第八話『特殊育成機関 AEGIS』
「‥‥‥」
軍の特殊育成機関『AEGIS』
俺達はエドワードさんの言う通りにAEGISに所属する事になった。
だがその際、俺は名前を偽り、楠木久也ではなくエクシア・グレイスと名乗る事となった。
これは、俺がいた研究施設が軍上層部のトップシークレットだった場合を想定して、本当の俺を隠すためらしい。
もちろん、能天使の加護を受けているのも秘密にしなくてはならない。
でも、エクシアってどうよ。
能天使そのままじゃねーか。
「‥‥‥えっと?」
魔法族は正規の軍人達とその見習いに分け、正規の軍人が所属する所を『EXCALIBUR』と言い、見習いの方は『AEGIS』と言うらしい。
つまり、俺達は見習いなのだ。
「でかいな」
AEGISの建物は予想を越えて大きかった。
いったいどれくらいの広さがあるのだろうか。
高い所が見えないわけではなく、左右に拡がる防壁が何処までものびている。
「まず、入ってみましょ」
「あ、ああ」
俺達は防壁の大きな扉の前にいる検問の人へ歩いていく。
歩けば歩くほど、防壁は広く見えてくる。
「すいませーん」
「ん?」
モニカが呼ぶと軍人らしい人はこっちに振り向く。
「今日から所属する事になったモニカ・グレイスと‥‥‥」
「く‥‥‥エクシア・グレイスです」
危うく、楠木久也と言いそうになってしまった。
今の俺はエクシア・グレイス、エクシア・グレイスなんだ。
気を付けなくては。
「名前を言えば分かるって言われたんですが?」
「君達がグレイス教官の息子と娘だね? 聞いてるよ」
そう言って扉を開けてくれる。
俺達はその人に軽く礼をして建物の中に入った。
建物の中に入った俺達は、中で待っていたエドワードさんに連れられて通路を歩いていた。
『そうだ、AEGISについて簡単に説明しておこう。AEGISはお前達のような志願兵を一人前の兵士にするための教育機関だ。なぁに、アカデミーとでも思ってくれて構わないさ。‥‥‥後、ここでは久也君は私の息子のエクシア‥‥‥え? こないだ聞いた? まあいいか。そうだ、AIGISにはエンジェルズというエリート集団があって、エクシアのような天使の加護を受けた者だけが入れる‥‥‥まあ、学校で言う生徒会のような所だよ。それに‥‥‥‥‥』
などと長い説明を聞きながら俺達が入るクラスの教室の前に来た。
「じゃあ、呼ばれるまで待っててくれ」
「はい、解かりました」
エドワードさんは俺達を置いて先に教室に入っていった。
「‥‥‥学校みたいな所、か‥‥‥」
「ん? どうしたの、久也」
「エクシアだ」
「あ、ごめん」
「‥‥‥あまりピンと来ないんだよ、学校みたいな所って言われても」
俺がそう言ってもモニカはよくわからないようだ。
「学校みたいって言っても教えるのは戦闘技術や魔法の使い方だろ?」
「教科が戦闘技術になっただけじゃないの?」
「そうなんだけど、学校で教えるのは生きるための知恵。AEGISで教えているのは相手を殺すための知恵。‥‥‥戦争をしちゃいけないなんて主人公じみた事は言わないよ。俺自身、戦う為にいるみたいなもんだし」
「すごいね、久也って」
モニカの言葉に驚く。
「普通、そうは思わないよ。ほとんどの人が戦争は悪いことって思うはずだもん」
「モニカは思うのか?」
モニカは「うん」と首を縦に振る。
そう思えるのも、俺はすごいと思う。
戦争は悪い事。
しかし、そう思えるのは少ないと俺は思うのだが。
誰だって好き好んで戦う事はない。
戦闘狂ならともかく。
人は、‥‥‥いや、知恵を持つ生き物はよく相手の事を考えれば、共存は可能だろう。
しかし、知恵を持つために些細なことで誤解し、解り合えなくなる。
だから戦争が起こるんだ。
俺はそう思う。
「おい、入って来いと言ってるだろう」
いつの間にか呼ばれていたようで、エドワードさんが教室から出てくる。
「あ、すいません」
「ごめんなさい」
教室に入ると他の人達の視線が俺達に集まった。
アカデミーと言うだけあって生徒はみんな若い。
「えっと、モニカ・グレイスです。よろしくお願いします」
「エクシア・グレイスです。よろしくお願いします」
クラスの皆がヒソヒソと話始める。
その中でも聞こえたものは
「あの教官の子供か」
「エクシアって子、変わった名前ね」
「エクシア‥‥‥能天使?」
エドワードさん! すでに名前で怪しまれまーす!
「静かにしろっ。コイツらは私の子供だが特別扱いするつもりはない。仲良くしてやってくれ」
俺達は指定された席に座り、ホームルームを終える。
すると、ホームルームが終わると同時に生徒達が集まってきた。
『グレイス教官の子供が私達のクラスに来るなんて驚き!』
『ねぇ、モニカちゃんだっけ? 好きな食べ物って何?』
『エクシアって名前、変わってるよな~。天使の加護でも受けてるのか? ‥‥‥え? そんなことは絶対に無い?』
そんな事を休み時間中聞かれた。
そして、一時限目の授業の魔法の基礎知識を学んだ。
「はー」
「どうしたのよ。ため息なんてついて」
「エドワードさんってそんなに凄い人なのか?」
なぜ、エドワードさんの子供が来ただけであんなに興奮するのだろうか。
「お父さん? お父さんは軍の中でも結構優秀な人材らしいわよ? たしか、大佐‥‥‥だったかしら」
大佐だと!?
「なるほどな~」
俺は驚きを通り越して落ち着いてしまう。
しかし、それで納得した。
大佐の子供が来たなら、そりゃ興奮するか。
「エクシア君」
「ん?」
クラスの女の子に呼ばれる。
「何?」
「なんか、先輩がエクシア君を探してる」
先輩? 誰だろう。
女の子がドアの方を指差していたので、見てみると
「誰だ、あれ?」
ロングヘアーで腕を組んで仁王立ちしている。
なんと言うか、おおきく見える。
「行ってきなよ、エクシア」
「おう」
俺はその人の所へ歩いていった。
近くに来た所で目が合う。
「お前がエクシア・グレイスか?」
「はい、そうですけど?」
「来い。話がある」
すると先輩は歩き出す。
それについていった。
その頃、ある一室。
7人の少年少女が机を輪にして座っている。
「例の彼は、どう」
「実際に会ってみないと解りませんが、恐らく」
「確かに感じます。天使の力を。でも、少し‥‥‥怖いです」
「怖い?」
「はい。なんか変な感じがするんです。黒い‥‥‥闇みたいなものが」
彼らが話しているのは今日、所属することになった少年『エクシア・グレイス』
「‥‥‥エクシア・グレイスどんな子かしら」