第86話 不敵の妃
最初に樹が飛びかかった。
2人はしばらくの間、杖と棍で切り合いならぬ打ち合いをしていたのだが、その際の立ち回りからしてデモリアはかなり杖の扱いに慣れているらしい事がわかった。
何しろ、1.5mくらいある樹の棍の攻撃を、1mもない長さの杖でほぼ完璧に受け止めているのだ。
さらに、デモリアは技を出してきた。
「杖技 [ルーンストライク]」
杖に一筋の青い光をまとわせ、それを先端に移動させて魔力の刃にして、槍のように突くという技だ。
樹はどうにかしのいでいたが、デモリアは続けて別の技も出してきた。
「[鳩尾割り]」
杖をまっすぐに振り上げる攻撃を受け、樹は後ろに倒れた。
俺はとっさに炎を撃ち出してデモリアの視界を塞ぎ、その間に樹を助け出して追撃を防いだ。
杖という武器種には地味な印象があったが…認識を改めた方が良さそうだ。
「くっ…余計な真似を」
デモリアがそう言った直後、奴に光の魔弾が襲いかかった。
結界を張って防いだが、もう少し反応が遅れていれば被弾していただろう。
「卑怯にも程があるやり方ですわね…呆れたものです」
「お前には言われたくないわ…陰湿で卑劣で、外道な事をしてる奴に!」
吏廻流が珍しく怒っている。
「あら、失礼な。あなたが、私の何をご存知だと言うのです?」
「全てよ…お前が王にしたことも、この国の人々にしたことも、全部私は知ってる!」
「そうなのですか?では、言ってごらんなさい」
「お前はこの国の辺境の出身の戦士。半年前、たまたまエウル王の目に止まり、そのまま王妃となった。でも、それらは全てお前が仕込んだものだった」
にわかに驚いたが、何も言わずに続けてもらった。
「お前は、本当はサンライトの呪術師。エウル王への嫁入りも、念入りに計画して起こした事だった。そして王妃となったお前は、まずこの国の土地に呪いをかけて、食べ物を採れなくした。そうして国の人々を飢餓状態に追い込み、さらにメゾーヌの人々には異形を取り憑かせて自殺に追い込もうとした!」
土地に呪いをかける…にわかには信じられないが、あり得なくはない。上位種族ともなれば、出来る事のスケールも違ってくる。
あと、あの異形に憑かれた人達もこいつが指図したものだったのか。
「王にも呪いをかけ、秘密裏に作った隠し部屋に監禁した。そうして王が病に倒れたと皆に嘘を言い、自分が王の代わりをやるという体で国を乗っ取った。でも、これらは全てお前の主目的を達成するための下地作りでしかなかった」
やはりそうだったのか。
これが一番気になる所だ、じっくり聞こう。
「まずエウル王に嫁いだのは、この国を乗っ取るため。国の民達を飢えさせて気力と体力を奪い、さらに国内でも優秀な戦士が集まるメゾーヌの人々を自殺させようとしたのは、国を乗っ取られた事に不満を感じた国民がクーデターを起こすのを防ぐため。そして、この国を乗っ取ったのは…!」
吏廻流は一度言葉を切り、鋭い目つきでデモリアを見た。
「この国の者全ての命を奪うため!…そうでしょう!」
「…」
デモリアはしばし黙り込んだ後、不敵に微笑んだ。
「お見事です。まったくもって素晴らしいですわ、司祭様」
俺は、思わず口に出した。
「何のためにそんな事を…!」
「ふーむ、そうですね…少しだけお教えしましょう。『かつての偉大な存在を蘇らせるため』…」
何の事を指しているのかわからなかったが、なんとなくそれを完遂させてはいけないような気がした。
だから、こう返した。
「そうか…なら、全力で止めてやる!」
「ふん…やはりそう来ましたか。まあ予想通りではありましたが。…哀れなものです、わざわざ生き急ぐなど」
デモリアは杖を右胸の前に構えた。
「ですが、あなた方がそれを選んだなら、私は口出ししません」
何やら、急激に奴の魔力が膨れ上がるのを肌で感じた。
そして…奴は大技を出す。
「司祭様方、あなた方に私の力をお見せいたします。奥義 [淵源黎・八百万呪霊]」
無数の青や黒、緑の人魂のようなものが現れ、あたりを飛び交う。
そんな中、奴は杖を振るった。
素早く苺と吏廻流が結界を張ってくれた。
だが、念の為俺も結界を張る。
なんとか防いだが、食らっていれば危なかった。おそらく、この場にいる全員がやられていただろう。
「いかがですか?私の力は…」
デモリアは苺達ににんまりと笑いかける。
その様子は、まさしくラノベの悪女そのものである。
「一般の異人とは一線を画している…やはり上位種族ね」
吏廻流はそう言って一息整え、そして続けた。
「でも、上位の異人ならこっちにもいる。お前にだけ大きい顔はさせないわ」
「ほう?あいにくですが、私は司祭など怖くはありませんわ。…あなた達の調べはついております。『件の冒険家』一行に、あなた方二人の他に上位の異人はいないはず。よってあなた方を仕留めれば…」
「そうか…?」
「ええ…」
ここで俺は、技を繰り出した。
それも、覚えたばかりの新技を。
「奥義 [火剣の舞い]」
武器屋で加工してもらった剣を抜き、火の力を秘めた斬撃を6回繰り出し、油断していたデモリアを攻撃した。




