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鬼退治  作者: 黒永竜矢
一章

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14/15

九、首実検(二)

 権蔵は実検台の前にドッカと座り直した。

並べられた一つ一つの首を値踏みでもするかのように視線を向けた。


 眉間を撃ち抜かれた小鬼の首。

 側頭部を撃ち抜かれた小鬼の首。

 頭部を砕かれた小鬼の首。

 口から刃を捻じ込まれた小鬼の首。

 切断面以外、外傷のない小鬼の首。


 凄惨を極める鬼の首。


 鬼の首は顔中を自身の体液で濡らし、萎み切った紙風船のようになった眼球が沈み込んだ眼窩、耳まで裂けた口から舌が垂れさがっている。


 更に首の切断面は実検台に置いたとき「グチャ」と言う擬音が聴こえたのでないかと思える程、崩れており何度も刃を振り下ろしたであろうことは容易に想像できた。


 

「しょんべん小僧」


 誰かに呼びかける様に発せられた権蔵の言葉に、佐助達の後ろで遠巻きに実検台を眺めていた幾人かの丁稚がピクっと体を震わせたが、その呼びかけに怒声で答えたのは佐助だった。


「クソ爺、いつまでもガキ扱いしてんじゃねえよ」


 権蔵は「ふんっ」と鼻をならし佐助に背を向けたまま「太刀、見せて見ろ」とだけ言った。


 佐助は小さく舌打ちをして太刀を鞘ごと腰から抜くと権蔵の前へ差し出した。


 権蔵は鞘から刃を抜き出し折れた切っ先、毀れた刃を見つめる。

「お前に斬られたんじゃ太刀も鬼も不憫じゃの」


 佐助は何も言えずただ奥歯を強く噛みしめた。


「そんな言い方しなくても……」

 金治が呟く。


「他にどんな言い方がある? 未熟な小僧に振るわれ太刀の刃は毀れ、切っ先は折れた。 その太刀を首に何回も振り下ろされ鬼は本来なら一瞬で良いはずの痛みと恐怖を何回も受け続けた。 これを不憫と言わず何と言いのじゃ?」


「だが、あの場で鬼の首を落とせたのは佐助と佐助の太刀しかなかった」

 声に苛立ちを込めた武尊が権蔵へ喰ってかかる。


 権蔵は再び「ふん」と鼻を鳴らした。

「しょんべん小僧の連れもしょんべん小僧か」


「なんだと?」

 そう言って一歩踏み出した、武尊の口調は静かではあったが、明らかに怒気が籠っている。


 更に一歩を踏み出そうとした武尊の前を佐助が半身を入れて制止した。


「じじいは鬼の首を落とすことに拘り過ぎて太刀を駄目にした挙句、相手が鬼とはいえ無用な痛みと恐怖を与え続けた俺を戒めてるんだ」


「だから、それは鬼の首を落とせたのがお前しか……」

「首を落とさなくても、とどめを刺す方法ならあった。 だが俺は首を落とすことに拘った」


「そこ拘って何がわるいの? 権蔵おじさんは、この鬼がどれだけ強かったか見てないから不憫だのなんだと言えるのよ。 私達は苦労してこの鬼を倒したの、苦労して倒した鬼の首なら持ち帰りたいのは総事屋としての心情でしょ!」

 同じく権蔵の発言に苛立ちを覚えていた桜が口を出した。



「太刀一本引き換えにしてもか?」

 権蔵が桜に背を向けたまま問う。


「太刀ならまた買えば良いでしょ。 でもこんな大物、次は何時出会えるかわからないわ」

「その次の出会いがコイツを倒した直ぐ後に来るかもしれんとは考えないのか?」

 権蔵は鬼の首を指さした。


「えっ?」

「つまり権蔵さんは鬼の首を切り落とした直後に同等の強さの鬼が現れていたら、どう対処するつもりだったのか? と言いたいのでしょう」


「そんなもの、またそいつとも戦って勝てばいいでしょ」



「勝てますか?」

 

 金治が誰にでもなく問う。


「佐助と武尊で気を引いといてくれれば、また私と楓が火縄銃で急所を撃ち抜いてあげるわよ!」

「それは無理だな、この太刀じゃ精々後二、三合打ち合ったら折れる」

 佐助が権蔵の手にある己の太刀を見つめて溢した。


「そうなったら、俺一人でコイツと同じ強さの鬼と対等するのは……」

 そこまで話して武尊が奥歯を噛んだ。

 武尊の言葉を最後に一党の誰も言葉を発しなかった。


「勝てねえ、危ねえと思ったら、尻尾巻いて逃げ出しちまえっていつも言ってるじゃろ」

 権蔵が佐助に背を向けたまま囁くように語りかける。

「ああ」と佐助が短く答える。


「権蔵おじさん、佐助が太刀をボロボロするまで無理した事を怒って……? 佐助を心配して?」

 楓が呟くように権蔵に問う。


「べ、別にコイツの事なんか心配しとらんしっ! ワシ、コイツのこと嫌いじゃもん! なんか一党に美人双子姉妹入れて総事屋とかやってるの凄い調子に乗ってて凄いムカつくし! 羨ましいしっ!」


「『嫌いじゃもん』じゃねぇよクソじじい。 別に調子にも乗ってねえし……」

「あらら、早速近場から羨まれてましたね」

 佐助のぼやきに金治が口辺を緩ませた。


「総事屋なんてもんは、元が殺生稼業で蔑まれてるだ、だったらどんなに恰好悪くても生きて帰った方が良いに決まってるんじゃ」


 そう言って権蔵は「ふん」と鼻を鳴らした。


最後までよんでいただきありがとうございます。


首実検(三)に続きます。

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