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鬼退治  作者: 黒永竜矢
序章

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2/15

二、鬼退治(一)

 森へと視線を向けるが木々の隙間には闇が広がるばかりで何も見えず更に数歩森へ近づき手にしていた松明を掲げるが灯りは木々の表面を照らすだけで暗闇の中へと吸い込まれていった。


 闇に視線を向けながらも意識を集中させた男の耳に森の中から微かな音が聴こえてくる。

 草が揺れ、葉が擦れ合う音、だが風は吹いていない。 その音が次第に大きくはっきりと聞き取れたとき太刀を握った男の手に力が籠った。


 今まで森の中で何度も聴いた音、四つ脚の獣が草を踏みつけ疾駆する音だ。 此方へ向かって来ているその音は軽く軽快だ、野犬か山犬の類か?何方にせよ一匹の訳はない。 奴らは群れで行動し組織的な狩りをする、数が集まれば数匹の小鬼を相手にするより余程手強いこともあった。


 男は松明を放り投げると太刀を両手で握り正眼に構えた。


 その様子を見て広場に置かれた松明を広いあげ太刀の男の隣に並んだ槍を手にした男の耳にも森からの流れてくる音がはっきりと聞き取れた。 男は槍を拳の中で滑らせ長く握り直すと森の方へ松明を掲げながら三歩、四歩と後退りをし太刀の男も倣うように森からの距離をとった。


 更にその数歩後ろでもう一人の男が袈裟懸けにしていた半弓を身体から外して矢を番え、その左右に女たちが火縄銃を構え陣取った。


 草を踏みつける音が一層大きくはっきりと聴こえてくる。


 女二人は射線に前方の男二人が入らないように僅かに位置を取り直しながら筒先を森へと向け火蓋を切り引き金に指をかける。 

 矢を番えた男は前方の男二人の間に狙いをつけ弓を引き絞っている。


 更に音が大きくなったとき、森の中で何かが松明の灯りを反射させた。 五人がその光に視線を動かした次の間、森から勢いよく黒い影が広場の月光の下へ飛び出してきた。


 月光に照らしだされた影の正体は先刻火縄銃で鼻を撃ち抜かれた小鬼だった。 

 小鬼は両手両足で地面を蹴り、手には斧を逆手に握り絞め、欠けた鼻の傷から体液をまき散らし五人の方へ猛進してきてはいるが顔を横に向けて意識は森の方にしかないと言った様子で五人には全く気付いていない。


 小鬼を迎え撃とうと太刀の男が浅く腰を落し槍の男が松明を小鬼の方へと投げつけ槍を両手で構えた。


 僅かに逸れ顔の前を通過して行った松明に驚き正面を向いた小鬼の視界に太刀と槍を構えた二人の男の姿が映る。 

 小鬼は突然現れた武器を構えた人間の姿に狼狽し土の地面の上を滑るように手足をばたつかせると両手両足尻を地面に押し付け太刀と槍の間合いに入る寸前のところで止まり、間を置かずに体を捩りながら再び手足をばたつかせて走って来た方向から直角に方向転換して走りだした。


 突然の方向転換に面食らった二人だったが直ぐに小鬼を追おうと一歩を踏み出したその時、森の中から山犬とも熊とも他のどの様な獣のものとも違う雄叫びが響いてきた。


 腹の底まで震わせるような雄叫びに二人は足を止め森へと視線を向けたが暗闇に覆われ、それの正体を確認することは出来ない。 横目で小鬼の走って行った方向を見ると森の中へと走り込み姿を消した。


 視線を戻し雄叫びの響いてきた方へ意識を集中させると姿は見えないが暗闇の中から人の足音のような音が聴こえてくる。

 次第に近づいてくるその音は地面を揺らすような重量感がありとても人のものとは思えない。 時折、枝を踏み折る音が混じる足音の方へ目も凝らすと森の暗闇とは別の黒い影が蠢いているように見える。


 太刀と槍を手にした男達が各々の武器を握り直し浅く腰を下げる。


 足音と共に近づいてくる陰影は徐々に濃さを増していくのとは対照的に影の中に黄色く濁った朧月のような球体を浮かびあがらせてくる。

 広場に近づき森の闇が薄くなるほどに濃さを増す影は朧月の周りから頭、首、肩と人の様な形をなしていくが人にしてはかなり大きい。

 

 足音と影が森と広場の境界に差し掛かった。 広場からは朧月が上下左右へと小刻みに揺れているように見える。

 その揺れが静止したように見えた次の間、朧月から激しい雄叫びが発せられた。 先ほどのものと同じ雄叫びだが近いためより一層腹の底を震わされ胃の中をかき回される。

  

 気負けしないように下腹に力を入れ武器を握り直す五人の前に雄叫びの主が境界を跨いで広場へと進み出てきた。


 森から出て来たそれは人々から「鬼」と呼ばれる存在。


 人の形をした全身は濃緑色をしており身の丈は人の倍近く、顔の半分程の眼窩には血管のような筋が幾つも浮いた黄色く濁った黒目の無い眼球が瞼からはみ出して嵌り、笹葉を三枚重ねたような尖った耳が後ろに伸び、その耳元まで裂けた口には隙間なく尖った歯が並んでいて、頭部に毛はなく額から生えた巻貝のような角が三本後頭部へ向かって伸びている。

 右手には持ち手を荒く削った丸太を握っている。

 鬼が再び雄叫びをあげ眼球を上下左右へと激しく動かしながら五人へと歩を進めてくる。


 男は太刀を構え鬼を観察した。

 太刀と丸太の長さはほぼ同じ腕が長い分、間合いは鬼の方が有利だが歩き方を見る限り動きは早くない、鬼が仕掛けてきてからでも十分に対処はできる。 寸前まで引き付けて丸太を振り上げれば胴に、横薙ぎなら一歩退いて丸太を振り抜いた反対に回り込み斬撃入れる。

 そう思考しながら近づいてくる鬼を注視していた男が丸太の間合いに入った。


 振り上げた。

 そう思った刹那、丸太は既に振り下ろされようとしていた。

 早い、鈍重な動きからは想像できない腕の動きだった。

 

 慌てて左に飛び退いて躱すが振り下ろされた丸太は具足袖を掠り、そのまま地面へと叩きつけられた。

 具足袖に掠っただけでも右腕に激しい衝撃を感じ太刀を握った手の力が抜けそうになったが気力で耐えると地面に叩きつけられている丸太を体重と力を乗せた左足で踏みつけた。

 どれだけ動きが早くても丸太はこれで封じ込めた。 右腕の痛みを無視し両手で太刀を握り上段へと振り上げ、丸太を握ったまま前傾になっている鬼の首元へ太刀を振り下ろす。


 槍の男もこの隙を逃すまいと鬼の背後に回り込み槍の穂先を鬼の脇腹へ向け駆け出した次に瞬間、視線の先で太刀を振り下ろそうとしていた男が大きく蹌踉めいた。


 鬼が乗せらていた足ごと丸太を引き上げたので男は左足だけを高く上げさせられ平衡を失い片足飛びとなって二歩、三歩と後退したところで止まった。

 

 鬼はそのまま引き上げた丸太を駆け寄ってくる槍の穂先へと横薙ぎに打ち付けた。

 衝撃で大きく横に弾かれた槍と共に、槍を握っていた男の体も弾き飛ばされた。

 

 この瞬間、火縄銃の女達と半弓の男、三人と鬼の間に射線を遮るものは何もなくなった。

 火縄銃の女二人は同時に照準を絞る、狙うのは顔だ。


 絞った「先目当て」の前方で鬼の眼球が激しく動いている。 吐いた息を止め引き金を引こうとしたとき、突然「先目当て」前方の視界全体が鉄紺色の物体に遮られた。


 鬼が地面に倒れ込んでいた小鬼の死体を蹴り飛ばしていた。

 

 飛んできた小鬼の死体を女二人は左右に飛び退いて躱し、半弓の男は地面に平伏して辛うじて躱した。

 次の瞬間、銃声が響く。


 火縄銃を二丁持った女が飛び退いた先で照準もそこそこに火縄銃を放っていた。 粗略な照準ではあったが鉛玉は鬼の顔面目掛けて飛んだ。


 捉えたっ! そう女が確信した瞬間、鬼が手にしていた丸太を鉛玉の軌道に挟み込み込んだ。 

 木の皮を砕く音と共に鉛玉は丸太の表面に食い込んだ。


 意図的かは不明だがこの間合いで火縄銃の玉を防がれたことに女は戸惑いの表情を浮かべる。 直ぐに気持ちを切り替え発砲した火縄銃から火縄を外し地面に置きもう一丁の「火挟み」に火縄を装着して構えた。


 もう一人の女も火縄銃を撃とうとはしていたが今の光景をみて撃つのを躊躇った。


読んでいただきありがとうございます。


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