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鬼退治  作者: 黒永竜矢
一章

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13/15

八、首実検(一)

登場人物※新規

権蔵(男)特徴:屈強爺、白髭面、口入屋の相談役兼検分役 

孫三(男)特徴:桜、楓の父親(孫三=まござ)

「回収の前に引取も必要のようですね」


 佐助と武尊の足元、金治の背負子に乗せられた麻袋を見た成介はそう言うと土蔵の側の手代達に四角い大き目の盆と床几(しょうぎ)を持ってくるように指示した。


 用意された床几を二つ並べその上に盆を置き、実検するための台を造った。

 


 三台用意された「実検台」にそれぞれ、鬼の首、小鬼の首二つ、小鬼の首三つが佐助達の手で乗せられた。


「鬼にですか! それだけでも珍しいのに単眼、三本角とは……」

「流石の成介さんでも初めてかい?」


 手拭で口と鼻を抑えながら鬼の首をまじまじと見る成介に佐助が尋ねた。


「はい。もっとも鬼自体も目にしたことは数える程しかありませんが」

「俺達だって似たようなもんだよ」


「私達はここまで大きいの相手にするの初めてだよ」

「うむ」

 桜と楓が二人の会話に割って入る。


「しかも飛んでる火縄銃の玉に丸太当てて防いだんだよ! 信じられる?」

「あれはやばかったな!」

 ニヤケ顔で佐助が答える。


「でしょ!」

「なにせ火縄銃を撃った方が、豆鉄砲喰らったみたいな顔にな……」

  

 佐助が言い終わる前に顔を真っ赤にした桜が佐助に殴りかかろうとしたそのとき、ゴンっ! と鈍い音がして武尊の槍の柄が佐助の頭部へ振り下ろされた。


「やめてやれ、おそらくあの単眼は尋常ではない程に目が利くんだろう、そしてそれを活かせる速さがあった。 桜、楓、金治の援護がなかったら、あの乱打戦、俺達は競り負けていたぞ」


「わかってるよ、少しからかっただけじゃねえか」

 両手で頭を抱えた佐助が唸るように声をだした。


「しかし鬼退治の依頼なんて、出ていましたか?」

「正式な依頼って訳ではないんだ」

 成介の疑問に武尊が答える。


「最近東北群と東南群を隔てる森で鬼らしい生物の目撃情報が数件あったらしくて、大番頭さんから調査を頼まれたんだ……」

「……で鬼の調査に行ったら小鬼の群れに遭遇したって訳」

 武尊の説明に横から桜が口を挟む。


「大番頭さん案件でしたか。 しかし鬼の調査に行って小鬼五匹と遭遇とは些か災難でしたね」


「すまねえ、小鬼は六匹だ。 一匹取り逃がした」

「おやそうでしたか、分かりました。 しかし最近は小鬼は全く出没していなかったのに行き成り六匹で鬼と群とは……」

「鬼と群れてるって感じではなかったですね。 逃した一匹も一度森の中へ逃げたのに鬼に追い立てられて舞い戻ってきたと言う感じでしたから」

 首を傾げる成介に金治が説明を加えた。



「鬼に追い立てられて…… ともかく実検をしてしまいましょう」

 そう言うと成介は怖いもの見たさで遠巻きに鬼の首を眺めていた手代、丁稚達に向かい「誰か権蔵さんを探してきて下さい」と声をかけた。


 その場にいた丁稚の何人かが母屋へ向かおうとしたとき楓が成介の袖を引いて厨屋の方を指さした。

「権蔵おじさんなら、あそこに」


 成介が厨屋の方へ視線を向けると、板の間で酒盛りを始めている人足達に混じって口の周りに立派な白髭を蓄えた老人が酒瓢箪(さけひょうたん)から直接、酒を煽っていた。

 


「くそジジイ……」

「権蔵さん……」

 佐助と成介が手で額を抑えながら頭をふった。


 厨屋の中で夕餉の配膳を手伝っていた一朗太が敷地内に並べられた実検台と、その上に乗せられた鬼の首、頭をふる佐助、成介を見て、権蔵に何やら話しかけているが権蔵はイヤイヤをする様に頭を大きく左右に振っている。


「くそジジイ、何を駄々こねていやがる」

 そう言いながら厨屋の権蔵と一朗太の攻防を見守る佐助の一党と成介。


 一朗太は実検台の方を指さしながら権蔵へ何かを懸命に訴えているが、権蔵は大袈裟に頭を振って立ち上がろうとしない。 

 そのやり取りが暫く続くかと思われた矢先、一朗太は権蔵の持っていた酒瓢箪を取り上げ縁側から地面に降りて実検台の佐助達の方へ駆けてくる。


 気怠そうに立ち上がった権蔵は、さほど身の丈は大きくはないもの周りで酒盛りをしている普段は荷運びなどで肉体を酷使している人足達よりも腕も足も胴回りも一回り程太い。


 その権蔵が素足のまま縁側を降りて一朗太の後を追ってくる。

 身の丈は高くないとはいえ屈強な体格の顔の下半分が白髭に覆われている男が十歳そこそこの子供を追いかけている。


「子供が白髭の異形に追いかけられている。 退治するか?」

 そう言って佐助が太刀の鯉口を切る。


「任せて! 一発で仕留めてみせるわ」

 桜が火縄銃の筒先を権蔵へ向ける。


 佐助は鯉口を切ってはいるが柄に手をかけてはいない、桜も火蓋を切っていないし、そもそも火縄に火がついていないので本気で攻撃しないのは解ってはいるが成介が

「やめて下さい。 あれでも口入屋(うち)の大切な『相談役』兼『検分役』です」と二人を制止する。


「お連れしました」

 裸足で酒瓢箪を抱えて笑顔で報告する一朗太の前に肩で息をした権蔵が座り込んだ。


「働かざる者、吞むべからずですよ」

 肩で息をしてゼエゼエ言って座り込んでいる爺の前で酒瓢箪を抱え仁王立ちしている一朗太を見てその場にいた全員が(こいつ、つええな!)と思った。



「分かったわい。 ゼエゼエ、働いてやるわい…… その前に一口飲ませろっ!」

 権蔵はそう言って一朗太から酒瓢箪を引っ手繰るとゴクリゴクリと酒を喉の奥へと流し込んでいく。


「権蔵おじさんの一口の定義がわからない」

 呟いた楓を満足そうに手の甲で口を拭った権蔵が見つめる。


「えーと…… 一本桜におかっぱ楓…… 楓かっ?」

「うん楓」

「いい加減、普通に名前覚えてよ。 一本桜って私、髪の毛一本結びしてない時だってあるからね」

「無理! だってお前達、顔一緒なんじゃもん。 ところで孫三(まござ)は達者か?」

「相変わらずの馬鹿親で困ってるわ。 もう三日も家を空けてるから今頃、発狂していると思う」

「相変わらずの馬鹿親か」と言って権蔵が豪胆に笑い出した。


 

一頻り笑った後、権蔵は並べられた鬼の首を凝視した。

「で、三日家を空けて仕留めたのがコレと言うわけじゃな」


最後までお読み頂きありがとうございます。

首実検(二)に続きます。

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