第3話
「え?」
冷め切った気温の中で、少女の声が響いた。
それと、雲で隠れていた月が現れ、その月光を少女とサクラに浴びせる。
月光に照らされ、その光を得てか淡色に輝く、今にも燃え上がりそうな炎の形をした氷結晶体。
「おいおい、冗談だろ?まさかこの程度の力で自分を『化け物』とかって思ってるわけ?笑わせるなよ。」
サクラは自分の目の前で凍てついている『燕』に軽く触れた。───瞬間。
パリパリパリパリっ!と全体にひびが入り、さらさら〜と、粉塵状で崩れていった。
「………見せてみろよ。自分が『化け物』って思うほどの力を。その力がどこまで『化け物』に通用するかな。」
サクラが言い放つと、周りの氷結晶体が一斉に砕けた。
その様子を見ていた少女は思った。
この人なら、この人なら私の全力を受け止めてくれる。
期待が沸き上がってくる中には『もしも』の時の不安もあった。
少女はぶんぶんと、首を横に振る。
そんなことを考えるのは止めよう。
少女は剣を構える。
この人なら。
そう信じて少女は動いた。
サクラの目の前から少女が消えた。いや、消えたと錯覚させるほどの速さで動いたのだ。
少女は一瞬でサクラとの間合いを詰め、剣を振りかぶった。………が。
「遅い。」
そう言い、サクラは間合いを詰めてきた少女の顔面を鷲掴み、そのまま地面に叩きつける。
ガゴンっ!と、地面が陥没する。
少女は苦痛の顔色を浮かべる。
だが、サクラはそんなことに構わず、少女の横顔に蹴りをくらわす。
蹴られた少女は地面を数回バウンドし、ズザザ…と、転がる。
少女はすぐに起き上がる。
どうやらうまく受け身をとり、ダメージを逃がしたらしい。
ザクッと、地面に剣を突き立てる少女。瞬間。
轟っ!轟っ!轟っ!轟っ!轟っ!轟っ!と、六つの白炎が少女の周りの地面から渦を巻いてまるで柱のように現れる。
そして、六つの白炎が少女の真上でさらに渦を巻き、一つにまとまり、球状の白炎が形成される。
「まるで、白色の太陽だな。」
形成されたモノを見て、ぽつりと呟く。
下手すれば国の一つや二つ、軽く消し飛ばせるだろう。
……………まぁ、とは言ってもそれはあくまで注ぎ込んでる魔気の量を一滴たりとも無駄に使用出来たらの話だが。今のままだったらせいぜい、このお城を壊すのが精一杯だろう。
と、サクラが思っていると、球状の白炎の表面が展開する。
どうやら球状の表面は翼だったらしく、その翼が開ききると中からは先程の白色の燕なんか比にならない位の魔気の質量に大きさを誇った『白燕』が。
「……訂正。こりゃあ、今のままでも国一つくらいなら消し飛ばせるわ。」
これがもし、魔気を一滴たりとも有効活用出来たら……。
そう想像しただけで身震いを覚えるサクラ。
サクラは右膝をおり、地面に手をつける。
「【氷河結界】」
サクラがそう口を動かすと同時に、地面をサクラを中心に淡い青色の氷が凍てつかせていく。そして、中庭全てを凍てつかせると、凍てつかせた範囲に結界が展開される。
あれぐらいだったら受け止められるが、流石に受け止めた反動で周りを吹っ飛ばしてしまうかもしれない。
最小限に被害を止めるためにそう判断したサクラ。
まぁ、あくまでも『受け止める場合』だが。
「来いよ。受け止めてやる。」
サクラは少女に言う。
少女は迷っていた。
自分が成せる全力の最大魔法。
これを放ったら多分、自分は意識が飛ぶだろう。
その位の魔法をあの方に放っても。
あの方は無事でいられるか。正直のところ、あの方が無事に立っているところが想像出来ない。
もし、あの方が……死んでしまったら、自分は立ち直れるだろうか?
答えは、否。
無理だろう。絶対に立ち直れない。
だって、あの方を倒したら、自分を『化け物』と言ったあの方を倒したら、私は本物の『化け物』になってしまう。
でも、もし、あの方が私の全力を受け止められたら……。
その、可能性を信じよう。
あの方が受け止めてくれる可能性を。
あの方が言った『受け止めてやる。』を信じよう。
少女はそう決心すると、左手をサクラに突き出た。
少女の真上にいる、白燕が双翼を思いっきり羽ばたかせ、サクラ目掛けて、白炎に包まれたその身を突進させた。
グオンッ、ガガガガガガガガガガっ!
と、地面を抉りながらその爆破の範囲を広げる。
あぁ、ダメだった。私はやっぱり、勇者じゃなくて、『化け物』だったんだ。
そう少女は思い、壊れかけた瞬間。
ピタッと、白炎の爆破がその動きを止めた。
意識が朦朧としてる中、少女は「何?」と、思った。そして、少女は目を見開いた。
白炎が一瞬にして、淡い青色の氷によって、凍てついたのだ。
そして、パキンっと、凍てついた炎が砕け散った。
良かった。私はまだ、化け物じゃないんだ。
少女はそう安堵し、意識を手放した。
パタリと、うつ伏せで倒れ込んだ少女。
少女が倒れ込んだ場所には白色の雪が積もっていた。
「良かったのぅ。君はまだ、化け物じゃないぞよ?」
バッ!と、いつの間に作ったのか分からない、氷で出来た扇子を開き、ふぉっふぉっふぉっと、扇ぎ笑いながら言うサクラ。
先程までの冷たい声音とは違う、いつものサクラの声だ。
どれどれ。と、少女に近付こうとした時。
サクラは後退する。刹那。
ブォンッ。
そんな音が先程までサクラいた場所の上空から、降り注がれた、一本の極太の光線から発せられた。
その後にサクラが展開した【氷河結界】が崩れていった。
「お前が、光咲をこんなんにしたのか?」
崩れていった後にサクラに向けて、声が発せられた。
サクラは顔を声のした方へ向ける。
視線の先には、耳の上で切りそろえられた黒髪にぐるぐる眼鏡をかけ、金色に輝く洋風の鎧を身に付けた青年が、身の程もある大剣を肩で担ぎ上げ、倒れている少女の隣で仁王立ちしていた。
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