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キミにコイをした。  作者: なち
笑言十題
36/52

何かいろいろとすみませんでした



 タケはそろそろ、自分の立場を自覚した方が良いだろう、とは思っていた。

 見当違いの事に悩み続ける、救いようの無い鈍さの結果、理子サンとの友情が壊れても、その前にタケが自分の気持ちに気付いたとしても、そこまでは自分が感知すべき事ではないだろうと。

 菜穂はどうにかして二人をくっつけようとしているみたいだったけど、この程度のタイミングの悪さで駄目になるようであれば、今後が難しいだろうと俺は思っていて。だから友達甲斐が無いと言われても、こればっかりはタケがどうにかするべきだと考えていた。

 だのに、どうしてタケという男は。

 思い立ったら吉日、考える前に即行動。

 それが引き金になって何度も失敗しているというのに、今回もまた、どうしてそう人前で事を大きくするのだろう。

 放課後、菜穂の迎えを待っていた俺も、タケの突然の来訪を傍観する事になった。

 強張った理子サンを見てよわったな、とは思っても、すぐに羽田が間に入ったから、タケの阿呆さを苦く感じながらも様子を窺う。

 何から何まで、周りにいらぬ邪推をさせそうな三人の様子。

 羽田も羽田でこういう時に理子サンの気持ちを憚る事をしない。

 どうしたもんか、と黙考している間に、タケが羽田を押しのけて理子サンの手を取る。

 この場で修羅場にならなくて良かった、のだが。

 俺はただ不安にばかりなってしまう。

 静まり返っていた教室が、二人が出て行った後、すぐに騒がしくなった。ひそひそ、と交わされる幾つもの会話が耳に入る。

「佐久間、アレどうなってんの」

 とか、事情を問うてくる友人には曖昧に笑うだけ。

 二人の背を険しい顔で見送っていた羽田が、しばらくの後動く。

 教室を飛び出ていく羽田を、慌てて追いかけた。

「羽田!!」

 思わず、廊下で大声を上げてしまう。

「……何」

 それでも止まってくれないから、羽田の腕を掴んで歩みを止めると、振り返った顔は般若の如き恐ろしいものだった。

「いや、ほっといてやりなよ。というか、二人にしてやって」

「邪魔はしないよ」

「いや、それは分かってるけど」

 特別、腕を振り払おうとはしない。けれど顔面一杯で、離せと訴えてくる羽田。

 廊下で騒ぐと、俺たちまで注目されてしまうだろう。

 穏やかに微笑んで、何とか羽田を落ち着けようとするのだけれど、その意図が分かったのか羽田はわざとらしく舌打ちしてみせた。

「これからがいいとこでしょうが」

 と声を潜めてため息をつく顔は、何時ものおちゃらけた様子を覗かせる。

「覗きなんていい趣味だね」

「でしょ」

 嫌味もちっとも意に介さない。

 この人は、こんな時も二人の観察をやめないつもりなのだろうか。心中でため息が出てしまうのは仕方が無いだろう。

 何時かノケモノにされた、二人のホワイトデーデートの尾行といい、友人想いのいい所が全てそれで帳消しにされてしまうのが、何だか不憫でならない。

「佐久間」

 そんな俺の心情を理解していても、気にし無いのが羽田だ。

「アタシ達には、その権利があるでしょうが」

 思わず頷いてしまいそうな、説得力。

 俺が何とも言えずに黙り込むと、羽田はにやり、と邪悪に笑う。

「佐久間」

「はい」

 もう一度名前を呼ばれて、肩を叩かれた。

「いいから、皆を呼んで来い」

「………ラジャー」

 結局、俺も羽田には勝てない。




 菜穂や梓の付き合いで、見に行っていたバスケットボール部の大会。スポーツ観戦は別段好きじゃなかったけれど、スポーツをしている人は皆格好良く見えた。

 今のカレも、そんな印象から告って付き合いだした。

 それなりにうまくいっているけれど、可も無く不可も無くっていう感じだ。

 そんなカレが今日は部活が休みだというから放課後デート。

 下駄箱で待ち合わせして、いざ帰ろうという段で携帯にメールが入った。

 相手は日向だ。珍しい、と小首を傾げながらも、フリップを押してメールを見る。

 題名に【ノゾキ隊】。これはつまり、マチや梓達の間で理子と高橋の話をする時の、秘密の暗号みたいなもの。おぉ、っと気が逸って、本文に目を通す。【デートの邪魔して恐縮ですが、いよいよらしいよ】。カレの後輩である日向は、どうやら今日のデートをご存知らしい。にも関わらず遠慮もせずメールをしてくる辺り、マチの事を良く分かってくれている。

 思わずにんまりと笑顔になるマチに、カレが声をかけてくる。

「どうかした?」

 どうも、何も。

 マチの中での優先順位が覆る。元々カレの順位は低めなのだけれど。

「ごめんね! マチ、こればっかりは譲れないの!!」

「……は?」

 デートを優先してこんなに心躍る内容を無視するわけにはいかないのだ!

 つかず離れず、近付いたと思ったら元に戻っている、あの何とも奇妙な二人組。マチから見たら、もう両想いなんだからさっさとくっつけばいいのにって思う二人組。とりあえず付き合えばいい、駄目だったら別れればいいっていうマチの恋愛のスタンスからはかけ離れた二人組。

 あの二人にマチ達は興味津々、野次馬根性丸出しである。

「後で連絡するから、先帰ってー!」

 ごめんね、とカレの許可も待たず、マチは走り出す。

 行き先はとりあえず、日向の教室だ。




 真知ちゃんと合流して、タケと理子さんが向かったという屋上に急ぐと、すでに他の四人は屋上の踊り場で蹲っていた。

 どうやら鍵がかかっているらしく、羽田と高塚がドアに耳をくっつけて、菜穂ちゃんは少し後ろで前のめりに様子を窺っている。佐久間は一人、肩を竦めて明後日の方向に視線をやっているものの――

 オレ達に気づいた羽田が「しっ」と唇に人差し指を当ててから、ドアを指す。

 耳を欹てると、会話の内容は聞こえないものの、タケのものらしい低い声が若干怒鳴っているように聞こえる。

 怒ってどうする、と呆れ顔のオレを無視して、真知ちゃんは羽田と高塚の間に入り込む。

「……どんな感じ?」

 声を潜めて佐久間の隣に腰を落とすと、佐久間が耳元に口を寄せてくる。

「ただいまの模様、勝率0パーセント」

「……腑抜けが」

「羽田いわく、だから何ともいえないけどね」

 苦笑する佐久間に、ああと頷く。羽田が0と言い切るのならそうなのかもしれないし、敢えてそう言っているだけ、という可能性もあるので信憑性は無い、という事だ。彼女の言葉を真正面から信じるのは単純な高塚くらいだろう。女性陣には当たりが柔らかい羽田だから、彼女たちは抜きにして、になるが。

「何かボソボソ言ってて聞こえねぇな……」

 壁一枚隔てるだけでも結構声は遮断されてしまうから、そもそも無理があるんじゃないだろうか。

 そう思った所で振り返った羽田に手招きされて、従う。

「ヒナ、開けてよ」

 昔の愛称がぽろっと出たのは、恐らく興奮のし過ぎなのだろう。子供のように無邪気な、けれど悪魔のようなたくらみをも含む微笑で、羽田がノブを指差す。

 そして手渡されるのは、羽田が前髪を止めていたのだろうヘアピン。

 黒くて飾り気の無いそれを無言で受け取って、折れている部分をまっすぐに直す。

 それを不思議そうに見つめてくる高塚と真知ちゃんに、羽田が一言。

「日向は、鍵開けの名人だよ。一回空き巣が見つかって捕まった事があったっけ?」

「え、そうなの――」

「あるわけないでしょ」

 何を言うんだ、この女は。しかもそれを佐久間以外は事実と受け止めて驚いたのだから、なんだかなぁ。オレを何だと思ってるのか、という話だ。

 思わず身を乗り出す高塚に、冷たい視線をくれてやる。もちろん、高塚にだけ。

 真っ直ぐに伸びたヘアピンを鍵穴に突っ込むオレの横で、羽田はまたドアに耳をくっつけて中の様子を探っている。

「……お?」

「――ん?」

「今度は菅野が怒鳴ってる、っぽい……?」

 確かにくぐもって聞こえる声は、女性特有の高音のような気がする。

 なるべく音を立てないようにノブを押さえながら、鍵穴の様子に目をこらす。手の感触は悪くない。もっとも学校の屋上の鍵なんて、セキュリティの必要性も無いから、単純な作りで家庭のそれに比べて難易度は高くない。――こういう発言をすると前述の空き巣問題に信憑性が出てしまう気がするが、これはあれです。やんちゃしていた中学生時代に屋上に潜んでいた時の怪我の功名というやつです。

「……開いた……」

 とか思っている間にカチリ、といい音がした。

 こちらがノブをひねる前に、上から乗せられた羽田の手がオレの手を巻き込みながらノブを回す。ちょ、外側に向いた手が痛いんですけどっ!!と羽田を睨んでも、彼女の視線はこちらに向かない。

 少しだけ開いたドアの隙間から、心地よい外気が入り込んでくる。

 詰めていた息苦しい息を吐いた時だった。


「私はっ!!」


 怒鳴っているのが本当に理子さんなんだって、実感すると共に不思議だった。彼女がこんなに悲痛にさけぶ事があるのかって。

「君の友達なんか嫌なのっ!!」

 その声があまりに切実に胸に響いて、まるでオレが言われたみたいな衝撃を受ける。うわ、ちょっとタケに同情してしまう。微かに震える口調が痛々しくて、だからそれが刃のような鋭さを持つ。

「君はちっとも、分かってないっ!」

 周りで皆が、一斉に息を飲むのが分かった。




 理子ちゃんはあたしの憧れ。

 過分に誇張しすぎだと何時も理子ちゃんは苦笑するけれど、出会った中学生の頃からあたしの中で理子ちゃんは自慢の友達だった。ちゃんと地に足がついていて、揺るがない、大人で綺麗な人。どうして同い年なのにこんなに違うんだろう、って何時も思っていた。

 何かあれば手を貸してくれて、守ってくれて。そんな理子ちゃんにいつか報いたいって思っていても、あたしに手助け出来る事なんて一つも無かった。

 高橋君に恋をして悩んでいる理子ちゃんにアドバイスの一つも出来なければ、相談に乗ってあげる事も慰める事もしてあげられない。

 出来る事が、こんな覗きみたいな、事。

 屋上で高橋君と向き合って、悲痛に言葉を繋げる理子ちゃんの声を聞きながら、あたしは泣きそうになってしまう。

 理子ちゃんを悲しませる高橋君なんて嫌い。

 憎らしい程鈍感で、傷つける言葉や行動ばかり。顔は格好良いかもしれないけれど、理子ちゃんにはもっっと優しくて似合う人がいる、って思ってしまう。

 なのに理子ちゃんの気持ちを間単に浮上させてしまえるから、ずるい。

 今だって。

 理子ちゃんが常に無い程切迫して、泣いているのに。優しい言葉一つかけてくれない。

 理子ちゃんのストレートな告白の言葉を、ただ黙って聞いているだけ。

 飛び出して間に立って、守る事があたしに出来ればいいのに。

 ドアの隙間から高橋君の背中越しに理子ちゃんの泣き顔が見える。何時もだったらこっちの気配に気づく筈なのに、そんな余裕すら無いのだろう。俯く理子ちゃんの肩が嗚咽に合わせて揺れる。

 高橋君なんて嫌い。

 どうして理子ちゃんの気持ちに気づかないの。あんなに綺麗で可愛くて魅力一杯の女の子を、どうしてそういう風に好きになってくれないの。

 理不尽に思う。

 それでも理子ちゃんは高橋君が好きだって言う。恋しいんだって泣く。友達付き合いなんて嫌だって、泣いている。

 一秒が長い。

 屋上には理子ちゃんと高橋君二人きり。気まずい空気に堪えている理子ちゃんに、走り寄りたい。

 梓ちゃんを筆頭に扉に張り付きながら、あたし達は息を殺す。

 声が遠い。だけど理子ちゃんの気持ちは痛い程伝わってくるから不思議。

 背中だけじゃ高橋君の気持ちは読み取れない。何時だってあの鈍感で浅慮な彼の気持ちは、伝わって来ない。意味が分からない。高橋君は、本当に、意味が分からない。

 理子ちゃんが高橋君と付き合えるのが、一番嬉しい。きっとそれが幸せ。新ちゃんの親友の高橋君だから、彼と理子ちゃんが付き合ってくれれば、今後も一緒に遊んだり出かけたり出来るだろう――それは、あたしにとっても喜ばしい事。大好きな人達に囲まれて過ごせたら、きっと幸せ。

 でも、と思う。

 高橋君は、きっと色々難しい。恋愛なんて面倒だって言っちゃうし、多分本当にそういう恋愛面での気遣いなんて無いに等しい。

 ならもう、すっぱり振ってあげて欲しい。次に行かせてあげて欲しい。

 もう理子ちゃんを苦しめないで欲しい。

 早く決着が付けばいいって、握りこぶしを作りながら思っていた。

 長い長い、けれどたった数分。

 高橋君が一歩理子ちゃんに近づいたと思ったら、彼の腕は理子ちゃんを唐突に抱きしめた。




 冷静になって考えれば、すっごく惨めな状況だ。

 ドアを挟んで屋上と、こちら。それぞれ全く別々の緊張感が漂う場所。

 鉄扉に蝉のように張り付いて聞き耳を立てているのは、他人の恋愛話。ぐるりと辺りを一巡してみれば、仲の良い友人達。どいつもこいつも、純粋に心配したり応援したりしている顔。

 恋愛面で幸せなのだろう奴らは、俺のように若干の惨めさなんて感じても居ないだろう。

 俺だって彼女が欲しい。超絶募集中だ。俺の扉は全開だ。

 高橋がイイ奴でモテル要素満載であるのは承知の上だが、何で俺じゃあ駄目なんだろう。誰だっていいから彼女が欲しい、なんて豪語しているけど、俺だってそりゃ付き合うなら好意を持っている相手とが一番いい。菅ちんは綺麗で面白くて魅力たっぷりで、俺だって周りに漏れず好きだ。欲望塗れのそれではあるけれど、数日前に菅ちんが好きだと訴えてきた後輩の原島と同じ様に、菅ちんの好きな相手が高橋じゃなければ諸手を挙げて立候補したいぐらいだ。

 高橋が菅ちんを振るんなら、俺にしておけばいいのに。

 泣きながらそれでも高橋がいいのだと告白する痛々しい姿を覗き見ながら、強く強くそう思う。

 優しくしてあげたい。守ってあげたい。

 そんな気持ちが沸いてくる。

 どうしてあんな菅ちんを目の前にして、高橋があんなにも普通に突っ立ていられるのかが理解出来ない。

 ああ、と思ったら。

 突然菅ちんを抱き締めた高橋に、背後で息を飲む気配がする。

 俺は興奮状態に羽田の背中に乗り上げる。後で怒られる事必死な、完全に潰す様な力の入れ様だったのだけどそんな事には気づけない。羽田はさり気ない日向のフォローで俺の体の下から逃れたようではあったけど。

 何思わせ振りな態度を取っているんだ、高橋め!!

 今までの奴の態度から思うのはそんな所。声が遠くて全然聞こえないから、声を拾おうとしてどんどん前のめりになってしまう。

 菅ちんの姿はすっぽり高橋の中に隠れてしまっているから、どういうやり取りがされているのかは分からない。

 俺の背中に真知チャンのだと思われる温もり。

「……どうなってるの……?」

 日向は完全にこちら側を向いている。扉を背にして、ドアを押さえているその顔が、菜穂チャンの質問に答えるようにして困惑気味に変わる。

 誰も答えられない。

 何時だって予想外の高橋の行動が、俺らに把握出来る筈が無い。

 あの抱擁が、どんな意味を持っているか、なんて。ちっとも、分からないけど。

 しばらくして、菅ちんの手が高橋の背に周る。ゆっくり、控えめに。白い指先が高橋のシャツを握り締める。

「……え?」

 あれ、これってもしかして。

 羽田の素っ頓狂な声がして、

「も、限界」

 日向の唸る様な呟きがして、


 ぐらり、と体が傾いた。




 覚悟を決めた菅野の告白に、アタシは心の中でガッツポーズを決めていた。結果がどうであれ、よくやったと頭を撫でてあげたい。プライドが高くて、実は臆病な菅野の勝算の低い告白――堰を切ったように泣き出した菅野に、よくやったと言ってあげたい。

 高橋が菅野に並々ならない好意を抱いているのはもう決定的だったけど、鈍感な奴はそれに気づかず仕舞いってのもありえそうで、こればっかりは本当に予想がつかなかった。

 でも兎に角、もうそろそろ何らかの形で決着をつけなくちゃ、菅野が限界だと分かっていたから。

 背中を押す、というには乱暴なシュチュエーションを作り上げてしまったのだけど。

 高橋が理子を抱き締めたのを見ても、半信半疑。

 声が全く拾えないから、どういう状況なのか判別つかない。

 背後から圧し掛かってくる重みは誰か、なんてどうでもいい位真剣に屋上の二人を凝視してしまっていた。

 いや、でも潰れる。圧迫感が半端無いぞ、と唸った所で、横合いから日向が引っ張り出してくれる。

 日向は片手でドアノブを掴んだまま、体全体でドアの開閉を抑えているから、完全に傍観者から外れてしまっていた。背中をドアに貼り付けて、足を踏ん張って、ついでにアタシの腕を身体まで支えているから。

 理子の腕が高橋の背に回ったのを確認した瞬間、日向の顔が歪んで、

「もう限界」

 ごめんと呟いたそれを認識するや否や、ドアは大きく外側へ開いていって。

 思いっきり身体を押し付けていたアタシ達は、屋上に雪崩れ込んだ。

 背後に居たのだろう高塚と真知子に、結果的にアタシは完全に潰された。

 隣で背中から転がった日向。唯一雪崩に巻き込まれなかったのは佐久間君と、彼に抱えられた菜穂だったけれど、完全に開き切ったドアのおかげで――つまり、そう。

 大きな音に驚いた二人が抱き合ったまま振り返って、目を見開くのをスローモーションで見ながら、こりゃあ皆丸見えだよなんて冷静に考えていた。

 

 あまりの衝撃に、二人は声も無いようだった。菅野なんか驚いてか涙が止まっていて、大きな目を見開いて二、三度瞬き、まるでダンスでも踊るかのような密着した身体を、慌てて解いた。

「な、にを……!」

 覚醒した途端に状況を瞬時に悟ってしまったのだろう、本当頭良い奴ってこれだから。

「してんのよ、あんた達はーっ!!」

 可愛げたっぷり泣いていた姿から一転、怒号を吐き出した時には既に何時も通りだった。

「いや、あの……」

「これは、その……ねぇ?」

 高塚と真知子がアタシの上から退きながら、しどろもどろに振り返る。

「えっと……」

「あー」

 菜穂はチラリと佐久間を見返り、佐久間は曖昧に微笑む。

「……」

 無言を貫いた日向は天空を仰いで、知らん顔。

 最終的に怒った菅野の顔はアタシに向けられた。

 高橋はまだ状況を理解出来ていないのか、理子の首に腕を巻きつけた状態で固まっている。

 アタシは誤魔化すようにスカートをはたきながら立ち上がって、コホンと咳払いを一つ。

「とりあえず、おめでとうでいいの?」

「っ」

 菅野の顔が真っ赤に染まるのを見る限り、話を摩り替えるのに成功したのだろう。

「え、じゃあ!!」

「付き合うの!?」

 菜穂と真知子が追従して喜びの声を上げるの、更にうろたえる菅野がおかしい。

 高橋はにやりと片頬を上げて笑うと、見せ付けるようにまた理子の身体を引き寄せた。

「偽彼氏は返上。これで正式に恋人って事だ」

 にくったらしい事に今まで散々人を振り回してくれた高橋の偉そうな態度。

「誰のおかげだよ」

ぽそり、佐久間のいつもの奴らしからぬ若干適当な相槌に心から頷いてしまう。

 本当に、全く。何様なんだ。

 だけど恥ずかしそうに俯いている理子を見ると、どうしてもそんな腹立たしい気分は霧散してしまう。

 まあ今日は許してやろう、なんて寛大な気持ちになってしまう。

「良かったねぇ!」

「おめでとー」

「全く、ヒヤヒヤさせんなよ……」

「これで独り身俺だけぇ?」

 それぞれの感想を聞きながら、ニヤつく顔を押さえられない。

 からかわれ慣れていないのか、菅野は成すがまま。腕に抱きついてくる菜穂に照れたように笑い、反対側で密着する高橋を見上げて顔を綻ばせて。

 嬉しそうに見詰め合う出来立てホヤホヤのカップルに、むくむくと浮かんでくる感情は。

「で、アンタ達。アタシらに、何か言う事は?」

 腕組してそう言うと、全員の視線がアタシに集まった。きょとん、と小首を傾げる菜穂の隣、菅野が気まずそうに視線を泳がす。

 でも、逃がさない。何時の間にかアタシの隣に並んだ日向が、「そうそう」と続きを促す。佐久間も佐久間で、今日に限っては「そうだねぇ。こればっかりは聞いておきたいなあ」なんて、暢気な声を上げながらも逃げを許さない態度。

「アタシら、色々動き回ったと思うんだよね。うん、ほんと」

 顔を合わせた菅野と高橋が、曖昧に笑い合うのを、わざとらしく嘆息しながら促す。

「そんなアタシらに、言う事は?」

 二人の視線が全員の顔を一巡した後、

「えーっと……その、何かいろいろ……」

「――すみませんでした?」


 菅野の言葉を引き取った高橋の語尾が疑問系だったのは、許してやろう。


 自然と寄り添った二人を見ながら、アタシ達は強張った肩を竦めて笑った。




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