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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
3章・アルバンの血戦

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第83話 昇格・守人

光が消え、うめくような秀典の声が耳に入ってくる。

だが、もはやさして重要な事ではない。

全身を包む不思議な感覚。それを、ただ呆然と味わう。

一体何が起きたのか。

今はもう手元にないあの円盤は、何だったのか。

俺は、どうなったのか。


それらの全てが、何となく察せられた。



「な…何があった!?」

渕部と康介が何やら喚いている。

まあ、何が起きたのかわからなければそりゃ焦るだろう。

今の光は、この建物内全てを照らすほどのものであった。

その中心にいたのが俺であるのだから、俺に何があったのか気になるのは当然だ。


俺は、ただ一言だけ言った。

「…『昇格』だ」


「え?」


「この世界に長くいるなら、わかるだろ?」


「…あっ!もしかして!」

渕部はわかったようだが、康介はまだピンと来ていないようだったので「種族の昇格だ」と言ったらわかったようだった。

「それって、上の種族になった…ってことか!?」


「やっとピンと来たか」


「でも…なんでだ!?あっ、まさか!」

康介は、主人の方を見た。

「おっさん、姜芽に何渡した?」


「『守り手の勲章』ってやつだ。防人にとって重要なアイテムだとか聞いたが、実際どうなんだ?」


「ああ、超有用だ。感謝する」

俺がそう言うと、主人はそうか、そりゃよかった、と笑った。


守り手の勲章。

それは異人が昇格する際に使用される「昇格アイテム」の一つで、防人専用。

防人を上位種族である「守人(もりびと)」に昇格させる効力があり、一定以上の戦闘経験を積んでいる防人の手に渡るとその効力を発揮する。

俺が使う基準を満たしていたのも驚きだが、こんなものがここにあったのにも驚く。

だから、俺は聞いた。

「『守り手の勲章』は、防人の昇格アイテムだ。なんでここに?」


「何年か前、ここに剣の修理の依頼に来た冒険家が置いていったんだ。冒険の途中で手に入れたけど、使わないから…ってな。けどうちでも使えないから、とりあえず置いてたんだ。まさかこんな形で使える人が来るなんてな」


「俺も正直驚いてる。まさか使えるとは思わなかった」

康介が恐る恐る言った。

「なあ…一応確認、なんだけどよ、これで姜芽さんは守人になった…んだよな?」


「ああ、間違いない」

守人。防人の上位種族であり、多くの戦いを経験し、その全てで大切なものを守り抜いた防人が昇格する種族。

外見上の変化はほとんどないが、防人を上回る戦闘力と魔力を持ち、複数種類の武器を使いこなす事もザラにある。

また亜種も複数存在し、星術と呼ばれる術や占星術を扱う星守人、空を翔け風の術を自在に操る空守人(くうもりびと)、その土地固有の文化や風習を守る事を責務とする地守人などが存在する。

そしてそのいずれも、防人より高い能力を有している。


…と、一瞬のうちに怒涛の情報が脳内に入り込んできた。

さらに、心なしか魔力が底上げされ、戦闘でも今までより舞えるような気がする。

これが、昇格ボーナス的なやつだろうか。


「なんかよくわかんないんだけど、一瞬のうちにエグいぐらいの情報量が頭に浮かんできた」


「『昇格の祝福・知』だな。上位種族として必要最低限の本能や知識が自動的に頭に刷り込まれるんだ」

解説してくれた渕部の方を見て、それとなくこんな言葉を口走った。

「剣はないか?今なら、振るえそうな気がする」


「え、剣?」

渕部は辺りを見渡し…そして武器屋の主人に言った。

「なあ、なんか剣ないか?」


「ちょうど、たった今打ち上がったのがある。お前さん方に頼まれたやつだ」

それは、緑の柄に見事な白銀の刀身を持つ長剣だった。

受け取って観察してみると、直刃の直剣で、魔力を通しやすい材質で出来ていることがわかった。

また、剣自体は比較的軽い…少なくとも斧に比べれば。

「どうだ?」


「ふむ…これなら、扱いやすそうだ」

俺は剣を握りしめ、刃に魔力を通してみた。

すると、すぐに刃全体が燃え上がった。

「おお…!」


「やっぱり、魔力の伝導性は十分だ。店主さん、これ何て名前なんだ?」


「ん?いやー、特にはないな。なにせ、朽ちた剣から打ち上げたばかりのシロモノなんでね」


「そうか。なら、『磨かれた剣(シウダーメイン)・炎炎』なんてのはどうだ?」


「え、なんでその名前知ってんだ?」

磨かれた剣(シウダーメイン)とは、朽ちた剣から復元され、研磨して使えるようにした剣につけられる銘である。

シウダーとは「磨く」を意味する「seumu(シウム)」に過去形の「doru(ダール)」を組み合わせたもので、メインとはそのまま剣を意味する。

どちらも、この世界の公用語であるメテラル語に由来する言葉だ。


つい最近こちらに転移してきたばかりで、メテラル語にも疎いはずの俺がその銘を知っている事に、秀典は驚いたのだろう。

だが、俺は守人になったのだ。上位種族として、恥じない程度の知識は自然に習得した。

それを説明すると、秀典は納得したようだった。


「よくわからんが…この剣、よく見るシウダーメインとはなんか色々と違うし、独自性がある名前をつければいいと思うぜ」

店主もそう言ってくれたので、決まりだ。

「よし!こいつは『磨かれた剣(シウダーメイン)・炎炎』で決まりだ!」



店主に色々と礼を言い、店を去ろうとしたら、裏で素振りでもしていくといい、と言われた。

何でも、ここでは買った武器の試し振りを裏庭でできるサービスがあるらしい。(つくづく)ありがたい事をしてくれる店主である。


剣を試し振りしてみたのだが、自分でも信じられないくらい手に馴染んだ。

剣を握るのはほとんど初めてだが、とてもそんな気がしないくらい軽々と振り回せた。

そして、それは俺の思い上がりや気のせいではない。

現に、俺の素振りを見た秀典達は驚きの声を上げていた。


なんとなく剣に火の魔力を流して適当に舞ってみたら、思ったより派手な技になった。

俺はこれを「奥義 [火剣の舞い]」と名付けることにした。



思いがけなく昇格が出来た上、新しい武器と奥義まで手に入った。

本当に、またとない幸運だ…というか、この調子ならこのままこの国を救えるかもしれない。

思わず、そう思ってしまった。

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