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異世界に導かれて

 人目を避けて来たこの場所はとても閑散としていて、音と言えば目の前にある東京湾の波音だけが響いている。春の終わりとはいえ、潮風に吹かれると肌寒さを感じた。


「上着でも来てくるべきだったか。 いや、どうせ死ぬんだからどうでもいいか」


 意味も無い独り言を呟き、足に(くく)り着けた重りを引きずって歩く。一度決めた事とはいえ、いざ死ぬとなると躊躇(ちゅうちょ)するものだ。決心が揺らがぬよう自分の人生を思い返す。


 黒田(くろだ)隆一(たかかず)、十八歳の人生は実に凡庸であった。

 昔から成績も運動神経は特別優れた訳でも無ければ、悪いという事も全く無かった。いっそのこと悪ければ不良になって他に無い経験ができたのかもしれない。何かしらの特技持ち合わせていなかった。

 とにかく普通の人生だ。うらやましいと思う人もいるのだろうが、俺は辛くても特別な日々を過ごしたかった。


 ――――こんな人生、消えちまえ。


 心の中で自分や世界への怒りを叫びながら、冷たい海に飛び込んだ。


 深く沈んでいく体と比例しておぼろげになっていく意識の中で飛び込んだ事に後悔している自分がいた。


 熱くなっていたのだろう。特別になろうとしていたのだろう。海に沈んでいくにつれて、脳が()てつくように冷静になった。さっきまで悲劇の主人公を演じていたのがばかばかしく思える。死んでも特別にはなれないのに。人は皆死ぬんだから。


 海は冷たく、辛く、苦しい。生きたい。生きていれば、いずれは特別な存在になれたのかもしれない。そんな事を考えながら意識が途切れた。



***



 ふと意識が戻る。体が冷たい。海に飛び込み大分経ったはずなのに不思議と苦しくない。


「……って、あれ?」


 目を開けると、凍った地面を背にし、陸にあがっていたようだ。足の重りは何故だか外れている。


 辺りを見回すと近くには澄んだ青色の海が波打っていて、背中の地面を除けば白い砂浜が広がっていた。

 周囲を観察していると、俺の前に誰か立っている。


「あの、大丈夫ですか?」


 話しかけてきたのは綺麗な髪をポニーテールに結った少女だった。少女は若干幼さがあるものの整った顔立ちだ。彼女は俺の顔を覗きこむ。


「大丈夫……ではないな。手を貸してくれないか?」


 俺の頼みに彼女は快くうなずき、引き起こそうとする。


「冷たい!  あっ、すみません」


 彼女は俺の手を触れ、すぐに離してしまった。自分の手を見ると、両手とも丸々凍っていた。


「それってあなたの能力ですか?」

「能力? 」


 彼女の問いかけに聞き返す。すると、彼女は驚いた顔をして、話す。


「地球には特別な能力を持った人が数多くいるんです。能力は生活に利用したり、個人が力比べをしたり、はたまた国が軍事に使ったり……常識だと思ってたのですが」


 ファンタジーの世界だな。言葉は通じるし、パラレルワールドの日本といったところか。


「推測だが、俺はよく似た別の世界から来たようだ。実際俺のいた世界には能力なんて無かった」

「なるほど。異世界人の方でしたか。ごくまれにいるみたいですよ、そういう方」


 しかし、そこで疑問がわく。


「どうして能力者のいない異世界から来た俺が能力を?」


 手だけは凍っていても冷たさを感じなかった。地面の氷だって俺の寝ている場所にしかない。それに何より感覚でわかる、これは俺の能力だと。だが、能力の無い世界の人間である俺が能力を持つのはおかしいはずだ。


「能力は後天性の物もあります。恐らくこの世界の空気が影響しているのかと」

「そうだったのか。それはそうと、早く起こしてくれないか? 背中が冷たいんだ」

「あ、はい。……身体中冷えてますね。このままでは風邪を引いてしまいます。うちに来て暖まりましょう」


 少女に肩を借り、彼女の家に向かった。



***



「すまない、恩に着る」


 少し歩くと少女の家に着いた。少女の家は一見よく片付いているように見えた。しかし、家具は所々埃をかぶっていて、生活感が無いと言った方が適切のように思える。それと、照明や家電などの電化製品の(たぐ)いが無いのにも気になった。


「とりあえずこれを着てください。濡れた服よりましでしょう」


 着ていた服を脱いで、少女から渡された無地のシャツに袖を通した。


「ありがとう。感謝してもしきれないな」


 一度命投げ捨てた身としてはこんなによくしてもらうのはばつが悪い思いだったが、彼女はさらに驚く事を提案する。


「そういえば、異世界から来たのなら家は無いですよね。もしよければ、家を貸しましょう」

「とてもありがたい提案だが、いいのか? 金とか持ってないけど」

「はい、ただし私のボディガードをしてくれますか?」


 彼女のお願いを聞いて大げさだと思ったが、この世界ではそうではないのかもしれない。きっと能力を悪用し人に害を与える輩が数多くいるのだろう。他に行く当てもなければ、断る理由もなかったので了承する。


「任せてくれ。俺は名は黒田隆一。隆一でいい。君は?」

「私は伊藤(いとう)(あや)です。私も名前で呼んで構わないです。よろしくお願いします」




 この日から、俺の人生は今までに無い特別な物へと変わっていった。

能力バトルというと、使い古されてきたネタなので、二番煎じだと言われても仕方ないジャンルです。能力が〇〇と被っているとか、〇〇のパクりだとかはあるでしょうが広い心で許してくださるとありがたいです。

やはり、書きたい物を書くのが一番ですから。

読んでくださる方は意見でも感想でも書いてくださるととても励みになりますので気軽にどうぞ。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。


次話も引き続きお楽しみください


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