その令嬢は「数字は嘘を吐かない」と言った。
AI小説によく出てくるフレーズをタイトルに使って、書いてみました。
王都で婚約破棄されたというご令嬢が、田舎にやって来た。
父親に勘当され、母方の親類を頼ってのことだ。
「数字は嘘を吐きませんわ」
「……はぁ? 何言ってんの?」
反射的に返してしまった。小さな役場でのやり取りだ。
「わたくしは、婚約者の家の帳簿をしっかり管理してきましたの」
「ん? 婚家じゃなく、婚約者? 結婚する前ってことだよね?」
「だから、そう言っているじゃありませんか」
まだ婚約者なのに、そんな大事な仕事をさせるかなぁと疑問に思っているんだけどね?
なんか、すっごくイライラされちゃってるな。お前馬鹿かという勢いで。
「え~とさ……それは、まあ、それでもいいよ。
じゃあ、その元になる数字をどう作るかっていうのが大事というのも、わかるよね?」
「『作る』ですって? 横領でもする気ですか?」
この子と話していると、こっちもイラッとくるわ。平常心、平常心。
「帳簿にまとめるのは最後の作業だ。その前に現地での作業、運搬する人、それを引き取って売る商人などが関わってくる。
全ての場所に行き、全てに間違いがないかを確認することは不可能だ。
本当にそれを一人でやろうとしたら、流通が滞る。
つまり、信頼できる部下がいかに大切か、お分かりいただけましたか?」
自分だけが頑張っているという思い込みを、捨ててほしいんだなぁ。
帳簿にまとめるのは大変だけど、その前に大勢の人が元になる数字を提供していることに気付いてくださいよ。
ここ、畜産課の仕事は、数字を面倒くさがる生産者との戦いでもある。
出産数と死亡数の報告がわりと適当なのだ。
「自然に任せてるんだから、しょーがあんべぇ」
と、亡くなったら埋めてしまう。
その時に数字に残してくれと頼んでも、「生きるか死ぬかの勝負に、そんな悠長なことしてられっか」と怒られる。
ちゃんとしている業者さんも、もちろんいるんだけどさ。
ちょっと話題を変えるか。
「昨日、現地を視察しましたね。違和感はありませんでしたか?」
「真面目に、仲良く働いていました」
「事前に視察に来ることがわかっていれば、怒鳴るのを我慢する。それくらいの知恵はあるのですよ。
だから、指導している人の言葉も大切ですけど、働いている人の態度も観察してほしかった。
まあ、わかっていても指導して改善させられるかは別ですけどね」
と、説明すると、眉間にしわを寄せ始めた。
この子、正論をまくし立てて現場で喧嘩してきそうなタイプに見えるな。
「事前に言ってくれたら、そうしましたけど」
「その人の価値観で見てもらって、僕たちが気付いていないところを指摘してほしいと考えています。
だから、初回は口を出さないんですよ」
きっと学園に通っていた頃は、予習をばっちりやって失敗しないタイプの優等生だったんだろうな。
「では、普通に家畜を飼っている人と、美味しくするために試行錯誤している人の差は数字で表せますか?
普通にしていても飼料が実る土地と、かなり手間をかけなくてはいけない土地が、帳簿を見るだけで判別できますか?」
そういう個別事情をどこまで汲んで税額や補助金を決めるかって、悩ましいところなんだよ。
一律に課すのもありだけど、長い目で見ると不公平だったりやる気を削いでいたりするんだ。
「数字は嘘は吐かないかもしれない。でも、それだけで真実がわかるわけじゃない」
まあ、そういうことを知っておいてくれるだけでも、いいけどね。とりあえずは。
「――誰も話を聞いてくれなかったし」
ふてくされたような、泣きそうな顔で呟いた。
おっと。関係ないことを言い出したぞ。
理屈っぽく見えても、物事や感情の整理ができていないじゃないか。
「そういう人もいただろう。
だけど、手を差し伸べようとしている人がここにはいる。
昔の体験は一度脇に置いて、ちゃんと私たちと向き合ってくださいな」
優秀な戦力として、期待しているからさ。
「この小説は、みねバイヤーン様の
『AI小説のみわけかた』
(https://ncode.syosetu.com/n8715mb/)
を勝手に参考にして書いたコメディーです。」
という、あんど もあ様の
『或る婚約破棄』
(https://ncode.syosetu.com/n3414mc/)
に刺激されて書いたヒューマンドラマです。
2026年4月30日 会話を一部修正しました。




