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鬼退治  作者: 黒永竜矢
一章

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11/15

六、未明の来訪者(三)

 三人の総事屋は厨屋の土間に通された。

 敷地内の井戸で行水をし、用意された浴衣に着替えいる。

 

 引取処には着替え用の浴衣や古着などが常備されている。 この総事屋達のように着物をボロボロにしてやってくる者が少なからず居るからである。 因みに有料である。


「それで、引取処(ここ)を利用するのは初めてですか?」

 一朗太が沸かしてくれたお湯で入れた茶を勧めながら成介が言った。


「はい、いつもは害獣駆除の依頼を主に受けてまして、完了報告は依頼書に一筆入れて貰って、それを城下の口入屋さんへ持って行ってました」


 異形でない害獣の死骸は引取処に持ち込んで「引取証」を発行してもらう必要はない。 また獣の死骸を引取処に持ち込んでも手数料を取られ燃やされるだけだが、獣は毛皮、肉、内臓、爪、牙、一つ一つ持ち込む処を選んで持ち込めば、それなりの金になった。

 

「なるほど」

 総事屋の彼らが引取処を利用したことのない理由に納得した成介がさらに続けた。


「それで回収のご依頼とのことですが、詳しい話を聞かせていただけますか」


「この依頼で北方街道沿いにある村に猪の退治に行ったのですが……」

 総事屋の一人が茶色く汚れた紙を差し出した。


「拝見します」

 確かに城下の口入屋で張り出される依頼書だった。「猪」「街道沿いの村」との記載も確認できるが成介は眉を顰める。

 猪討伐の報酬など、たかが知れている、報酬の一割程度の回収料では、引取処が大赤字になってしまう。  

 

「猪ですか……」


「違うんですっ! 違うんですっ!」

 成介の表情と素気のない一言に総事屋の一人が声をあげた。


「僕たちだって三人とも猟師の倅で、もとは猟師です。 ただの猪だったら自分達で解体して自分達で運びますよ。 その方が肉も毛皮も金になりますから」


「ただの猪ではなかったと言うことですか?」


「はい…… その、とにかく大きくて」

「大きい?」

「これ位はありました」

 総事屋の一人が自らの胸の前で手を水平に置いて示した。


「それは二本足で立ち上がってと言うことですか?」

「いえ、四つ足で、です」


 成介は目の前の総事屋達を見る。 三人とも似たような体系をしている。

「失礼ですが身の丈は五尺五寸(約165㎝)程ですか?」

「はい、それくらいです」


 身長165㎝の人間の胸の辺りだと約120㎝前後になる。 つまり総事屋達の話では猪の大きさは、前足から頭、若しくは肩までの高さが120㎝あると言う事になる。


「体高が約四尺(約120㎝)だと…… 全体は八尺(240㎝)…… 一応、十尺(300㎝)は見ておいた方が良さそうですね……」

 成介が目の前の総事屋達にも聞こえないような声で呟きながら帳面に記録をつける。


 成介の筆先を三人の総事屋は黙って目で追った。


「他に何か特徴はありませんでしたか?」

 筆を止めた成介が問う。

「他にですか?」

「どのように細かい事でも良いのですが、大きい以外で何か変わったところとか、気になったところなどなかったですか?」


 暫く考えこんだ三人がバラバラに口を開く。

「頭が固かった……です」

「眉間の間に火縄銃の玉が命中したのに、一瞬足を止めただけで突進してきた……してきました」

「目に黒目がなくて真っ白でした。 それに傷口から、なんとも言えない悪臭がしてました。 あと片耳が無かったです」


「白濁した目…… 傷口の異臭…… 異常な大きさ……」

 そう呟きながら成介は記入していた帳面を静かに閉じて総事屋から差し出された依頼書を睨むように見つめた。

 

 依頼が持ち込まれた日付は七日前になっている、しかし総事屋達の話を聞く限り、この猪は穢れ化していて、しかもある程度の日数が経っている。 依頼書には 「猪」「畑を荒らす」等の記載はあるものの具体的な大きさ、現れ始めた期間、現れた時の様子などは全く記載されていない。

 依頼者からもう少し詳しく話を聞いていれば早々に「ただの猪ではない」と気付けた案件だったかもしれない。


(口入屋の受付の質が落ちてきているのでしょうか? 今度城下へ行った時に大番頭さんに相談してみますか)そう思いながら成介は顔を上げた。

「多分、穢れですね」


「ああ、やっぱり!」

 成介の言葉に総事屋の一人が安心した様に言葉を発した。


「話には聞いていたんですが、実際に見るのは初めてで……」


「目は真っ白だし、なんか変な臭いがするし、もしかして、これが獣が穢れになった奴なんじゃないかとは思ってたんですが、自信がなくて……」

「穢れだったら回収してもらわなくちゃいけないのは知っていたんですが、引取処が何処に在るか判らなくて…… それで口入屋さんで聞こうと思ったら関所を通して貰えなくて……」


(まあ、異形の部位を持っていなくても、流石にあの恰好と匂いでは関所は通れませんね)

 三人の総事屋が入って来た時の恰好を思いだし成介は苦笑した。


「あの、回収はしてもらえるのでしょうか?」

 成介に総事屋が恐る恐る尋ねた。


「勿論です。 直ぐに回収に向かった方が良い案件ですね。 そこで、お三人に一つお願いがあるのですが」


 そう成介が切り出したところへ、小さな足音をたてて複数の丁稚達が土間へ入ってきた。




お読みいただきありがとうございます。


未明の来訪者(四)に続きます。

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