七、未明の来訪者(四)
猪が撲殺される描写があります。
不快に感じる方は書見をご遠慮下さい。
「成介さんおはようございます」
施設の性質上、夜中の来訪者等はさほど珍しくもないのであろう、成介が朝から土間に居る事も、見知らぬ総事屋が三人居る事も丁稚達は気にとめている様子はない。
まだ思い重い瞼を擦りながらも一同は成介と総事屋達に挨拶し頭を下げる。 その中に一朗太の姿もあった。
「おはようございます」と挨拶を返した成介は総事屋達を掌で差し「こちらの方たちの朝餉をお願いします」と指示を出し総事屋達へ向き直り「お願いと言うのは」と切り出す。
「今から事の次第を記して、回収に必要な人足の手配をお願いする文を書きますから、それを城下の口入屋に届けてもらえますか?」
どうせ城下へ帰る身だからと三人は成介の頼みを快く受け入れた。
「口入屋では『中番頭の成介からだと』伝えて必ず大番頭さんへ手渡しして下さい」と念押しすると文と朝餉が出来る暫しの間、三人を休ませた。
「そのような具合で朝から、回収の準備と集まり始めた人足さん達のお世話でてんてこ舞いです」
そう話を締めくくった成介は縁側の戸が開け放たれた厨屋の板の間に視線を送った。
板の間では丁稚達が慌ただしく夕食の配膳をしている横で、気の早い数人の人足達が酒盛りを始めていた。 どうやら今晩は引取処に泊まり朝一で回収現場に向かうと言うことらしい。
「しかし、その三人初めての異形が大型の穢れって言うのは災難だったな」と武尊がこぼす。
「本来なら経験者が同行すべき」
楓が呟くように話す。
「口入屋にも落ち度がありまして……」
そう言いながら成介は情報不足の依頼書を思い浮かべた。
(楓さんや金治さんが、あの依頼書みたら『この程度の情報では仕事は受けられん』とか言って受付に食って掛かりそうですね)
「でも、そんなデカい穢れ猪、未経験者三人でどうやって倒したんだい?」と佐助。
「それがですね」
苦笑を浮かべながら成介が話し始める。
「火縄銃の玉を撃ち尽くして村の中を逃げ回っているうちに、猪が足を滑らせて肥溜めに嵌ったそうで、そこで火縄銃の仕掛けが壊れるのも構わず銃尻でひたすら殴り続けたそうです。 四半刻(約30分)ほど殴り続け、それでようやく動かなくなったそうですが、猪が這い上がろうと肥溜めの中で散々に暴れまわったので、周りには中身が飛び跳ね悲惨な状況だったそうです」
「うげ」と思わず言葉を漏らす桜と、無言の楓が自らの火縄銃を大事そうに抱え込む。
「それはまた、運が悪かったんだろうが、運が良かったな」
「肥溜めだけにですか?」
武尊の言葉に金治が口角をあげて問う。
「そんなつもりで言ってねぇ」
「それであの人数と台数か」
得心したように佐助が話す。
「はい。 大型の穢れを肥溜めから引き出して、肥えも総て汲み出さないといけないでしょうから、完全に除染しきるのに何日かかるのか先が思いやられます」
「ふう」と大きく嘆息した成介が思い出したように佐助に問う。
「なにか、こちらの事ばかりお話してしまって申し訳ありません。 本日は如何なるご用件でしょうか?」
「わるい…… 俺たちも回収の依頼だ」
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