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『SWORD OR SCYTHE』  作者: 稲木グラフィアス
第一章『エンジェルズ』
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第二話『家族』

「・・・・・・」


 俺は雨の降るなかを歩いていた。


 冷たい雨は体温を奪い、疲労を与える。

 研究所を破壊した後、俺は町を目指していた。

 道を歩いていたら魔物が飛び出してきたので、今も白い剣と黒い鎖鎌は手に持ったままだ。


 しばらく歩いていると、滝が流れている所に出た。

 滝の裏は大きく窪んでいて、雨を凌ぐには充分だった。


 空は灰色から黒に変わり始めていて気温は更に下がっていた。


 明日、この川を辿っていけば人の居るところに着くはずと思い、俺はこの窪みで一晩を過ごすことにした。


 火が欲しい所だが、木の枝は雨で湿っているし、上手く火を起こす自信がない。


 仕方ないので、窪みの奥の方で丸くなることにした。


「おやす・・・・・・」


 そこまで言って気がつく。


「誰も・・・・・・いないんだよな」


 孤児院にいた頃はほのかが『おやすみ』といって、俺も同じように返していた。研究所にいた時も。


 冷たい雨、湿っぽい地面。

 聞こえるのは滝が流れ落ちる音と雨の音。


「・・・・・・」


 相当疲労が貯まっていたのか眼を閉じると、すぐに眠ってしまった。




 チュンチュン


「ん?」


 俺は太陽の光で目を覚ます。


 しかし、何故か冷たい地面で寝ていた筈なのに、俺の体はとても暖かかった。


「・・・・・・っ!」


 完全に覚醒する。

 俺は何処かの家の中のベッドに寝かされていた。


「ここは?」


 いつの間にか着ている服が変わっている。


 ベッドから身をお越し、周りを見渡す。

 だが、誰もいない。


ガチャッ


 ドアが開く音がした方向に身構える。


「そんなふうに身構えないでちょうだい」


 部屋に入って来たのは女の人だった。

 もしかしてこの人が俺を助けたのか?


「・・・・・・」


「警戒しなくても大丈夫よ。とって食う訳じゃないんだし。・・・・・・はい、まずはこれ食いな」


 その女の人は俺にスープが入った皿とスプーンを出してくる。


「・・・・・・スープ」


「冷めない内に食べなよ」


 研究所を破壊した後から何も食べてなかった俺は腹が減っていたので、そのスープを喜んで頂いた。


「まる二日寝てたからお腹すいたでしょ」


「まる二日!?」


 あんなとこで寝てたからだろうか。

 もし、助けてもらえなかったら、あそこでどうなっていただろう。


「食べながらでいいからさぁ」


 その女の人はスープを食べているのを見ながら、質問する。


「なんで、滝の裏なんかで寝てたのさ?」


「それは・・・・・・」


 俺は研究所ことを話そうとした。

 しかし、信じてもらえるだろうか。


 話した所で


『冗談言うんでないよ』


 と、返されそうだ。


「えっと、道に迷って」


「ふ~ん?」


 女の人は俺に疑いの目を向ける。


「冗談言うんでないよ」


 俺の嘘はバレていた。


「嘘つくと、すぐに分かるんだから。伊達に母親やってないよ」


 嘘をつくとすぐに分かるとなると本当の事を言うか、黙秘しかないか?


 研究所にいた頃から思っていたけど、あの研究所は小さいものではなかった。


 ならば、それなりの研究資金が必要だ。


 それに、あんな研究施設を魔人族が放って置くはずかない。


 たまたま、見つかっていなかったからかもしれないが。


「疑いませんか?」


「聞いてからにするよ」


「・・・・・・」


 そんなことを言われたら言いにくくなるじゃないか。


「冗談よ、信じてあげるから」


「はい」


 俺は研究所の事、その研究所を破壊した事を話した。


 しかし、天使の加護のことは伏せておいた。


 話を聞いた女の人は「ふ~ん」と納得した表情をした。


「もしかして、あれの事かな?」


 そう言うと、女の人は部屋を出ていく。

 俺はその内にスープを食べきった。


「・・・・・・ふぅ」


ガチャッ


 俺がスープを食べ終わるのと同時に女の人が部屋に入ってくる。


 今度は新聞を持っている。


「あなたが言った研究所ってこの事?」


 そう言って、女の人が持ってきた新聞には見覚えのある風景が載っていた。


 しかし、天使の加護云々ではなく、魔人族に対抗する新型兵器の研究と記載されている。


 一般に公開したくないのだろう。


「違う」


「そうなの?」


「いや、俺が破壊したのはこの写真の研究所だと思います。見覚えがありますし。でも、俺が破壊した研究所が研究していたのは、天使の加護を人工的に受けさせるというもの・・・・・・あ」


 しまった、言ってしまった。

 なんで今、言っちまったんだ?


バンッ!!


「今のは本当か!?」


 いきなり男の人が部屋に駆け込んで来た。


「あんた」


「君、今言ったことは本当なのか?」


 男の人は凄い勢いで詰め寄って来る。


 女の人が『あんた』と言ったあたり、男の人と女の人は夫婦なのだろう。


「えっと・・・・・・あの」


「こら、あんた。この子も驚いてるじゃないの」


「す、すまん」


 どうしようか迷っていた俺を見て女の人は、俺に詰め寄っていた男の人を俺から離す。


「えっと、天使の加護のことは本当です。俺は能天使の加護を受けています。」


 証拠のために白い剣を出して見せる。


 それを見て二人は目を見開き、開いた口が塞がらないといった様子になっていた。


「うーん」


「な、なんです?」


 男の人はなにやら考え始める。


「天使の加護を受けている人は珍しくない。でも、君の話だと君自信、裏の事情を知っている事になるね」


「はい・・・・・・」


 やがて、夫婦二人でなにか話し始めた。


 すると二人の意見が一致したように同時に頷く。


「なら、ここにいるといい」


「はぁ!?」


 予想外の言葉に声が裏返る。

 何を言い出すんだこの人は。


 裏の事情を知ってしまった俺の存在を、その裏の人が知ってしまったら何をされるかわからない。

 勿論、俺を匿ったりすればただではすまないだろう。


「なんで、そうなるんですか?」


「大丈夫だ。私はこれでも軍の特殊育成機関の教官でね、君ひとり増えてもちゃんと家族みんなで充分な暮らしはできる。」


「そんなこと聞いてません。なんで、俺を匿うんですか?」


 まあまあと女の人が俺を落ち着かせる。

 そして、食べ終えていたスープの皿を片付けた。


「私はそこまで偉い立場じゃないから君を助けてあげられるのはほんの少しだけ。残りは自分でどうにかすることだ。君は天使の加護を受けてまだ間もない。なら、私がいる軍の特殊育成機関にいって、力をつけたらどうだ?」


「だから、なんでそこまで?」


「私はね、面倒なことに首を突っ込むのが好きでね」


「そうよ。この人は昔からよく面倒事に巻き込まれるの。でも、退屈しないわ」


 夫婦二人はどう意見のようだ。


 完敗だ。なんて、返したらいいか分からなくなった。


 まあ、断って出ていっても止められないだろうが、どこにも行く宛がないのでお世話になるのは結構だ。

 それに、強くなるために軍の特殊育成機関で力をつけるのはいいことだ。


「ありがとうございます。えっと」


「エドワード・グレイスだ」


「サニー・グレイスよ。後、娘のモニカがいるわ」


「あ、はい。楠木久也です。今後、よろしくお願いします」


主人公設定のところに主人公のイメージを書きました。

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