第4話 技
「じゃ、次だな」
樹はそう言った。
「次?」
「ああ。技はまだ使えないだろ?」
「技なんてのもあるのか。俺にも使えるのかな?」
「もちろんだ。武器を扱う者はみんな扱えるものだからな」
技…か。ますます面白くなってきた。
「姜芽様の技ですか…気になります」
キョウラも期待してくれているようだ。
「どうやって出すんだ?」
「その前に、一応説明するよ。技ってのは…まあ、お察しだとは思うけど、武器を使った特殊な戦術だ。武器の種類ごとに多種多様な技があって、体術以外の技は技の名前の前に『剣技』とか『斧技』って感じで武器の種類を指す銘が入る。まあ、実際に使う時は言わなくてもいいものだけどな。
基本的には各武器の技はその武器でしか使えないが、一部、別の武器種で似たような技がある技もある。そして技は、さらに効果別に種類が色々あって、攻撃用の技もあれば、強化用、防御用、回復用の技もある。
どの技をどのタイミングで出すか、が大事だな」
まあ、この辺はよくあるRPGとかと一緒だ。
「で、技を覚えるには二通りある。誰かから教わるか、自力で生み出すか、だ。
ただまあ…基本的には、自力で編み出すものだと思ってもらえばいい。戦いの中で、パッとひらめく。それが技だ。
手強い相手と戦うほど、多くの技を目の当たりにするほど、色んな技を思いつくはずだ」
なるほど。
このあたりも、ありふれたRPGみたいだ。
「てことは、俺はこれからいろんなやつと戦ったり、技を教えてもらったりして、技を身につけていけばいいってことか」
「そうだな。でも、パッとひらめく技ってのは、往々にしてもう広く認知されてて、皆に使われてる既存の技だ」
まあ、それはそうだろう。
でも、それでは面白くない。
「あー、そっか。そうだよな。でも、それだとなんか…つまんないな」
「その通りだ。安心しな、この世界にはオリジナルの技ってのもちゃんとあるよ」
「…本当か!?」
「ああ。『奥義』って言ってな、既存の技や術…つまり魔法に、個々人の異能や発想をかけ合わせて編み出したオリジナルの技…っていう概念が、この世界にはあるんだ。それを使えば、誰かと技が被ることもない。そして、普通の技を使うよりも有利に戦える」
奥義…か。響きがめちゃくちゃカッコいい。
いかにも必殺技、って感じの銘である。
「奥義…カッコいいな。それは、どうやって編み出せばいいんだ?」
「落ち着け。まず、技とか術を覚えないことには始まらない」
「そうか…でも、技ってどんな感じなんだ?」
「どんな感じ…って言われてもな。ただまあ…初めて使った時は快感だったけどな」
「だろうな。で、えーと…要は、戦ってれば思いつくんだよな?」
「そうだな。…てか、ここまで盗賊と戦ってきて何か思いつかなかったか?」
「…全く」
樹はあからさまな反応は見せなかったが、それでも「えぇ…?」という感じになった。
なんだよ、そんな引くような事なのか?
「まあ、これから身につけていけばいい。キョウラ…だったな。君の武器は何なんだ?」
「剣です」
「そうか…修道士で剣使いは珍しいな」
それはわかる気がする。
こういうキャラって、なんとなくメイスとか使ってるイメージがある。
「私は、剣士の騎士の家系の出身でして」
「え、騎士の家系なのに修道士として生まれたのか?まあ、あり得ない事ではないけどさ…」
ちょっと、意味がわからないので質問した。
「ちょっと待て…剣士、って異人じゃないのか?」
「はい…剣士はあくまでも肩書なので」
ますます意味がわからない。
「えーと…それはつまり…?」
「あのな、姜芽。剣士ってのは『剣を扱う者』の呼び名…ってか肩書で、種族名じゃない。
騎士って種族は存在するから、キョウラの家系は「騎士」の家系で、その騎士が「剣士」って呼ばれてる…ってことなんだよ」
何ともややこしい…というか、分かりづらい。
「分かりづらいな…いっそ剣士も種族でいてくれればいいのに」
「それはまあ…な。とにかく、キョウラは剣の使い手なんだな?」
「はい…まだ未熟ですが」
「なら、姜芽には技、教えらんないな。
あいにくだが、オレも棍使いだから斧技はなあ…」
そうかそうか。
つまり、俺は自力で技を身につけてかなきゃないってことか。
「あ、でも、訓練相手になることくらいはできるな。
…よし、姜芽。オレと1戦交えよう」
「は?…あ、訓練ってそういうことか」
つまり、実戦形式の模擬戦みたいなのをやって、それで技を思いつくか試そう…って事なのだろう。
「そうだ。技はないよりあった方が良いしな」
「そうか…で、どうやるんだ?」
「普通にやろう。まずはオレが攻めるから、姜芽はそれを受け止めろ。そしてそこから反撃して…って感じだ」
「そ、そうか…」
樹はおもむろに距離を取り、
「それじゃ、行くぞ!」
と、飛びかかってきた。
突きを何とか受け止めたが、樹はぐるりと回転してもう片端で突いてきた。
「うあっ…!」
「姜芽様…!」
地味に痛い。
たかが棒きれと油断してはいけないようだ。
休む間もなく、樹は棍を突き出してくる。
その瞬間、俺の頭に電光の如き閃きが走った。
そして、キョウラを助けた時と同じように、自然と体が動いた。
「斧技 [横弾き]!」
技名を叫びながら、斧を横にして刃の側面で攻撃を受け止めた。
「…!」
「おっ、さっそく出たじゃんか。なら、これはどうだ!」
樹は棍を普通に横に払った…と思いきや、棍を伸ばして片足を軸にしてぐるぐると回転し、連続攻撃を仕掛けてきた。
これは受けきれずに食らってしまった。
だが、痛がっている暇はない。
すぐに、斜め下から上に払ってきたからだ。
「…!」
再び脳裏に閃きが走る。
俺は左にしゃがんで棍をかわしつつ、斧を振るう。
「斧技 [水平割り]!」
やったか…と思ったが、樹は棍を縦に持って防いできた。
「…さすがにパワーがあるな。なら、次はこうだ!」
次に樹は、さっき盗賊戦でやったように華麗に棍を振り回してきた。
これは避けられない…と思いきや、自然に体が後ろに倒れ込んだ。
そして回転が終わったタイミングで、素早く立ち上がり、
「斧技 [ブレイクムーン]!」
華麗な孤を描きながら斧を振り下ろした。
「うぉっ…!」
樹は斧を受け止めはしたが、大きく後退した。
さらに俺は、すぐに斧を小脇に構え、
「斧技 [アクスカッター]!」
樹目掛けてほうり投げた。
樹はジャンプでそれをかわす。
そして着地した所に斧が戻ってきた。
背後を刺すかと思いきや、少し下を飛んで樹の足を切りつけた。
そして斧は、見事俺の手に戻ってきた。
「姜芽様!」
キョウラが叫んできたが、それはさっきのような俺の身を心配するものではなく、驚嘆のものであった。
「…樹、大丈夫か?」
「まあな…。すげえな、初めてでこんなにやれるなんて…」
「すごいか?」
「ああ。オレなんて、初めて技を出したときは1つ覚えるのが精一杯だったぜ」
「覚える…?でも俺は、一回ずつしか出してないぞ」
「技は一度でも閃けば、忘れる事はない。
戦いになれば、自然と繰り出せる」
「てことは、俺は今ので…」
キョウラの方をチラッと見ると、キョウラは「四つです、姜芽様」と言ってきた。
「四つ、だな。四つ技を覚えたことになるのか」
「そういうことだな。これなら、盗賊どもと戦っても全然問題ないだろう」
なんだろう…気分が昂る。
喜びと興奮、そして驚きが入り混じり、何とも表現しがたい感情が俺の中に渦巻く。
「しっかし、今のはなかなかだったよ。キョウラ、回復頼めるか?」
「はい、樹様」
キョウラが樹を回復してるのを見て、思った。
これ、ひょっとして初っ端から結構良い仲間持てたんじゃね?