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プロローグ『観察と勧誘』




 ──それは、ただの悪質な冗談だと思った。


 猫の鳴き声で目を覚ました朝、郵便受けに封筒が入っていた。


 差出人は「転生管理局・第七推進課」。


 中身は、異世界転生の案内状だった。


 笑った。


 ここまで雑な詐欺も珍しい。


 だが──なぜか最後まで読んでしまった。


 そして、返信用封筒に署名してしまった。



 それが全ての始まりだった。




 目が覚めたとき、世界は少しだけズレていた。


 視界が低い。


 服が合わない。


 身体の感覚が、決定的に違う。


 鏡を見た瞬間、理解する。


 そこにいたのは──13歳の少女だった。



「……は?」


 声まで違う。


 しかも、やけに整った顔をしている。


 冗談にしては出来が良すぎる。



 そして、玄関に“それ”はあった。


 見知らぬ制服。


 見知らぬ学生証。


 そして、見知らぬ名前。


 “葛 ちは ”。


 13歳。中等部。柔道部。


 ──知らないはずの“自分”がそこにいた。



 同時に、頭の奥で何かが“増えた”。


 他人の記憶。


 他人の人生。


 他人の視点。


 それらが自分の中に流れ込んでくる。


 混ざる。揺れる。壊れる。



「……ふざけんなよ」


 誰に向けた言葉かも分からないまま、俺は呟いた。


 だが返事はない。


 代わりに、封筒の最後の一文だけがやけに鮮明に浮かぶ。



 “転生後の人生は、すべて自己責任となります”。



 ──誰がだよ。












「進捗は?」


「今回はかなり特異な事例ですが、因果の定着には成功しています」


「観測のために分岐した世界線は概ね平穏。許容範囲です」


「そう。なら何が問題なの?」


「観測対象のメンタルです。多くの試行段階で“彼”の人格が破綻します」


「ドクターの結論も同様です。やはり無理があると」


「そうなると条件を変えるしかないのかしら。……あの仔はなんて言ってるの?」


「クリスカは“選ばせろ”と言っています」


「それは選択した責任を負わせるって意味?」


「はい、理由のほどは本人にも説明できないそうですが」


「……いいわ。契約書の内容はクリスカに書かせて。出来上がりしだい再試行よ」






















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【重要なお知らせ】


差出人:〒100-8××4私書箱4946「転生管理局・第七推進課」

担当:転生担当職員(猫型・自称)


拝啓

このたびはあまり幸福でない人生を送られる方々を対象に、厳正なるランダム抽選を行った結果、あなた様が「異世界等転生候補者」として選出されましたことをお知らせいたします。

誠におめでとうございます。

こちらの本人希望確認書が返送され次第、あなた様の転生作業を執り行わせていただきます。

なお、その場合は署名捺印を忘れずに。

また、あなた様のご希望が公序良俗に違反する場合も転生執行は保留となります。

どうかご理解のほどをよろしくお願い申し上げます。



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【あなた様にご提案する転生プラン】


現在ご案内可能な世界は以下の通りです。


□ 剣と魔法の王道ファンタジー世界

* 定番の魔王やドラゴン等の討伐あり

* 流行りのスローライフにも対応

* 敵役の魔王に転生して苦労するのもアリ

* ただしあまりの人外に転生すると苦労しますよ?


□ 超科学SF世界

* 遥か未来で宇宙の覇権を賭けて戦えます

* のんびり辺境惑星を開拓するのもいいでしょう

* 宇宙海賊としてアウトローを満喫するのも悪くありません

* もちろん宇宙怪獣もありますよ!


□ 過去・現在・未来の世界

* 歴史上の人物に転生して人類史のifを体感できます

* 時間軸は現在のまま別の人生を送るのも乙なものです

* まだ見ぬ未来で歴史を切り拓くことも可能です

* もちろん神話の神さまとして苦労するのもありですよ


□ 完全ランダム

* 過去利用者満足度:89%

* 苦情内容の一例:「なぜ私はインテリジェント大根になったのか」



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【ご希望のチート能力】


第三希望までご記入ください。

第一希望 ________________________

第二希望 ________________________

第三希望 ________________________


※人気能力ランキング

1. 時間停止

2. 無限収納

3. 全魔法適性

4. 鑑定

5. 自身の行動や存在を気取られなくなる能力



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【備考欄】


補足として、上記の項目があなた様のご希望に沿わない場合は、こちらの備考欄から直接お伝えください。

なおその場合でも、あまり無理のある条件は叶えられません。

せっかくの機会を無駄にすることのなきよう、節度ある要望をお願いいたします。






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【注意事項】


以下の事項をご確認ください。

☐ 転生先での死亡により元の世界へ戻れる保証はありません。

☐ 「思っていたのと違う」という理由による返品・交換はできません。

☐ ステータス画面が日本語で表示されるとは限りません。

☐ ハーレム形成は本人の努力を要します。

☐ 「俺TUEEE」を希望される場合、周囲の敵も相応に強くなる場合があります。

☐ 当局もたまにミスをします。

☐ なおその場合も何かしらのフォローは確約できません。



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【よくある質問】


Q. 転生後もスマホは使えますか?

A. 世界によります。なお、魔法世界では「圏外」が標準です。


Q. 家族や友人も一緒に転生できますか?

A. 原則として不可です。ただし強い縁がある場合、偶然同じ世界になることがあります。

偶然です。

本当に偶然です。


Q. チート能力を全部ください。

A. ダメです。


Q. 転生したくありません。

A. もちろん辞退可能です。

その場合、次回抽選(平均待機期間:約487年)までお待ちください。



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《b》最終確認《/b》

以下のいずれかに○を付けてください。

○ 転生を希望する

○ とりあえず担当者と面談したい

○ まず他の転生者のレビューを見せてほしい

○ 転生を希望しないが担当者と文通したい



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追伸

本書を返信用の封筒に同封の上、郵便局のポストに投函されたら契約完了です。

担当者一同、あなたの新しい人生を心より応援しております。

敬具



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※本通知は汎人類評議会制定宇宙転生法第88条「なんか面白そうな人を選んでよい」に基づき送付されています。※転生先で得た伝説・偉業・黒歴史は広報資料として利用される場合があります。

※猫を助けたことがある方は当選確率が若干上昇しています。次の機会を狙う場合は困っていそうな野良猫を探してみるといいかもしれませんね。



─────────────────────────────────────



                署名                 印



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