺門は留まる所を知らない。

 俺もため息を吐きながら、好きにしろ、と呟いた。それこそ俺にも関係ない。

「好きにしていいんだな!?」

 もう開催する気満々だったくせに何を言っているんだろう、と振り返った集団の中の寺門の顔を、座ったままの俺は見上げた。平凡な顔立ちながら、バスケ部部長という立場を鑑みればモテないわけもないと思うのだが、恐らく敗因はその落ち着きの無さだろう。

「やりたきゃ、やれば」

 俺は日向の微妙な表情の意図など掴めず、体育館の使用許可が取れるんならいいんじゃねぇの、と他所事で答えたつもりだった。

「そんじゃ、参加してくれるんだな!?」

 ――どこをどうしたらそんな話になる。

「はぁ!?」

 独り身どうこう、という話だったのではないのか。そういう事なら彼女が居る俺は関係が無い筈で、完全なる他人事で。なのに隣に座った日向が「あーあ」とため息。

「俺が、これだけの人数監督できると思ってんのか。副部長のお前は、強制だよ強制」

「日向はっ!」

「飛行機のチケットキャンセルさせる気?」

 ある意味当然といったら当然というか、部のイベントとして開催する限りは避けて通れない事だったかもしれないが、俺がそこまで考え至るわけがない。日向の微妙顔の意味はこういう事だったのかと気付いてみても、後の祭りだ。

 大体がまず、寺門に部員の監督など無理だ。盛り上げ役になるに決まっている。後始末など出来やしない。そもそも寺門が部長になった理由もくじ引きで選出された、というぐらいでリーダーシップという意味ではあまり役に立たない。佐久間を当てにしていた先輩連中が当てが外れた結果、既に副部長に選出されていた俺と日向がフォローすれば部長は誰でもいいんじゃないか等という適当さでくじ引いたのが寺門だ。だからこそ俺と日向は寺門をフォローするのが当然、と思われている節がある。

「そういう話なら、却下だ。諦めろ」

 それならばと、俺は吐いた言葉を翻す。けれどすぐにブーイングに見舞われた。

「そりゃ無いっすよ、タケ先輩!」

「横暴だぞー!!」

 嘆く顔も拗ねる顔も、全部本気だ。本気でこちらを責めている。

「どっちがだっ!」

 思わず飛び出た俺の怒鳴り声も、本音も本音。

「俺にだって予定がある!!」

「お前が諦めろっ!!」

「お前ばっかいい思いさせるかっ!!」

 ここぞとばかりに声を張るのは、同級の連中だ。一年坊主は激しく頷くばかり。

「冗談じゃない。何でクリスマスにお前らと顔突き合わさなきゃなんねんだ」

 休みに自主練しようとする気概はいい。クリスマスも集団で騒ぎたいなら集まればいい。ただ、それに俺を巻き込まないで欲しいと切実に思う。こと、今回に限っては。

「いいか。彼女との初のクリスマスだ。邪魔すんじゃねぇ!」

「うっせぇ! どうせイカガワシイ事するだけのイベントだろ!? そんなオイシイ思いお前だけにさせるか!」

 俺だって菅野さんのファンだったのに、と暴露したのは寺門だった。そうだそうだ、と追従する声。変態、エロ野郎と乗っかってきた連中にはそこらへんにあった雑誌を投げつけてやった。

 日向を含む彼女持ち達は自分に矛が向かないようにとだんまりを決め込む。

 俺の主張は正論でも、多勢に無勢。結局副部長の責任を訥々と説かれ、寺門の暴走で問題が起こって試合の出場停止にでもなったらどうするのだ、と若干ありえそうな事態を想像させられた結果、無理矢理の参加を義務付けられてしまった。


 そんな事の顛末を理子に語ったのは、その日の放課後。

 理子の家で夕飯を食べた後、項を掻きながらの俺を前に、理子は「え」と言ったきり黙ってしまった。それまでにこやかにしていた表情が、当然のように一気に変化する。

「悪ぃ。つぅかアイツラ放っておくとマジ何するかわかんねぇし……俺だって行きたくねぇんだけど……なんか、そういう話に……」

 何を言っても言い訳がましい。というか言い訳だ。

 自分で言っていて断りきれなかったのが情けなくなってくる。

「25日は夕方まで部活あっけど、その後なら会えるし……つうか、24日、理子も来ねぇ?」

 窺うようにして言葉を並べ立てる俺を、見つめる理子は無表情。瞳の奥に潜むのは軽蔑なのか落胆なのか怒りなのか。

「……別に、」

 様子を探るように言葉を切った俺の沈黙の後、理子はふいと顔を背けた。

「約束してたわけでも、予定を立ててたわけでもないんだし、いいんじゃない」

 勝手にすれば。

 吐き捨てるように言って立ち上がった理子に、むっとしてしまうのはお門違いだろう。

 確かに約束はしていない。でも会うのが当然、と思っていたのは俺だけじゃないのだろう事は理子の態度で分かる。俺は俺で必死こいて予定を立てていたし、イルミネーションが綺麗だという遊園地のチェックなぞもしていた。理子がどうしよう、と考えていたかは知らない。ただ会うだけのつもりだったかもしれない。

 悪いのは俺。それは分かっている。

 それでも言い方があるだろう、と思う。思うままのそれが、表情に出た。

「……私は行かない。楽しんできたら」

 理子も理子で不機嫌を前面に出しながら。

 素直に寂しいなんて言うとも思ってない。大らかに承諾されてもそれはそれで腹立つ。理子という人間がとる、およそ予想通りの態度。ひねくれた理子らしい、つっけんどんな、遠まわしな非難。

 それを責める権利は俺には無い。

「悪い」

 素直に謝るしかない。でも、それを理子は無視とくる。なのに、

「終わったら会いに来る」

「いいよそんな事しなくても」

これにはすぐさまこたえが返る。これはあれだ。拗ねてるのだと分かる。

「じゃ、途中で抜けてくる」

「それこそいい」

「じゃ、やっぱりお前も来いよ」

 一緒に居たいなんて恥ずかしい事は言えない。何時も会っていても、やっぱりクリスマスというイベントは特別だと、俺だって感じてる。だから理子もそう思ってくれればいいと、俺にしては頑張った方だ。何時もだったらこっちも「あっそ」と言って話を切るくらいしてしまう所。

 しかし理子は、苛立ったように。

「しつこいっ!!」

 ――俺に、何を言う資格も無いけれど。

「……」

 そこまでひねくれるんなら、勝手にしろ。胸の中で、そう怒鳴っていた。




 あっという間に、冬休みに入った。喧嘩、という程大袈裟なものでは無かったから、理子とはそれからも普通に接していた。電話もメールも今まで通り、会うのもそうだ。別段気まずい、という事もなければ、理子の態度がおかしい事も無い。ただクリスマスの話題だけはタブーで、一言でも口にすれば無言攻撃が待っていた。

 俺は根気良く何度もクリスマス会に誘ったし、別の日に改めてという代案を示したりもしたのだが、理子はその度に「別にいい」で話を続けさせてくれない。言えば言う程頑なになるようだった。

 もうイブを明後日に控えた日まで俺は電話でクリスマス会に誘っていたが、理子はその頃には冷静で、苦笑しながら言うのだ。

『いいよ、気にしないで。私も気にしてないから。大体何時も会ってるんだし、何て事ないよ』

 それはある意味では本音なのだろう。声音に固いところもなく、あっさりとしていた。顔が見れたら苦笑しているんだろうな、と簡単に想像出来るくらい、普通過ぎるくらいの軽い口調だった。

『25日、会えるんでしょう?』

 それは何時も通り一緒に夕食をとる、という意味だけのもの。クリスマスというイベント抜きにして、というもの。

 理子はそのイベントの特別性だけは、拒絶し続けていた。どこかへ行く、だとか何かをする、だとか――そういう特別な事はせずに、何時も通り。プレゼントもいらない、と言い張る。クリスマスという空気を、拒否し続ける。

『何もしないでね。私もしないから』

 せっかくのクリスマスなのに、と俺が言い募る程に、理子は首を振って言うのだ。クリスチャンでも無いのに、なんて笑って。

 特別な事じゃない、と強調されてしまえば、俺は強く出られない。台無しにしたのは俺だから、「分かった」と頷く事しか出来ない。


 ただもう、そうするしか方法が無かった。





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