学校の七不思議(2)
~音楽室にて~
「第一の怪談!突如なりだす音楽室のピアノだっ!」
「定番過ぎるほど定番だな」
音楽室に入り、さらにテンションがあがった馬鹿が、突然解説を始める。
ちなみに当然のように音楽室には鍵がかかっていたので、わざわざ職員室から鍵を持ってきた。職員室には教師は居なかったので、これはどうにも、俺たちは本気で忘れ去られたようである。帰るためには警備員でも探すしかない。
「チッチッチッ、話はそれだけじゃあ終わらないぜ」
「なんだよ一体?」
「目の光るベートーベン、突如現れるオーケストラ、異世界への扉などなど」
「ありきたりのオンパレードだな。ってかそれだけで七不思議四つは消えたし」
「それがこの学校の七不思議って場所で一つってカウントされてるんだよ。だからこの音楽室で起こる怪奇現象で一つの扱いなわけ」
「なんて適当な…」
呆れながらさりげなくピアノへ近づく。馬鹿はベートーベンの方を見ているようでこちらに気付いていない。
ジャーンっ!
「な、ななななんだ!?」
突然のピアノの音に、馬鹿は相当驚いたのか、相当あわてていた。
「わ、分からない……」
当然鳴らしたのは俺なのだが、何も知らない振りをする。
「今、なったよな?」
「だな」
俺に確認を取ると、馬鹿は恐る恐るといった様子でピアノに近づいていった。馬鹿がピアノの鍵盤の方を覗き込んだところで
「わっ!」
「うわああああぁぁあああああ!」
後ろから大声で叫んでやると、馬鹿は絶叫してその場から飛び去った。
「ななんあなあなっ!?」
「落ち着けばーか」
もはやなにを言おうとしてるか分からない、というか恐らく自分ですら分かっていないだろう馬鹿をなだめる。
「お、お、おお、おどろかすな馬鹿野郎っ!」
「わるいわるい」
馬鹿は必死の表情で怒鳴ってくるが、その様子がまた面白く、俺は笑いながら答える。
「た、たたた、たくっ!ほ、ほら、次行くぞ!」
「あははっははは。分かった分かった」
そうしてしばらく騒ぎながら探索してから、音楽室を出た。
ガタ……。
音楽室を出た瞬間、直ぐ近くの廊下の曲がり角から音がした気がした。ビクッっと音の方を見る。馬鹿にも聞こえたようで俺と同じようにそちらを見るが
「は、はは、どうせまたお前の仕業だろ?」
それだけ言って先にいってしまった。決して俺の仕業ではないのだが…気のせいだったのだろうか?ときにしつつも、仕方がないので先に行ってしまった馬鹿を追いかけた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
~美術室にて~
「さあ今度はこれだ!」
「……」
そう言って馬鹿が指差したのは、美術室に飾られた数々の絵だった。
「美術室は、夜中、誰も居ない時、美術室中の絵という絵にかかれたものが飛び出してくるんだそうだ」
「……普通にガランとした美術室でしかないけどな、実際」
「…だな」
さすがの馬鹿もテンションが下がる。何の実験も調べようも無いぐらい確実にこの噂はデマなようだ。しかし、単純に暗闇の中、あたり絵が飾られていると普通に不気味である。
特に人の絵が多いので、絵から視線を向けられているようでつい過敏になってしまう。
「「うわっ!」」
そんなわけで、ただ風が吹いただけでも思わず声をあげてしまった。……ん?風?
「なんだよ、風か……驚かせるなよ」
馬鹿はそう言って落ち着く。が、俺はというと、恐怖に駆られていた。
「今、風吹いたよな……?」
「あ?それがどうした?」
「お前馬鹿か?どうして風が吹くんだよ!?室内だぞここ」
「は?………………………………………………………………………………あ」
たっぷりと時間をかけて馬鹿が理解する。
「な、ななな、なな、たいしたことねえってきっと別につーか気のせいだ気のせい、そう気のせい……」
しどろもどろ、しかも早口で馬鹿は自分に言い聞かせるように言い続ける。そんな馬鹿を無視して俺は辺りを見回した。
「……あ」
「あ?」
なんてことはない。ただ、壁から隙間風が入ってきていただけのようだった。なかなか古くからある場所なのだろう。
「まあ、俺は最初っからわかってたけどなっ!」
原因が分かったとたん、馬鹿は元気になって言った。
「よく言うよ」
「よし、次いこう!」
美術室をでる。
「お前、実は怖がりだよな?」
「そ、そそ、そんなことねえし!そんなわけねえし!」
「まずその震え止める努力しろよ……」
ガサ……。
美術室を出て直ぐ、丁度横にある階段の上から音が聞こえた気がして、階段の上を見た。
「うわっ!な、なんだ!?」
馬鹿もすばやくその音に反応して階段を見上げる。
「……」
確かに一瞬、黒い影が見えたような気がした。誰か……いるのか?
「ま、ままままたどうせお前だろ!?ほ、ほらとっとといくぞ!」
「って、おい、ちょっとまてよっ」
馬鹿はまた俺のせいとして、先に進んでいった。ただ先ほどと違うのは、俺の手を掴んで引っ張っていることである。それほど怖いのか……。