第九話『エンジェルズ』
特殊育成機関『AEGIS』は対魔人族のために、兵を育成するための機関だ。
AEGISは三年制で、三年間の育成により合格した者が、正規の軍隊『EXCALIBUR』に入ることができる。
AEGISの中でもっとも注目されている団体がある。
それはエンジェルズと呼ばれる団体だ。
「着いたぞ」
「ここは?」
俺は先輩についていって一つの部屋の前に来た。
他の教室とは雰囲気が違う。
「アリス様、彼を連れて来ました」
『どうぞ』
中から声が聞こえる。
すると先輩はドアを開けて中に入る。
「お前も来い」
「は、はい」
先輩についてその部屋に入ると、中には七人の生徒が机を輪にして座っていた。
その中でも部屋の一番奥の生徒が話し出す。
「ようこそ、エクシア君」
「は?」
「私はアリス・デノ。熾天使の加護を受け持つ者よ」
「へ? あ、エクシア・グレイスです。‥‥‥どうも」
今、この人‥‥‥(アリス・デノだっけ?)熾天使の加護を受け持つ者とか言ったか?
制服のネクタイから三年だ。
「で、こっちからアデル・バックレー、座天使の加護を受け持つ者」
「よろしく、エクシア君」
アリスさんが左の人を紹介すると、その人|(この人も三年)は軽く会釈してきたので、俺も返す。
「涼原風花、主天使の加護を受け持つ者」
「あ、えっと。よ、よろしくお願いします」
風花さん。ネクタイから二年だ。
背は160代で、なぜかおろおろとしているようだ。
「金剛力丸だ。力天使の加護を受け持つ者だ」
金剛力丸。ネクタイから二年。
背は180ぐらい。
「ジャック・ダリュー。権天使の加護を受け持つ者」
ジャック、ネクタイから俺と同じ一年。
背は178ぐらいだろうか。
「エリザベス・ホワイト。大天使の加護を受け持つ者。で、こっちが妹のエミリー・ホワイト。神使の加護を受け持つ者」
エリザベスとエミリー。二人とも俺と同じ一年で、‥‥‥双子か? 雰囲気は違うけど、顔がそっくりだ。
エミリーって子の方、なんか怯えてる?
「で、君をつれてきたのがリリー・バルヒェット。智天使の加護を受け持つ者」
なるほど、ここがエンジェルズか。
天使の加護を受け持つ者の集まり。
あれ、なんで俺呼ばれたんだ?
「さて、エクシア君。君が呼ばれた理由は分かってるね?」
「い、いや、ぜんぜんわかりません」
「そうかしら?」
ここに来るのは天使の加護を受け持つ者のみ。
まさか、俺が能天使の加護を受け持つ者だと知っているのか!?
「風花ちゃん、確かなのよね?」
「はい、確かにエクシア君から天使の力を感じます」
‥‥‥もしかして、バレてる?
八人全員の視線が俺に突き刺さる。
「本当のことをいったらどうかな?」
アリスさんは目を細める。
「でも、どうしてもしらを切るつもりなら‥‥‥エリザベスちゃん、お願いできる?」
「了解しました」
エリザベスがそう言うと後ろのリリーさんは俺の腕を掴み、そのまま引きずっていく。
俺は何がなんだか分からないまま、引きずられていった。
引きずられていってしばらくすると、ようやく止まる。
「今度はどこですか?」
俺は乱れた服を直しながら聞いた。
「ただの訓練場だ」
「ここで、エリザベスちゃんと戦ってもらいまーす!」
声がしたので探すと、傍観席からアリスさんが手を振っているのが見えた。
「ほら、さっさと行け」
「うわっと」
背中を押されて前に出ると、広く開けたところに来た。
「え?」
何がなんだかさっぱりわかんない。
すると、俺のいる所の反対側からエリザベスが出てきた。
「エンジェルズ第八位、エリザベス。エクシア・グレイスに模擬戦を申し込む!」
ドーンッと入ってきた入り口が閉じてしまう。
「え、ちょっと待っ‥‥‥」
『それでは、エリザベス・ホワイト対エクシア・グレイス。模擬戦を開始してください』
スピーカーからの声を合図に、エリザベスが走り出した。
しかも、その手には俺の白い剣と同じような白い槍を構えていた。
「はぁぁぁぁぁ!」
槍の矛先が迫る。
「我が身を守れ!」
俺は自分の前に壁を作り、エリザベスの槍を防ぐ。
「どうした、エクシア。能天使の力を見せてみろ!」
エリザベスは壁を回って槍を突きだしてくる。
俺はそれを躱し、走り出した。
「逃げるな!」
「そんな物当たったら死ぬだろ!?」
「貴様っ、そんな物とはなんだ!」
まずい、エリザベスの奴本当に怒ってやがる。
さっきの突きも躱さなかったら絶対に死んでた。
俺何かしたか?
「絶対に逃がさんっ!」
うわー! 追ってきたー!!
俺は全力ダッシュで逃げる。
「逃がさないと言ったろうっ!」
背後から槍が突かれる。
俺は方向を転換して躱し
「悪いっ!」
「へ?」
思いっきり脇腹に蹴り入れる。
「ゲホッ、ゲホッ」
「大丈夫か?」
脇腹を押さえるエリザベスに近づこうとする。
「寄るなっ!」
エリザベスが槍を振り回す。
「なんだよっ! 心配したのに」
するとエリザベスは槍を地面につけて立ち上がる。
「この程度、心配される言われもない」
エリザベスは再び槍を構え直し、対峙する。
折角心配してやったのに。
「さあ、戦え!」
戦えって言われてもな。
この人達はきっと俺の力を知っている。
この戦いは俺の力を確認するための物だろう。
どっちにしろ、白い剣と黒い鎌を出すわけにはいかないな。
「‥‥‥焔の剣」
呪文を唱え、手に刃に炎を宿した剣を出す。
「なんだ、それは?」
「フラマ・グラディって剣だ」
エリザベスが不機嫌そうにしている。
「なぜ、天使の力を使わない?」
しつこいやっちゃな~。いい加減諦めてほしいのだが。
「俺にはそんな力は無い」
そう言っても信じないんだろうな、こういう人達は。
エリザベスが持っている白い槍は、恐らく俺の白い剣と同じ、天使の力だろう。
あの人、大天使の加護を受け持つ者って言ってたしな。
「‥‥‥私の妹の力は確かだ。貴様が加護を受け持っているのは分かっている。いい加減認めろ」
何がなんでも天使の加護の力を使わせたいんだな。
「なんでそんなに天使の加護を受け持っていることにしたいんだ!?」
「私たちは天使の加護を受け持つ者。熾、智、座、主、力、能、権、大天使、神使、九つの加護を受け持つ者。その中で最も戦闘力のあるとされている能天使の加護を受け持つ者。それが貴様だ!」
能天使は神より堕天使をやっつける役を負わされている階級だ。
しかし、最も魔に接触する回数の多い能天使は九位の天使達の中で最も堕天使になりやすい位なのだ。
その加護を受け持つ者もそうなのかも知れない。
なら、安易に力は支えない。
『おいっ、お前ら何してる!』
放送から怒鳴り声が聞こえる。
いつの間にか傍観席から七人が消えていた。
「‥‥‥全く、お前達と言う奴は」
放送で怒鳴り声を出したのはエドワードさんだった。
「で? お前達はなんで戦ってたんだ?」
「私の妹がエクシア・グレイスから天使の力を感じると言うので、エンジェルズに入ってもらおうと‥‥‥」
「そうです」
すると、エドワードさんは、はぁ、と溜め息を吐いた。
「どうなんですか、教官?」
「‥‥‥」
エドワードさんは押し黙る。
天使の加護を受け持つ者として認めるか、ただの間違いと言うか。
教官のエドワードさんが言ってくれれば、エンジェルズの人達も諦めてくれるだろう。
「しょうがない。そうだよ、エクシアは能天使の加護を受け持っている。だけど上層部には言わないでくれ。事情があるんだ」
「エドワードさん!?」
「エンジェルズの第九位のエミリー・ホワイトの力は本物だ。隠し通せないと分かっていたけど」
なら、先に言っておいてくれればよかったのに。
こんな模擬戦するハメになるとは。
「では、天使の加護を受け持っていると認めるんですか?」
「ああ、認めよう。でも‥‥‥」
「分かっています。上層部には黙っています」
はぁ、と溜め息を吐く。
‥‥‥で、さっきから扉の方から視線を感じるのですが?
「入ってきたらどうですか、皆さん」
すると、扉を開けて七人が入って来て、アリスさんが前にでる。
「バレてたか‥‥‥さすが、能天使の加護を受け持つ者だね。じゃあ、これからよろしくね。エクシア君?」
「はいはい、よろしくお願いします」
能天使の加護を受け持っている事は認めたけど、本名は明かさなかった。
まだ、エクシア・グレイスとして暮らしていく事になりそうだ。
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これからも頑張って書いていきたいと思います。
読んでくれてありがとうございます。