第75話 南の山へ
かくして俺達…俺、メリム、秀典、康介、キョウラ、の5人は南の山へと向かった。
山の中は木々が鬱蒼と生い茂っており、日の光はろくに入ってこない。しかもあちこちに倒木やゴミがあり、かなり荒れていた。
しかし山自体の傾斜は比較的緩やかで、道もある程度しっかりしたものがあったため、登りやすくはあった。
秀典やメリムの話によると、この山は昔からキノコや山菜などの食べ物がある事で有名で、多くの人が登るために自然と道が出来たのだという。
しかし、それ故に食料難になってからはどこよりも早く食べ物探しの舞台となり、多くの人々がこの山を訪れた。
その結果山の作物は消え、山には人々の出したゴミが散らばった。
そして、いつの間にか町の人々は山に寄り付かなくなった…らしい。
「となると、なんで異形が住み着いてるんだろう?」
「邪霊系の異形は食事の必要がありません。なので、どこにでも巣を作る可能性があります。特に、この山のように人気がなく、日当たりが悪い場所は、彼らにとって絶好の住処なんです」
「キョウラ、妙に詳しいな」
「邪霊系や悪魔系の異形は、人間や異人に取り憑いて悪事を働いたり、憑依対象の人物に悪影響を及ぼしたりする事があります。そして、それを祓うのも私達の役目なんです」
そんな事も出来るのか。やはり修道士という種族は、どちらかと言うと聖職者に近いものであるようだ。
「異形って、人に取り憑くのか。でも、今まで行った町ではそんなの見たことないよな?」
「悪魔系はまだしも、邪霊系の異形は日光を嫌うので、昼間はほとんど現れないんです。それに、彼らは必ずしも他者に憑依する訳ではありません」
そこでキョウラは杖を出して魔法を唱え、道を塞ぐ倒木をふっ飛ばした。
「あ、そういう事か」
そうして進んでいくと、しばらくして謎の化け物が一気に複数体現れた。
それは紫色のドロドロした体を持つ、不定形のスライムのような姿をしていた。
「なんだ…?」
「『ドゥラム』、低級の邪霊系異形です!…私が片付けます!」
キョウラが「ブライト」と唱えると、異形達は一気に消滅した。
「おお…やっぱり光の魔法には弱いんだな」
「今使ったのは白魔法なので、厳密には光魔法ではありませんが…まあ、そうですね。それから、彼らだけではありませんが、邪霊系の異形には物理攻撃は効きづらい傾向があります。みなさん、彼らには極力術や魔法で攻撃するようにしてください」
「わかった!」
それで、俺はふと気になった。
秀典達って、術使えるのか?
「使えるに決まってんだろ?…まあ、あんまり強いのじゃないけどな」
聞いた所、秀典は風、康介は地の術を使えるらしい。
秀典はまだしも、康介は…ちょっと、柳助と被る所がある。奴は地属性の術を使い、武器はハンマーを使うらしいが、これは見事に柳助と同じだ。
強いて外見的な違いを上げるとすれば、体型か。
柳助はどちらかと言うとガチムチに近いが、康介は…まあ、はっきり言って太っている。
これも昔かららしいが…あまり深くは突っ込まないでおこう。
そのうち、また異形が出てきた。
「今度はおれがやるぜ!」
秀典が前に出たかと思うと、奴は目の前で手を交差させて術を放った。
「風法 [翔りの渦]」
緑っぽい色の風の渦を巻き起こし、そこに異形達を吸い込んでまとめてふっ飛ばす。
それで、異形は一気に片付いた。
「おお、やるな」
「異形が弱かっただけだ。おれと康介は魔力は全然ないからな」
「ちょ、何言ってんだよ!」
康介は不平を言ってたが、正直予想通りである。
パワー系のキャラって、魔力は低いイメージがあるし。
それからしばらくは、適当に進んでは遭遇する異形を蹴散らしていた。
ここでもメリムは活躍してくれた…彼女の術は火属性らしく、一度に複数の火球を操って複数の敵を攻撃したり、口から火柱を吐き出したりしていた。
さらに、大剣に火をまとわせて斬りかかったり、ムチを赤くなるほど熱くして攻撃したり…といった芸当をやってのけていたのには、驚きと同時に謎の親近感を覚えた。
ついでに、俺と彼女とで連携を取って攻撃を仕掛けたりもした。
メリムが燃え盛る大剣で切り払った所に俺が同じく燃え盛る斧で追撃をする、あるいは俺が手から炎を噴き出して焼き払った所にメリムが炎の斬り上げを決める…といった感じである。
これが、仲間と協力して戦ってる感があり、かつ演出の派手さもあって結構気に入るものだった。オーバーキルのような気もするが…カッコいいからいいとする。
ちなみに、周りの木々に火が燃え移る事はなかった。
ちょっと危ないかもな、なんて思ってたのだが、意外と燃えなかった。
生木は燃えにくいというが、本当らしい。
なんなら倒木ですら、俺の火に2秒ほど炙られても燃えなかった。
山火事にならなくて、良かった。
そうして、ついに異形が姿を見せなくなったのだが…
「まだ、異形の気配がします…」
メリムは警戒を続ける。
「まだいるのか?…でも、どこに?」
「…」
メリムは目を閉じ、奥へと歩いていく。
それはまるで、何かに導かれているかのようだった。
「この先です。この先にまだ、異形がいます」
大剣の切っ先が向けられたのは、さらに上へと続く道。
「この先…ってことは、山頂か?」
秀典が言うには、この先はもう山頂らしい。
ここまで結構な高さを登ってきたし、山頂にはここまでとは違う種類の木々が生えていたりするのだろうか。
「この先に、今回住み着いた異形のリーダーがいるはずです。気を付けて行きましょう」




