学校の七不思議(1)
案の定、放課後呼び出し指導。
「反省どころか、反抗心がどんどん増してるよなあお前ら」
あまりの出来事に怒りを通り越して、呆れ、さらには感心までしてしまっているようで、担任の言葉はその口調とは裏腹に楽しそうなものだった。
「いやいやいや。別に反抗してるわけじゃないっすよ」
「ほう?」
「ただ俺たちは、自分の信念に従っただけです!」
たち……ね。まあそこは万歩譲ってかまわないとして、この場面でそんな漫画みたいな台詞を言わないで欲しい。台詞だけ考えれば、非常にカッコよく聞こえるが、学校中の黒板に野球やろうぜと書いてまわる信念って一体どんなだよ。
「学校中の黒板に野球の勧誘を書く信念ってのが一体何かこの馬鹿な俺に教えてくれるか?」
俺と同じことを思ったようで、我らが不良教師が馬鹿に尋ねる。
「それは!」
「「それは?」」
気になったので俺も一緒に聞いた。俺と声がハモッたことがそんなにいやなのか、教師は露骨に嫌な顔をしていた。普通にむかつく。
「それは……、高校生活を楽しむことですっ!」
「楽しむなら人に迷惑かけずに普通の生活を楽しめアホがあああああああ!」
馬鹿の言葉に、全力で教師が突っ込んだ。もちろん、言葉だけなんて甘いことは無く、いつの間にか手に持ったスリッパで、恐らく全力で馬鹿をひっぱたく。
スパーンッ!
なんとも軽快ないい音が鳴り響いた。学校中に響いたんじゃないかという声量と音である。近くで聞いていた俺としては耳鳴りがひどかった。軽く吐き気がしてくる。
馬鹿を見ると、相当に痛かったのか、声すらあげずにうずくまって涙目になっていた。
「はぁ……。ったく、まあいいや、とっとと反省文書いて帰れ馬鹿供」
心底あきれ返ったのか、それだけいうと担任は去っていった。そして、共は余計だ。
「大丈夫か?」
馬鹿がずっと蹲っているので尋ねると、首横にブンブンと振って答えた。
「大丈夫じゃない」
「そうか、大丈夫か」
「大丈夫じゃねえって!馬鹿いてえしっ」
馬鹿の言葉を完全に無視して反省文を書く。
「無視ですか?!」
「どもでもいいけど、とっととやらないと帰れないぞ」
「……そうですねー」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ようやく、終わったな」
「ああ、昨日より量多いからな。今一体何時だ?」
「んと……うげっ!十時前…」
「……帰るか」
「だな」
馬鹿と二人、夜中の学校を歩く。夜中というだけで、学校の雰囲気は普段とかけ離れたものになっていて、なかなかに不気味なものだ。
「あれ?あいてねえ」
「まじか?」
いつものように、下駄箱へ行き、昇降口から出ようとするが、既に昇降口は鍵が閉められてしまっていた。
「どうする?開けて、そのままいくか?」
「また反省文書きたいのかおまえ?」
「すいません」
昇降口は、内側から鍵を開けられるようになっているから出ることはでられるのだが、そのあと鍵を閉めることが出来ない。恐らく学校に残っている生徒は俺たちだけだろうから、鍵を閉めずに帰れば百パーセントばれるだろう。
「んで、じゃあどうするよ?」
「職員なり警備員なり適当に人探せばいいんだろ。忘れ去られて無い限りは誰かいるだろうし」
「なるほど。じゃあ行くか」
「ああ」
職員室を目指して歩き出したところで思い出したように馬鹿が言う。
「ん、そだ!」
「?」
「なあ惣一、七不思議知ってるか?この学校の」
「七不思議?そんなのあるのかよ」
「ああ、上の学年の奴らから聞いた話しなんだけどさ」
「へー。それで?」
「夜中の学校にいるなんて機会めったにないだろうし、まわってみようぜっ」
「まあ、どうせ暇だし。行ってみるか」
そして馬鹿に着いて七不思議の場所へと歩き出した。