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キミにコイをした。  作者: なち
笑言十題
27/52

バタフライ並みに激しく泳いでいる目



 二年生に進級した私達。

 一年生の頃に選ばされた就職か進学かの選択で、コース分けされたクラス配分。高塚君以外は皆進学組みだったから割と予想通り、という感じだった。

 羽田と佐久間君と同じクラスになったのだけれど、選択科目がほとんど違うから、授業が一緒になるのは同じ文系を目指している日向君とが多かった。

 佐久間君は実家を継ぐ為に医学部を目指し、それに倣うように菜穂は看護科狙い。羽田は外国語学部、真知子は服飾の専門学校。高塚君は既に多くのクラブチームから打診を受けていて、高橋はバスケの強い学校から誘いが来ているようだ。

 だからまあ、そういうわけで、予想通り期待した高橋とクラスメートになるなんて展開にはならなくて、教室は階の端と端。

 それでも集団でのお昼は進級しても変わらず敢行された。




 選択教科専用の第二校舎と教室棟である第一校舎を繋ぐ、一階の渡り廊下。中庭に咲く桜が見頃な上吹き抜けの廊下は気持ちよい風が吹き抜ける。本来なら二階の渡り廊下を通った方が楽なのだけど、私と羽田は良くこの一階の廊下を歩いて教室に戻っていた。

 一階は一年生の教室がある。時々真新しい制服に身を包んだ初々しい一年生を見かける。

「ガキばっか」

とはしゃぐ新入生を眺めながら、羽田がため息混じりに言う。

「一個しか変わらないでしょ」

「今年の新入生は不発だよ、ホント」

 何時だったか羽田はイケメン手帳なるものを見せてくれた事があった。竜胆高校のイケメン達の情報が事細かに記されていて、そこには高橋や佐久間君、日向君の情報も当然のようにあって。生年月日に身長体重、好きなタイプなどなど――どこで集めてくるんだっていうようなものまであった。真知子と一緒に揃えたらしいそれは同学年と先輩を合わせて結構豊富だったけれど、今年の一年からは二人くらいしかそのリストに名を連ねていないらしい。

 顔はそこそこ、というのが居ても、羽田曰く「勘違いしたナルシスト野郎」だったり「くそ生意気なエロガキ」だったり。

 今も小学生かと悪態をつきながら、渡り廊下を走り去った二人組に軽く舌打ちをしている。

 苦笑しながら、私は中庭に視線を移す。

 胸に抱え込んだプリントは、教室を出様クラス全員に配るようにと先生に押し付けられた。これが以外に重い。

 立ち止まった私に続いて、羽田が廊下の柵に背中を預ける。

 煩わしそうに伸びた前髪を掻き揚げる姿は、男勝りな彼女を時々すごく色っぽく見せる事がある。羽田がバスケ部で姐御と慕われている話は笑えたが、それ以外にも結構一年生男子にも人気があるらしい。

 バスケ部一年、羽田の言う所の「クソ生意気なエロガキ」もその一人らしいというのは高橋の言。

「梓先輩ー!」

 今も渡り廊下から見える一年教室の一つから、その彼が叫んで手を振ってきた。屈託無く笑う、太陽のような男の子。

 げ、と呻いたあと、羽田が早く行こうと私を促す。

 羽田の完全無視にもめげずに、

「今度ヤリましょうねー!」

 なんて。すごい事を平気で口にするものだ、と感心したのは最初だけ。今はもう、そんな彼の言葉は私も聞きなれてしまった。だって、会う度にああなのだ。

 羽田は拳の中で立てた親指を下に突き立てて、「死ねっ!」と叫び返す。

 そうして颯爽と校舎に入っていく背中を、私も苦笑しながら追った。

 教室棟に入れば、まだ休み時間だからか廊下に一年生徒の姿。その中を階段へ向かって歩いていると、前方から女子生徒三人組がやって来るのが眼に映った。

 視線がぶつかり、先頭の女の子がぱっと顔を綻ばす。

「理子先輩っ!!」

 胸元で軽く手を振って走り寄る彼女には覚えがある。

「すーちゃん?」

 同じ中学校のソフトボール部の後輩、昔より化粧っけのある、小柄な女の子。黒髪のショートカットは快活な体育会系の彼女らしい。

「竜胆だったんだ?」

「そうなんです、お久し振りです!」

 少し遅れて眼鏡をかけたマジメそうなみつあみの女の子、その背に隠れるようにしてついてくる控えめな印象の女の子。

「えへへ、理子先輩が竜胆って知ってたから挨拶したかったんですけど、三階とかにはちょっと行きにくくて」

 二年生の教室は職員室や給湯室、来賓室などのある二階の上、三階にある。確かにその上は三年生の教室だし、新入生でなくとも学年毎の教室の行き来はしにくい。

「そっかぁ……懐かしいねぇ」

 中学校を卒業してからの一年間、すーちゃんこと須山希との交流は無いに等しかった。それでもそんな期間をすっ飛ばして昔のように寄ってきてくれる後輩は、可愛い。それが手塩にかけて育てたといっても過言でない、部活の後輩であれば尚更だ。

「誰、それ」

隣で様子を窺っていた羽田は、私がすーちゃんの頭を撫でているのを横目に見ながら、冷たくもとれる声音で言う。

「あ、すみません。あたし、理子先輩の中学の後輩で――」

「それは聞いていれば分かる」

 はっとした様子で自己紹介を始めたすーちゃんを遮るぞんざいな口調に、背後のマジメ生徒ちゃんがむっと顔を顰めるのが分かった。

 私は仲裁に入るようにして慌てて言った。

「羽田、この子部活の後輩だった須山希ちゃん。で、すーちゃん。こっちは私の友達で羽田っていうの」

「あ、はい。知ってます。先輩達、有名だから……」

 すーちゃんの返しには私も羽田も苦笑するしか無い。

「そっちの子、すーちゃんの友達?」

 話を逸らす様にすーちゃんの背後に目を向ければ、マジメ生徒ちゃんはぶっきら棒に「宇都宮です」と答え、その背中にへばりついていた子は更に小さくなりながら俯きがちに「深田です」と名乗った。

「それで、何の用?」

 しかし羽田はそんな事にはちっとも興味無いと言いたげに荷物を持ち直しただけ。

 宇都宮さんが、そんな羽田をきっと睨みつける。

「何ですか、それ」

「何がぁ?」

 何故いつもこの女は喧嘩越しなのだ、と、その理由は分かっていてもため息が漏れる。思えば初めて羽田に自己紹介した時、私に対しても彼女はこんな感じだった。興味無いものは無いのだと、そりが合わないものは合わないのだと取り繕う素振りも見せない。

「後輩が、久し振りにあった先輩に挨拶してるだけなのに、何でそんな態度されなきゃならないんですか」

「それは須山さんだけでしょ。アンタら関係ないじゃん」

「それなら羽田先輩も口を出さないで下さいよ」

「挨拶がおまけじゃなくて本題なら、アタシも何も言わないんだけどね?」

 瞬間、宇都宮さんが言葉を呑んだ。

 薄々感づいていたけれど、またこの展開なのか、ともう一度心中でため息をついてしまう。

 見たところ、本題に関わるのは一番控えめな深田さんなのだろう。びくっと肩を揺らして、宇都宮さんの影に隠れてしまう小柄な女の子。

 彼女のお目当ては果たして、誰なのだろうと緊迫した雰囲気の中私は思う。

 睨みあう羽田と宇都宮さんの間に、すーちゃんが割って入る。

「すみません、羽田先輩。――理子先輩」

 申し訳無さそうに歪んだ眉根。すーちゃんが羽田と私に代わる代わる頭を下げた。

 私は苦笑しながら、「ううん」と首を振る。

「でも、うん。こういうのは最後にしてくれると嬉しいかな。すーちゃんとまたこうして会えたのは、単純に嬉しいんだけど」

 この手の事には、飽き飽きしている。彼女達にとっては一度目、であっても、問われる私達の方はそういうわけにはいかないから。

「すみません」

ともう一度頭を下げるすーちゃんに、宇都宮さんも従った。

「ごめんなさい」

「うん。だからこれっきり。特別に、聞きたい事、答えるよ」

 隣で羽田が大袈裟にため息をつく。お人好しなんて呟かれて、しょうがないじゃないって苦笑する。

 うん、だって、仕方が無い。

 興味本位でも何でも、気になるものは気になるのだろう。

「あの、でも……」

 それでもすーちゃんは言い辛そう。バタフライ並みに激しく泳いでいる目は、葛藤の故なのだろう。こちらの心情を慮りながらも、やっぱり気になるのだ、と。それは深田さんを思ってなのか、あるいは。

「じゃあ、ご好意に甘えて」

 なんて、沈黙を破ったのは宇都宮さんだった。固い表情のまま、眼鏡の奥の真っ黒な瞳が私に向く。

「先輩達って、バスケ部の佐久間先輩とかと仲良いじゃないですか」

「まあ、そうだね」

 何度目だろうなぁ、この質問。

「高塚さんって、先輩達のどなたかと付き合ってるんですか?」

 うん、やっぱり予想通りの――

「――は?」

「……え?」

 思わず声を上げた私と羽田の声が重なり、深田さんに目がいった。

「だから、高塚さんって彼女いらっしゃるんですか?」

 一気に顔を赤くして、宇都宮さんの袖口を引っ張っている。柔らかなウェーブがかかった、可愛らしい女の子、深田さん。

「――高塚?」

 小刻みに震えた彼女が、小さく何事かを呟いたけどこちらには聞こえない。宇都宮さんだけが反応して、労わるように深田さんの手を握った。

「この子、中学の頃から高塚さんが好きで」

 友達思いなのは結構だが、それを宣言してしまうのは如何なものなのか。

「追っかけてこの高校入ったようなものなんです。でもそしたら、高塚さんの近くには何時も先輩達が居て、」

「高塚は、フリーだけど」

 遮るように、羽田が言葉を挟んだ。

「協力とか出来ないから、そっちの事情はどうでもいいよ。とにかく高塚は私達の友達。彼女はいない」

「あの、じゃあ日向先輩は!!」

 今度は期待に満ちたすーちゃん。ああ、すーちゃんのお目当ては日向君か。

「日向は校外に彼女が居る。佐久間は島野菜穂と付き合っていて、それ以外はフリー」

 すーちゃんががっくり項垂れる。

「ちなみに高橋と菅野の噂はデマ」

 淡々といった感じで、羽田は三人を見回して言った。

 深田さんは泣きそうなくらい嬉しそうだ。思わず良かったねって言ってあげたくなるくらい、素直に喜びを表現している。

「で、他に質問が?」

「……いえ」

 アリガトウゴザイマス、って、宇都宮さんは機嫌が直らないのか羽田に対してつっけんどんだ。

「じゃ、時間が無いからコレで。出来ればアンタらの学年の女子全員に、この情報回してほしいもんだね。こっちも同じこと聞かれて飽き飽きしてるから」

 ぐい、と腕を引っ張られて、抱えていたプリントが落ちそうになる。

「うわ、ちょっと」

「行くよ」

「あ、理子先輩!」

 話は終わりだとばかりに三人を抜き去って、私の腕を引っ張る羽田。は、とした表情ですーちゃんが声をかけてきたので少しだけ歩くペースが落ちる。

「ごめんなさい、でした!」

 ぺこり、と頭を下げたすーちゃんに宇都宮さんと深田さんも続く。

 それを見ながら軽く手を振った所で、中央階段を上るために右折した為、すぐに三人が見えなくなった。


 やっと手を離され、並んで階段を上っていると、羽田がポツリと言う。

「……高塚かよ……」

「――ね」

 何とも言えない。

 何とも言えないのだが、

「趣味悪いなぁ」

 なんて、顔をしかめる羽田に噴出してしまう。

 何とも言えない。

「でもサッカー部のエースって、普通モテるポジションでしょ?」

 普通であって、高塚君だからって言い切れ無い所がミソだ。

 くつくつと笑いが込み上げてしまう。


 この手の質問は、進級してから下級生から後をたたずされる。どうしても目立つらしい佐久間君に高橋。日向君もモテる人。その彼らと仲の良い私達。どうやら私達のグループは学年問わず憧れの的っていうやつらしくて。

 皆が皆、愛だの恋だのに夢中。勉強は二の次。高校生になったからには素敵な恋人を作るんだ、って燃えるものらしい。

 仕方が無い事なのだ、と頭で理解しても、「高橋先輩と付き合ってるんですか」とか、聞かれる度に精神を消耗する。「違う」って答える度、胸が痛む。違うけど、高橋を好きになんてならないで、なんて叫ぶ心がある。


 お願いだから、高橋。

 誰かのものになんてならないで。


 そう願いながら、毎日過ごす。




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