第71話 異形の鬼
まずは樹が飛びかかる。
水をまとった棍の一撃は、見事に入った。
血が飛び散り、結構いい攻撃なように思えた…のだが、異形は割と平気そうな顔をしていた。
そこで、樹は続けて乱舞攻撃を繰り出した。
ぐるぐると華麗に回転し、 5回の攻撃を見舞ったわけだが、それでも異形にはさして効いていないようだった。
「こんなものか?」
樹が攻撃を止めた途端、明司が突っかかる。
これはきっと、技だったのだろう―突っ込む速度が結構なものだった上、突き出した剣から魔力を感じられた。
そして、異形が金棒のような武器でそれを止めたところで俺が飛びかかる。
だが、異形は俺の攻撃も普通に止めてきた。
俺達と押し合っている間、異形は黙っていた。
二つの黄色い目が、無機質に俺達を見つめてくる。
だが、言い換えればこいつは今動けない。
この隙に、誰か攻撃をしてくれれば…と思ったら、背後に誰かが攻撃しようとしている気配を感じた。
よかった…と思った直後、俺達を抑える異形の力が一瞬弱まった。
かと思ったら、次の刹那俺達は派手に吹き飛ばされていた。
「…」
敵の攻撃で吹き飛ばされて木や壁に背中から激突する…というのは漫画なアニメではよく見る光景だが、実際になると普通に痛い。
「う、うう…」
何やら樹のものではないうめき声がしたので横を見てみると、亮が倒れていた。
どうやら、先ほどの気配の主は亮だったようだ。
「亮、樹…大丈夫か?」
「ああ、何とかな…」
「一体、今…何があったんだ?」
「"弾き飛ばし"か…相手の攻撃を弾いて吹き飛ばす、棍の技だ」
樹が説明している間にも未菜や紗妃が異形に飛びかかるが、異形は棍棒を振り回して普通に応戦する。
そして、彼らを乱戦の中でも一人ずつ、確実にふっ飛ばしていった。
「見かけだけじゃないらしいな」
立ち上がった樹が言った。
「悪魔系のように見えるが…なかなか頑張れるじゃんか」
「ふん…お前たちにそう言ってもらえるとは光栄だ、『チーム・ブレイヴ』の冒険者よ」
その言葉に、樹は目を見開いた。
「何で知ってる」
「言っただろう?お前たちの最近の活躍は、我らの耳にも届いている。特に、最近迎えてた新入りは頑張っているそうじゃないか?」
俺のことか…と思ったが、異形は俺の方を見たりはしなかった。
「オレは正直、お前らに興味はない。だから誰が新入りかとか、そういう事はどうでもいい。だが、最近のお前らの活躍はちょっと気に食わない」
「どういうことだ」
すると、異形はだんまりを決め込んだ。
「そうか、知りたければオレを倒せ…か」
「察しがよくて助かる。だがこれだけは教えてやろう…お前らがどんなに輝かしい活躍をしようと、お前らの旅はただの冒険ごっこに終わる」
そして、異形…ガレグ鬼は、その棍を目の前に構えた。
「大したお話をどうも。だがな、その程度じゃあオレたちにはハッタリにもならないぜ」
「そうか…。ならば、こうしよう」
奴は、勢いよくこちらへ突っ込んできた。
そして棍棒を振り回しながら俺達の中を走り回り、やたらめったらに殴りつけてきた。
「"暴れ回り"か…いかにも異形らしい技だ」
亮がそう呟いた。
「炎法 [ソロファイア]」
俺が火球を撃ち出すと、ガレグ鬼も術を使ってきた。
「[シャドーボール]」
サッカーボールほどの大きさの黒い玉を飛ばし、火球とぶつけて相殺してきた。
ならば、と別の術を放つ。
「炎法 [フェルバイアード]」
二つの火球を合体させ、大きな火球にして撃ち出す術。
これは防がれることなく、普通に届いた。
「術か…だが物理で叩きのめせば良い」
ガレグ鬼は棍棒を振り上げて走ってきた。
そして俺の頭目掛けて棍棒を振り下ろしてきた…回避したが、直撃すれば頭が砕けていたかもしれない。
続けてガレグ鬼は横殴りをしてきた。
これは普通に食らい、後ろに吹き飛ばされた。
だが、まだ行ける。
「鞭技 [スネークウェーブ]」
ガレグ鬼が俺に構っている間に、亮がムチを叩きつけて奴を攻撃してくれた。
奴は俺に突っかかってきたが、奴の手に炎を伝導させて振り払った。
そして、俺は技を繰り出す。
「斧技 [ブレイクムーン]」
ガレグ鬼の体を真っ二つに斬り上げ、その上で宙返りを決めて距離を取った。
「どうした?さっきまでの威勢はどこに行った?」
「そんな言葉を発する必要があるか?弱い奴ほど、一時の有利にすがってそのようなことを言いたがる」
「確かに…そうかもな。だが、オレたちには誰にも負けないものがあるんだぜ」
樹はそう言いつつ、俺に一瞬だけアイコンタクトを送ってきた。
俺はそれから樹の腹を読み、両の膝をついた。
「姜芽…!」
「平気さ…ただちょっと、さっきのダメージが来ただけだ…」
斧を支えにし、何とか立ち上がる。
そして、震えながら斧を構える。
「ふむ…」
それを見たガレグ鬼は、俺に狙いを定めたようだった。
次の瞬間、奴は俺に突っ込んできた―棍棒を思い切り振りかぶって。
立つのにさえ苦労するほどダメージを負っているなら、あとはもう倒すのにさほど手間はかからない。
そう判断してのことだったのだろうが、それは大きな誤算である。
俺は素早く棍棒を躱し、術を唱える。
「炎法 [バーニングリング]」
5つの炎のリングでガレグ鬼の体を拘束し、技を決める。
ここで、樹と亮も同時に技を繰り出す。
「[紅蓮割り]」
「[海竜衝]」
「[昇龍打ち]」
斧で叩き割り、棍で叩きつけ、鞭で下から上に打ちつける。
その三連撃を決めきった直後、リングを急速に収縮させて追撃した。
「…」
異形はにわかに血を吐き、棍棒を落とした。
「冒険家一行…恐るべし…」
そうしてガレグ鬼は倒れ、跡形もなく消滅した。




