第十二話『白髪ドレスの少女』
「‥‥‥ん」
ぼやけた意識が段々、ハッキリとしてくる。
病室のベッドの上のようだ。
そうだ、確かデストラクションと戦って‥‥‥えっと?
そんなことを考えていると、体の腹部が妙に暖かい事に気付く。
まだうまく動かない体で、首を傾ける。
すると、モニカが座ってため息を付いていた。
「‥‥‥はぁ」
モニカの表情は暗い。
「‥‥‥モニカ?」
「あ、久也。起きたんだ」
俺が話し掛けると、モニカの顔が少し晴れたような気がした。
「何してんだ、お前」
「久也が怪我したって聞いたから‥‥‥」
心配してくれていたのだろうか。
「‥‥‥ありがとう」
俺が礼を言うと、モニカは「えっ?」と驚いた表情をする。
少しして、モニカは慌てて立ち上がる。
「じゃ、私次の授業行くから」
そう言ってモニカは足早に病室から出ていってしまった。
「‥‥‥ふぅ」
まだ疲れが取れていないのか、眠くなってくる。
もう少し寝てても大丈夫だろう。
青い青い空を見上げ、俺は‥‥‥
「復活ー!!」
と叫んだ。
「ちょっと、静かにしてよ!」
町の商店街の道のど真ん中、俺は元気いっぱいに歩いていた。
怪我から回復した後、モニカに休日にショッピングに行こう、と誘われて外に出ていた。
「ほら、行くわよ?」
「おう!」
元気よく返事をして二人で歩いていった。
「‥‥‥ふう、疲れた」
「だいたい、そろったわね。荷物持ちありがとう、久也」
午後、買い物の荷物持ちとして、モニカの買い物に付き合わされた俺は、ようやくベンチに座ることができた。
復活の勢いで元気100倍が一気に0.5倍になった。
「なんか、飲み物買ってこようか?」
「え? ああ、ありがとう」
そう言ってモニカは走っていった。
すぐに戻ってくるだろう。
だが、数分後。
「‥‥‥遅いな」
飲み物を買ってくるだけで何をしているのだろうか。
ちょっと行った所に自販機とかがあるだろうに。
「探しに行くか?」
立ち上がろうとすると、右肩に重みを感じた。
見るとそこには女の子が眠っていた。
老いてなった白髪ではなく、天然のきれいな白髪。
風で靡く髪からは仄かに良い香りがし、人並み外れた魅力がある美少女。
外見から推定される年齢は俺やモニカより、一つ二つ位程下だろう。
場違いな黒い西洋風のドレスを着ている。
「‥‥‥ん‥‥‥すぅ」
気持ち良さそうに寝ている様は、最高級に可愛い。だが、
‥‥‥誰だ?
とびっきりの美少女を前に‥‥‥いや、横にして思ったことはそれだった。
「‥‥‥すぅ‥‥‥ふふふ」
どんな夢を見ているのか、嬉しそうに笑う。
ずっと、見ていたいと思うがそうはいかない。
「‥‥‥おい」
少女の肩を揺らす。
「‥‥‥ん? ‥‥‥すぅ」
一度目を薄く開けるが、すぐに目を閉じる。
二度寝かよ。
「‥‥‥おい、起きろ」
「‥‥‥ん? ‥‥‥すぅ」
先程と同じ事を繰り返す。
これでは、起きそうにもない。
この子には悪いが一回どけて‥‥‥
「久也ー!」
タイミングが悪い事に、モニカが戻ってきた。
モニカは走ってきて少女を見ると、
「‥‥‥ねぇ。誰、その子?」
怖い!
教官が本気でキレた時よりも怖い!
「ねぇ、久也?」
モニカの目は『誰、その子?』というメッセージを訴えてきている。
「いや、この子は‥‥‥さっき」
「‥‥‥ん。あ、起きたのね。お兄ちゃん」
「「‥‥‥は?」」
少女はいきなり起きたかと思うと『お兄ちゃん』と言った。
しかも、その可愛い笑顔を俺に向けて。
誰だか本当に知らないけど、その笑顔は今じゃまずいって!
「ひーさーやー?」
目の前には鬼、いや堕天使、それより悪魔か?
物凄い血相のモニカが俺を睨んでいる。
「どういうことかしら?」
モニカの目はすでに無の視線と化していた。
「どうしたの、お兄ちゃん。その人誰?」
「いや、それは君に聴きたい」
少女はキョトンとしたかと思うと、納得したような顔をする。
すると、少女はベンチから立ち上がると、俺たちの前に来て、ドレスのスカートを少し持ち上げ、礼儀良く頭を下げる。
「はじめまして、お兄ちゃん。私はリーゼロッテ・クシュヴェントナー。以後、お見知り置きを」
「へー、リーゼロッテちゃんかー。で、久也。どういう事?」
「俺も知らないって。お前が飲み物買いに行った後、いつの間にかいたんだよ」
モニカはふーんと考えるとリーゼロッテに歩み寄る。
すると、モニカはリーゼロッテに耳打ちをする。
「いいえ、ただ二人で寄り添って眠っていただけですよ?」
「おい、モニカ! 何を聞いたんだ!?」
「久也は黙ってて!」
俺とモニカの声がしばらくその場に響いていた。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
しばらくになってモニカと騒いでいた俺は、リーゼロッテに話しかけられる。
「ここで、騒いでると他の人に迷惑だと思うんだけど」
「「‥‥‥あ」」
俺達は公園で騒いでいた事に気付いた。
通行人が俺達の事をじろじろと見ている。
「あ、お迎えが来たから私帰るね。また今度遊ぼうね、お兄ちゃん」
「えっ?」
リーゼロッテは言い終えるとそこから立ち去った。
「何だったの、あの子?」
「さあ?」