第1話
コツ、コツ、コツ………。
お天道様が上りから下りに進み出した頃。
あるお城の廊下を、ウサギみたいな黒色の長い耳をたらし付けられたフードとローブを羽織った者が歩いていた。
フードからのぞく、首から胸あたりまで流してある黒髪に黒曜石みたいな綺麗な黒色の瞳、それにとても可愛いらしい少女みたいな顔。
彼の名前はサクラ・ハーツロード。
今年で16歳になる男の子だ。
身長は160cmと低くもなく高くもない感じだ。
それと、容姿のせいで少女に間違えられることがしばしば。
まぁ、仕方ない。顔だけならまだしも体つきも少女そのものなのだから。
周りから見たら「可愛いけど、お胸が貧相な美少女。」wwwテラ男の娘www
「はぁ〜、だりぃ〜。」
サクラについて解説していると、その本人である黒髪黒目の美少j……ゲフンゲフン、失礼。黒髪黒目の男の娘的ポジションにいる、サクラ・ハーツロードが歩きながら溜め息と共に何か言った。
多分、彼の「だりぃ〜」は今からあるイベントに対する言葉だろう。
そのイベントはある儀式を行い、成功した1ヶ月後に開かれるパーティーみたいなものだ。
そのパーティーに出席する者は四幻竜家と呼ばれるお偉い様をはじめとした地位のある貴族ばかりだ。
もちろん、彼もアンスヴェーク王人国と呼ばれるこの国の中で、それなりの地位と権力を用いている。
しばらく歩いているとサクラの目の前に約3mはあるだろうと思われる、細やかな彫刻が施された金色の扉が現れる。
サクラは扉をゆっくりと押した。
すると、中からは大勢の人達の喋り声が飛び回る、とても賑やかな雰囲気が溢れ出してきた。
扉の向こう側に広がる華やかな空間。
空間に設置された円状のテーブル一つ一つに異なった料理が置かれていたり、トレーに飲み物を置いて持っている執事やメイドさん。それと、壁側には甲冑を身に付けた騎士達がずら〜と、並んでいた。
また、サクラとは反対の位置にある空間の奥にはこの国の国王様と王妃様、第一王女様と第二王女様がサクラから見て
王妃、国王、第一王女、第二王女の順に数段高い所にある、背もたれが縦に長いリッチな椅子に腰をおろしていた。もちろん、その前には豪華な料理が並んでいる。
第二王女がサクラが来たことに気付く。
サクラはその視線に気付き、恐る恐る第二王女に顔を向ける。
目が合う。
第二王女はサクラだと確信すると、ぱぁっと顔を明るくして、立ち上がる。
……が、隣に座っている第一王女に止められた。
第二王女は渋々と言った感じで席についた。
ほっ、と安堵したサクラはフードを深く被り直し部屋の端の方へ身を寄せた。
「……………暇だ。」
ポツリと呟くサクラ。
一応、招待されたので来てみたが案の定、暇の一言だ。
ちょっと外の空気を吸おうと思ったサクラは壁から背中を離し、入ってきた扉から部屋を出て行った。
その後ろ姿を見ていた第二王女はつまらなそうな顔色を浮かべた。
「……ふむ、どうやら寝過ごしてしまったらしい。」
お天道様が沈み、お月様がこんばんはしてる時刻。
先程までお城の中庭の奥の方にあるベンチでローブを上に掛け、お寝むをしていたのだ。
「ん〜。」と、上半身を起こして体をのばすと、ベンチからおりローブを羽織る。
「……ん?」
ローブを羽織り、いざ帰らんっ!と、した時だ。
サクラの耳に、ヒュンッ!ヒュンッ!と、何かを振るう音が入る。
中庭の中央からだろうか。
サクラはそう思うが、特に気にもなりもしないらしく、そのままお城を囲っている10mぐらいの塀を飛び越えようとした。
……そう、飛び越えようとした時。
ビュンッ!!
と、サクラ目掛けて、何かが風を切りながら迫ってくる。
もちろん、そんなものに気付かないサクラではない。
サクラは一歩、横に体をずらすとほぼ同時に先程までサクラがいた位置に迫ってきたモノが通り過ぎ、目の前にある塀に衝突し、縦に一閃の傷を残して、そのまま消えた。
「衝撃波か?それに、形からして剣とかそこらへんの物を振るって発した感じだな。」
サクラは塀に出来た傷を撫でるように触れる。
そしてサクラは振り返る。
この傷を作ったモノが飛んできた方向を。
振り返った先には、肩にかかるぐらいまで伸ばした白髪の女の子が剣を片手に素振りをしていた。
だが不思議と老けては見えず、逆に白髪だからこそ少女らしさが窺える。
だが、先程月が隠れてしまったので明るくはないせいか、サクラからは人がいるとしか認識できないらしい。
サクラはゆっくりと歩み寄る。
すると、少女が素振りを止めた。
「……誰かいるの?」
と、透き通った声音がサクラに向かって発せられる。
ピタッと歩みを止め、少女の様子を見る。
しばらくの沈黙。
その沈黙を破ったのは少女。
「そこにいるのは分かっている。大人しく出てきたらどう?」
少女の問いにどうしようか迷うサクラ。
……結論。面倒くさくなりそうなので帰る。
そう、結論づけたサクラは体の向きを変えた…瞬間。
ガキンッ!!
物静かな夜の空に、金属と金属がぶつかり合う音が響き渡った。
少女がサクラに向かって片手の両刃剣を一閃し、それをサクラがローブの裏側から一振りの刀を抜き出し、その一閃を受け止めたのだ。
「あなたは誰?」
ギチギチ…と、鍔迫り合いをしながら少女は問いてくる。
「……………。」
なんと答えようかと、考えているせいで自然と沈黙で返してしまった。
少女はこの沈黙を答える気が無いと判断し、口を開いた。
「……【氷雪黯狐】(フェンリル)で、いいのかな?」
それを聞いたサクラは一瞬だけ目を見開くが、すぐに戻し少女の腹部にフロントキックを打ち込む。
少女は吹っ飛び、地面を転がる。
「……何者だ?」
片手で刀を正眼に構え、少女に問い掛けるサクラ。
少女はゆっくりと立ち上がり、こう、口を動かした。
「私は、人間だった者。今は、『勇者』と言う名の化け物だよ。」
───と。