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鬼退治  作者: 黒永竜矢
序章

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1/15

一、小鬼退治

◾️◾️◾️一◾️◾️◾️


 森の中、月は真上にあり林道を薄く照らしてだしている。しかしそれも頭上が木々の葉に覆われていな道の中程だけで道を外れた林の中へ入ってしまうと、木の葉の合間から零れ落ちた月明りが所々で僅かに木々の輪郭を黒く浮かびあがらせてはいるが下の方は灯りがなければ鼻の前に木が迫っていても気づけない暗闇であった。

 林道を進んで行くと木が伐採された開けた場所にでる。猟師や木こりと言った森の中で仕事をする者達の休憩場所として切り拓いた広場で粗末な小屋が一軒建っていて夜明かしの為の宿泊場所でもあった。


 その小屋の中では囲炉裏で火が焚かれていたが人の姿はなかった。月に雲がかかり辺りは暗くなっていたが窓と開け放たれた戸から洩れ出した灯りが小屋の周りを揺らめきながら照らしていた。

 揺らめく薄明りの中に小屋の前で足を投げ出し壁に凭れ首を垂れ座り込んだ人間の姿があった。 

 その人間の前には子供程の背丈の小さな影が座り込んだ人間の持ち物であったろう手斧を持ち立っていた。


 小さな影は手にした斧を振り上げると座り込んだ人間の頭目掛け振り下ろした。振り下ろされた斧は人間の頭部に減り込み、それを引き抜くと勢いよく鮮血が噴出した。噴出した鮮血が顔面にかかった小さき影は喉の奥を震わせた様な声をあげると再び手斧を人間の頭部に振り下ろすと燥ぐ(はしゃ)様に飛び跳ねながら喉を鳴らした様な声をあげた。


  同刻広場へと続く林道を進む五人の男女の姿があった。

 先頭から男が二人、女が二人、最後尾に男が一人。先頭と最後尾の男が手にした松明の灯りが林道の闇を押し退け揺らめいている。

 先頭を歩く男の視界に広場の小屋から洩れる灯りが僅かに入り男は取り合えずの目的地広場の休憩小屋に辿り着いたと歩調を早めようとしたが次の瞬間その足を止めた。


 灯りの中に浮かぶ燥いで飛び跳ねる子供の様な小さな影。 深夜の深い森の中に浮かぶその光景に違和感を覚えた男は後続を掌をみせて停止させる。 そのまま逆の手に持っていた松明を静かに地面へ置くと砂をかけて炎を小さくし僅かに燃える炎を隠す為その前で中腰になった。


 最後尾を歩いていた男がそれに習う様に静かに松明をおいて炎を小さくすると背負っていた葛篭を二つ乗せた背負子を下ろし背負子に括り付けた半弓(はんきゅう)を手にとった。

 その男の前を歩いていた女二人が松明の前に片膝を着き一人は右肩に掛けていた火縄銃を、もう一人は両肩に一丁ずつ掛けていた火縄銃の一丁を肩から外し握った。


 小さな炎が二つだけとなった林道を先頭の男が中腰の姿勢のまま足音を殺し広場全体が見渡せる(きわ)まで移動する。 それに続いて二番手を歩いていた男が背丈程の槍を手に追従し他の三人も後に続く。 林道と広場の境界に陣取った五人が揺れる炎に浮かぶ影へと目を凝らしたとき、雲が流され広場全体を月明りが照らした。


 月明りが照らし出した小さな影の背丈は人間の子供程度で「鉄紺色」の体は、全体が骨と皮しかなく肋骨が浮いた胸、その下の腹は異常に膨らみ曲線を描いている。 胴から伸びる四肢は小枝の様に細く、尖った耳の着いた頭部には毛も角も生えていない。


 角は生えていないが人々から「小鬼」と呼ばれる生物だ。


 小鬼は顔の半分はある口を歪ませながら喉を鳴らした様な声をあげ、既に原型を留めていない人間の頭に向かって斧を振り下ろし続けては時折、万歳をする様に両手を上げて飛び上がった。 小鬼が飛び跳ねる度に足元に溜まった人間の血が飛沫を上げていた。


 火縄銃を二丁肩に担いでいた女が手にした火縄銃と小鬼を交互に指差し、自分が狙撃する意思を示したが、もう一人の女が掌を見せ待てと合図をしてから小屋の脇に視線を向け横たわっている馬を指さした。

 

 馬は横たわってはいたが顔を真上に向けている。正確には繋ぎ棒に巻き付けられた手綱が首に絡まり体は倒れ込んでいても首だけが持ち上げられる格好になっていた。


 その持ち上げられた馬の首には小屋の小鬼と同じ全姿をした生物が抱きしめる様に両手両足を首に回してしがみ付き顔の半分もある口を名一杯あけて首の肉に齧り付いては大きくそっぽを向く様な仕草で首の力だけで肉を引きちぎった。 ちぎり取った肉を朱色が混じった唾液を垂らしながら顎を動かし数回噛むとまだ大きな肉塊を飲み込んだ。 飲み込んだ肉塊が大きすぎて喉の奥に詰まると、自らの細い腕を口の中へ突っ込み喉の更に奥へと押し込んだ。 押し込まれた肉塊は骨と皮しかない小鬼の喉、胸の皮膚を内側から押し上げ外側からでも何処を通過しているのかがわかる。 肉塊が丸い腹に収まると小鬼はまた馬の首に齧りついた。

 

 馬の腹には更に二匹の小鬼がしがみついている。 馬の腹は大きく肉が削がれ肋骨が剥き出しになり、しがみついた二匹は肋骨の下へと潜り込み頭を突っ込み更に奥へ(はらわた)を喰い進んでいく。


 更に馬の体の上に乗り剥き出しになった肋骨を両手で掴み骨を噛み砕こうと歯を剥いて顎を鳴らしている小鬼が一匹。 

 馬の尻のところでは更にもう一匹が腿の肉を小さく噛みちぎり恍惚ともとれる表情で咀嚼し飲み込むと、また腿に噛みついて肉を噛みちぎるという作業を繰り返していた。


◾️◾️◾️ニ◾️◾️◾️

 

 林道で広場の様子に目を凝らしていた五人のうち先頭を歩いていた男が右手を広げ掌に左手の人差し指を重ねて他の四人へ見せた。 自分は獲物の数を六体と認識しているが他の四人の認識も同じかの確認である。 四人は頷き男と認識が同じであることを示したが、槍を持った男が頷いた後で人差し指を立てた。

 四人の視線が立てられた人差し指に集まると槍の男はそのまま指を動かし小屋の方を差した。


 灯りが漏れる小屋は林道からでもよく見えたが、それは小屋の正面だけがよく見えているだけに過ぎず小屋の中には何が居るかわからない。 また小屋の後ろ側にも何者かが居るかもしれない。

 しかし見えなければ対処のしようもないので槍の男が指差した意味は小屋の中と後に何者かが居る可能性を考慮に入れて行動しようというだけのものだった。

 

 槍の男以外の四人が再び頷くと槍の男は両肩に火縄銃を二丁担いでいた女の目を見ながら五人の位置からは最も離れていたが唯一武器を手にしている小屋の前に居る小鬼を指差した。

 女は軽く頷き左前腕に巻き付けていた火縄を二、三周解くと小さくなった松明から火を移し小屋の前が良く狙える位置に移動する。 片膝を地面に着いて火縄銃を地面に置き背負っていたもう一丁の火縄銃を肩から外し「火挟(ひばさみ)」を小さな金属音がするまで起こし火縄を取り付けた。

 

 槍の男はもう一人の火縄銃を持った女に目を向けた。

 

 女は小鬼が群がる馬の方を見ると距離は最も遠かったが確実に頭部が狙える位置にいる馬の首に抱き着いている小鬼の方を銃先で差した。 それを見た半弓を持った男が矢先を馬の腿に齧り付いている小鬼に向けて自分が射貫くと意思を示す。


 槍の男が頷いて二人に了解の意を示すと火縄銃を持った女はもう一人がした様に左腕の火縄を解き火を移してから標的を狙い易い位置に移動し「火挟」に火縄を装着した。

 立ったまま馬の首の小鬼を狙う姿勢を見せた女の左斜め前に片膝を着いた男は矢を番えた半弓を引き絞り小鬼へと狙いを定めた。


 先頭を歩いていた男は火縄銃二丁と半弓の前方に出ると射線を妨げない位置で中腰になり腰に差した太刀の柄を握り絞めた。 槍を手にした男がその左横に並んだ。


 馬の首に抱き着いている小鬼を狙った女がもう一人の女へ目配せをする。 相手が頷いたのを確認すると火縄に軽く息を吹きかけてから火縄銃の火蓋を切り(開き)小鬼に照準を合わせた。


 目配せは其方の判断に任せると言う意味でこの火縄銃使いの女二人が同時に別々の獲物を撃つときは狙うのが難しい方の呼吸に合わせるのが暗黙の了解で、今回は距離があり動きの大きい小屋の前の小鬼を狙う女の方に合わせると言う事だった。


 目配せを受け取った女は頷くと「火挟」に取り付けた火縄の先端に口づけをするように唇を近づけ優しく息を吹きかけた。 火縄の先端が僅かに赤く灯る。

 火蓋を切り銃尻に頬を当てると銃の先端上部着いた照準装置「先目当て」と銃の中ほど上部に付いた「前目当て」を直線で結んだ延長線の先に標的を重ねた。


 標的の小鬼は小屋の前で片手に斧を持ち万歳をする格好で飛びはねている。

 女は二つの重なった「目当て」の先に標的を見ながら鼻から静かに深く息を吸い込み口から細く長く息を吐き続ける。「目当て」の先で小鬼が飛び跳ねる、着地してはまたすぐに飛び跳ねる。 また着地し飛び跳ねた次の間、女は吐いていた息をすっと止めた。


 飛びあがり最高点に到達して落下を始めた鬼の体が「目当て」の先を通過して行く。 下腿、上腿、腰、腹、胸と通り過ぎて行き、首が「目当て」と重なった瞬間火縄銃の引き金を引いた。


 小さな金属音を立て倒れた「火挟」が「火皿」に乗せられた火薬に火縄を押し付ける。 咆哮と共に銃口から飛び出した鉛の玉が着地した小鬼の頭部目掛け空気を押し退けて飛んで行った。


 狙いも引き金を引く期も会心だった。 しかし地面に足を付けたと同時、大量に流れ出た人間の血によってぬかるんだ地面で小鬼は足を滑らせ僅かに後ろに仰け反る格好になり鉛玉は小鬼の長く伸びた鼻を貫いて顔の前を通過して行った。

 小鬼はそのまま、もんどり打って倒れ込み両手で鼻を抑えながら体を左右に捩りながら悶えたがそれでも斧は手放さなかった。


 仕留めそこなったと確信した女はすぐに銃から火縄を外し傍らに置いていたもう一丁の火縄銃を手に取る。 「火挟」を引き起こし火縄を装着すると再び小屋の前の小鬼を狙おうと構えたが狙いが低く足を激しく動かし体を左右に捩り動きが滅茶苦茶で狙いが付けづらかった。 首だけを動かし馬の方へ目を向けたが二人の男が太刀と槍を手に駆け出していたため射線に入って狙えなかった。


 本来銃で撃ち損じた場合は太刀の男か槍の男が前面に出てとどめを刺すか、射撃後に無防備になる射手の防御に回るが今は銃声と共にひっくり返った小鬼を見て仕留めたと誤認したらしい。 無理に狙って仲間を背後から撃つ危険を犯せないので女は小屋の方へ向き直り仕留めそこなった小鬼に「目当て」をつけつつ小屋から出てくるかもしれない新手を警戒した。


◾️◾️◾️三◾️◾️◾️


 一方馬の首に抱き着いた小鬼を狙った女は「目当て」の先に標的を捉えながら静かに深呼吸をしながら引き金を引く期を逃さない様に「目当て」の先と耳に意識を集中させていた。

 鼻から静かに深く息を吸い込み口から細く長く息を吐き続けている最中銃声が鳴り響く。瞬間吐いていた息をすっと止め引き金を引いた。

 この二人が別々の標的を狙っているとき何方の間に合わせていても、どの様な標的を狙っていても、どの様な距離でも不思議と発砲の時は必ず息を吐いていた。


 銃声と共に飛び出した鉛玉は真っ直ぐに飛んで馬の首で肉を頬張っていた小鬼の側頭部に当たった。

射入口からは勢いよく小鬼の黒紫色の体液が噴出し小鬼の頭は首を傾げる様に大きく横に倒れ、力を失った体は馬の首をずり落ちていった。

 馬の首に抱き着いた小鬼の側頭部に鉛玉が命中したとほぼ同時か瞬きする程の時間差をおいて半弓の男の放った矢が馬の尻の方で腿に齧り付いていた小鬼の尻に突き刺さった。膝を曲げて尻を突き出した姿勢で腿に齧り付いて小鬼は突然臀部を襲った痛みに悲鳴の様な喉鳴り声をあげ尻に両の手を当て、、膝を延ばし背筋を反り返らせ振り返ると犬が自らの尾を追う様に尻に刺さった矢を追いかけその場を回り始めた。


 僅かな差で鳴り響いた二発の銃声と弓から矢が放たれた風切り音の直後三人の前方で待機していた二人の男が勢いよく駆け出した。


 小屋の前にいた小鬼は銃声と共に倒れ込んだ。馬に群がっている五匹のうち一匹は二発目の銃声で頭を撃ち抜かれた。一匹は矢を受けているが半弓では致命傷は難しい上に急所には当たっておらず元気よく回転している。

 

 残りは四匹、二人の男は躊躇うことなく馬に群がっている小鬼に向かって行った。


 太刀の男の歩速は駆け出すと直ぐに最高速となり槍の男に体一つ程の差をつけて尻に矢が刺さった小鬼に迫り寄った。男はそのまま脚を止めることなく左手で太刀の鞘を抑え右手一本で太刀を引き抜きそのままの勢いで小鬼の首目掛け水平に太刀の刃を滑らせた。


 銀色の残光が横一文字に走り小鬼の首から大量の黒紫色の液体が噴出しその圧力に押し上げられたかのように小鬼の首が宙に舞った。

 男は更に歩を進めながら太刀の柄に左手を添えて切っ先を、先程まで馬の上で肋骨に齧り付いていた小鬼へと向けた。

 小鬼は迫って来る人間に向かい猫が敵に向けてするような威嚇をするが猫のそれよりも低く濁った音だった。

 口を横一杯に開き威嚇している小鬼の口目掛け男が太刀を突き入れると小鬼は咳き込むような音を発して口から黒紫色の液体を吐出し掌が切れるのも構わず刀を両手で握り、引き抜こうと藻掻いたが、やがて両腕は垂れ下がり動かなくなった。


 男は小鬼の口から太刀を引き抜き片手で上段に持ち上げると力一杯虚空へ振り下ろして太刀に着いた小鬼の体液を払った。その後ろで尻に矢が刺さり首を失った小鬼の体が回り続けていたが液体が噴き出すのが止まると同時に動きを止めその場に倒れた。


 太刀の男の後ろを走っていた槍の男が残った二匹の小鬼を狙う。

 馬の腹から体を抜いた二匹は一列に並び馬の体液で濡れた顔を引き攣らせながら向かってくる槍の男を低く濁った声で威嚇する。

 二匹の小鬼に向かって走りながら男は右脇に抱える様に持った槍を右手の中で「石突(いしづき)」の辺りまで滑らせ長く持ち直すと先ほどまで馬の(はらわた)を喰らっていた二匹へと走り込む。


 槍に間合いに並んだ小鬼が入ったと同時に前に出した右脚に渾身の力を込めて踏ん張り歩速を殺し、その反動を利用し右上半身から右腕をしならせるように伸ばし手にした槍を先頭の小鬼に目掛け突き出した。

 槍は小鬼の(へそ)の無い丸く膨らんだ腹の中心に突き刺さり、そのまま勢いで背中へ抜けると後ろにいる小鬼をも捉えんと槍先を進めたが寸前のところで小鬼が跳躍し捉えることが出来なかった。槍を避けた小鬼は足元を通過する槍の「口金」の辺りへ器用に両足を乗せ更に跳躍し槍に腹を貫かれた小鬼の頭へ飛び移り、そこを踏み台に槍を手にした男の顔面に向かって大口を開け叫びながら飛びかかった。


 男は小鬼が飛びかかって来ると大きく首を仰け反らせたが小鬼を避けようとした訳ではない。

 大きく反動をつけ渾身の力を込めて頷くように向かってくる小鬼の頭に自らの額を打ち付けた。 

 打ち付けられた額に巻かれた鋼鉄の「額当て」が小鬼の頭に当たると石と金属がぶつかったような高い音が響き小鬼は真下の地面に叩きつけられ大きく弾んだ後地面を転がった。


 男は頭を軽く振ると槍の中ほどで腹を貫かれても尚威嚇の声をあげながら前進しようとする小鬼を片足の裏で押さえつける。押さえつけられた小鬼は両の手で激しく男の脛に爪を立てたが鋼鉄の脛当てには細い線状の傷が着くだけで男には何の痛みも与えなった。


 男は小鬼を押さえつけながら槍先を地面へ押し付けると一気に足裏に力を込め小鬼を槍先へと押し戻しそのまま捻じるように槍を引く抜き小鬼を地面へ踏みつけた。引き抜いた槍を中ほどで持ち直し槍先を天に向かって振り上げると、そのまま勢いよく「石突」を小鬼の頭、目掛け突き下ろした。鈍い音がして石突が頭部に減り込むと男の足の下で脛当てに激しく爪を立てていた小鬼はゆっくりと動きを止め動かなくなった。


■■■四■■■


 馬の首に抱き着いていた小鬼を仕留めた火縄銃を放った女は次弾の装填に取り掛かっていた。

 慣れた手つきで火縄銃を立てて「早合」を使い銃口を見る事なく火薬と鉛玉を注ぎ入れ槊杖(さくじょう)を使って銃身の奥へと突き入れる。視線を落とさず周りの状況を注視しながら作業しているとは言え玉の装填中は無防備に近い女を庇う様に半弓の男が前に立ち矢を番えて前方を警戒する。

 

 その警戒している半弓の男の視界の先に槍の男の強烈な頭突きを喰らった小鬼が勢いよく転がりながら横切り木の幹へ激しく頭を打ち付けた。

 よろめきながら立ち上がり大きく頭振った小鬼の視界に火縄銃を手にした女と半弓を構えた男の二人が入る。

 小鬼は見比べる様に二人と槍の男の方へ交互に顔を向けると考えこむ様に間を置いてから二人の方へと走りだした。

 最初の数歩は二本の脚を使ったが直ぐに前傾となり両手を地面に着ける姿勢になった。 足で地面を蹴るように前方に飛び跳ねては両手から着地し再び両足で地面を蹴るを繰り返しみるみる速度を上げて行った。


 向かってくる小鬼へ男が半弓矢を放つ。 放たれ矢が小鬼の左肩に命中はしたものの小鬼は一瞬体制を崩しただけで速度を落とさずに接近してくる。 すぐさま次の矢を番えたが弦を引くより早く小鬼が眼前にせまり、そこで地面を蹴り大きく飛び上がり半弓の男の頭上を通過して男の後ろに居る女へ大口を開け叫びながら襲いかかった。


 男の頭越しに飛び込んでくる小鬼の姿が玉込めをしている女の視界に入る。 


 女は全く動じない。

 

 小鬼をしっかりと見据えると左手で逆手に握っていた銃口を順手に持ち替え、さらに銃口に刺さったままの槊杖が滑り落ちないように右手で槊杖と銃口を握り込むと、小鬼の顔面目掛け渾身の力を込め横薙ぎに振り抜いた。


 火縄銃の床尾(しょうび)が小鬼の顔面を捉えた。 その勢いで小鬼の体は飛び込んで来た方向から直角に進路を変え地面に叩きつけられ大きく弾んだ後小屋の方へ転がり小屋の前で鼻を撃ち抜かれ踠いている小鬼にぶつかりようやく止まった。

 

 殴りつけられ転がされた小鬼が頭を左右に振り立ち上がり自分を殴った女を睨み付け唸り声をあげた次の間、火縄銃の銃声が響いた。

 銃声とほぼ同時に唸り声をあげていた小鬼の眉間に鉛玉が目中する。 鼻を撃ち抜かれた小鬼に照準を合わせていた女が突然射線の前に転がり込んで来た獲物に躊躇することなく引き金を引いていたのだった。


 鉛玉が命中した小鬼は眉間から黒紫色の液体を噴出し力を失った膝から崩れ落ち正座したような姿のまま、頭だけを後ろに反らし天を見上げる格好のまま動かなくなった。


 その背中で鼻を撃ち抜かれた小鬼は天を仰いだまま眉間から体液を噴出している小鬼を見上げながら尻を引きずるように後ずさりをした。


 火縄銃を放った女は二丁と玉を打ち尽くし次弾の装填作業を始める。


 他方小鬼を殴り飛ばした女は眉間を撃ち抜かれた小鬼の背後にまだ動くものがあるのを見て銃口に刺さったままの槊杖を素早く動かし火薬と玉を突き固める。


 槊杖を抜くと銃口を正座のまま動かない小鬼の背後から僅かにはみ出し動く影に向ける。

 静かに呼吸し照準を合わせるが既に自分達の存在を知られている状況で時をかけて必中の狙いをしている余裕はない。 雑に狙う訳ではないが正確性より早さを優先させ吐いた息を止め引き金を引いた。

 

 銃声が響き放たれた鉛玉は後ずさりをする小鬼の体から僅かに逸れた地面の土を跳ね上げた。

 尻を引きずりながら後ずさりをしていた小鬼は直ぐそばの地面が爆ぜるのを見ると飛び上がり体を反転させると斧を握り絞めたまま両手両足を使い一足飛びに森へと走りだした。


 女はすぐさま次弾の装填にとりかかった。 指先の感覚だけで銃口に火薬と鉛玉を注ぎ入れ、視線は走り去る小鬼からは外さない、視界の端ではもう一人の女は二丁目の火縄銃の装填に取り掛かっている。


 その女と走り去ろうとする小鬼との間に太刀を手にした男が走り込んでくる。

 二度の銃声で最初の小鬼を仕留めきれていなかった事に気付いた男が小鬼を追っていた。

 

 小鬼と男の距離は徐々に縮められていたものの今一歩太刀の間合いには届かず森の中へ入られてしまった。 男は深追いはせず森と広場の境界二歩三歩手前で立ち止まった。

 暫く太刀を構え森の方を凝視したが足音が遠退き聴こえなくなると広場の方へと向き直った。


 広場に五人以外に動くものは小屋からもれる灯りの揺らめきだけになった。

 

 太刀を手にした男は小屋の裏へと回ろうとしたが窓が正面にしかなく裏手には月光も届かず闇が広がり何も見えない。

 広場には頭を割られた人間が一人、全身を食い千切られた馬が一頭、動かなくなった小鬼が五匹、太刀を握った男はそれらを首と視線だけを動かして確認しながら五人が歩いてきた林道へと向かって歩いた。


 林道で土を被り小さく灯る松明を拾い上げると息を吹き返したように再び炎は大きく揺らめいた。 それを広場の方へ放り投げる。


 放り投げられた松明を半弓を手にした男が広場の中ほどまで運び地面へと置くと弓に矢を番えゆっくりと眉間を撃ち抜かれた小鬼へと歩みよった。


 正座したまま天を仰いでいる小鬼の肩口を足裏で押すように蹴ると小鬼の身体はなんの抵抗もなく膝を折ったまま後ろに倒れ込みそのまま微動もしない。

 小鬼が絶命していることを確認すると弦を袈裟懸けに弓を背負い腰に刺した短刀を抜いて小屋へと向かい小屋の前で壁に凭れかかる人間の遺体を一瞥し中へと入った。

 

 太刀の男はもう一本の松明広いあげ小屋の脇に横たわる馬の方へ向かった。 馬の傍らでは槍を逆手に握った男が四体の小鬼の体に順々に槍を突き立て息がないこと確認している。 その作業が終わると松明と太刀を手にした男と共に小屋の裏手へと回った。

 

 半弓の男が置いた松明の側では玉込めを終えた女達が何時でも銃を構えられる姿勢で広場全体を見張っている。

 程なく小屋から男が出てきて首を横に振り小屋の中には何も居なかったことを伝えた。

 ほぼ同時に小屋の裏手を回っていた二人の男も戻り小屋の裏には何の存在も確認出来なかった事を伝えた。


 女の一人から安堵の吐息が漏れそれぞれが武器を握る力を緩めかけた時、森の一番近くに居た太刀の男は森の中から僅かに音が聴こえた気がして振り返った。



ダラダラと長くなってしまった文章を読んでいただきありがとうございます。




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