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キミにコイをした。  作者: なち
涙珠十題
15/52

勘違いしないで、


 高橋と佐久間君も活躍して、バスケットボール部は見事関東大会で準優勝を治め、来年の全国大会に駒を進める事になった。

 12月頭の期末試験も無事に終えた12月中旬の15日、冬休みも間近の金曜日。午前だけの授業を終えた私達は次の日の土曜、珍しく部活が休みだという高橋達と、前々からクリスマス会を開こうと予定していた。

 メンツは私、菜穂、羽田と真知子の1組の女子4人。高橋、佐久間君、4組のバスケット部員の日向君、それから5組の高塚君男子4人。4組、5組は教室のある階が違う事もあって、2人とは初めましてだった。ただ高塚君と日向君と羽田は同じ中学校だったという事で、結構皆、馴染むのは早かった。

 兄貴の友人と一緒に遊んだ事はあったけど、同年の男子と一緒に遊ぶのはかれこれどれくらい振りだろう。色々やっかみが厳しくなった中二の夏頃から、とんと記憶に無い。

 高橋と一緒に遊ぶ、というのも、実はこれが初めてだった。

 学校帰りにスーパーで食材を買って、佐久間君の家で食べる事になっていたので、8人揃ってスーパーに寄る。皆好き勝手に欲しいものを篭に入れるので、食料の中にお酒類も入っている始末。制服姿でレジを通る時、緊張していたのは私だけで。男子達は慣れっこらしいし、レジのおばちゃんも何も言わなかった。

 ――高校生のお酒の買出しは駄目じゃなかったっけ? 何て思っても、周りの態度から口に出すのは憚られた。

 それから辿り着いた佐久間君の家でも、私は。

 というか私だけが、非常に緊張していた。

 菜穂から予め聞いていたのだ。佐久間君のお父さんはお祖父さんから継いだ病院の院長で、お母さんもそこの看護師さん。何時も忙しくお仕事をしていて、この日も翌日のお昼まで帰って来ないらしい。好きな時間まで騒いでいいわよ、というのが大らかな佐久間君のお母さんの言。私達女子は一応隣の菜穂の家に泊まる事になっているので、いったんお泊り道具を菜穂の家に置いて来た。

 菜穂の家に遊びに行くたびに、隣の佐久間君の家を当然見てはいたんだけど。

 外装以上に中はすごかった。

 三階建ての大邸宅。一階部分のガレージは車が四台入っているらしく、常にシャッターが降りている。ガレージの横の門は自動で開閉するらしい。門を入ると階段になっていて、ガレージの上の二階部分が庭だ。で、その後に大きな窓のあるリビング。ここは庭の景色を楽しめる作りになっていて。ガレージの後、一階部分、リビングの階下という扱いになる部分には、お父さんの書斎とご両親の寝室があるらしい。で、リビング以外の一階部分は客室とかキッチンとかお風呂とか。

 案内されたのは三階部分なのに、何故か三階自体が一つの家みたいな。十八畳はあると思われる大きなダイニングキッチンに、お風呂トイレは勿論完備。あと二部屋あるらしいけど、階段で繋がっただけの玄関が無いマンションだとでも言えば分かるだろうか。元々佐久間君の祖父母と一緒に住んでいたらしいけれど、祖父母が他界した後は三階部分を佐久間君専用として使っているらしいのだ。

「一人暮らししているようなものだね」

と笑った佐久間君。すごすぎる。

 だから三階に通された私達、というか私は、萎縮していた。男子連中は何度も訪問済みの様で、勝手知ったる、というやつである。

 始めこそ茫然としていた初訪問の羽田と真知子はすぐに慣れたらしい。

「……」

 絶句したままの私の隣、三人掛けのソファの隣に座る菜穂が、カーディガンの袖を引っ張ってきた。

「大丈夫? そんなに緊張しなくても、居るの私達だけだし」

 なんて言われても、だって何をするにも。このソファだって革の光沢が尋常でない様に見えるし、足元の毛足の長いラグもなんか高級そうだし。インテリアの一つ一つが、万が一汚したり壊したりしてしまったら大変そうなんだもん。

「気にしすぎ。以外に小心者だねぇ」

 って、背後から肩を叩いてきた真知子はリラックスし過ぎだと思う。羽田に置いてはもう一つあるソファに寝転がって、その近くで胡坐をかいている日向君と馬鹿笑いをしているし。

「大体普段から物壊す趣味とか性癖とか無いでしょ?」

 だから大丈夫だよ、って全然根拠の無い事を言ってのける真知子。その声を咎めるのは、

「性癖って何の話?」

 早速買ってきた酎ハイの缶を物色していた高塚君が、顔を上げた。

「え、何そこ? アタシに隠れて何の話してんのさ!!」

「いや、だから理子はSじゃないって、」

「違うでしょー!!」

 食いついてきた羽田に、真知子の返しは尋常でない。ヒューと日向君が口笛を吹いた。私は慌てて声を荒げる。大変な誤解だ。何だそれは。

「え、Sなの。理子サンて」

「佐久間君まで!!」

 タイミング良く奥の扉を開けて現れた佐久間くんまで話に乗ってくる。私の非難もどこ吹く風、菜穂の隣に当然の様に座った彼は、菜穂に「そうなの?」とか聞いている。それに「らしいよ」とか答えてる菜穂も、

「ちょっと待ちなさいそこ!!」

「なー腹減んない?」

とか、庭を眺めながら呟いている高橋も。


 皆、勝手過ぎるから!!


 ――お陰で、リラックス出来たけれども。



 何故、佐久間君家でパーティーをする事になったか。そして、何故自炊する事になったのか。カラオケやレストランっていう手もあったんだけど、何より家の方が時間を気にせず好き勝手出来るっていう事と、飲酒希望であった事と、何よりそのまま宿泊出来るっていう楽ちんさ。後は菜穂が「理子ちゃんの料理美味しいんだよ」と口を滑らせたのに、佐久間君や羽田が乗っかってきた事とが手伝った。

 羽田には前々から手料理食わせろと言われていたし、料理は好きだったから「皆手伝ってくれるんでしょーね」と睨みつつも承諾した。

 何より、好きな人に手料理を食べてもらえるというのは、結構魅力があった。

 出来和えのものも買ったし、作るのは一品二品だ。後、クリスマスパーティと言えばピザ、という高塚君の主張によって宅配ピザも頼む手筈になっている。

 私が制服の上に自前のエプロンをつけている合間に、高塚君がピザのチラシを広げ出した。菜穂もフリルのついたエプロンをいそいそと付け始めたが、それはご遠慮願った。菜穂の料理の腕はとんでもなく酷い。以前一緒にお菓子作りした所、チョコレートを刻めと頼んだだけなのに、包丁が床に突き刺さるという危ない事になったのだ。

 渋る菜穂を、同じく痛い目にあった事があるらしい佐久間君が必死に止めて、皆と一緒にピザを選んでおいでと優しく諭してくれた。

「羽田、真知子。あんたら……」

 けれど残りの二人の友人は、ハイエナの如きぎらついた瞳を光らせてチラシに食いついている。手伝う気が全く感じられないのは気のせいですか。

「お前ら、菅チン手伝って来いよ」

 なんて何時の間にか勝手に人を菅チン等と呼び出している高塚君。

「はぁ!?」

 何でとばかりに羽田が眉間を顰める。

「女子は料理と決まってるんでない?」

 日向君は早く行きなよ、とばかりに顎をしゃくり。

「誰がそんなの決めたんだよ。アタシは人様の料理を美味しく食べたいだけだから。アンタら手伝って来な!!」

「お前、そんな自分勝手な……」

「マチ、肉入ってるピザがいいんだけど。それ頼んでくれたら手伝ってくるよ!」

 動く気配の無い羽田と違って、真知子はやっとこさという動作だったけど腰を上げてくれた。

「じゃ、愛しの菅チンの為に俺も働くかなぁ」

 何故か高塚君も一緒に立ち上がってくる。けど羽田に

「あんたみたいなデカブツはキッチンに邪魔だから。っていうかメシがまずくなる!!」

と一蹴されている。

「羽田……」

 有難いんだか有難くないんだか、兎に角彼女の手助けは諦めて、私は真知子と一緒にキッチンに立つ事にした。


 ――なのに。


「真知子……」

 余りに余りな様子に、思わず涙が出そうになった。

 およそ料理に似つかわしくない音がキッチンに響く。

 そんな親の仇を討つみたいに、渾身の力を込めてくれなくても良い。今、皮を剥いたジャガイモを四つに切ろうとしている真知子は、まな板の上のじゃがいもに対して包丁を振り上げて。両手で掴んだそれを降ろすたび、ダンっだんっという、畳の上で受身の練習でもしている柔道選手のような音がしていた。

 ぽかんと開いていた私の口元が引き攣る。

 皮を剥いてもらっていた時分から、何かがおかしい気はしたのだ。だけれども例えば包丁を持つ手が危なげだとか、強張った肩だとか、二周り程小さく歪な形になった事なんかは、料理をあまりしない連中にはそれ程珍しく無いと納得したのだ。無理矢理だったけども。

 包丁を振り下ろす度にまな板が跳ねるので、板の上の切ったじゃがいもが転がったりして。

 それを満足そうに見つめる真知子が、何だか猟奇的にも見えたりして。

 一抹所か全幅の不安しか感じられない。

「……真知子」

 もう一度呼びかけると、真知子がやり遂げたとでも言いたげにこちらを見返してきた。

「ありがと、もう……いいや……」

 何と言っていいか分からない。でも兎に角、このまま手伝ってもらうのは色々と怖かったので

「せっかく綺麗にしてる爪、欠けちゃいそうだし」

 綺麗にマニュキアが塗られて、長く整えられた爪も最初から料理には向かないのだ。何時も手元のお洒落に気を使っている彼女の人差し指の爪には、ネイルピアスなるものが光っている。それを言い訳に、「皆のとこ戻っていいよ」と言うと、「えー楽しかったのにぃ」と不満そうな声を上げながらも従ってくれた。実際爪が欠けた事に気付いたからだろう。

「何、アンタ。追い出されたの?」

 キッチンの半分は壁なのだけれど、半分はカウンター越しにダイニングの様子が窺える。しょぼんと帰っていく真知子の後姿の向こうに、笑顔の羽田。

 こくり、と前に傾く真知子のウェーブした頭。

「すっごい音させてたもんね」

「落ち込むな、真知子。アタシらに理子ママ程の腕があるわけないから。あれはもう結婚十年超えた主婦並だから」

 羽田のフォローは私への嫌味か。なんて思っても、口にはしない。

 ちょっと、自分でも頷けちゃうからへこむけど。

 何にしても、全部一人でやるしかないか。一人だけ除け者にされているみたいで悲しいけど仕方ないと思いなおして、作業に戻る。

 真知子が半分にしてくれたじゃがいもをスライスする。軽快なリズムを刻む。

 今日のメニューはジャガイモとベーコンのドリア、豚肉のアスパラ巻き、ママ直伝のダシマキ卵――全部菜穂のリクエストなんだけど、簡単に作れて御摘みになるのでそれにした。あまり凝ったものになると作るのも時間掛かるし、ちょっと大袈裟過ぎる。

 それらと買ってきた惣菜物。

 綺麗過ぎて使うのにも躊躇われるお皿に、思い切って乗せていく。

 匂いに釣られたのか高橋が顔を出した。

「もう出来る?」

 腹が減ったとぼやいていたが、よっぽど空腹だったのだろう。料理を見るなりぱっと顔を綻ばせた。

 既に出来上がっていた卵に手が伸びてくる。大根を載せただしまき卵は冷たいのがうりで、タラコが入った暖かい卵も同時に出す予定で、それは今巻いている段だ。

「ってか、摘むな!」

 両手が塞がっていたので声だけで非難するも、聞く耳持ってくれなかった。目の前でひょいと浚われた黄色、それが高橋の口元へ運ばれて行く。

 咀嚼される卵。頬が噛むのに合わせて動くのを横目で見ていた。やっぱりドキドキしてしまう。

「へぇ、マジに美味いのな」

 見開かれた目。「五月蝿い」とか返してしまいながらも、口元が緩むのを隠せない。

「どれ、お礼に手伝ってやりましょう」

 もう一つ口に入れやがるので、流石にそれ以上はと怒るともう一個作れよと言い出し。「えぇ!?」と抗議すればこうきた。

「どいつもこいつも役立たずみたいだし?」

「君も同様なんじゃないの」

 でも、ボウルに卵を割った高橋の姿は、驚く程様になっていた。卵を割るのも、コツがいるものだ。それを自然に出来ちゃう辺り、真知子達とは確かに違うらしい。

 どうやら自分で全作業行ってくれるらしい高橋は、冷蔵庫を漁ってちりめんじゃこを探り当てて来た。

「卵三種類ってある意味贅沢じゃね」

「確かに……。っていうか、手際いいね」

「ウチ母親死んで飯作り当番制だから。最近は全部姉貴任せだけど」

 思わず手に。手際というより、器用に動く長い指とか、骨ばった関節に目を奪われていたら、何とは無しにそんなカミングアウトをされた。

「……お姉さん居るんだ?」

 私としては気になった所に食いついただけなんだけど、それに対して高橋はくっと喉の奥で笑う。

 その間にもフライパンに引いた卵がいい音を立てている。

「お前、やっぱ変わってるよな」

「……何が」

 私も止まっていた作業を再開しながら聞く。

「大抵この話聞くと、「ごめんなさい」言われるから」

「……悪い事してないのに謝れない」

 ちょっと逡巡してから、やっぱり「ごめんなさい」の意味が分からなくて。何言ってんだろ、って思いながら高橋を見ると、以外に優しい顔がこちらを向いていた。眉間の皺は無い。まるでバスケしてる時みたいな、眦が下がった微笑。

「母親が死んだとか、悪いこと聞いてごめん、って。意味わかんねぇよな。こっちから話してんのに。大体そこまで気にしてねぇって」

「ああ、そういう事か……。ごめん全然思いつかなかった」

「はっ!!」

 素っ頓狂な返しをしてしまった自覚はある。何に対して謝ってるのかって。

 なにもそんなに可笑しそうに笑わなくても。

 だって、私の隣の家も母子家庭で、そういうのもアリだと思ってたし。何より両親健在でも私の家の様に年に数回しか顔を見ない場合だってある。それこそ家庭の事情だ。ただ話を聞いただけでごめんも何も無い。

 そう思っただけなのに。

「理子って、やっぱイイわなぁ。友達になって正解だった」

 そんな満開の笑顔しないでってば。


 そんなこんなで出来上がったり、暖めたりした料理達。

 これを運ぶぐらいは手伝ってもらいましょう、と振り返った矢先。

 ――背後が静まり返っていた事に気がつかなかったのは、高橋と二人キッチンに立つ状況に、テンション上がってしまったからかもしれない。

「……何してんだ?」

訝しげな、高橋の声。

「あ、もうイイの?」

「いいに決まってんだろ。運べ」

 日向君の穿った笑い顔にも、全く気付いていないように眉根を歪めて。

 固まったままの私にも目もくれないで、皿を両手に乗せてリビングへ消えて行く。それに日向君、佐久間君が続く。

「なんか、新婚夫婦みたいでドキドキしちゃったね」

なんて、頬を紅潮させた菜穂と顔を見合わせて、

「ねー♪」

なんて言っちゃってる真知子の方は、絶対何か意味が違う。

「あ、やっぱり付き合ってるんだ。二人。だから邪魔すんなって事?」

肩を落とす高塚君が背を翻す。

「ちょ、勘違いしないで、」

 慌てた私の手の上から、皿を奪っていく羽田。

 その目が。

 口が。


 ――そうですか。今日の私はオモチャですか。




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