その2
「はーいみんなー席に着いてー!」
担任の声と共に俺を見る憎悪の目が各々の席に散っていく。あー助かった!
流石に嫌味だったかな? でも俺にとっては結構な悩みなんだぜ。
「HRに救われたね、阿久津っ♪」
ニシシと笑いながら隣の席で伊瀬宮がウインクして来た。
「でもさー、私、隣の席で一年近く見てるけどさ、やっぱ阿久津って顔だけじゃないと思うんだよね。ノリもいーし、口は悪いけどなんだかんだで優しいしさ。試しにとりあえず次に告って来た子と一回デートしてみればいーじゃん」
入学してから一年ちょっと、何回か席替えをしてるにも関わらず何故か毎回伊瀬宮が隣の席になっていた。当然他の女子達からのブーイングが凄かったと彼女は笑いながら言っていたが、俺にとっては気を遣わずに喋れる数少ない女子だからとても助かっている。
「そんな事言ってくれるのは伊瀬宮位だよ。てか、俺の顔以外で良いところなんて分かってくれる奴居んのかなぁ……」
「よく恥ずかし気も無く言えるわねー、そーゆートコはホント直した方がいーと思うんだけど!」
「じゃあ伊瀬宮、俺の顔以外の良いトコってなんだよ! 十個言ってみ!」
「おけおけ! てか一時間目の授業中に書くから授業終わったら見せるわ♪」
「お、おう、楽しみにしてるよ。ちゃんと書けてたらご褒美グミやるからさ」
そう言ってカバンから今朝コンビニで買った新作グミを見せると伊瀬宮はラッキーと言いながら嬉しそうに親指を立てた。
※
一時間目の授業が始まり伊瀬宮はノートにせっせとペンを走らせていた。当然先生の話なんて聞いちゃいない。
時折りペンを顎に当てて考える仕草を見せていたがその都度何か思い出したかの様な顔をしてまたノートに書き出してはニヤニヤ笑っていた。そんなにご褒美グミが欲しいのか?
……ん?
「なぁ伊瀬宮、そーいやお前最近悪魔みたいなアレつけてなくね?」
そー言って俺は手術を始める執刀医の様に手をパーにして両手の甲を伊瀬宮に向けた。
「あーネイルチップね、アレあると家事やる時邪魔でしょーがないんだわ!」
「へぇ〜、意外だな、伊瀬宮もそーゆー事出来るんだな!」
褒めたつもりだったんだがどうやら癇に障ったみたいだ。駄目だなー俺、もうちょっと言葉選んで喋らないとだよ。
「はぁ〜? これでも掃除洗濯、それにご飯だって作ってるんですけど? ……なーんて、実は一週間前にママが入院しちゃってさ、私がやらなきゃ誰がやるのって話」
「あっ、ゴメンっ、変な事聞いちゃったな。……それでお母さんは平気なのか?」
「うん。……まぁまぁかな? 元々体強くないから暫くは安静にしないとなんだけどね」
そう言って無理に笑う伊瀬宮はメイクで隠してるつもりだろうけど明らかに疲れた顔をしていた。視線を指に向けるとあちこちに絆創膏をつけていて、ちょっと前までの細く長い指と悪魔の様なつけ爪の頃とは別人の様だった。
「最近、……寝れてないのか?」
「ヤバっ! クマ見えてる? もうメイクするのも面倒になってさー、毎朝四時起きだよ! 凄くね?」
「四時!? 流石に早すぎだろ?」
「ウチさ、年の離れた弟がいてさー、毎朝幼稚園のお弁当作ってるんだよね。それもキャラ弁! 普通のヤツ作って渡したらキャラ弁じゃなきゃヤダってグズるからもう毎朝大変なんだよねー! 慣れない事するもんだから見てよホラ、手ボロボロだよー!」
さっき俺がやった執刀医のポーズをして困り眉をした伊瀬宮はいつもと違って少し大人びて見えた。
「それで弟くんは喜んでくれてるんだろ?」
「うん。めっちゃ喜んで抱きついて来たからさー、そりゃ毎朝頑張って作んなきゃだよって感じー♪」
「母さん、早く良くなるといーな」
「ありがと、でも料理もやってみると意外と楽しいもんだなって最近思うよ、まぁ味は全然保証出来ないんだけどね♪」
※
一時間目の授業が終わり休み時間になると伊瀬宮は何やら照れ臭そうに『はいっ♪』と言って俺にノートを渡して来た。
「なんかこーやって書き出すと恥ずかしいね。だけどこれ書いて改めて阿久津が良いヤツだなって事再確認したよ!」
「伊瀬宮……、お前の方こそ良いヤツだろ?」
俺は渡されたノートを開いて目を通した。そこにはパンダかタヌキかわからないイラストとともにでっかい字で『阿久津の良いトコロ10個♪』と書かれていた。下に目線を降ろすと……、
その1 いつもコンビニで新作グミを調達して私にくれるトコ
その2 授業中に私がお腹を鳴らしたらそっとチョコを手渡してくれるトコ
その3 昼休みに買いに行く購買パンを多めに買って来て私にくれるトコ
……。
「おいっ! 今んトコ全部伊瀬宮に食いもんあげた事だけじゃないかよ!」




