深夜の生徒会長(1)
「生徒会長!?なんで生徒会長がこんな時間に一人で学校に居るんですか!規則違反でしょ、知りませんけど」
「ん、まあ細かいことは気にするな、それより、自分達の立場的にはいいのかい?」
「俺たちの立場?」
俺の立場……!
「まさかと思いますが……」
「当然、報告の義務が私にはあるな」
「まじですか…」
「まじだ」
現在俺たちは、俺たちを忘れて帰っていった教師達が悪いとは言え、本来残っていてはいけないだろう時間に、しかも学校中を探索して、それを、よりにもよって生徒会長に見られていたわけだ。
あくま、あくまで教員が悪いとしても、音楽室、美術室、資料室、それぞれの鍵を勝手に拝借し、その上で学校の備品であるピアノ、本、などなど様々なものを勝手に使ったり触ったり投げたりしてきたわけで……。
「ふふふ。次の反省文は、一体何枚だろうね?」
サーと血の気が引いていく。今の、この生徒会長の微笑みは幽霊やお化けなどよりもよほど怖かった。無論、幽霊なんかに感じる恐怖とは違う意味合いでだが。
「ええっと、黙っててもらうわけには……」
「おいおい、仮にも生徒会長だぞ?私は」
「いや、実際仮みたいなものでしょ!今此処に居る時点で規則とか守る類いの人物と思えないんですけど?!」
「……ふむ」
手をあごに当てなにやら考え込む生徒会長。その姿は無駄に絵になっていた。その姿を見ながら、俺も頭を使う。今この会長も規則を破っているとすれば実は何とかなるんじゃないだろうか?
「度胸があるなあ、仮にも自分の明日の運命を握っている人間に対してその態度とは」
「いや、実際今貴方が規則を破っているのなら、それはそれでそっちも不味いですよね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあこちらも黙っているのでそちらも黙っているということで」
「ふむ。実に合理的な案だな。しかし私はそう言った裏取引のようなものは好かないのだよ。第一君は失念していることがあるぞ?」
「失念してること…?なんですか?」
「君と私の教師達からの信頼度の差だ。同時に立場の差でもあるな。私は生徒会の仕事という理由で逃れることが出来るが、君はそうでもないだろう?」
「うっ……」
「さて、校則違反のみならず、生徒会長に脅迫行為までしたわけだが……」
やられた。回避しようとあがいた結果、結局色々と墓穴を掘ってしまった。
……此処まできたらやれることはただ一つしかない!俺は0.1秒で決心を固めて0.5びょうで跪き、言った。
「すいませんでした見逃してください!」
なんとも切れのある綺麗で見事な土下座である。
「はははっ、君のその頭の回転の速さと決断力には驚嘆するな。しかし、毎回どこかしら抜けているな。実に面白いよ」
笑いながら会長が言った。……抜けている?その言葉に引っかかりを覚える。
「抜けているってなんです?」
「君はどこかしら抜けてるんだよ、さっき立場の違いを考えていなかったように、今も土下座以外にも選択肢はあるだろうにね」
「……?」
土下座以外の選択肢?なんだそれは?足でも舐めればいいのだろうか?いやいっそ今すぐ奴隷にしてくださいト宣言するとか……発想が残念すぎる自分に本気で嫌気が差した。
「どうした?急に暗い顔をして?」
「自分の発想に失望しました」
「なんだそれは?」
生徒会長の言葉を無視して再び考え込む。えーと、なんだなんだ?
えーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーとえーと……。
「あれ?何考えていたんだっけか、俺……」
「君は頭がいいのか馬鹿なのか本当にわからないな」
考え込んだ挙句、首を傾げ始めた俺を見て会長が言う。
そもそもなんで俺はこんなに考え込んでいるのだろうか……。というかいられるのだろうか?
普通に考えて、会長が真面目な生徒であったとすれば、とりあえず直ぐに学校から追い出されるか、教員に連絡をするだろう。とにかく、なんらかのリアクションを示すはずである。
しかし、目の前の会長様はどうだろう?自分と話をしている……。自分と話をすることを最優先にするということは、これはつまり
「つまり、なんですか、脅す気ですか、俺を」
「ふむ、結果的には間違っていないが、どうにも君は結論をいそぐなあ」
「間違ってないのかよ!?」
結構適当に言ったのだが、当たってしまったことに思わず激しく突っ込む。つか、脅し!?
とにかく、なんとか表面上だけは取り繕って言う。
「俺、脅されて何かをさせらられるような価値のある人間じゃありませんよ?」
「あっはっはっはっは。何をいうか、どんな人間だって適当な労働力ぐらいの価値はあるさ」
「さりげなく適当な労働力しかない無能だと言い切った、最低な発言ですよね。それ。せめてどんな人間にだって取柄の一つや二つあるぐらいの言い方にしません?」
「馬鹿を言っちゃいけない。確かにどんな人間にだって、優れた部分の一つや二つあるだろうが、それは悪魔でもその人間の中でだけの話だ。他と比べてしまえば、なんの取柄も無い人間の方が世の中には多いいに決まっているじゃないか。無論私も含めてね」
「仮にも生徒の長ですよね貴方!?今の発言この学校の生徒全員を否定してますからね?」
「勘違いしてもらっては困るな。私がそんなこと言うわけ無いだろう」
「今さっきの台詞を良く思い出しましょうか。貴方は鶏ですか?」
「私は人間だ。見れば分かるだろう?そして、勘違いというのは生徒だけを否定するわけがないということだ。生徒に限らず、教員、事務員、保護者、PTA、全てに対して言っている」
「なお悪いっ!悪すぎるわっ!」
自分の周りの人間を全員否定しやがった。考え方が間違いなく人の上に立つ者の物ではないだろう。
一呼吸おいて、会長が微笑えむ。
「ふふふ、君は本当に面白いな。なかなかいないぞ、こんな言葉にいちいち反応してくれる人間は。それもただ喚くだけでなく、落ち着いている奴なんて初めてだ」
「いやいやいや、一般人なら思わず突っ込みますからね、これ」
「いいや、本当の一般人なら、関わらずに去っていくのが正解だ。よかったな、君は一般人とは違う、普通じゃない存在だぞ」
「凄い変人って言われてる気がするのは気のせいですか?」
「いいや、その通りだ」
「真顔で断言しないでください」
「嘘は嫌いだからな」
きっぱりと会長が言い切り、会話が途切れる。いや、実際のところ、余りの突っ込みに俺の息が続かなくなっただけなのだが。
会長は平然とした様子で、ゼイゼイと息を荒くする俺を見て笑っていた。