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高校生活  作者: 横笛
15/28

エンカウント

 教室から出た俺は、どこを目指すわけでもなく、弁当を持ったまま校内をぶらついていた。いつも教室で弁当を食べていたので、特に行くあても思いつかなかったのである。

 とはいえ飯は食べたいので、どこかに昼食を食べられる所は無いかと考える。屋上、は確か立ち入り禁止で封鎖されているはずなので、却下。友人の居ない自分に他クラスに乗り込むなど無理だし、とすると



「外か……」



 というわけで、下駄箱を通り、外へと出る。



「えっと……」



 どこかいいところはないかと校舎の周りをうろうろ。しばらくして、茂みの中で、木の陰に隠れた木製のベンチを発見した。



「ボロ……」



 見た目はボロボロだった。塗装ははがれ落ち、ところどころ欠けている。



「……」



 触ってみる。欠けているためところどころ尖っていて危ないが、まあ座れそうであった。すこし体重を掛けてみる。……よし、大丈夫そうだ。



「ようやく飯が食えるな……」



 ベンチに腰掛け弁当をひざの上に広げる。



「いただきます」



 律儀に挨拶をして、箸を握る。



「はわっ!」



 突然の声に茂みの外に目をやると、女子生徒が転んでいた。



「……」



 箸を止めて、女子生徒を観察する。小柄で、ショートヘアーの茶髪であった。背丈や顔からどうにも高校生には見えない。おおまけにまけて中学生に見える可能性があるかもしれないといった少女である。



「いったあ……。あぁっ、チョウチョっ! 待ってえぇ~~~!」



 少女をからかうように、その目の前をひらひらと一匹の蝶が飛んでいた。どうやら少女はそれを追いかけていて足を取られて転んだらしい。馬鹿……というかドジ?



「はわっ! いたた、この! チョウチョの分際でよくもやってくれましたね!? って、は、あ、え!? わわ、わわわっ!いったっ! ちょ、待って待ってぇ!」



 またこけた。そして、蝶相手に訳のわからない文句を言った挙句、自分に突然飛び掛ってきた蝶に驚き再びしりもちをついてしまう。お尻を押さえながら立ち上がると、少女は再び去った蝶に手を伸ばしつつ、また走り出した。

 ……ああ、いたよ。面白い奴が。会長はこの学校の生徒は面白い奴が居ないなどといっていたが、馬鹿といい、会長自身といい、目の前のアレといい、むしろ変人だらけに思えるのは俺がおかしいのだろうか。



「待て待て待てぇええ!」



 叫びながら少女は走る、こちらに向かって。……は?

 理解が追いついた時には遅かった。蝶はこちら、つまり俺のいる茂みの方に逃げてきたのである。当然それを追う少女は茂みに向かって飛び込んできた。そこに俺がいるとは気付かずに、すさまじい勢いのまま。



「げっ! うおっ!」


「わっ! きゃわぁあああっ!」



 少女は頭から派手に俺に突っ込み、ベンチがその勢いに耐え切れず、ひっくり返ってしまう。ゴロン、とベンチごと俺の体は回転する。俺は無意識に、少女の体を庇うように地面に転がった。



「いたいですぅ~」



 頭を押さえながら少女が立ち上がる。



「いつつ……。大丈夫か?」


「大丈夫ですよぉ~」



 頭の衝撃にまだくらくらとしているのか、足元がおぼつかなく、ふらつきながら少女が言う。その言葉が全く当てにならなそうだったので、怪我が無いか少女を見る。幸いなことに、見る限りかすり傷の一つも外傷はないようだった。



「はっ! チョウチョはどこですか!?」



 少女がハッとして、辺りをキョロキョロと見回す。足がふらついていないところを見ると、正気に戻ったのだろう。しかし、正気に戻った第一声が、ぶつかった事を謝るわけでもなく蝶が何処にいるかとは……。本当になんというか、常識外れの少女である。



「あっ!」



 チョウチョを発見したのか、少女は声をあげて俺を指差した。正確に言うと俺の肩の辺りである。少女の指を見て、自分の肩を見ようと首を曲げようとしたところに少女の声がかかった。



「動かないでくださいっ!」



 少女の真剣な顔と声に、仕方なく動きを止める。少女はそのままゆっくりと俺に近づいてきた。



「ほーら、いい子だからそこでゆっくりしてましょうね~」



 蝶に話しかけながら段々と迫ってくる。顔が、なんだろう、とても怖かった。



「あ、こらっ、待ってっ!」



 少女の様子からするに、俺の肩から蝶が飛び去ったようである。少女は大急ぎで蝶に飛び掛った。とすると、少女は俺の方に飛び込んできた訳で、ドカッ!



「~~っ。いたいですぅ」


「いって~~」


「って、チョウチョは!? ああっ! 待ってくださいぃ!」



 痛みに腕を押さえる俺を放置し、少女は蝶を追って去っていった。



「……なんだったんだ。はぁ」



 ため息をつき、倒れたベンチを見やると、そこには俺の弁当だったものが盛大に散らばっていた。



「あああああああああああああっ!」



 急いで、地面に転がっていた弁当箱を回収するが、中身は全て散らばってしまったらしく、何も残っていなかった。



「……飯抜きかよ」



 ベンチを建て直し、散らばった弁当のご飯やらおかずやらを払って、そのまま座って呟く。



「今日は、厄日だ……」

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