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高校生活  作者: 横笛
21/28

休日の風紀


「さて、たまには仕事でもするかな」



 宗一たちが出て行った後、会長は呟き、机の書類を手に取った。



「まったく、つまらない上に面倒な書類整理ばかり生徒会に押し付けおって、風紀の連中め」



 愚痴をこぼしつつ、会長はテキパキと書類の整理や審査を進めていく。



「ん……。風紀? そういえば、今日は休日じゃないか! ……あー」



 突如何かを思い出した会長は、哀れなものを見るような目で、おそらく宗一達が今いるだろう方向を見つめた。当然目の前にあるのは壁であるが。



「やってしまったな。出会わないといいが……」



 言った直後に会長はその考えを改める。



「いや、いっそであった方が面白そうだな。うん。彼らの帰りが楽しみだ。ふふふ」



 想像した今後の展開に機嫌をよくした会長は、鼻歌まじりで書類整理を進めるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「風紀委員なんて始めて聞いたぞ。お前知ってるか?」


「いや、俺も初めて聞いた」



 俺の問いに馬鹿が答える。



「ほら、ぼそぼそ二人で話してないで、とっとときなさい。罰則を与えるわ」


「いやいや、なんで?」



 突然の注意に納得いかない馬鹿がたずねる。生徒会室を出てから既に一時間程たっているだろうか、特に何もしていないはずの俺たちは、突如風紀委員と名乗る女子生徒に声を掛けられたのである。



「校則違反したでしょ?」


「校則違反? 何かしたか俺たち?」


「……今回は別にお前が馬鹿だからとじゃなないな。俺にも意味がわからない。とにかく今結構急いでいるんだけど?」


「あんたらねえ……!」



 と、そのとき、俺たちの前に立ちはだかる風紀委員の向こうにある曲がり角から、ヒョコっと茶髪の人間が顔をのぞかせた。



「はっ、チャンスですっ! 今のうちに逃るべしっ!」



 こちらに聞こえる程の声でそんなことを言いやがった、いつぞやの茶髪少女はそのままスタタターと走り去る。その声に振り返った風紀委員は茶髪少女が走り去るのを見て怒鳴った。



「って、貴方も待ちなさいっ!」


「いやですーっ!」



 風紀委員の注意が茶髪少女に向いた瞬間を見計らって、俺たちも一斉に走り出す。勿論、茶髪少女と同じ方向にである。



「おい、まてっ! この紙に名前書くだけでいいんだっ! 部活楽しいぞ、絶対!」


「そんなことはどうでもいいから俺の弁当返しやがれええええっ! 食い物の恨みはでかいぞ、まじでっ!」



 もともと俺たちは彼女を追っていたのだ。その途中で、まったく訳がわからないままに、風紀委員に突然止められたわけである。



「って、あんたらも待ちなさいっ!」


「俺たち別に校則破ってねぇし!」



 不意を付かれた風紀委員がはっと我を取り戻し、とても女子とは思えないような怒りの篭った声で言った叫びに、馬鹿が返した。今回は珍しく馬鹿が正論だと思う。



「今現在進行形で破ってるでしょうがあ!」


「「は?!」」



 その言葉に、俺と馬鹿で同時に驚く。一体俺達が何をしているというのだろうか? ただ走っているだけなのだが。



「一体何だよ!? 何もしてないぞ、俺たち!」


「廊下を走るなぁ! 小学生でもわかるでしょうがっ!」



 ……ああ、やべ、納得。実際そんなことで罰則はどうかと思うが、確かに向こうが正論である。今まで不良教師から受けた罰則が頭をよぎる……。さすがにあんなことは無いと思うが、出来ることなら受けたくはない。俺たちは示し合わせたかのように顔を見合わせると、同時に叫んだ。



「「逃げきるぞっ!」」


「待ちなさいっ!」


「いやですっー!」



 そうして、三組の追いかけっこが始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ぜぇ、ぜぇ……」


「はぁ、はぁ……」


「いい加減にとまりなさいっ!」


「なあ、惣一。さすがにそろそろ限界なんだけど……」


「うわー、体力ねえなあ……。まぁ、俺もだけど」


「私もですぅ」



 追いかけっこが始まってからかれこれ三十分近くの時間が経とうとしていた。にもかかわらず、後ろの風紀委員達はほとんど息も切らさずに俺たちを追ってきている。陸上部か何かなのだろうか? ……そして何より問題なのは、風紀委員達、なのだ。

 恐らく風紀委員達は校内を各自巡回していたのだろう。校内中を逃げ回っている間にいつの間にか、俺たちを追う人間は六人まで増殖していた。



「つか、何でお前は俺達の隣で走っているんだ?」



 いつの間にやら茶髪少女は俺たちの隣を一緒に走っていたのである。



「一人で走り回るの寂しいじゃないですかぁ」


「……。まあどうでもいいけど、弁当は弁償しろよ?」


「はぁ、ぜぇ、後で、これ書いてな」


「はあ? そもそもその紙なんなんですか? 後、お弁当って?」



 茶髪少女は訳がわからないというように首をかしげる。



「これは部活の登録用紙だっ!」


「部活?」


「それよりも弁当だ弁当っ! 覚えてないのか? 昨日の昼に俺に体当たりしてきただろうが」


「昨日の昼? ……っあ! 肩蝶の人!」


「どんな覚え方だっ! とにかく弁当は弁償しろよ!」


「肩蝶の人が何でお弁当?」



 茶髪少女は覚えてないと言うより、弁当をぐしゃぐしゃにしたことに気付いていなかったのだろう。キョトンとしたようにそう答えた。



「いい加減に諦めて止まりなさいっ!」



 後ろから最初に注意してきたと思われる風紀委員の声が聞こえてくる。それをみて馬鹿が慌てる。



「こんな話してる場合じゃねえって!」


「このままじゃ捕まっちゃいますよっ」


「てか、そもそもあんたが突然逃げ出さなけりゃこんなことにならなかっただろうが!」


「そうだそうだっ! なんで突然走り出すんだよっ!」


「貴方達が突然追ってきたからじゃないですかっ!」


「ただ声かけようと小走りで寄っただけだろうが!」



 馬鹿と一緒に校内を普通に回っていた所、偶然にも茶髪少女が廊下を歩いているのを発見した俺達は、ただ声を掛けようとしただけなのである。だというのに、突如茶髪少女が逃げ出したために、今回の騒動へと発展したのだ。



「怖いんですよこの人ぉ!」



 そう言って茶髪少女は馬鹿を指差す。



「あ、俺? 俺怖いの?」


「いいや、そんなことねぇよ。怖いじゃなくて気持ち悪い」


「余計ひでぇよ!」


「待ちなさいいいいいい!」



 またも後ろで同じ風紀委員が叫ぶ。……はぁ。いい加減本気で疲れてきていた。ああ、この後バイトだというのに……。



「ぜぇ、なんか、頭使えよ惣一―っ! 俺より頭いいんだろっ」


「よくわからないけど頑張って下さいぃ!」


「はぁ、はぁ……」



 いっそこのまま捕まれば……。しかし、それではバイトに出られなくなってしまう。



「……! こっちだっ! とにかく全力で走れ!」


「おおっ! 何か思いついたのか!?」


「え、わ、急に方向変えないでくださいよぉっ」



 俺はとあるところを目指して校舎内を走った。後先考えずに全力疾走をしたため、風紀委員との距離は大分開いている。



「よし。次曲がったところで右の教室に飛び込むぞ。そこでやり過ごす」


「わかった!」


「はいっ!」



 それだけ言うと、とある細工をするために俺はさりげなく二人よりすこし後ろに行く。バッ。曲がった瞬間、右手にあるドアを直ぐにあけ、その中に馬鹿と、茶髪少女が飛び込んだ。遅れて俺も飛び込み、ドアを閉める。



「!? 突然どうしたんだ一体?」


「ぜぇぜぇ、会長、何もいわずに匿ってください!」


「は?」



 俺達が飛び込んだのは生徒会室である。さすがに風紀委員に追われている人間が生徒会室に隠れるとは思わないだろと考えたのだ。



『一体何処に行ったの!?』



 会長の了承を得る前に、廊下から風紀委員達の声が聞こえてきた。それを聞いて会長は現状をおおよそ理解してくれたようで



「あぁ、なるほど。事情はわかった。そういうことなら、適当に隠れてくれ。それと、そこの小学生のような君、さきにちょっと頼まれてくれ」



俺と馬鹿はそれぞれ適当な場所に身を隠した。茶髪少女もなにやら会長との会話を終えると、適当なところに身を隠す。



『こちらにはいません!』


『こっちもです!』


『やはり、この窓から外へ行ったのでは?』


『そうね、その可能性が高いわ。私はもう少しこの周辺を調べるからみんなは外へいって』


『わかりました』



 扉越しに聞こえる風紀委員達の会話からして、どうやら細工は上手くいったようだった。細工とは凄く単純なことで、生徒会室の前にある廊下の窓を開けておいただけである。生徒会室は二階にあるので、やろうと思えば窓から飛び降りられる程度の高さなのだ。どうやら、一人を残して全員外の捜索に当たるらしい。これで大体安全だろう。

 そんな安著もつかの間、ガラッっという音と共に生徒会室の扉が開いた。

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