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キミにコイをした。  作者: なち
笑言十題
32/52

自分からやっといてアレなのですが、 後編



 恋人のフリを始めて、2週間。

 当然フリだから、巷のカップルのようにラブラブイチャイチャなんて全く無い。――普通に、本気で付き合うことになったとしても、そんな雰囲気になるとも思えないけれど。

 兎に角、デートの予定だってあるわけがない。

 変わった事と言えば、メールの頻度が増えたくらいだ。

 でもそれもやっぱり甘い雰囲気なんてあるわけもなくて、友達としてのメールというわけでもない。いってしまえば、ただの報告メール。

『昨日一年に告られたから、理子と付き合い始めたからって言ったらあっさり引き下がった。すげぇ効果』

 そう高橋からメールが来たのが始まり。私なんていくら表向きの目的がソレだとしても、いざ『高橋と付き合っている』なんて口にするのは躊躇われてしまう。それが気持ちがあるか無いかの違いかと思うと憂鬱だし、ちょっとだけ腹も立つ。

 事情を知らないすーちゃんのような後輩やクラスメートに「おめでとう」なんて純粋に祝福されてしまうのも、困りものだ。

 だけれど高橋が『付き合って良かった』なんて、勿論ただの感想なのだけれど、そんな事を絵文字も何もない素っ気無いメールでも言われてしまうと、顔がにやけるのは止まらなかった。

 私もやっとこさ慣れて、昨日『彼氏がいるので付き合えません』と告白を断る事が出来た。

 羽田に付き纏う厄介な後輩程では無いけれど、彼女の言う所の【勘違いしたナルシスト野郎】が相手だった。そこそこ整った顔をしていて、恐らく中学校ではモテたのだろう。花形スポーツのサッカーを部活にしているところもその一端だろうし、一年生の間ではかなりの人気がある、というのはすーちゃんの言葉。

 私は食指が向かないな、と素直に答えたら私の周りにはイケメンが多いからそう思うのだと非難された。

 確かに、高橋や佐久間君に比べたら見劣りする。何ていうかオーラが足りない。

 でもそもそも顔云々よりまず、彼の恋愛における姿勢が気に食わない。

「俺とヤりませんか?」

 と声を掛けてきた羽田狙いの後輩をあり得ないと思ったけれど、彼もまた、何だコイツと思わせるに十分な初対面だった。

 名前を、原島勇太という。

「菅野理子先輩、俺と付き合ってくれませんか?」

 と、自分の名前を名乗った後不躾にそう言ったのは、何と登校途中の校門での事だ。周りに居るギャラリーなど意に介さず、爽やかに微笑んだその顔はまさに好青年。

 たまたま駅で一緒になって登校していた羽田は「何だお前」と不機嫌そうに言って、突然の事に固まっていた私は一秒遅れて苦笑。どちらかというと羽田の態度を嗜めるような態度になった。

 頭の回転は悪くないのだけれど、こういう突発的な事には実は弱いから、どうしていいのか戸惑った。

「一目惚れしたんです」

 羽田を無視する原島少年に、冷や汗。隣で羽田の不穏な気配。

「今彼氏いないなら、とりあえず付き合ってみてくれませんか」

 校門で私を待っていたのだ、という原島少年は、笑顔を絶やさない。羽田の悪辣な空気を前にしてそんな態度でいられる彼を、すごいと思ったのが印象に残る。大抵の人は羽田を怖い人、もしくは嫌な人と認識するのに。

 辺りには野次馬。隣には怒り心頭で「振っちまえ」とでもいうような視線を投げてくる羽田。目の前には爽やか笑顔の原島少年。

 私は「あー」とか、意味のない言葉を吐き出した後、

「悪いけど、私そういう付き合いは出来ないから」

「でも、付き合ってみないと相性がいいか分からないじゃないですか。だから、」

どうせ本気で告白しても駄目なんでしょう? と、にこりと笑いながら

「それで駄目なら諦めます。先輩も俺の思う人と違うかもしれないし」

 その瞬間の、羽田の回し蹴りは三ヶ月が経過した今でも記憶に鮮明に焼きついている。

 その発言にはカッチーンと来てしまった私だけれど、その時は羽田を止めるのが先だった。

 原島少年も流石に羽田の行動は予想の範疇外だったようで、見事に脇腹を刈り取られて膝を折った。運動神経が良いのだろう、転ぶほどの大失態は見せなかった。

「何ですか、突然!」

「お前が何だ!!」

 タイミングよく日向君が駆け寄って間に入ってくれなければ、間違いなく羽田の二撃目が放たれていた事だろう。

 ――つくづく羽田は恐ろしい女だ。

 彼女のキレの良い蹴りは、空手の段を持っている私から見てもとても素人技とは思えなかった。

 思わず野次馬から「おー」という歓声と拍手が上がって、もう何が何だか分からなくなって、日向君に引き摺られて行く羽田を宥めながら、その時はそのままなし崩しにお開きになって。

 まあそんな展開になったものだから、原島少年も関わる気を失くすのではないかと思ったのだけれど。

 以外に彼は諦めが悪かった。

「俺、結構優良物件ですよ? サッカーではある程度知名度あるから将来性もあるし。顔は、ま、そこそこモテル部類に入るかと思いますし。勉強も出来る方です」

 謙虚なんだかただの自慢なんだか、何度もチャレンジしてくる原島少年。

「そういう条件ってあんまり気にならないから」

 遠回しの拒絶は、

「でも、あるに越した事ないでしょ?」

 撃沈。

「性格次第、かな?」

「深く付き合ってみないと、性格なんか分からないですよ。だから、お試しで」

 最終的にはそっちの方向に持っていかれる。

「何でそこまで、」

と聞けば

「理子先輩の見た目って、俺の理想なんですよね。一目惚れって言ったでしょ? 中身はこれから知ればいいんだし、それで幻滅するような事があれば別れれば良いんだし。それは先輩から見ても同じ。付き合ってみて俺が対象にならないってんなら別れましょうよ。マジメに考えないで、軽いノリでいいから」

「私堅物だからそういうの無理」

「俺も納得出来ないから、何度だって言いますよ。とりあえずデートしません?」

 そんなこんなな原島少年にも、高橋と付き合うフリをする事で、断る明確な理由が出来た。


 ――出来たと思ったから、わざわざ放課後に呼び出して、彼に正式な断りを入れたのだけれど。

「彼氏が出来たから、君とは付き合えないよ」 

「高橋先輩は良くて、俺は駄目なんですか? 何で?」

 きょとんと瞳を瞬かせて、ちっとも納得出来ないと呟く君が私には納得できませんが!?

 真っ直ぐに見つめてくる瞳に、たじろいでしまう。

 何で、なんて聞かれるとは思わなかった。

「……私は、高橋が好きだから付き合っているんであって、誰でもいいわけじゃ、無いよ」

 これが本人に直接言えればいいのに、他人相手ならスラスラと出てくるのだからため息しか出て来ない。

「でも、今までそんな事一度も言いませんでしたよね?」

「それは、」

「百歩譲って理子先輩が高橋先輩を好きだとしても、高橋先輩がそうだとはとても思えないんですけど」

 ――そんな事言われるまでも無い。思わずむっと顔を顰めると、原島少年は小さく「すみません」と呟いた。

 放課後の裏庭には、誰も居ない。遠くから部活動に勤しむ生徒達の掛け声が聞こえてくるだけ。

 向かい合った私と原島少年の間には微妙な空気が広がっている。

「……高橋の気持ちがどうあれ、私は高橋だから付き合ってる。原島君とは、付き合えない」

「……」

「原島君はどうしてそこまで意地になってるの? 振られた事が無いから?」

「……それも、ありますけど」

 唇を突き出した不満げな原島君は、

「なぁんか、納得出来ないというか。諦める気持ちにならないんですよね」

なんて、駄々をこねる子供みたいな事を言う。

 思わず苦笑。

「だとしても、私の気持ちは変わらないから。ごめん」

「……とりあえずは、分かりました。でも、高橋先輩より俺の方がイイですよ絶対」

「何を根拠に言ってるの」

「だって俺の方が高橋先輩より、理子先輩の事好きですから」

 再度絡み合った視線を外したのは、彼だった。

「とりあえず、先輩達が付き合いだしたのは了解しました。でも、それだけです」

 言葉とは裏腹に、原島少年の表情は心許なかった。




 翌日のお昼休みは、皆で揃ってお弁当を広げていた。

 生徒の要望で開放された屋上はそれなりに賑わっていて、私達も暖かい陽光の下でまどろんでいた。

「気持ちいいねぇ」

 寝転がった高塚君が眠そうな声で呟く。賛同するように頷く面々を見て、私と高橋は顔を見合わせた。

 何だか色んな所から視線を送られていて、居心地が悪いのは私達だけのようだ。フェンスに背を預けて、ふぅと小さくため息をつけば、隣で高橋も同じようにする。

 カップル説を裏付けるために隣同士に座っての食事に、緊張してお弁当の味はあんまり分からなかった。

「でもやっとこさ定着してきたね、アンタ達の噂」

 にやり、と意地の悪い笑みを見せる羽田は、今日も食後にお菓子を頬張っている。

「告白も減ってきたみたいだね」

 続きを引き取って真知子。うんうん頷く菜穂の隣では、佐久間君が微笑んでいる。

「俺の時もそうだったけど、やっぱり相手が居るって結構抑制にはなるみたいだね」

「しかも相手が勝ち目無いってのも重要だよな」

「例外は居るみたいだけどねぇ?」

 私に目配せした後、羽田の視線は反対側のフェンスに移った。

 対角に位置する屋上には原島少年の姿もあって、彼は時折こちらに視線をくれては、物言いたげな表情を見せていた。今は友人らと談笑しているようである。

「どこもかしこも高橋に負けてるのにねー」

「いや、真知ちゃん。それ笑顔で言う事じゃねーからっ!!」

 思わず起き上がってまで鋭いツッコミを入れる高塚君にどっと笑いが沸く。

「寝てたんじゃねぇのかよ」

 呆れ顔の高橋は購買で買って来たカレーパンに被りつきながら言う。何時も思うけど、何時もパンばかりで健康に悪そうだ。普段自炊しているのだからお弁当くらい作ってくれば良いのに。最近私は、朝練があるからそんな時間は無い、と言う高橋に「私が作ってあげようか、自分ののついでに」と軽く言えるタイミングを何時も探しているのだけれど、今は口に出来る雰囲気では無かった。

 彼女のフリの一端で、という言い訳も用意してあるんだけどな……。

 私の葛藤なんて知らず、高橋の態度は前と全然変わらない。彼氏らしい演技をする事もないから、原島少年みたいに納得してくれない人が居るのでは無いだろうか。

 ――なんて思っても仕方が無い。

 何せ高橋は恋愛に興味のない男なのだから。

 三口でカレーパンを食べ終え、次にクリームパンを取り出す高橋を横目に、私はフェンスに深く寄りかかる。

 空は快晴。雲一つ無い見事な青空が広がっている。

 くだらない会話を聞き流しながら、ふぅとため息。

 どうしたものかと思う。原島少年の事もだけど、自分達の事。どうやって進展させていったらいいのか、恋愛経験値の低い自分には考え付かない。そもそもどうやったら、自分を意識させられるのだろう。

 どう理由をつけたら、デートの一つにでも誘えるだろう。

 ちろり、ともう一度高橋を盗み見る。

 口一杯にパンを頬張りながら、高塚君を小突いている高橋は一体何を考えているのだろう。

「……ちょぉ、菅野」

 比較的長閑な昼食を満喫していた私は、声を潜めた羽田にそちらの方向を向いた。

 何、と言おうとして、屋上が奇妙に静まり返っている事に気付く。

 顔を強張らせる羽田、小首を傾げる菜穂、微笑みながらも鋭く瞳を細める佐久間君。はしゃいでいた高塚君と高橋は一歩送れて、

「ちょっと、こっち来るよ……っ!」

興奮したような真知子の声が耳に届く頃には、私もぎょっと目を見張ってしまった。

 今まで遠くに居た筈の原島少年が、真っ直ぐこっちに歩いて来る。

 その視線は高橋に固定されていて、何だか睨んでいるような様子だ。

 原島少年の奥、彼の友人だと思われる幾名かだけが騒がしい。

 突然の事に驚いて、私は近付いてくる原島少年を見ている事しか出来ない。

 私達の一歩前で止まった原島少年は、高橋を睨み続けている。見上げる形の私達は全員訝しげで。

「……何か用かよ」

 不機嫌を隠しもしない高橋の低い声が、固まっていた私の身体を解いた。

 勢い良く横を向いて高橋の様子を窺ってみても、その目は私の方へは向かない。原島少年を真正面から睨み返している。

「高橋先輩に、聞きたい事があります」

 原島少年の態度は、見た事も無い程ふてぶてしかった。ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、先輩と対峙するにはあるまじき状態で、不躾にそんな事を言われている高橋君以外もむっと顔を顰めている。羽田は黙ってはいるが、その目は人を射殺せそうな程の殺気を含んでいるような気がする。そう感じたのは私の錯覚かもしれないけれど。

 突発的な事象にはすこぶる弱い私は、一人うろたえて高橋と原島少年を交互に見つめてしまう。

 何でこの原島少年は、何時も何時もギャラリーが多い所でこんな風に寄ってくるのだ。

 衆人環視の目に晒されて居心地が悪いでは無いか。

 今の今まではちらちらと控えめに向けられていた辺りの視線は、原島少年の登場で不躾なものに変わっている。

「……聞きたい事だぁ?」

 恐らく原島少年と高橋は初対面の筈だ。なのにお互いが不愉快極まりないというオーラを纏っている。初対面の後輩にこんな態度をされている高橋はいいとしても、原島少年の態度は一体何なのだろう。

 最早二人にとって私達は空気に等しいのかもしれない。

「おいおい、何だよ二人とも」

 居心地が悪い空気に音を上げたのかおちゃらけた口調で二人を遮った高塚君を綺麗に無視。――高塚君だからかもしれないけれど、サッカー部の原島少年にとっては高塚君は部活の先輩でもある筈で。後輩に無視されている状態にも高塚君は

「無視すんなよ、寂しいだろ」

とかぶつぶつ言っているので、もしかしたら何時もの事なのかもしれない。

 なんて、現実逃避している場合じゃなかった。

「二人、付き合ってるんすよね?」

 ――予感はしていた……のだけれど、どストレートにそんな話をしてくるとは思っていなかった私は唖然。

 場所を考えてくれ、頼むから!!

「そうだよ」

 感情の乗らない声音で、高橋はそれにあっさりと応じる。

 瞬間、ギャラリーから悲鳴だとか歓声だとかが響く。

 でも二人はどよめきなど全然気にせず、睨み合うだけ。

「ちょっと!」

 思わず立ち上がって二人の間に割って入ろうとすれば、羽田に腕を引っ張られて元の位置に戻されてしまう。

 非難を込めて羽田に目を向ければ、彼女は首を横に振る。

 いや、意味分からないから!!

 私の手首を掴んだまま、「しっ」と人差し指を唇に当てて、その顔がまた二人に向き直った。

 心臓がばくばくうるさい。

 この場から逃げ去りたい。

 やめて欲しい。

 だけど、耳も目も、その他の感覚も、全て二人に向いてしまう。

「高橋先輩が理子先輩を好きなようには全然見えないんすけど」

「……お前にどう見えようが、俺と理子は付き合ってんだよ」

「理子先輩が好きなんですかって聞いてるんすよ」

「だから付き合ってんだろ!!」

”っきゃー!!!”

 女生徒の黄色い声に、私も心の中で同調してしまった。

 嘘だって分かっているのだけれど、高橋の口からそれっぽい言葉が出る度に顔がにやけそうになる。顔を引き締めようとしても口の端が笑みを作ってしまうから、私は俯いた。

 これはもしかしなくても修羅場なのだろうか。

 先程までグループの中の会話なんて我関せずで雑誌を見ていた日向君も、雑誌を放り出してこちらを見ている。

「納得出来ないんですけど」

「だから、お前が納得出来ようが出来まいが関係ないつってんだろ」

「関係ありますよ。俺だって理子先輩が好きなんだから」

 またもや女生徒の中から悲鳴。余所事の男子生徒が「いいぞー」なんてはやし立てている。

 ――ああ、もう本当に。何でこんな人の目の多い所で。

「じゃあ諦めろよ。理子は俺のなんだから」

 心臓が跳ねたり縮こまったり忙しない。

 こういう時、私はどういう顔をしていたらいいのだろう。険悪な高橋と原島少年を盗み見ながらそんな事を思っていたら、原島少年の視線が僅かに私に向いた。

 何とも言いがたい顔。不満げで、でもどこか悲しそうで、やっぱり怒りに満ちていて、少しだけ気まずそうに陰って。

「偉そうに」

 憎々しげに呟いてから、また瞳を鋭くした原島少年。

「理子先輩が、可愛そうです」

「あ?」

「あんたと居る時の理子先輩は、どっか悲しい顔をしてる」

 さっきだって。唸るような声。

「それなのにあんたは知らん顔だ」

 私は驚いてしまう。高橋と一緒に居て、心から楽しいんだと笑える事は実は少ない。切なくて、悲しい気持ちが浮かんでしまうから。高橋の呑気な一言に傷付いてしまうから。

 そんな私を、原島少年は知っているというのだろうか。

「俺は、ずっと理子先輩を見てる。あんたと違って、ちゃんと見てる」

 私の疑問に応えるように、原島少年の顔ごと私に向いた。

「俺の方が、理子先輩を大事に出来ますよ」

 その言葉は完全に私に言っていた。

「言うじゃん、一年坊が」

 からかいを含みつつも、感心したような羽田の声が小さく聞こえた。

 私は、一体何と答えたらいいのだろうか。

 ――否、答えはずっと前から決まっている。私が好きなのは高橋で、辛くても、痛くても、悲しくったって、それでも高橋の側に、居たいのだ、と。だから原島少年の告白もお断りしたのだ。

 でも今までに無く、真剣な原島少年の顔を見ると言葉が凍りつく。彼の想いが本物なのだと気付いて、戸惑いばかりが大きくなる。

 高橋に大事にして欲しいわけじゃない。普通の彼氏彼女のように、過ごせないのはわかってる。私達の恋人関係は偽物なのだ。

 だけれど、その鈍さをどうにかして欲しいとは思うのだ。私の恋心はそりゃ、あからさまでは無いけれど――でも少しは、私に関心があれば、気付いてくれてもいいんじゃないのかなんて、自分の勇気の無さを丸投げして、思ってしまったりする。

「お前の主張なんてどうでもいいんだよ」

 沈黙を破るような高橋の声が、原島少年の真摯な告白をばっさり切ったと思うと、強い力で腕を引かれた。

 羽田ではない方の、腕を。

 そのまま肩を抱かれて、高橋に密着する。

 ふわり、と薫った高橋の匂いを感じて、思わず顔を上げる。

「お前の入る余地は無い」

 至近距離に、高橋の顔があった。

 鋭い眦、意志の強い細い眉。

 何も分からないまま、それでも唇に感じた温もりに、目を見開く。

 近付いてすぐに離れた吐息。

「……分かったか?」

 抱かれたままの肩。

 私より幾分高い体温を制服越しに感じる。

 それだけ。

 まだ頭がうまく働かない。

 唯一動いている瞳だけで、呆気に取られた友人達の顔を認識した。痛ましげに顔を歪めて、唇を噛んだ原島少年が踵を返して足早に屋上を出て行くのを見届ける。

 遠くで、歓声。またもや悲鳴。わけがわからない声。

 放心する私の身体が、高橋の腕から離される。

 それでも近くにある高橋の顔が、視線が、気まずそうに揺れる。

「あー」

 一秒、二秒。友人達を見回す高橋。

 潜められた声が、

「……自分でやっといてアレだけど、」

 ははっと場を和ますように軽く笑って、

「チューはやり過ぎたな」

 頭に血が上った、なんてあっさりと言い切った高橋の横っ面を、思うより早く張り倒してしまった。




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