第十六話『獣人族の村』
「……おい」
誰かが話しかけてくる。
この声は……そうだ。
リーゼロッテと戦っていた時の……
「……おい!」
声が大きくなり、俺は目を開けた。
「お前は!?」
俺はその声に聞き覚えがあった。
そう、声の主は……
「……俺?」
俺の目の前にいたのは俺自身だった。
「……何で?」
「何でだぁ? 見たまんまだろうがよ」
目の前の俺は口調こそ荒いが、俺そのものだった。
「お前、誰だ?」
「んー、何て言ったらいいかな」
目の前の俺は言葉を選んでいる。
そして、少し考えた後、考えがまとまったように言った。
「俺はお前の第二人格だ」
「第二……人格」
「二重人格と同じだ。お前が剣のように白い方の人格だとすれば、俺は黒い鎌の方の人格なんだよ。そうだなぁ、お前がエクシアだから、俺はデュナミスでいい。お前が情けねぇほどやられっぱなしだったから、出てきてやったんだ。感謝しろよ?」
二重人格。
やられっぱなしだった……あ、そうだリーゼロッテはどうなったんだ?
「逃げたぜ」
「え?」
デュナミスは俺の言葉を予測していたかのように言った。
「俺はお前だからさ、考えてることがわかるんだよ、一方的だけどな。リーゼロッテは俺にボッコボコにされて逃げた。……それで終わり」
ボッコボコ……って。
魔人族だからって、ロリは大切にしようぜ?
「分かってるぞ」
やべっ、つい。
「じゃ、俺は寝るから。お前はさっさと起きろよ?」
は? 何の事を言ってるんだ?
お、おい!
「……おい!」
「ひゃ……!」
寝ていたのだろうか。
俺はテントの中で眠っていたようだ。
目を開けると、エミリーがいた。
俺が突然起きたせいか、ビックリした状態で固まっている。
「……エミリー?」
「え、あ。はい!」
エミリーは我に帰る。
そう言えば、エミリーは俺の事を怖がってたはずなのに、何でここにいるんだ?
「あのさ、エミリー」
「……はい?」
「エミリーが言ってた闇が何なのか、分かったよ」
俺がそう言うと、エミリーは何か驚いた様子になった。
「大丈夫、悪いものじゃないから」
「……え?」
恐らく、闇とはデュナミスの事を言ってたんだと思う。
やっぱり鎌の黒は闇の黒だったのだろう。
デュナミスは黒い鎌の方の人格って言っていた。
夢だったのかもしれないが、
「…………。あ、あの」
初めてエミリーの方から話しかけてきた。
「昨日のエクシア君は……」
……昨日?
もしかして、デュナミスの事を言っているのだろうか。
だとしたら、何と言えば良い?
第二人格です、か?
そんなわけ無いよな。
「敵部隊の隊長をあんなに……」
エミリーは再び怯えた様子になる。
何をしたんだデュナミス!
ボッコボコって言ってたが……。
「あんな、エクシア君……ぅぅぅ」
まずい。どうやって説明しよう。
ここは、適当に……
「えっと、そのとき夢中になって……」
すると、エリザベスがテントの中に入ってきた。
「……エミリー、ここか?」
「げっ、エリザベス?」
エリザベスは怯えるエミリーを見て、目を丸くする。
しかし、その表情はすぐに怒りへと変わった。
「エクシアぁ、妹に何をしたぁ?」
「何もしてない!」
「エクシアぁ!!」
そのテントからは、断末魔の叫びが木霊した。
「えっと、これから獣人族の村に入りますが、……大丈夫ですか、エクシア君?」
風花先輩は傷ついた(エリザベスにやられた)俺を心配してくれる。
「だ、大丈夫……です。はい」
イタタ、と頬を押さえる。
エリザベスが入ってきた後、グーで殴られたのだ。
「そうですか? じゃあ、行きましょうか」
「はあぁぁぁぁぁぁい!!」
アデル先輩はいよいよ獣人に会えるということで、テンションが高い。
それは置いておいて、獣人族の村が見えてきた。
俺たち魔法族の様に技術が発展していないだけあって、機械類があまり見当たらない。
「止まれ」
村に入ろうと門に近づくと、槍を構えた獣人の戦士が止めた。
「魔法族AEGIS。エンジェルズです。EXCALIBUR上層部より、交渉の代理として来ました」
「了解しました、どうぞ」
了承を得て、村の中に入る……と、その瞬間。
「やっっったぁぁぁぁぁぁ!」
アデル先輩が叫んだ。
獣人族の村には、猫、犬、狐、狸、兎……と、様々な耳の獣人がいた。
それにしても、発展国とは言えないが、村の規模はどう見ても国だ。
なぜ、村と言っていたのだろう。
「わっほーーい!」
「いつまで、はしゃいでるんですか!」
暴走するアデル先輩を宥めながら、俺達は獣人族の村長の所へ向かった。
道中、アデル先輩は猫獣人に猫じゃらしやボールで弄ったりする度に怒った風花先輩にどやされるのであった。
初めて風花先輩が怒るのを見たが、絶対に怒らせてはいけないと思う。
と言うわけで、俺達は村長が住んでいると言う家にやって来た。
「すいませーん!」
風花先輩が扉を叩くと、中から兎のお婆さんが出てきた。
アデル先輩はというと、お婆さんを見た瞬間、ガーンと言って落ち込んでいる。
「あら、いらっしゃい。話は聞いてるわ。村長なら中にいるから、入ってちょうだい」
お婆さんは快く迎えてくれた。
『お邪魔しまーす』
家の中はやはり木材で出来ていて、木のいい臭いがする。
「いい、家ですね」
「はい、やはり自然の香りはいいですね」
そう言う風花先輩の顔はとてもリラックスしている。
風花先輩ってよく植物を育ててるんだっけ?
今度、見してもらおうか。
「ありがとうございますじゃ。ささ、中へ」
いきなり、お爺さんが出てきたので驚く俺達。
この人は、亀の獣人か?
「……亀って、獣人に入るんですね」
「獣人族ってのは、獣だけじゃないんだよ。主な獣人は獣だけど、他にもは虫類の獣人や甲殻類の獣人もいるんだ」
「アデル先輩、詳しいですね」
「ふふん、まあね」
って言うか、随分テンションが下がったな。
「……村長は?」
「ワシじゃよ、ワシ」
亀のお爺さんは自分を指差して言う。
お爺さんはお年寄りかつ亀だからか、ノロノロと歩いて椅子に座った。
「で、エンジェルズの皆さんは交渉の代理として来たと聞いているのじゃが?」
「あ、はい」
風花先輩が前に出て話始める。
この中で最も交渉に適した人だろう。
「エクシア……(ヒソヒソ)」
突然ジャックが小声で話しかけてきた。
「ん、何?(ヒソヒソ)」
「今話す事じゃないんだが、昨日のお前だが……(ヒソヒソ)」
ジャックも気になるのか、デュナミスの事。
本当に今話す事じゃないな。
「あの時は夢中で……(ヒソヒソ)」
「そうじゃなくて。……お前、もしかして二重人格ってやつじゃないのか?(ヒソヒソ)」
「そ、そんなんじゃないよ……(ヒソヒソ)」
「でも、あの時のお前、別人のようだったし……(ヒソヒソ)」
まずいな。完全に怪しまれてる。
まあ、あの時デュナミスが出てきてくれなかったら死んでたかもしれないし? 感謝はしてるんだけどさ。
でも、デュナミスのせいで皆から見る俺のキャラが崩壊しそうになってる。
──おい、デュナミス! 起きてたら返事しろよ!
(はいはーい)
「うおっ!」
「エクシア君、静かにしてくれる?」
「あ、はい。すみません」
怒られてしまった。
今のでジャックは静かにしたみたいだし、よかったのかもしれないが。
──って、何だデュナミス。起きてるのかよ
(エリザベスに殴られて寝てられなかったんだよ。くそっ、あの女。後でぶん殴ってやる)
──やめとけ。……って、それよりデュナミス。リーゼロッテと戦ってる時、何したんだよ
(何やったもなにも、リーゼロッテをただボッコボコにしただけだが?)
──そこだ! ボッコボコって、どんなだよ!
(殴ったり、蹴ったり、リフティングしたり?)
──り、リフティング!? 何してんだよ!
(いや、ムカついたから?)
──ムカついたから、じゃないよ!
(いいじゃねぇか。お前が戦わなかったら皆あそこで死んでたんだぜ? それに、リーゼロッテは途中で逃げたから無事だよ。俺としては殺してやりたかったが、我慢して見逃してやったんだ)
──そうなのか?
「エクシア君? どうしたの?」
「……へ?」
「終りましたよ? 交渉」
いつの間にか風花先輩が俺を覗き込んでいた。
「私達は明日の明朝に出発しますから、今日はこの村に泊まることになりました」
「本当!? いやっったぁぁぁぁ!」
アデル先輩は今までにないテンションで叫ぶ。
本当にアデル先輩は獣人が好きなようです。




