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氷、熱、刀

「番号六十六番、松方久義! 昨日は幣原に負けてしまいましかたが、準決勝を勝ち上がりリベンジを果たせるか!?」


 恒例の如く、司会が番号と名前を呼ぶ。毎回これをやっているのだろうか。よくもまあ、ぽんぽんと言

 葉が思い付くもんだ。


「番号百十五番、黒田隆一! 今大会の大番狂わせ、その策略は我々の斜め上を行っているぞ! 泣いても笑っても後二回、個人的にはハイレベルな闘いを期待しています!」


 皮肉を言われている気がする。二回戦で一時間も何もしなかった事を根に持っているのだろうか。


「黒田君、一、二回戦は観させて貰ったよ。今回も二回戦の様な奇策が見られる事を期待しているぞ」


 年故の余裕か、松方は自信に満ち溢れている。


「どうだかな。あんたは意外と策略無しに勝てそうだからな」

「言ってろ、ケツの青いガキが」

「あんたがいつから闘技場にいるかは知らんが、老いぼれは引退時期じゃないのか」

「まだ老いぼれなんて年じゃねえ!」


 俺と松方の互いの視線が火花を散らす。仲裁に入るように、司会が試合開始の合図を始める。


「両者所定の位置に着きましたね? ……それでは、始め!」




 試合が始まり、俺は瞬凍地によって足を奪おうとした。


「……あれ?」


 地面の氷が溶けている。足元がたちまち水浸しになった。


「不意打ちとは頂けないな。俺は正々堂々がモットーなんだ。能力を説明してやろう」


 昨日も思ったが、この男、口は悪いがとても親切だ。


「俺の能力はヒート・シャックレス。視界の範囲内で高熱を発生させる能力だ。どうだ、凄いだろう? 」


 弱くは無い。決して弱くは無いのだが……


「地味」

「き、貴様、一番言ってはいけない事をっ! 潰す。情け無しにぶっ潰す!」


 松方は怒りにわなわなと震えている。


「ヒート・ジェイル!」


 松方は俺の周りに熱の檻を作った。四方を囲まれ、動けなくなる。氷で攻撃しようとも、さっきの様に一瞬で溶かされてしまうだろう。


「くっ!」

「やっぱ不便だなあ、この能力。相手に直接攻撃できねえからな……」


 松方はゆっくりと俺に近づいてくる。自慢の肉体で殴るつもりだろうが、攻略法は昨日見ている。松方は俺に攻撃する時、能力を解除せざるを得ない。そこを狙う。松方が能力を解除する一瞬に神経を研ぎ澄まし、俺は松方が殴りかかると同時に――――


「熱いっ!」


 ――――カウンターを決めようとすると、腕が焼け焦げる様な痛みに襲われた。

 俺が悶えている間に松方の右ストレートが決まり、続けざまに後ろ回し蹴りで俺の体は吹っ飛ばされた。


「かはっ!?」

「昨日の決勝戦を観ていた様だが、俺があんな欠点を直さないとでも思ったか? ベテランを舐めるなよ」


 松方は再び拳を構える。そこには油断も隙もない。先程までの余裕な表情とは大違いだ。


「何故……だ」

「昨日の敗北を糧に能力を調整した。結果、片手を表、片手を裏にする事で自分だけが熱に干渉しない様にする事を成功者した。これで昨日の様なミスはしないが、慢心ももうしない。今出せる全力で君に当たらせて貰おう。さあ、来い!」


 松方は俺に攻撃する様に促すが、これは罠だ。まだ熱に囲まれたままだ。


「どうした、来ないのか? ならば、こちらから行くぞ」


 俺は、一方的に松方に殴られる。良い案を模索するが、痛みで集中できない。


「おらおらおらぁ! どうした、何もして来ないのか!?」


 松方に殴られ続け、本当に負けてしまう。そんな時、ある物を発見した。


 それは、一回戦の時、清浦が殴った地面のへこみだった。しかし、へこみは瞬凍地の氷で埋められている。


「試してみる価値はありそうだな」


 俺は地面に手を付いた。


「また、地面を凍らせるのか? 無駄に決まってんだろ」

「果たしてそうかな?」


 松方の足元を氷が貫き、彼の体を打ち上げた。

松方の能力が使えるのは視界内のみ。ならば視界から消してしまえばいい。そう考えて、氷を地中から伸ばしたのだ。


「うおっ!」


 宙に舞った松方は、無抵抗に落ちてきて、そのまま足から崩れ落ちる。


「ぐっ! あ、足やっちまった……これじゃあ闘えないな……降参だ」


 松方の足は骨折していた。松方は試合続行不可能だと判断し、降参をした。



***



「おう、黒田、お前が決勝戦に行くとは流石だな」


 準決勝と決勝戦の間には休憩があるので、控え室にいたら清浦に声をかけられた。


「ああ、あんたのおかげだ。ありがとう」

「ん? よく分からんがどういたしまして」


 清浦がいなければ今頃負けていた。ああ、腫れた頬が痛い。あれ以上殴られなくて良かった。


「まもなく決勝戦が始まります。出場選手は準備をしてください」


 清浦と話していると、招集がかかった。


「じゃあ、行ってくる」

「優勝してこいよ!」


 清浦は無茶を言うもんだ。王者幣原、能力者より強い無能力者に俺は勝てるだろうか。

 勝てるか分からない不安と、王者と闘える期待を胸に抱き、決勝戦へ歩き出した。




 俺がとても緊張しているのに反して、幣原は背を伸ばし、胸を張って堂々と歩くその姿は王者の風格を漂わせている。彼は恐らく俺と同年代だが、彼の姿勢はとても同年代とは思えない程落ち着き払っていた。


「あ、あの……」


 何を思ったのか、俺は幣原に話しかけた。話す事がある訳ではない。


「何だ?」


 幸いにも不快に思っている様子では無かった。


「よろしく」

「あ、ああ」


 口下手なのか、幣原は一瞬言葉に詰まったが、返事をしてくれた。




「いよいよ決勝戦だ! 王者と新参者のぶつかり合いを誰が予想しただろうか! それでは入場して貰います」


 ずっと思っていたが、この司会者少し毒舌じゃないか?


「番号一番、幣原喜平! 今日も王者が無双する! タルベの生きる伝説がまた決勝に現れました」


 番号は先着で振り分けられるはずだが、二日連続一番なんてそんなに闘い好きなのか。


「番号百十五番、黒田隆一! その未知数の力で王者をも勝利から引きずり降ろすのか!? 両者、所定の位置に着きましたね? ……それでは、始め!」




 勝負が始まった瞬間、やはり俺は相手の動きを止めようとした。


「喰らえ! 瞬凍地!」


 今まで無理矢理ぶち破られたり、吸収されたり、溶かされたりしたこの技だが、まさか無能力者には破れないはずだ。

 幣原のリーチはあの刀だ。足さえ奪えば、少なくとも攻撃はして来れないに違いない。


 幣原は反応を見せず、足を凍らせる事に成功した。

 続けて、掌から氷の弾丸を打ち出した。


「この時まで見せずにおいたんだ。あんたに躱せるか?」

ぬるい」


 幣原は腰の刀を抜き、飛来した氷の弾丸をバラバラに切り刻んでしまった。


「嘘だろ!?」

「もう、終わりか? では、こちらから行かせて貰う」


 幣原は豪快に、それでいて自らの足を傷つけない様に繊細に、足に纏わり付いた氷を刀で砕いた。


「ならばこれでどうだ!?」


 氷を地面に潜らせ、地中から氷の柱で攻撃する。それも避けられた時の保険に、十本程度柱を作って。

しかし、幣原はまるで予知をしているかの如く、全ての柱を避けきり、あっという間に距離を詰めてしまった。


「遅い」


 俺の目の前に来た時、幣原は目にも留まらぬ速さで抜刀した。


「氷結・盾!」


 辛うじて初撃は盾で防いだが、幣原は攻撃の手を休める間もなく次の攻撃を浴びせて来た。


「くっ! 氷結・つるぎ


 幣原の刀を防いでいる内に盾が摩耗したので、氷で剣を作り応戦した。

 けれども、氷の剣は数撃刀の攻撃を受けると、すぐに折れてしまった。


「その様ななまくらで俺の愛刀を防げると思ったのか?」


 その後も幣原の激しい攻撃が続く。氷の盾を作っては壊され、作っては壊され、いたちごっこの攻防戦が続く。


 また新しく作った盾で攻撃を防ごうとしたその時、突如として刀の軌道が変わった。


「しまった!」


 急いで盾の位置を下げるが間に合わず、最初頭上を狙った攻撃は綺麗に俺の胴に入った。

 峰打ちとは言え、一キロ前後ある鉄の塊がぶつかったのだ、その鈍い痛みに腹を押さえる。


「これだけ手応えのある者は久し振りだ。だが、もう終わらせて貰う」


 俺が痛みに悶える隙に、幣原は大きな一撃を与えようと刀を天高く振りかぶる。


 しかし、刀が降り下ろされる事は無かった。

 俺は痛みに歯を食い縛って耐え、幣原の腕を掴んで凍らせた。


「まだ終わらせない。俺は優勝を目指す」

「ふっ、中々骨のある奴だな」


 幣原は手首まで凍った右腕を刀から放し、左腕のみで降り下ろした刀は、俺の脳天に直撃した。


「だが悪いな、俺は上段の方が得意なんだ」


 脳が頭の中で揺れ、俺は倒れてしまった。


スートリー進行の都合上、いつもより短くなりました。


次回もお楽しみに

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