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『SWORD OR SCYTHE』  作者: 稲木グラフィアス
第一章『エンジェルズ』
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第三十一話『真夏の夏草』

「あっつ……」


 真夏になり、強くなった日差しが鬱陶しいくらいになった。

 少し前に、リリー先輩がこの間言い争った事を許してくれた。

 デュナミスも一度表に出てきて二人で話し合っていた。

 話し終えると、リリー先輩は笑顔で去っていった。

 笑っていたのだから良かったのだと信じよう。


「…………あれ?」


 昼休みなので少し歩いてこようとした時、花壇の所に風花先輩がいるのを見つけた。

 どうやら花に水を蒔いているようだ。

 風花先輩らしいなと思っていると、風花先輩が俺の存在に気付いた。


「あれ、エクシア君?」


「どうも、風花先輩」


 風花先輩は水やりの手を止めると俺の方へ歩いてきた。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと見かけただけですから……水やりですか?」


 風花先輩は俺の問いかけに頷いてくれた。

 この人がエンジェルズの第四位で主天使の加護を受け持つ者なんて、想像もしないだろう。

 園芸が好きな軍人なんて聞いたことがないしな。


「よかったら手伝ってくれないかな?」


「…………いいですよ」


 もうすぐ次の時限が始まる。

 それまでに花に水をやりたいんだろう。

 今日は暑いからな。

 俺は先輩にジョウロを借りて水を蒔く。


「こんな暑いのに、よく花を咲かすなぁ」


「この花達は夏に咲く花なんですよ? 真夏から秋まで花を咲かすんです」


 水を蒔きながら植えてある花について説明してくれた。

 まあ、殆どが専門用語でわからなかったがな。

 ようやく水やりが終わった所で、予鈴が鳴る。


「ありがとう、エクシア君」


「いえいえ。それより、行きましょう」


 予鈴が鳴ったらすぐに教室に行かなければならない。

 俺は風花先輩と一緒に走っていった。

 エンジェルズの一人で、園芸が好きだった風花先輩は、やはり運動は苦手な方らしく、俺のダッシュには追い付いてこれなかったのだ。

 俺が走る速度を合わせてあげると「ごめんなさいね」と、疲れきった顔で言っている位だ。

 こんな人が天使の加護を受けもって、AEGISで戦っているとは到底思えない。

 理由も無く戦っている奴は、そういないはずだ。

 ましてや、風花先輩のような人が。


「遅いぞっ!」


 予鈴が鳴ってから風花先輩のダッシュに合わせて走っても間に合うはずもなく、俺達は先に来ていた教官に起こられた。






「はぁ……終わった終わった」


「なんだエクシア。寝不足か?」


 七時限目が終わったと同時にあくびをすると、リリー先輩が話しかけてきた。


「いえ。大丈夫だと思います」


「そうか? まあ、大丈夫というならいいが、具合が悪いなら言ってくれ……それと、デュナミスに……その」


 リリー先輩はどうやらデュナミスに会いたいらしい。

 だが、この場では避けたい。

 と言うか、無理だ。


「えっと、……今は」


「そうか。そうだよな。私達に秘密にしていたんだ。何か言いにくい事があるのだろう。……悪いな」


 リリー先輩はそう言い残すと、その場を去っていった。

 リリー先輩って、あんな性格してたっけか?


「エクシア……君」


「ん?」


 話しかけられて振り返ると、エミリーと風花先輩がいた。

 俺が振り返った瞬間、エミリーは「ひっ」と、なぜか怖がっている表情をする。

 もう、いい加減慣れたな。


「……何だい?」


「えっと……あぅぅ」


 エミリーはデュナミスの事を闇に例えていて、怖がっていたはずだ。

 怖くはない、と言ってもやはり怖いものは怖いのだろうか。


「……花……一緒に」


 花? 一緒?

 何が言いたいんだろうか。


「一緒に花のお世話をしましょうって」


 風花先輩が補足してくれる。

 俺は納得すると、エミリーに笑いかける。


「わかった」


 同い年のはずなのに、ついつい子供扱いしてしまう。

 エミリーが控え目だからだろうか。

 イメージで言うと、子犬?

 小さくて可愛いという感じか?


「じゃあ、行こう?」


「……はい」


 後でリリー先輩には謝っておこう。





 昼休み中の花壇ではないだろうし、いったい何処の花壇なのだろうと、思っていると、俺達三人が来たのは温室だった。

 中に入ると、湿気が高くて暑苦しかった。


「なんでこの暑い日に、また暑い所へ」


「え? 暑いですか?」


 風花先輩はキョトンとした顔で聞いてくる。

 風花先輩はよくここに来ているのだろう。

 この暑さには慣れているようだ。


「エミリーは?」


「ううん、大丈夫」


 エミリーは首を振って否定する。

 いいなぁ。俺はもうすでに暑くて汗をかいてるってのに。

 俺は袖で汗を拭う。


「はい、どうぞ」


 すると、風花先輩は水を一杯くれる。

 それをありがたく頂戴し、一気に飲み干す。


「ありがとうございました」


「はい。じゃあ、頑張りましょう!」






 夕方になってようやく終わった。

 エミリーは途中で帰った。

 エリザベスに心配をかけたくないらしい。

 俺はともかく、風花先輩と一緒なのは何が心配なのだろうか。

 俺達は帰り支度をして温室を後にした。


「エクシア君。一つ聞きたいんですけど」


「はい?」


 歩きながら風花先輩が話しかけてきた。


「初めてエクシア君がエンジェルズに来た時からエミリーちゃんはエクシア君の事を怖がってましたよね」


「はい。理由は……分からないんですけどね。一度、怖くはないよ。って、言ったんですけど」


 デュナミスの事は言わないでおく。

 何回目だろうな、これ言ったの。


「いつか、分かってくれると良いですね」


 風花先輩はニッコリと笑う。

 先輩の微笑みはどこかリラックスできるんだよなぁ。

 本当に優しい人だ。


「はい。そうですね」


「そうだ。明後日は休みですし、エミリーちゃんと私達の三人でお出掛けしましょう。それがいいと思います」


「え? ……あ~、はい。分かりました」


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