表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

正しい平和の壊し方 ~Just a Breaker or Crazy Brave?~

作者: 江角 稚

愛着が湧いて来たので、二人の勇者様に名前が付きました。


名付け親?

...勿論、私、江角です。

ある日の昼、勇者様のお二人は図書館で鉢合わせました。


「ちょっと、話をしないか?」


「激しく同意。勇者様のお誘いとあらば」


彼は世界に平和をもたらした時と同じように、答えました。


「カイル。…お前、その台詞好きだな…」


「激しく同意」


二人は笑いました。

司書に睨まれるまでは。


静けさ溢れる図書館では、騒ぐことはおろか、大事な話も出来ません。

二人は外に出ました。




「…で?どうかしたのか」

激しく同意、以外の台詞で彼は問います。

そうでないと、会話は成立しませんから。


「いや…平和になって、良かったな、と」

勇者様は、勇者様ならぬ口調でほのぼのと言いました。

「争ってたら、今頃魔王退治だよ」


「そうだな。良かったと思うよ、俺も」

もう一人の勇者様も答えます。

「それなら、俺は今頃殺人鬼かもな」


「そっちの魔王も酷いな。"人間共を殺せ"だっけ?」


「あぁ。でも…平和になって、良かった」

先程カイルと呼ばれた勇者様は、笑顔で答えます。


「激しく同意」勇者様は相手の台詞を奪い、


「それは俺の台詞だ」もう一人の勇者様は、相手を(たしな)めました。


一息ついて、勇者様はぽつりと呟きます。


「でも…犯罪は減らないな。俺が魔王を倒さなかったせいではないけど」


「そうだなぁ。こればっかりは、仕方ない。住民も魔物も、心に悪を持った者同士だから」


彼等は苦笑いをします。


「その通り、だな」


「…そう言えば、この前殴り合いがあったって聞いたな。平和になったはずなのに、まだまだ物騒な時代だ」


「こんな世界を、俺達は必死で守ってたんだな」


「こうなることを、俺達は本気で望んでいたのかな…?」


「だからこそ、心の悪は憎むべきなんだ」


不意に、彼は言いました。


「どうしたんだよ?急に」

カイルには、訳が分かりません。

彼が、ムキになる訳が。


そして、勇者様は続けます。

少しずつ、カイルを外に誘ってまで話したかった本題に、会話を近付けて行こうとします。




「この前、魔物の女と結婚するって、言ったろ」


「言われたね」


「その女、人間からも好かれてるって、言ったろ」


「言われたね」


「それで、決着付ける、って言ったろ」


「…言われたね」


何だか、嫌な予感がしました。


「その…殴り合いって、多分、俺達のことだ」


「……」


何も、言い返せませんでした。

"激しく同意"と言う、彼独特の口癖すらも出ませんでした。




僅かな沈黙が、二人の間を流れ。




意を決したように、彼は口を開きました。




「実はな…俺、」




返答に詰まります。

一体、どうしたのでしょうか?




「…俺、勇者を首になっちゃって」


「…え?」

彼は驚きを、口にしました。


「"魔王も殺せず、挙げ句に魔物の女を人間と奪い合う勇者なんて、勇者じゃない"ってさ。王に、首にされたよ」


「お前…」


「馬鹿だろ?笑ってくれよ」

勇者様は、疲れ切った微笑みで言いました。


「だから、俺のことは…もう、"勇者様"じゃなくて"ザイル"って呼んでくれよ」


「──嫌だよ、ややこしい。お前は"勇者様"で、俺は"カイル"だ」


「ややこしいって…一文字、違うじゃないか」


「それには、激しく同意」

久々に、彼の口癖が出ました。




「あーぁ、勇者を首になるなんて…これじゃニートだよ」


「それなら、俺だって。魔王の手によって、無理矢理"勇者"の地位に立たされて人間排除をさせられそうになった、ハリボテ勇者さ」




「大体さ…魔物って、どうして出来たんだろ」

ザイルと言う、勇者様を首になった男は言い、


「心を邪悪に染めた人間が、禁術に手を伸ばした反作用で」

カイルと言う、勇者様もどきの男も言いました。


「…それはお伽話だろ」


「同時に、史実でもある」


「──世の中に不思議なものは多い。しかし、不思議がっている人間の方がもっと不思議だ…」


「そうだな。人間自体が、魔物に最も近しいと言うのに。世界って、まだまだ不可思議なことだらけだよ」

そう言って、カイルは太陽に手を翳す。




手の平が、赤黒く妖しく光る──。




「お前、まさか…」

ザイルは驚いて、彼を見ます。


「俺は…魔物と人間の混血(ハーフ)だよ。血の色が、赤と黒の中間だろ」


カイルは翳した手を、彼に見せます。


「魔物だった俺の母さんは昔、人間の男に犯されたんだ。そいつが、俺の父親に当たる人だ。…これじゃ、どっちが魔物で人間だか、分かりゃしない」




彼は言い終えてから、唖然としているザイルに向かって何か取り繕うとしました。

あまりにも、彼が何も言えずに固まってしまったから。




「な、なーんてな。冗談だよ」

顔は笑っていましたが、その瞳は笑ってなどいませんでした。

本当なのだと、訴えていました。




「俺は、さ」ザイルは言葉を紡ぎ始めました。

「勇者を首にされてから、ずっと考えてたんだ」


「…何を?」

カイルが問います。


彼は、意を決して答えました。




「こんな腐り切った世界、滅べば良いとすら思えるんだ」




「世界を、滅ぼす?」

カイルは思わず、聞き返します。




「あぁ。──この世界に生きるもの全てが、死ねば良いと思ってる」


何も、言わない。

何も、言えない。


それなのに、心の奥底で


"激しく同意"


と叫ぶ、カイル自身の声が聞こえた──気がしました。

...話自体が転んだ訳ではありません。

あくまで、起承"転"結の"転"であり、急"転"直下の"転"です。


...受験生が転んだ転んだ言うなんて...。

同い年の方々、すみません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 展開が明快で分かりやすいですね。人間、魔物の対比対立と勇者たちの成り行きがトントン拍子に進んで面白いです [一言] 他の作品も読ませていただいていますが、時雨沢さんが好きという通り、少しダ…
[良い点]  この言葉ひとつひとつに『激しく同意』です。 [一言]  連載みたくしたほうがいいと思います? 連載?   ま、まあいいでしょう。あと、何話ぐらい続くのかが問題ですが。  勇者を首、ですか…
2011/12/20 20:32 退会済み
管理
[良い点] はじめまして。 すごくタイトルに惹きつけられてやってきて読みました。 ストーリーの流れがとてもうまくて、先に先にと目が動きました。 とても面白かったです。 [気になる点] 悪い点という…
2011/12/20 19:54 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ