三、引取処にて(二)
登場人物※新規
成介(男)特徴:腰が低く誰に対しても敬語。 口入屋の中番頭。
※12月10日に400字弱加筆しております。
「これで良しっと」
成介は土蔵の中でパチンと帳簿を閉じた。
「ふわぁ」 気が抜けて思わず出てしまった、あくびを帳簿で隠す。
今朝、と言って月も沈み切っていない夜中に突然、舞い込んで来た“回収依頼”の対応に朝から謀殺されていた。
ここ「引取処」での重要な業務は鬼や異形の首もしくは、それだと判る一点物の部位を、引き取り「引取証」を発行する事が一つ。
更にもう一つは首を落とされたものに限らず討伐現場に残された死骸の「回収」である。
鬼、小鬼、穢れ、妖、化け物、赤い血の流れていないものを便宜上、総称して「異形」と呼んでいる。
異形の死骸は腐ると腐臭を発する。
人も動物の死体も腐れば腐臭を発するが異形の発するものは、その比ではない程に臭い。
人や動物の死体は腐れば土に還るだろうが、異形の死骸が腐れば土を汚染し浸透する。
異形の死骸が発生した場合は極力早く回収し周辺を除染し燃やし尽くさなければならない、そのため引取処の敷地内には異形を完全に焼き尽くす為の焼却炉が設置されている。
未明の回収依頼をしてきたのは、猟師から「総事屋」に転向した若い三人組で、城下の「口入屋」より紹介された『北方街道沿いの村に出没し畑を荒らす猪の退治』の依頼を受けていた。
人、異形、獣、依頼を受ければ何でも討伐するのが「総事屋」だ。
武器を使用するが事が前提の彼らは「口入屋」への登録は勿論、奉行所への登録も必要だった。
「総事屋」とは本来「総ての事」を請負う商売、所謂「何でも屋」のような職業であったが、武器を所持出来るのが一部の例外を除き武士階級と、総事屋だけのため殺生を伴う仕事は必然的に総事屋がすることになりいつの間にか
「殺生を伴う依頼」=「総事依頼」となった。
「口入屋」とは城下に店を構える所謂、職業紹介所で主な商いは日雇い、短期長期、働きたい人と、雇いたい人の仲介業をしている。
その業務の延長で総事依頼の受付窓口と総事屋へ依頼の紹介をしている。
また偶発的に遭遇してしまった異形を討伐した際なども「引取処」に持ち込めば口入屋が代理人となって、奉行所に報奨金の支払い交渉をしたりもしている。
「口入屋」の出店である「引取処」は城下に持ち込めない異形の部位をここで引取、依頼書と照らし合わせ「引取証」を発行する。
それと同時に残された死骸の回収を依頼料の一割で請け負う。
稀にではあるが回収料を払うのを惜しんで小鬼の死骸を負ぶって引取処まで来る強者も現れる。
「引取証」を城下の「口入屋」へ持って行けば依頼報酬から手数料と回収料を引いた金額が総事屋に支払われる。
口入屋組織の中には、大、中、小と番頭がおり成介は、その何人か居る中番頭の一人だった。
番頭に限らず奉公人の殆どが、この異形が持ち込まれる施設を嫌がり城下の店での勤務を望むが成介は引取処で働くのが嫌ではなかった。
人の多い城下の店が苦手と言う訳でもない。
城下の店で働けば他の中番頭よりも仕事はできたし、その物腰の柔らかさから客、奉公人からの評判も良かった。
単純に引取処の仕事が性に合っていて居心地が良いのだ。
数か月毎に交代するはずだった、ここでの勤務は移動を断り続けて、もう一年近くになる。
そんな成介にも胸に秘めた野望があることを誰も知らない。
土蔵の外に出た途端、西日が目に刺さった。 寝不足の目には余計に痛く感じ強く目を閉じて帳簿で庇を作る。
痛みが治まりゆっくり目を開けると土蔵の前では手代達が明日行う回収の為、大八車へ積み込みを行っている。
(まだ終わってなかったのですか?)と言う台詞をぐっと堪え「ふう」と吐息に変える。
「刃物を積む前に先ず樽を縄で固定してください。 あと刃物は藁で包んどいてください」
顔と声に不満の籠った手代達の「はい」に対し(これ、教えるの何度目でしょうか?)と考えつつ「よろしくお願いしますね」と笑顔で声をかけた。
成介が門の方へ視線を向けると総事屋の佐助が鼻血を流しながら金治に支えられていた。
鈴が鳴っていたので誰か来たのはわかっていた。
「佐助さん達でしたか。 これは後二つ、三つ仕事が増えそうですね」
微笑みながら呟いて佐助達のもとへ歩みだした。
お読みいただきありがとうございます。
「総事屋」→「冒険者」
「口入屋」→「ギルド」
「引取処」→「モンスター素材解体所?」※少し違うかもしれませんが。
「掃除屋」→「ロボット掃除機」 ※個人の感想です。
以上のような認識で問題ないと思います。




