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キミにコイをした。  作者: なち
涙珠十題
16/52

指でなぞる瞳の縁


 冬休みに入って一週間。世間が騒ぐクリスマス当日も、俺には関係が無かった。去年は友人連中と騒いで終わったけれど、今年はバスケット一色だ。彼女持ちのキャプテンの独断で夕方までと決まった練習時間で、佐久間なんかはいそいそと帰っていたけれど、俺は夜まで体育館に篭っていた。

 宿題なんざ冬休みが終わった後に写させてもらう気でいたから、半端なく、言葉通りバスケ一色。

 今年もあと二日、という段になって、部活が終わってから佐久間の家に行く事になったのは、調度サッカー部の上がった時間と重なって、高塚と顔を合わせた為だった。

 高塚と日向が駅前でラーメンを食べて帰るというので、俺と佐久間も付き合う事になって。それで話が先日行ったクリスマスパーティーの話になったから。

「そういや、あの時の写真出来てるよ。取り来る?」

という佐久間に、頷いたのだ。

 翌日も朝から部活だったが佐久間が泊めてくれるというので、断る理由も無かったし。


 写真を眺めていると、思い出話に花も咲く。思い出という程昔の話では無いのだが、写真を見ていると今まさにその場に居るかのような、興奮も戻ってくる。

「いやぁ、まさか菅チンとご一緒出来るとは思わなかったなぁ……」

 なんてニヤケ面でいう高塚は相当理子にご執心の様だ。メン食いである高塚は、先日の事が無くても理子の話題を良く上せる。

「1組にすっげぇ清楚な感じの美人がいるんだけど!!」

という情報を真っ先に持ってきたのもこいつだ。

「島野サンも可愛いけど、佐久間のお手付きだしさ。真知チャンは派手めで、俺のタイプじゃないし」

「羽田は言語道断だし?」

日向が茶々を入れている。それに全員して頷いたのは、本人には内緒だ。

「あいつは女っていうより、男友達だな」

俺がそう付け足せば、また神妙に全員が頷く。

「これも佐久間サマサマだよなぁ」

 相変わらず理子の写真を眺め倒しているらしい高塚。

「料理上手の彼女、いいわぁ……」

 どうやら妄想が行き過ぎているらしい。斜め上を見つめながら首を振ってみたり、写真を抱きしめたりしているが、少し気持ちが悪い。

「ホント、いいよなぁ。美人でクールで料理美味くて、話上手で笑顔が可愛くて。そんでもってカラオケも巧かったなぁ……」

 二日目はお昼過ぎからカラオケで盛り上がった。皆普通に歌が上手だった。

「すっごい滑らかな英語だったよね」

「普段から洋楽ばっかり聞くんだって。そういう所も格好いいよね」

 相槌を打っている日向も佐久間も笑顔だ。何時か羽田が言っていた、【皆菅野の事好きになる】という言葉が思い出されたが、それが恋愛感情であるにしても無いにしても好感度が高いのは真実のようだ。

「しっかも、めっちゃスタイルいいし」

 何時の間にか話が理子話になっている高塚を余所に、俺は順番に写真を眺めていく。

 木下真知子の顔芸写真は、左から取るとそっくりと彼女がいうように何たらという芸人にそっくりだった。馬鹿みたいに腹を抱えて笑っていたら、対抗して高塚がオネェマンズの一人を真似て。日向がサングラスをかけて「イチロー」を真似た時は全く似てなくて、それが笑えた。島野は酒が弱いらしく、誰かの缶チューハイを間違えて飲んで、顔を真っ赤にしてた。それで佐久間にお姫様だっこで部屋へ連れていってもらっていたが、そういうのを素で出来てしまう佐久間に俺の背中が痒くなったものだ。羽田に相当からかわれても知らん顔で笑っていたし。からかった筈の羽田はノロケられて、「だから佐久間ってつまんない」とかぼやいて。そんな羽田や木下も酔っ払って来て、最後は何を言っているんだか分からない程ぐでんぐでんだった。理子は最後まで、みんなの母親のように世話を焼いていた。木下はキス魔と化して理子に抱きつき、キスをせがんで殴られて。セクハラ親父となった羽田には身体中を擽られながら、平然と部屋に連れて行き。島野が寝入ってしまったから俺達が寝る筈だった一室を女子皆で使う事になって、俺たちはリビングで雑魚寝だった。早々に潰れた高塚を笑い上戸の日向が蹴飛ばしては笑い、佐久間はほろ酔いで自室に戻り。結果、最後まで酔っ払ってなかったのは俺と理子の二人だった。理子も結構酒を飲んでいた筈なのに。制服から寝間着のスウェットに着替えて戻ってきた理子は、重なり合って寝息を立てる高塚と日向を呆れ顔で見た後、「酔っ払いは皆同じね」などと呟きながらも、用意された布団をかけてあげるような甲斐甲斐しさ。――オカンだった。で、俺に一瞥をくれて、「風邪引かないようにね」等と素っ気無く言いながら、ビールのプルを開けて一気に煽って消えて行った。

 最終的にはそんな流れの会だったのだ。

「最後の方羽田がセクハラしてたじゃん? そん時俺寝てたんだけど、あまりに声が大きくてちょっと起きちゃってさ。で、目を開けたら羽田と菅チンがじゃれてて」

 あーあったな。

 高塚の話に脳裏にその場面を浮かべる。佐久間が部屋に戻って。高塚は寝てしまって。手助けをしようとしたけれども理子にあっさり「真知子の貞操が」などと失礼な事をいわれて木下を運ぶのを却下された俺が。同じように羽田を連れ帰ろうとする理子を日向と眺めていた時だ。手を出すなと言われたから、物にぶつかったりだけはしないようにとフォローをしていて。

 羽田の重さに潰れた理子にじゃれついた羽田が、床の上で暴れていた。

「そん時チラリと見えちゃったわけですよ、菅チンの白い肌とか。おへそとか。ブラとか」

「マジで!?」

「マジもマジ! 菅チンには悪いけど、俺それから数日は夜菅チンにお世話になっちゃったね。その場面で、羽田の代わりに俺が上っていうシチュエーションで!」

 一気に話に食いついた日向が、羨ましいなんて呟いている。こういう話が好きなのは高校生男子としては当然なのだろうが……知り合いが対象になっていると何だかリアルに嫌だ。佐久間が島野との経験を語ったりはしないが、もしそんな話を聞かされてももやっとする。

 それは佐久間も同じなのか、佐久間のテンションは瞬時に下降した。

「理子サンでそういう真似やめて、マジで。殺すよ?」

「……お前冗談なのか本気なのかわかんねぇから、こえぇ」

「本気だけど」

 普段は温厚で、金持ちのボンボンらしい言動の佐久間から、殺すなんて発言が出たのは初めてでは無いだろうか。口角は上がっているものの、目には鋭い光が瞬いている。佐久間とは高校に入ってからの付き合いだが、結構お互いを知り尽くしている感じはあったのだが、こいつの中での理子っていう存在が俺には全然理解出来ない。佐久間は理子をまるで神か何かのように語る。

「いっとくけど、そういう邪まな感情持ってるんだったら、理子サンに近付かせないから」

なんて独占欲丸出しの彼氏みたいな態度だ。

「っていうか、しょうがねぇだろ! こちとら健全な男子高生だぞ!?」

「だからその対象に理子サンを入れないで」

「俺が菅チンと付き合ったら、悪いけどヤリまくるぞ!?」

「益々以って許さない。天地がひっくり返っても理子サンはお前にはやらないよ」

――過保護な父親なのかもしれない。

 高塚がムキになっているのは分かるが、佐久間は冗談で流す事もせず本気で対応している。

 思わず呆れ顔の日向と俺は顔を見合わせてしまった。

「でもさ、菅チンって今誰とも付き合っては無いんでしょ?」

 分が悪いと見たのか、高塚が話を代えて来た。高塚の視線が俺に向いたので、知るかと素っ気無く答える。理子とそんな話になった事も無い。結構な頻度で告白されているぐらいしか知らない。

「少なくとも、高校入ってからの告白は全部断ってるよね。だからって付き合ってないとは言えないけど」

「オレもそういう話は聞いた事ないなぁ」

日向と佐久間が話に乗っているのを、俺は適当に聞き流した。する事が無いので、ひたすら写真を見ている。

「でもさ、菅野って経験済だよね」

「……マジ?」

「間違い無いと思うよ」

「日向そういうの見る目あるもんな。って事は、やっぱあの噂本当なんかな」

 羽田に羽交い絞めされた理子の写真。この後笑顔で関節技に切替えて、羽田を泣かせていた。

 理子作の卵を頬張っている島野は子供みたいだ。

 木下と日向が何故か腕相撲してる――これは何だ? 俺の知らない写真だ。

「噂って何?」

 全員集合した写真では、高塚の真っ赤な顔が目立つ。

「この間さ、新しく生徒会に入った一年いたじゃん? 6組の」

「ああ、書記になった彼? 何か秘かに人気らしいね。王子キャラで」

 俺はほとんど映っておらず、女子の写真が多いのは……撮影者の佐久間と高塚の影響だろう。

「奴がさ、菅チンと一緒にお昼取ったりする程仲良いらしくて。そんで、高橋じゃなければそっちと付き合ってるんじゃないかって噂になってるんだよ」

 佐久間が島野ばっかり撮るからか、理子と島野のツーショットが異様に多い。

「っていうか、彼理子サンの従兄妹だよ。菅野雪っていう」

 高塚が撮ったのだろう写真は、隠し撮りの様相を見せている。

「――マジ?」

「菜穂情報だと、その雪君の方は理子サン追って同高に入ったって話」

「……それで、今付き合ってんの?」

「それは知らない」

 ――等と、一人パラパラ写真を捲っていたら。

「お前、もう少し興味持てよ!!」

 と、何故だか残念そうな様子を全面に出した高塚に頭を叩かれた。それから手の中の写真を奪い取られる。

 面倒臭い奴だ、と思いつつ、俺は顔を上げた。

「高橋だって菅チンの恋愛遍歴は気になるだろ!?」

「興味ねぇよ」

 俺があっさりそう返すと、日向と佐久間も肩を竦めた後、写真を見る作業に戻った。

 高塚だけは一人、まだグチグチ言っている。

 まったくこいつときたら惚れただの好きだ嫌いだの、ヤッたヤラないだのと五月蝿い事この上無い。

 溜息をついて、俺もまた写真を眺める。

「っていうか、俺ほとんど映ってねぇんだけど」

 ぼやきながら、次々に写真を選別していく。

 ――異様に理子の写真が続くな、と思っていたら、どれもこれも理子は笑顔だという事に気付く。女の顔にタイプは無いつもりだが、理子の顔形が整っているのは分かる。爆笑していても崩れる事無く、綺麗だ。

 くっきりと大きな瞳の色は明るい茶色。唇はつやつやのピンクだ。おそらく化粧の影響なのだろうが、ケバイという事では無いのだが一つ一つのパーツが際立っている。

 染めた気配の無い黒髪を掻き揚げるアップの写真は、どっかの雑誌の表紙でも飾れそうだ。

 確かに、面食いの高塚が気に入るタイプだろうし、モテるのも頷ける。

 何とはなしにその写真を見つめながら、ふ、と思い出した言葉がある。

”何時かあの子に、目の前で泣いてもらいたいモンだね”

 理子が泣く姿なんて、ちっとも想像つかない。笑顔ばかりが印象にある。それから不機嫌だと無表情に近くなる、怒ったような顔と。

 羽田が言うにはどうにも人前で泣くたちではないらしい。


 指先で写真の瞳の縁、下睫毛の辺りをなぞる。


 意味の無い自分の行動に、少しだけ戸惑った。




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