第二話 お世話係
この物語は分かりやすさの都合で、
ゲーム本家ルミナ=ルミナ
中身押田瑠美のルミナ=オッシー(地の文のみ)
※会話は『ルミナ』表記のまま
とさせていただきます。ご了承ください。
【そうなるよねぇ】
マリーナの部屋に戻ったマリーナとオッシーはミーナにゴートと共に説教されていた。死にかけたのだから当たり前である。むしろ、説教しない方が問題である。
「ルミナ、まず、マリーナを助けてくれたことは感謝するわ。あなたが転生者だということも一応飲み込むことにする」
「えへへ……」
「でもその勢い任せの行動は改善しなさい。貴族の世界はそれをよく思わない人も利用してやろうという人もいるのだから、今回だってそれが原因の部分もあるのだから」
「うっ……善処します」
「確約しなさい」
「だって、それができたら苦労しないですもん!」
「だってもへったくれもない!口答えしない!」
ミーナの対応はこれでもゲームの時よりマシになっている。ゲームではルミナを人としてすら扱っていなかった。ルミナのことを相手にしないし、ことあるごとに嫌味を言ったり、メイド経由で嫌がらせをしていた。その結果、ゴートとの仲が悪くなり、学園編では別居状態になってフェードアウトしていく。それに比べたら今のミーナはオッシーにちゃんと説教している時点で親らしさが増している。それは、オッシーのマリーナに対して好意全開な部分が「感情的には難しいが、向き合うだけの価値がある」とミーナに思わせたからである。
ミーナは続いてゴートに視線を送る。やはりゴートに対しては思うことが山ほどあった。
「ゴート、あなたはもっと責任を持ちなさい。信頼しているとはいえ、娘が危険な目にあうことを了承するのは親として愚かだということを自覚しなさい。あと大切なことは早めに伝えなさい」
「前者は全面的に認めるが、最後のはミーナがルミナを認めないと」
「にしたって前日に報告は認める以前の問題よ」
その発言を聞いたオッシーは仰天し、ゴートに詰め寄った。
「え!?そんなギリギリに伝えたんですか!?通りで妙に疎外感を感じたわけですよ!なにしているんですかお父さん!」
「……どちらにせよあなたの態度には距離置かと思うわ」
ミーナはため息を吐いた。
【養子計画】
オッシーを養子として受け入れる話は実は3年前から計画されていたことだった。
「そんなに恋を忘れられないのなら、一回腹を割って話してきてください!」
「ま待て!心の準備が!」
「やらない後悔よりやる後悔です!」
当時4歳だったオッシーはお忍びでカラル村に足を運び、リーザを遠くから眺めていたゴートの背中を押してリーザと話す機会を作ったのだ。その後、会話のキャッチボールがうまくいかない2人にヤキモキしたオッシーが仲介役を務めることになったり、かつての恋のライバルと本音をぶつける殴り合いをしたりと色々あり、ゴートとオッシーの心理的障壁は取り払われていた。その時にオッシーの人を強引に引っ張る力や幼女離れした戦闘力の高さを見抜き、
「この才能を活かせる環境に連れていきたい」
と養子の話をオッシーとリーザにも伝えていたのだ。
責任感と後ろめたさで強引に引き離したゲーム版とはえらい違いである。家族編ではここの問題解決が山場になるのだが、それを早期に解決させることができたのはオッシーの強引さがあってこそなのだ。『王立学園物語〜Love Justice〜』のキャラクターはとにかく本音を話さない・話そうとしない・話す環境がない。そのため、無理矢理引っ張るオッシーがフィットするのだ。彼女は人によって好き嫌いがはっきり分かれる典型例だ。生前はそのバグった距離感と後先考えない行動で一部のもの好き以外に距離を置かれていた。(そのもの好きからは異様なまでに執着されるのだが……)そんな彼女もこの世界ならゲームで描写されている部分を把握していため、強引な行動力が有利に働いたのだった。
養子の話は意外とスラスラ進んだ。そのときにオッシーは身の上を明かしていた。ゴートは、その話をすんなりその話を受け入れた。そして、オッシーが7歳になるときに養子としてライクディクト家に入るという約束を結んだのだ。
【話は戻って】
オッシーはゴートになぜ早く伝えなかったのか問い詰める。実行までの数年間にオッシーは趣味と今後のマリーナとの関係構築のためにマリーナの布教活動をより活発化し、故郷のカラル村はもちろんライクディクト家にまで波及させたのだ。にも関わらず、小学生の如く大事なことをギリギリに伝えた行為で破綻しかけたことにオッシーは激怒していた。
「元商人なら報連相の大切さ分かるでしょうが!」
「落ち着いてくれ!早め伝える分家庭内が凍りつく期間が長引くんだ!」
「人のせいにすんな!」
「待ってくれ!話せば分かる!」
「話さないからこうなったんでしょ!」
そう言ってオッシーはゴートを蹴り倒した。それを見たミーナは「くだらない……」と、内心呆れながら、気持ちを代弁してもらってスッキリした気分になった。
「お母様?」
マリーナは怖い笑顔をしていたミーナに恐る恐る尋ねる。いまだに醜態を晒して失望されていないか心配になっていた。マリーナはミーナの下で育ってきたと言っても過言ではない。マリーナは母親から失望されることを何よりも恐れていたのだ。ミーナはマリーナを見ずに、淡々と話し出す。
「そして、マリーナ、みっともない姿見せたのは別に気にしてないわ。外でしたら説教でだったけど」
「……ごめんなさい」
「それより、生き恥晒したから死のうとするとは愚かとしか言いようがない、一家の恥だわ」
「……はい」
マリーナは「お母様に見限られた」と、しおらしくなり、大粒の涙を流す。そんな彼女にミーナは低く冷たい声で、
「マリーナ、貴族の心得その1」
「……『貴族は弱みを見せない。涙を見せない』」
マリーナは必死に涙を拭うが、止まることなく涙が流れていく。ミーナは何も言わずにそれを見つめている。
【つまりは押し付け】
そんなマリーナの手をオッシーは握った。
「家族の前でくらい泣いてもいいじゃないですか」
そう言って、優しい笑顔を見せる。メイドたちは静かにその場から立ち去る。
「う、うるさい」
悪態をつくものの、マリーナはオッシーを抱きしめ、声にならない声で泣いていた。そんなオッシーは彼女を優しく受け止めた。ゴートはそんな2人を撫でる。そしてオッシーとゴートはミーナに冷たい視線を送った。
「な、なによ」
「「言い方」」
「お黙り!」
「「簡単に死のうとしないで」って伝えればいいじゃないですか」
「まわりくどいし、一言多いんだ。「一家の恥」とか、マリーナに背負わせすぎなんだ」
「こういうことが蓄積して爆発した結果、破滅するんだと思いますよ」
「あるなそれ」
「好き勝手言わないでちょうだい!」
元商人のゴートは元王族のミーナに頭が上がらない。家庭内ヒエラルキーの最下層にいるゴートはミーナに思うことはあれどそれを伝えることは稀であった。しかし、オッシーが加わったことでゴートは便乗して意見を言えるようになったのである。
「マリーナ様と腹を割って話したらどうです?」
「そうだそうだ」
「人の教育に口を出さないでちょうだい!」
「「えぇー」」
ミーナはオッシーがいることによって調子が狂ったままだった。様々な事情を抜きにしても本音を隠し通すスタイルのミーナはオッシーと相性最悪だった。「確かに価値はある。ただそれと同じくらいリスクがある」というのがここまでオッシーと関わってきたミーナの感想である。
「……でも、見直さないといけないのは事実よ。マリーナもいずれ決断しなければならない時が来る。そのときに今みたいなことが防がないといけないわ……顔を上げなさい、マリーナ」
マリーナは涙をグッと堪えて、顔を上げる。ミーナは真剣な眼差しをマリーナに送る。
「マリーナ、これからルミナへの貴族教育を一任するわ。あなたなりに考えて、責任を持ってルミナに貴族のいろはを叩き込みなさい」
ミーナは苦手なオッシーと一定の距離を保つためにマリーナとマリーナのオッシーからの好感度を利用した。これはオッシーと距離を置きながら自身の管理下に置けることとマリーナの成長の一石二鳥の策略だった。それでもマリーナは「まだ見捨てられていない!」とホッとする気持ちと「これが最後のチャンスだ」という覚悟を決める思いが入り混じる。そして、涙を拭いて覚悟を決めた表情をする。
「はい!分かりましたお母様!」
「よろしい。期待してるわ」
マリーナはやる気に満ち溢れ、オッシーに向かって、
「ルミナ!今日から付きっきりで手取り足取り教えるわ!覚悟しなさい!」
と宣言する。これは「私の指導は厳しいから覚悟しなさい」という、姉の威厳を示すつもりで言ったのだが、オッシーからしたらご褒美以外のなにものでもなかった。
「お姉様〜!」
「くっつかないの!貴族の心得その1!『スキンシップはほどほどに』よ!」
「はい!分かりました!」
「なら離れなさいよ!」
この2人の光景を見て、ミーナは「うまくいったわ」と内心笑っていた。そんな彼女の内心をゴートだけは見透かし、早々に直接向き合うことを諦めたミーナに悲しげな視線を送っていた。
【実況席ハイライト】
調「あーあ、やっぱりミーナとはこうなるか」
PC「彼女も生きてるので仕方ないです」
調「そうだよねー、なろうみたいに最初から好感度マックスとはいかないか」
PC「まずあの問題解決しないとミーナの心は溶けませんよ」
調「あれか……あれって解決できない仕様じゃない?」
PC「容量の都合ですね……押田さんだけだと厳しいかもしれませんね」
調「だけって……あー、そういうこと?」
PC「そういうことです」
調「これは他の動向も見ないとダメだな」