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神々の叛乱の詩 前編

前回、2日おきに更新が出来なかったので、連続更新となります。

※前後編に分割しました。

        我は動く

          女神を救う為

          其の身を在るべき場所へ 戻す為


        我は動く

          女神を自由にする為

          神を慕う者達と 共に戦う為

 

        我は動く

          女神を守る為

          愚かな王に 神罰を下す為

                

        我は動く

           女神の心を知り

              我の心の赴くままに


                   我は動く

                      我は動く



                          ~(ルシム・)々の叙事詩(エリフォルムル)より

                                             光の神の詩


                                               

 ジェスクがリュースの許に来て、三日経ち、四日目となった。何事も無く過ぎ去った時間に、リュースの不安は募るばかりである。

ジェスクとの楽しい時間が増える度に、心の奥に同じ様に増える不安。あの王が、黙っている筈が無いと彼女は思っていた。

ジェスクと言えば、徐々に王宮の中の構造を把握し、たった三日で、何処に何があるかを、既に把握していた。

他人に聞く事という行動は、リュアル以外にはしなかった。殆どが神故の力、意識を広げると、見えてくる辺りの様子で判った。

近くの事柄の殆どはそれで知れるが、遠くの事柄になると、水鏡(みずかがみ)を使った方が力を使い過ぎない。

只、水鏡の方は、見つかった場合、怪しまれるという点で不便だった為、全く使わなかった。


二日前、何時もの様に暇な時間、ジェスクは王宮の外を見ようとした、が、何かに阻まれた。

何かと思い、庭の外側にある王宮の外壁に触れる。そこには大地の気配が(ひし)めき合い、結界の様な物を作っていた。

それを何に()に、リュアルに聞くと、大地の精霊が封じられている事を教えられた。

リュースを救いに来た者、リュースを攫う際に抵抗した者が、見せしめとして、結界に取り込まれているのだ。

それを解く事が出来るのは、リュース以外の七神のみ。同じ大地であるリュースでは、その力が結界に取り込まれ、解放出来無いのだ。

一番適切な力は、光の神か、闇の神の力。

その二神の力が、他の神より強力で、大地をも揺るがす物である為だった。

他の力では、大地の再生力で如何にでもなるが、この二人の力は、完全に大地を滅ぼす事が出来る。

光が当たらなければ、草木は生えず、当り過ぎても結果は同じ、昼と夜がなければ、草木はおろか動物まで、休む時間を奪われる。

この二人のどちらか、一方だけでも欠ければ、大地はその恵みを育めないのだ。

リュアルが告げた理由に、ジェスクは納得した。只、今は解放の時期で無い、そう、彼は判断した。



 

 平穏な日々は、突如として奪われた。

何時もの様にリュースの許で、詠い、夕刻に近付いた頃で、彼女の部屋から退出しようとした時、

ジェスクの目の前の扉が急に開き、彼は入って来た騎士達の腕に囚われたのだ。

そのまま部屋に戻されたジェスクは、驚いた演技をしながら、時が訪れた事を感じた。

この王宮の粛清の時…リュース神を助け出す為に、自らの力を余す所無く、使う時が来たと。

強引に押し入った騎士の背後に、あの豪華な衣装の男性・この国の王がいた。リュースとジェスクを交互に見て、あの残虐な笑いを浮かべる。

「…良くここまで、リュース神に取り入ったな。良くやったぞ、吟遊詩人。

褒美をやろう。」

そう言って、彼の竪琴を壊そうとした…が、無駄に終わった。何故なら、彼の竪琴は、光の精霊の竪琴では無く、本物の(ジェスリム・)竪琴(ハーバナム)

(ルシム・)輝石(ガラムア)で出来ているそれは、人間の力では到底壊せないものだ。その弦も特殊で、光を紡いだもの。

滅多に切れる事の無い代物ではあるが、先程の破壊行動に対し、竪琴自体の御立腹の様子が伺える。

王は、竪琴が無理ならと、奏者に攻撃の目を向けた。だが、リュースの声がそれを拒否した。

「お願いです。その人を傷付けないで。」

その言葉に王は、満足したのか、リュースに提案をした。

「この詩人を救いたかったら、その身を私に差し出せ。そうすれば、考えよう。」

王の言葉にリュースが考え、頷こうとした時、ジェスクが叫んだ。

「リュース様、その言葉は嘘です。従ってはなりません。私なら、大丈夫です。」

両腕を掴まれながらの言葉に、説得力は無く、王は大いに笑い、リュースに囁く。

「ああ言ってるが、如何する?その方の、対応次第だぞ。」

その囁きに、リュースは心を決めた。大切な吟遊詩人を助ける為に、その身を捧げようとしたのだ。

ゆっくり頷く、彼女に快くした王は、無言で騎士に合図し、その場をリュースを伴い去った。


彼等が去ると早速騎士は、ジェスクの両腕を折ろうとしたが、何時の間にか、壁に我が身を打ち付けていた。

自らの力で、両腕を解放したジェスクは、その身の怒りを顕にした。

「神を愚弄(ぐろう)する君主を、諌めもせず、従うとは愚かしい。

況してや、喜んで手を貸すとは、以ての外…。」

今までと違う口調で、言葉を綴る詩人に、騎士達は驚いた。だが、次の瞬間、もっと驚くべき事が起こった。

何も持っていなかった詩人の左手に、見事な長剣が存在したのだ。

白い柄には、太陽と月の装飾があり、そこには金色の石が填まっている。その抜身の刀身は、微かだが銀色に輝いていた。

光の剣・ジェスリム・シェナム…ジェスクは、自らの剣を呼んだのだ。

剣を扱えない筈の吟遊詩人が、剣を持った…その事実に、騎士は困惑したが、張ったりだと決めつけ、襲いかかった。

だが、ジェスクの方が反応が早く、彼等を(ことごと)く薙ぎ倒しして行く。

傍から見ると舞う様な剣技は、騎士の腕を遥かに凌駕していた。それもその筈、光の神は、竪琴も然る事ながら、剣の腕も確かなものだったのだ。

空の神・クリフラールと共に、剣豪として名を馳せる神、それが光の神・ジェスクだった。

その神を前に人間の騎士等、赤子同前、然も手加減無しの利き腕、左での剣技なれば、尚更だ。

騎士達を一通り動けなくすると、ジェスクは、彼等に言葉を掛けた。

「そなた達は、そのままで神々の審判を待つが良い。

その罪、決して軽くは無いと、心して知るが良い。」

抜身の剣を持ったまま、冷たく厳しい視線を送りながら、彼等を見つめた。


 その頃、リュースは王の寝所へと、連れて行かれていた。

そこで王は彼女を抱こうとしたが、本能で抵抗する彼女に、真実を話した。

「今頃、あの詩人は、黄泉の国へ旅立っているだろう。

残念だったな、リュース神よ。」

「約束を違えたのですか!」

怒りを覚え、更に抵抗する彼女だったが、女性の手では限界があった。思わず、リュースは叫んでいた。

「リュナン、ファン・ルー、ジェスクを護って!!」

彼女の声が聞こえた彼等は、願い通りにジェスクの許へ向かったが、阻まれると思っていた結界が、無くなっていた事に気付かなかった。


騎士を倒したジェスクは、城の周りに張られた結界を解除した。

そうする事により、リュースを助ける者達が、ここへ侵入し易い環境を整える。

そんな折、彼に声が掛った。 

「ジェス!無事か!」

リュナンの声にジェスクは、振り向く。未だ怒りを顕にし、厳しい眼差しでいる彼に、何が起こったか判った。が、件の詩人は無傷…竪琴も無事…だった。

「ジェス…無事…だよな?」

ファン・ルーが不思議そうに尋ねると、我に返ったジェスクは、彼等に微笑んだ。

「一応、無事です。これから、リュース様を助ける予定ですが…何か?」

彼等の視線が、ジェスクの左手に集まっていた。血に染まった、銀色の刀身を持つ、見事な長剣。

彼等の視線に気が付いたジェスクは、剣を一振りし、血を払う。

何事も無いように、リュースが連れて行かれた方向へ、目を向け、歩みを進めようとすると、後ろから大勢の騎士の、駆け寄る音がした。

「「ジェス、ここは俺達に任せて、リュース様を!」」

リュナンとファン・ルーに言われ、頷き、任せましたと言い残し、ジェスクは、その場を去った。

残された二人は、周りの惨劇に唖然としながら、話し始めた。10人程の騎士が、急所を外されていながら、動けなくなっていたのだ。

「リュナン殿、これって、ジェスが全部、やったんでしょ?」

「ああ、多分な、あの竪琴といい、さっき持っていた剣といい、あいつは何者なんだ。」

纏う気は人間だが、持ち物は普通と違い過ぎる。やはり王族の線が高いと、リュナンは思った。

しかし、今はそれを追及している場合では無い、ここで追手を食い止める。

彼等の神の願いは、あの詩人を護る事だったが、あの詩人は、リュース神を助ける為に向かった。

自分達がしたかった事だが、あの剣を持つ姿とリュース神の願いを聞いて、ジェスク以外が彼女を助けるのは、駄目だと思った。

かの神が望んでいるのは、あの詩人のみ。助ける力があるのなら、託すのが良い、そう、彼等は感じていた。

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