第三話 マリーナ様を愛でる会
この物語は分かりやすさの都合で、
ゲーム本家ルミナ=ルミナ
中身押田瑠美のルミナ=オッシー(地の文のみ)
※会話は『ルミナ』表記のまま
とさせていただきます。ご了承ください。
【裸の付き合い】
ひと段落ついたオッシーとマリーナは汚れた体を洗うため、入浴することにした。脱衣所にてマリーナはオッシーに対して「裸になるところを見られてまた面倒なことになるのではないか」という一抹の不安を抱いていた。しかし、オッシーはマリーナの裸を見ないように背中を向けていた。
「……こういう時は見ないのね」
「裸を見るのはさすがに……まだ子供ですし、私が見たら多方面から怒られる気が……」
「今さらなによ」
そう、今さら取り繕ったところでもう遅い。今まで散々マリーナにくっついていたオッシーに説得力など微塵もなかった。むしろ、姉妹同士の裸の付き合いで変に理性が働いていることにマリーナは苛立ちを覚えていた。
「私たち姉妹なのよ。これから裸なんて嫌というほど見るわ」
「そ、そうですけど、恥ずかしいです……」
「……今さら恥ずかしがるんじゃない!」
マリーナはずっと背中を向けていたオッシーに自分の裸を見せつける。
「はわわわわ……」
オッシーは『推し』の裸に腰を抜かし、顔を真っ赤にして急いで手で視界を閉じた。そんな姿を見てマリーナは勝ち誇った気分になり、鼻を高くする。
「早く私の体を見慣れることね!」
そう胸を張ると、悠々と浴場に向かっていった。オッシーはそんな彼女にタジタジであった。オッシーは性的なものが苦手なのではない。普通に下ネタや18禁の話も平気でする女だ。ただ、相手から自分に向けられたものに関しては例外的に抵抗がなかったのである。
正気に戻ったオッシーは急いで浴場に入る。
「広っ!」
浴場はかなり広く、体育館くらいの広さだった。中央には大きな風呂があり、その周辺には効能の違った風呂やサウナや水風呂、外には露天風呂があるなど銭湯をもっと西洋風に華やかにさせた空間だった。ゴートに資金力があるとはいえかなり異様な光景にオッシーは唖然としていた。
「ルミナ!ぼーっとしてないで背中を流しなさい!」
「あ、はいお姉様……お姉様!?」
マリーナはメイド達によって全身が泡に包まれていた。オッシーは思わず、
「え、大丈夫ですか?」
と、問いかけると、メイド達が口々に答えていく。
「大丈夫ですよ」
「いつもこんな感じですよ」
「洗いやすいくて助かってます」
「会長、早くいかないのですか?合法的なお触りですよ」
「……ラビー、あとで覚えときなさい」
オッシーに躊躇いが生じる。自肯定感が低い彼女は自分が『推し』の背中を流すことに抵抗があったのだ。そんな彼女にマリーナが催促してくる。
「ルミナ、早くして」
「え、いや、その」
「貴族の心得その1『上の命令は絶対』よ」
「でも恐れ多くて……」
「あなたは姉の背中すら洗えないの?」
マリーナは悪戯な笑みを向ける。自分が上に立てていることに喜びを感じていたのだ。その煽りにオッシーは「かわいい」と思っていた。
「はーやーくー」
「わ、分かりました」
オッシーは石鹸を手に馴染ませ、調子に乗って子供らしく振る舞っているマリーナの背中にそっと触れる。
「ひんっ!」
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……少しくすぐったかっただけ」
「そ、そうですか」
「つ、続けなさい」
「は、はい」
オッシーは赤子に触れるように慎重にマリーナの背中を洗っていく。その手つきはマリーナに嬌声をあげさせるには十分すぎた。幼い女児が洗いっこなはずのその光景を見ていたメイド達は新しい扉を開き、ラビーは鼻血を流し、一部メイドは『マリーナ様を愛でる会』に参加することを心に決めた。
「お、終わりです」
オッシーがマリーナを洗い終える。2人は息を切らせて、まるで事後のような様相を呈していた。気まずくなったオッシーはその場から離れ1人で体を洗おうとする。しかし、そんなことをマリーナは許さなかった。
「なにあなたは逃げてるの?」
「い、いや、私は1人で大丈夫ですよ」
「そんなの私が許可しないわ」
マリーナがそう言うと、オッシーはラビーら、メイド達に拘束される。
「ルミナ様、いえ会長、お許しください」
「へ?」
「あなたも同じ苦しみを味わいなさい!」
「え、えぇー!?ちょラビー氏!?離して、離してって!」
オッシーはパニックになり、思うように力が入らず、ラビーに拘束されたままになっている。そんな彼女にじわりじわりとマリーナは近づく。
「そろそろ覚悟決めてください。もうじれったくてしょうがないですよ。見てください、あこがれのルミナ様ですよ。合法的にお触りできますよ」
「流石にこれ以上はルミナニウムの過剰摂取でしんじゃいます!」
「なに碌でもない会話してるの!さっさと大人しくなりなさい!」
「ああー!!」
そして、オッシーはマリーナに隅々まで洗われた。
「あなた腹筋すごいわね」
「あ、あの、せめて背中だけでお願いしま」
「どこか弱点はないかしら」
「わ、脇はやめて……んっ!」
「……かわいい声出せるのね」
「……そんなに揶揄うなら、いくらマリーナ様でも怒りますよ……」
「その顔て言われてもねぇ……」
「分かりました……失礼します!」
「ちょ、ちょっと押し倒さないで!」
「……お姉様が悪いんですよ」
……その後、2人は気まずい雰囲気のまま、風呂に入り、着替えをした。
「おーい、大丈夫かー?」
「「……」」
2人は会話なくディナーを終え、ゴートに軽く心配された。しかし、心なしか2人は前より距離感が近いように見えた。
【反省会】
「……で、入浴中に何があったのかしら」
マリーナはミーナの自室に呼び出されていた。想像以上に距離感が近くなっていたので「姉妹の関係を超えて変なことをしたのではないのか」と、心配されていたのである。
「いえ……互いに体を洗い合ったくらい……です」
マリーナは嘘は言わなかった。ただ、その程度に関しては思い出すだけで恥ずかしくなるので言及を避けた。
「本当にそれだけ?変なことされてないかしら?」
「……はい」
マリーナの目は泳いでいた。ミーナはそれを見逃さなかったが、いざ指摘したところでオッシーを抑える術を持ち合わせていなかったため、あえてスルーすることにした。
「……ならいいわ。ルミナとはうまくいっているかしら?」
「はい、姉として貴族のマナーを叩き込んでいます」
「……あのテーブルマナー指導は初めて見たわよ」
ディナーのとき、マリーナはオッシーに背中から抱きつくようにしてテーブルマナーを教えていた。無言で触れ合うそれはさながらホテルに入る前のカップルのようであった。無論、2人は無意識で、距離の高さを気にしてはいなかった。むしろ、それを見ていた周りの方が気を使って指摘できず、ただ食欲が減退する一方であった。
マリーナはそのことを指摘されて改めて思い返す。今さらになって恥ずかしくなり顔が真っ赤になる。そんな彼女を見てミーナは呆れつつ、釘を刺した。
「指導の仕方は任せるけど、客人に見せても恥ずかしくないように」
「……はい」
「あと、ルミナを信用しすぎないように。今のところ嘘をついていないけど、人はすぐ心変わりする生き物よ。警戒しなさい」
「…………はい」
「あと、逐一ルミナのことを報告するように」
「………………はい……失礼しました」
マリーナはミーナの自室を後にする。ミーナはマリーナを通してオッシーを制御しようとしている。それをマリーナはうっすら察していた。結局、ミーナはマリーナのことを見ていなかったのである。そのことにマリーナは「ルミナばっかり……私も見てよ」という嫉妬と「でもルミナと張り合っても仕方ない」という諦めによって心がぐちゃぐちゃになっていた。
「……泣くな私。私は強い子。私は貴族でライクディクト家の長女……涙なんて似合わない」
暗い廊下の中で必死に自分に言い聞かせるように言った。それでもひとりぼっちな彼女はつい弱音がこぼれ落ちてしまう。
「私も頑張ってるのに……」
そう1人で泣いているマリーナを気にかけてくれる人など現れない。彼女は孤独だ。彼女からしたらミーナからの圧力に愛は感じられなかったし、ゴートの行動は彼女の能力不足を指摘するようなものだった。気丈に振る舞うのはなけなしのプライドとその孤独に言い訳をつけるための理由付けでしかなかった。そしてその振る舞いすらオッシーの前では瓦解してしまう。入浴の時も始めこそ優位を取れていたがその状況はすぐに逆転された。彼女のプライドはもうズタズタである。
そんな彼女を気にかけてくれるメイドが1人、光の中から彼女の前に現れた。
「マ、マリーナ様!?どうしました!?」
彼女の名前はリリー、ゲームでは無名のモブでしかなかった彼女であるが、新入りのメイドでマリーナの専属メイドである。そんな彼女はマリーナが涙を流しているのを見るや否やすぐさまハンカチで涙を拭き取ろうとする。
「……なんでもない」
マリーナは人に涙を見せまいとリリーに背中を向けてパジャマの袖で涙を拭う。そんな彼女にリリーはワタワタして必死に彼女の正面に回ろうと動き回る。
「な、泣いてますよね?」
「泣いてない」
「で、でも袖濡れてますよ?」
「気のせいよ!」
「目元も心なしか赤いような……」
「しつこい!」
マリーナはそう叫ぶと今度はリリーが涙目になってしまう。彼女はマリーナを少しだけ怖がっていた節があった。
「うぅ……」
「リ、リリー?あなたが泣いてどうするの!?」
「やっぱり怖いぃ……」
「15歳でしょ!?怖がらないでよ!」
「で、でも…」
「ああもう!私の専属メイドであるあなたに涙は似合わないわ!」
「……」
「リリーは私の自慢のメイドなんだから、こんなことでいちいち泣かないの」
「マリーナ様……」
「……ありがとう。心配してくれて……気にかけてくれて」
「マリーナ様ぁ……!」
リリーはマリーナの優しさに感動をして再び泣き出してしまう。
「また!?」
マリーナはそう困惑しつつもリリーを慰める。8歳が15歳を慰めているというなんとも奇妙な光景が広がっている。マリーナはなんだかんだで面倒見がいいのである。
光の中からはまた1人の妹が現れる。
「リリー氏?どうしましたー?……お姉様?」
「ル、ルミナ!?どうしてここに……」
「ここ私の部屋の前ですよ?お姉様の部屋は隣です」
「……あ」
そう、マリーナはオッシーの部屋の前で泣いていたのである。マリーナはなんだか恥ずかしくなりその場から逃げようとするが、リリーに袖を掴まれて身動きが取れなかった。
「ちょっと!リリー!離して!」
「マリーナ様も参加しましょうよ!」
「参加するってなに!?」
「『マリーナ様を愛でる会』です!」
「恥ずかしいから嫌だ!」
「会長もいいですよね?」
「ルミナ!あなたが注意してよ!」
オッシーは戸惑いつつも、
「大丈夫だけど、お姉様が嫌なら無理に参加する必要はないかな。非公認のファンクラブですし」
と、リリーを宥めた。それを聞いたマリーナは安堵した表情でリリーに語りかける。
「ほ、ほらだからリリー、私のことなんて気にせずあなたが楽しめばいいの!」
「マリーナ様がいるともっと楽しいのに」
「うっ……」
「確かにお姉様がいるとみんなも喜ぶと思うから来てくれると嬉しいけど仕方ないですよ」
「ぐぬぬ……」
2人の子犬のような寂しげな表情にマリーナの罪悪感が刺激される。さらに必要とされていることにマリーナ自身悪い気はしなかったのである。
「……分かったわよ……」
「「え?」」
「私も参加するわ!」
「「いいの!?」」
「もちろんよ!そこまで言うなら参加してあげないこともないわ!」
「「ありがとうございます!」」
「わっ!」
マリーナは2人から抱きつかれてしまい思わず体勢を崩してしまう。マリーナから見た2人はまるで子犬のようであった。
「リリー氏!私はみんなに伝えてくるから案内して!」
「はい会長!」
オッシーは部屋へ入る。部屋にどよめきが走る。その後、リリーもマリーナを案内する。
「行きましょうか!」
「う、うん」
ニッコニコで案内を始めるリリーに改めて恥ずかしさを感じてしまうマリーナであった。
【マリーナ様を愛でる会】
マリーナが部屋に入るとそこは異世界そのものだった。オッシーの部屋はマリーナ一色、自作のポスターや等身大パネルパネル、うちわ、人形、タペストリー等々、様々なマリーナグッズがひしめき合っている光景はマリーナを困惑させるには十分であった。
「お姉様、どうですか?」
「どうって……」
マリーナはドン引いていたが、オッシーのキラキラした瞳を前にして、
「まぁ、すごいとは思うけど」
と、言葉を濁した。その言葉にオッシーがホッとしているのを見て、「それでもいいか」とマリーナは思った。
メンバーを見るとメイド長や執事などの身内がマリーナを見つめていた。そしてその中にはゴートも『報連相』と書かれたボードを首にぶら下げていた。
「お、お父様!?どうしてここに……」
「会員だからだよ」
そう言ってメンバーズカードを見せてくる。実はゴートはオッシーと出会った頃に会員になったため、そこそこな古参なのである。その事実にマリーナは困惑するしかなかった。
『マリーナを愛でる会』でマリーナ本人が現れたのだから彼女に注目が集まるのは当然であった。マリーナは注目されることに慣れていたつもりだったが、マリーナ本人として見られることはあまりなく、むず痒い気分になっていた。
「本人だ……」
「顔真っ赤にしてかわいい」
「こっち見てー」
「視線くださーい」
「生マリーナ様尊い……」
「マリーナ様……閃いた!」
「すごくいい香りがします」
「撫でたい……」
「撫でられたい……」
「踏まれたい……」
「黙りなさい!だいたいいつも会ってるでしょ!」
方々から出てくる声にマリーナは顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。しかし、そんな彼女に、ラビーが反論する。
「公私混同したくないので」
一同頷く。『マリーナ様を愛でる会 ライクディクト家支部』のメンバーは基本的にプロフェッショナルの集まりであった。
「説得力ないわよ……」
前々からうっすら変な視線を感じていたマリーナはその理由に納得しつつも、公私混同したくないという発言には待ったをかけた。特にラビーに関しては入浴の際の発言もあり、説得力のかけらもなかった。それでも、
「で、でもそういう目で見られるのも悪くないとは思ってる」
と、マリーナは悪い気はしていなかった。そしてそんな様子を見たマリーナ以外の全員が、
「ツンデレだ……」
「うるさい!」
オッシーは手を叩き、そんなカオスになっていた場を引き締める。
「はい、限界化するのはそこまでにしてグッズ会議の続きしますよ」
「……意外と真面目」
「皆さん根は真面目ですし、非公認とはいえファンクラブですから秩序はないと」
「そういうものなのね……」
そう呟きながらオッシーのベッドに座るマリーナは「これ以上恥ずかしい思いはしないでしょ」と、高を括っていたが、それは甘い考えだった。そこから始まったのは『マリーナの良いところの語り合い』であった。各々がマリーナの良いところやエピソードを語りだしたのである。
「マリーナ様は聡明で常に周りに気を配る天才です」
「ふふーん、セバス、褒めても何も出ないわよ」
「マリーナ様はメイドの名前も全員覚えてくださります」
「ふふーん!カヤ、それは貴族として当然のことよ!」
「俺たちの料理全て完食してくれるじゃねーか!ゴートはトマト残すくせに」
「クック、それは当たり前じゃないかしら?え、お父様?」
「私、今更ながら気づきました……お姉様は誘い受けの素質があると!」
「ルミナ?何を言ってるの?」
「マリーナ様は優しい方です。先ほども私のことを心配して」
「わー!わー!リリー!それ以上は言わないで!」
「マリーナ様はエッチ!」
「ラビーは黙れ!」
このようにあまりにツッコミをしすぎた結果、マリーナは息を切らしてパタンと、リリーの太ももを枕にして、ベッドの上に寝転んでしまう。自分の娘が褒められて気を良くしたゴートはマリーナを褒めた。
「こんなに褒められるなんて私も鼻が高い!」
「そんな娘に大事なこと報告しない父親失格な奴がいますが、そのことに関して、お父様、一言」
「本当にすまなかった」
オッシーに頭を掴まれ土下座させられたゴートにマリーナは今まで聞きたかったことを聞く。
「お父様……私のことを信じてますか……?」
「当たり前じゃないか」
「ならどうしてルミナのことを教えなかったのですか?」
「それは……その、色々事情が重なって……」
ゴートは急に歯切れが悪くなる。実のところ、彼はマリーナがミーナの影響を強く受けていることを警戒して伝えなかった。彼女からも拒絶されてしまうことを恐れていたのである。彼の旧友だったクックはゴートに、
「本当のこと言ってやれよ、娘だろ?」
と、軽く説教した。するとゴートは「これから家族と円満に関わる上で、避けては通れない道だ」と、覚悟を決める。
「……正直に言おう。私は君のことを少しだけ、ほんの少しだけだが、警戒しているんだ」
「言い方ァ!」
それはマリーナを傷つけるには十分すぎた。マリーナはベッドの上で静かに涙を流した。
「やっぱり……私は……」
「卑下しないでください」
リリーがマリーナの涙を拭き取る。そして、頭を撫でる。
「マリーナ様は悪くないです」
「でも」
「少しくらい自分に優しくてもいいじゃないですか。ね、会長」
オッシーは深く頷く。そして、マリーナの目を見つめて語り始める。
「自分に厳しいのは結構です。私もお姉様の全てが好きですし、そういう部分も大好きです。きっと、やることなすこと全てに協力すると思います。でも、お姉様がお姉様を嫌いになるなら……私はそれを全力で否定します」
そんな言葉に呼応するように周りからもマリーナを肯定するような声が上がる。
「そうですマリーナ様は自分に厳しすぎます」
「マリーナ様は素敵なお方です」
「このバカも言い方が悪いが愛してるとは思うぞ」
「魅力的だと思いますよ」
「マリーナ様最高ー!」
この言葉を聞いたマリーナは自分自身が一番自分を嫌っていることに気付かされた。マリーナはゆっくり起き上がり、「私がこんなに好かれてる理由はなに?」自分にどんな魅力があるか心に問いかける。しかし、その答えは出てこない。どうしても『ライクディクト家のマリーナ』という肩書きが自己肯定感を上げる妨げになっていたのだ。
「みんな……ありがとう……でも、やっぱり難しいや」
マリーナはそんな不甲斐ない自分のことを謝罪しようとする。すると、オッシーがマリーナの頬を軽く引っ張る。
「はひふんのよ!?」
「散々言ったのにまた出てます!いい加減にしてください!」
「ははひははひ!ははひははへほ!?」
「だからこそです!妹の私が怒らせてもらいます!反省するまで離しません!」
「ははっはははっははは!」
「分かりましたか?」
マリーナはコクコクと頷く。それを確認したオッシーは手を離した。マリーナは頬をさすりながら、ため息を吐く。
「私を好きになればいいのでしょ……」
「それでいいんです。お姉様は素敵な人です」
「……そういうの本人の前で言わない方がいいわよ」
「どうしてですか?」
「どうしても!」
マリーナは耳を赤くしてオッシーから顔を背けている。そんな彼女をオッシーは不思議そうに覗き込んでいた。そんな様子を見たリリーは、
「おふたりは……恋人みたいですね!」
と、純粋に思ったことを指摘した。それを聞いたマリーナは顔を真っ赤にして詰め寄った。
「は!?何言ってるのかしらリリー、女同士、しかも姉妹でそんな……ルミナ!なに顔真っ赤にして動かなくなってるの!あなたも弁明しなさい!」
「いや、お姉様とはそんな関係……」
オッシーは入浴の時のマリーナの健康的な身体、もっちりした肌、悪戯な笑みを思い出し、頭から煙を立ててフリーズしてしまう。
「ルミナー!!??」
「いやあの入浴は家族団欒の一環なんですぅ……」
「思い出さないで恥ずかしいから!」
2人してパニックになっているところにラビーが燃料を投下した。
「遅れてますねぇ」
「なによ」
「世の中には女の子同士の恋愛もありますし、姉妹恋愛もありますよ」
「なっ……」
マリーナも頭から煙を出してフリーズしてしまう。その様子を見たラビーはこの2人は脈ありだと判断した。彼女はカプ厨になっていた。そんな彼女はリリーに無言でグッドのハンドサインを出した。リリーは「ラビーちゃんまた、変なこと考えてる」としか考えていなかった。
オッシーがひと足先に正気に戻ると、先ほどまでの醜態を弁明した。
「いや、あれは本当に姉妹としてのじゃれあいでしかなくて!「挑発的な態度取られて腹が立った」的なごく普通な妹としての反応であって!本当に家族団欒の一つでしかないと思います!」
どんなに弁明しても、ただの言い訳にしか聞こえなかった。そのことを証明するかのように大半の人間が微笑ましくその様子を見ていた。基本的にこの世界では同性愛なんて認められているわけがない。それでも受け入れる人間が多いのはオッシーが色々と布教した結果である。要するに自業自得だ。
「なにニマニマしてるんですか!こっちは真剣なんですよ!……まぁ、事実家族団欒の場はほしいと思いましたよ」
すぐさま真面目モードに切り替えたオッシーはゴートを睨みつける。ゴートは気まずそうに視線を逸らす。しかし、
「目を背けんな」
クックがゴートの態度を許すはずもなかった。彼はゴート顔を無理矢理オッシーの方向へ向けさせる。
「お父様……もっと向き合ってください。向き合わなってないからあんな言い方になるんでしょう?そういう態度がマリーナ様を追い詰めるんですよ」
「……分かってる。分かってるんだ……だが……」
「ミーナ様ですか……」
ゴートは気まずそうに頷いた。ミーナまわりの問題を解決できなければ家族団欒の機会は二度と訪れないのだ。この件に関してはオッシーだけでどうにかできる問題でもなかった。
「どうにかして機会を作らないとですね……」
「お母様がどうしたの?」
マリーナがようやく起きた。
「このライクディクト家って息苦しいじゃないですか」
「……ま、まぁ、そうね」
「家族団欒の機会を作れればなと思ったのですが、そのためにはミーナ様が必要で……私は厳しいですし、あの言葉足らず馬鹿親父はもっと論外で」
「言い過ぎじゃない?」
「お姉様は……近いんですけど、仲良いとは違うんですよねぇ……」
「それは……うん」
マリーナ自身、ミーナから愛されている自信がなかった。……実際、外から見れば心配する部分あり、愛は確かにあるのだろうが、彼女の出力の仕方が不器用すぎてその愛が伝わりづらいのも事実だった。
議論が座礁していると、ラビーがある紙を持ってくる。オッシーがその紙を受け取って読むとそれは『マリーナコスプレ企画』の企画書だった。
「コスプレ……」
「ラビー!空気読みなさい!」
「いや、私なり考えたんですよ!ほら、子供って親の着せ替え人形になるじゃないですか!その要領でミーナ様の素を引き出せば楽じゃないですか!」
「本音を言いなさい」
「マリーナ様の水着姿が見たいあだだだだだ!!」
「いい加減にしなさい!」
気色悪い本音を話したラビーは案の定、マリーナにアイアンクローされた。一方でオッシーはラビーの意見を聞き、決断する。
「……いいかもしれません」
「ルミナ!?」
マリーナは目を丸くした。オッシーは冷静に説明していった。
「どうしてもミーナ様の本心が分からないので、まずはこちらから歩み寄らないと話になりません」
「でもこんな過激な……」
マリーナは頬を染めながら水着コスプレ案を指差す。
「そこまでしなくても大丈夫です。あくまでお姉様のいろんな姿を見せて反応を確認したいんです。コンペ開くのでお姉様はそこから選んで着るだけで結構です」
マリーナは「選ぶなら大丈夫か」とホッとするが、それと同時にミーナの言いなりになっていた自分が選ぶことに一抹の不安を感じていた。
「選ぶ……できるかな」
「不安ですか?」
「選んだものがダメだったら」
「それなりに心配してたあの人がそこまで非情だとも思えません。それに「決断しなければならない時がくる」と言ってるくらいですので、そういった行動はむしろ喜ぶと思います」
「そう……かな」
「こちらのことは難しく考えずにこう考えてください「お母様のためにやる」と」
「お母様のためにやる……」
オッシー何気なく言ったその言葉がマリーナを不安にさせる。マリーナはミーナに愛されている自信がなかったが、それでもミーナを嫌うことはできなかった。それは今までの育ててくれた恩もあったし、マリーナの人格形成に大きく関係しているのもありそこを否定してしまえば、今まで積み重ねてきたもの全てを否定することにつながってしまうという側面もあった。ある意味で自己保身のためという理由もあり、ミーナに「好きになってほしい」という思いよりも「嫌われたくない」という思いの方が強かった。そのため、ミーナに嫌われないように行動してきた。そんな彼女が初めて好かれるという意味でミーナのために行動するそれはマリーナにとって未知の経験であった。
「……ルミナ」
「どうしました?」
「もし失敗しても味方でいてくれる?」
マリーナはその行動を肯定する人間を欲していた。そしてその矛先はオッシーに向いていたのだ。「私の存在を認めてくれる?」という意味をこの質問には含んでいたのだ。
「当たり前じゃないですか!私はいつでもお姉様の味方ですよ!」
オッシーは笑顔で答えた。マリーナはオッシーが質問の意図を理解していないということを薄々察していた。ただし、その言葉に嘘は存在していないことも伝わってくる。「いつでもお姉様の味方」これが嘘ではないことにマリーナの心は救われた。だからこそ彼女は自信を持って決断する。
「分かった!その作戦乗った!」
さて、その決断を聞くや否やオッシーはマリーナを抱きしめる。
「ありがとうございます!」
「もう、甘えん坊ね」
「えへへ……身長130.6cmです」
オッシーの言葉を聞いたメイドはその数値メモっていく。その行為にマリーナは困惑する。
「え?」
「動かないでください。ウエストは……」
「ちょ、ちょっと!」
「なんですか?」
「なにするのよ!?」
「コスプレのための身体測定ですよ」
「なら抱きつかなくでもいいでしょ!?」
「私のハグで人のサイズ分かるんですよ」
「なにその特技!?」
「それに……お姉様の抱き心地控えめに言って最高なので」
「そっち本音よね!?」
「お姉様が悪いんですよ……」
「私今回ばかりは悪くないでしょ!?離れなさい!」
「いやです!ずっと一緒です!」
「やっぱりこの子怖いよー!」
この瞬間、マリーナは自分が決断したことを少しばかり後悔した。結局、マリーナはオッシーの部屋で寝ることになった。朝になるまでオッシーが離れることはなかったのだった。
【実況席ハイライト】
調「……湯気が邪魔すぎる」
PC「これエロゲじゃないので」
調「そうだけどさ……バグってそうなることも」
PC「あってたまりますか!」
調「だって基本的に18禁ばかり作るじゃん」
PC「Gがつくタイプのですがね」
調「もしかしたら隠しデータでそういうのが」
PC「あってたまりますか!……いやないよね?、」