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高校生活  作者: 横笛
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学校の七不思議(4)

 三年二組のプレートがついた教室の前までやってきた。



「今度は普通教室か」


「ああ、窓側一番後ろの席に、卒業式の日に事故死した女の幽霊が居座っているんだと。で夜中になるとひとりで自習をしているらしい」


「今度はえらく具体的だな」


「実際に卒業式の日に死んだやつが至って話し出しな。なんか新聞とかにものって有名らしいぞ~」


「本当に、急に本格的だな」


「とにかく入ろうぜ」



 ガラッ


 教室の扉を開けて、教室全体を見る。何か、人のシルエットのようなものが見えた気がした。窓側一番後ろの席の辺りに。信じられない、もとい信じたくない思いから、落ち着いて、窓側一番前の席から順番によく見直していく。


一番目、居ない


二番目、居ない


三番目、居ない


四番目、居ない


五番目、居ない


六番目、最後の席。


……居る。黒いシルエットしか見えないので細かい判断は出来ないが、髪の長い、恐らく女子生徒と思われる人間が、確かに居た。

 思わず息を呑む。馬鹿はというと恐怖のあまり涙を流しつつ硬直していた。

 女子生徒は気付いていないのか、無視しているのか、こちらを意識する様子はなかった。



「あ、ああ。ああああれ。あれ、あれ、あれあれ……!」



 押し殺した声で馬鹿が言う。



「ああ。うわさの幽霊かもな」



 そんなことをいいつつ、俺はあれは人間であると思っていた。何度か見た黒い影と音、きっとあれは……



「キャキャキャキャ!」



 ホラー映画で幽霊に取り付かれた女の声のような奇声が突如響く。かと思うと、目の前女子生徒がこちらを向いた。

 その顔は、無かった。首がないとかそういうわけでなく、要はのっぺらぼうという類である。目、鼻、口などの部分が欠けているのだ。



「う、うぁ、あ、ぁ、うあああああああああぁぁぁああ!」



 その光景に馬鹿は盛大な叫び声をあげて走り出した。無論、俺をおいて。



「君ハ逃ゲナイノカイ?」



 まさにテレビなんかで取り付かれている人間が喋るよな、おかしなイントネーションで女子生徒が喋る。



「腰が抜けて逃げれないって言ったらどうします?」


「食ベル」


「仮にも人間の霊ですよね!?」


「人間ダッテ共食イスル奴ハスルサ」


「少なくとも日本の学校に通っている高校生にそんな人はまずいないと思いますよ」


「フム。ならばアレダ。霊的ナたべるにはタマシイをツレテイクという意味合イもアルノだよ」


「イントネーションがところどころ普通になってますよ。ある意味そっちのほうが不気味ですけどね」


「つまらんな、君は。あの全校代表のおさわがせ馬鹿君のようなリアクションを期待したのだけどね」


「途中であれだけ物音と人影見ましたからね」


「なるほど。それで私はただの人だと?」


「ええ、つーか今更ですがその仮面…ですか?はずしません?口がないのに声がでているって非常に気味悪いんですが」


「ああ、わすれていたな」



 女子生徒はベリっと、まるでテレビアニメの変装の達人がそうするように顔に覆いかぶさっていたマスクらしきものを剥ぎ取った。


「これでいいかな?」


「はい。大分安心しました。やっぱり人でしたか」


「? 確信していたんじゃないのかい?」


「ほぼですけどこんな状況じゃ普通ビビリますよ!」


「ふふふっ。震え一つ見せなかった奴がよく言うよ」


「……はあ」



 正直凄く安心していた。どんなに表面を取り繕うと、さすがにこの時間帯に学校、その上ひとり見知らぬ幽霊の可能性が捨てきれない人と会話である。怖くない人間はもはや人間として俺は認めない。

 そして、マスクをはずした女子生徒のかおを良く見る。月明かりに照らされたその姿は、何かの絵画のような不思議な魅力を放っていた。一瞬見とれる。純粋に綺麗だと思った。



「さて。ところで君たちは一体なにをしていたのかな?」


「反省文書き終えて帰ろうにも鍵も持っていないので帰れず、暇なので七不思議の探索を」


「ふむ。しかし、鍵は内側から開くだろう?」


「その後閉められませんから。今残ってるのなんて俺たちぐらいでしょうから直ぐに誰が開けっ放しで帰ったのか分かるでしょうし、これ以上反省文書くのはごめんです」


「しかし、君の釣れの方はかまわず帰っているようだが?」


「は?」



 そう言って、女子生徒は窓の外を指差した。女子生徒の指が指す方向を見てみると、そこには全力で走り去る馬鹿の姿が。



「あのやろう……!」


「はははっ!まあ仕方が無いだろうね、相当錯乱しているようだからなあ彼は」



 女子生徒は愉快そうに笑う。そして再びこちらを向きかえって言う。



「君にも、ああいうのを期待したのだが」


「それはすいませんねえ。……ところで、あなた誰ですか?」



 一番重要なところをきく。

 こんな時間に女子生徒一人で残っていて、わざわざ男子生徒二人を錯乱させるほど驚かせようとするような人物なんて……、いや、本当に幽霊ぐらいしか思いつかないのだが。

 今更ながら、顔があったところで幽霊じゃないという理由にはならないことに思い至る。

 まさか…本気で幽霊、とか? まさかな……。



「……」



 返事が来ないので、女子生徒の方を見てみると、女子生徒は俺の言葉に唖然としていた。なにか不味いことを言ったのだろうか?



「どうしました?」



 再度、尋ねる。本当に『実は幽霊です♪』とかそういう落ちは勘弁して欲しい。



「いや、なかなか私の顔を覚えない輩というのも珍しくてね。はははっ。そうか」



 女子生徒は何故か一人で納得していた。

 訳が分からない。顔を覚えない……どこかであったことがあるのだろうか?



「何処かであった事ありましたっけ?」


「会ったことは無いかもな。でも君が私を見たことはあるはずだよ。入学式や全校集会で」


「入学式と全校集会?」



 思い出してみるが、長話を一人空気を読まずに楽しそうにする校長の顔ぐらいしか思い浮かばない。



「ああ、生徒会長の顔ぐらい覚えておいた方がいいぞ。常識的に」


「あー!へー、生徒会長ですかー………、は?」


「そう、生徒会長だ」

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