第69話 ゾンビ迎撃戦
適当なゾンビに少し近づき、頭目掛けて斧を投げた。
全力でもなかったのだが、頭が真っ二つになったあたり、肉体自体は脆いのだろうか。
横にいた2体のゾンビにも、火球を飛ばして攻撃した。
簡単に倒せたのはいいが、赤ではなく黒い色の血が飛び散った事ににわかに驚いた。
俺以外にも、紗妃はアルファベットの『S』のような形のブーメランを投げ、一気に複数のゾンビの首を切り裂く。
ラギルは大剣を勢いよく振り上げ、衝撃波みたいなものを起こして複数のゾンビをふっ飛ばし、さらに大剣を振り回して複数体を攻撃し、樹はやはりというか棍で華麗に舞ってゾンビを片付ける。
一方吸血鬼狩りの皆さんはどうかというと、亮はムチを使って敵を打ち払ったり、首に巻き付けてたぐりよせた所に短剣を刺したりしていた。
迅は槍で敵の頭を一突きしてから周りを払い、ジャンプして後ろの敵を頭上からまっすぐ串刺しにし、素早く槍を抜いて次の敵に飛びかかる。
明司は剣を高く掲げ、オレンジ色の光を敵に叩きつけて倒したかと思えば、さっと剣を納めて抜刀しつつ斬撃を放つ。
未菜は不思議な模様が描かれた扇を広げて舞うように振る舞いつつ斬り上げや回転斬りを繰り出し、さらに恐らくは光属性…の魔弾も撃ち出す。
そして青空は、意外にも格闘で戦っていた。
ただ流石に素手ではなく、手に鉤爪のような武器をつけてゾンビの額を貫いたり、両手でゾンビの体をX字に切り裂いたりしていた。
そうこうしているうちに、あらかた片付いた…
かに思われたのだが、それは樹の声でかき消された。
「また来たぞ!」
この村の周りには、村を囲うようにして小高い山があるのだが、その向こうからまた新たなゾンビが数体現れたのである。
「[ホールレイト]!」
未菜が複数の魔弾を放ち、今現れたゾンビを瞬殺した。
しかし、その後もゾロゾロと現れる。
「っ…!」
未菜が奴らを睨みつけて硬直している間に、紗妃がブーメランで4体を片付けた。
「固まってる暇はないでしょ!」
「そ…そうね!」
未菜は再び扇を広げ、それ全体を光らせる。
「扇技 [徒然なる裂花]」
空中に一つの花びらのようなものが複数現れ、それぞれがゾンビたち目掛けて飛んでいく。
それは奴らの周りをくるくると回転し、その体を切り刻んだ。
今の技にどれだけの威力があったのかはわからないが、ゾンビの体は容易く切れ、墨汁のようなどす黒い血が流れ出す。
その様子は、赤い血が流れ出るのとはまた違ったグロさがある。
「へえ、やるじゃない。じゃ、私も見せてやらないとね!」
紗妃はブーメランを握りしめ、技を出した。
「投技 [風切りの刃]」
手を振るい、透明な空気の刃を飛ばして複数を攻撃し、その直後にブーメランを投げて追撃する。
一発目が首に当たらなかったためか、ゾンビ達を一撃では倒せなかった。が、二発目は奴らの顔のほぼ真ん中を切り裂き、鼻のあたりから上を切り離し、みんな一斉に倒れた。
「姜芽さん達よ!」
亮が唐突に叫んできた。
「私達は村の裏側へ行く!ここの守りを頼めるか!?」
「ああ!任せてくれ!」
「助かる!迅!明司!行くぞ!」
亮に連れられて2人が抜けた。
そこで、俺は気合いを入れる。
「炎法 [火炎の床]」
地面に火を燃え広がらせ、複数体のゾンビを足止めしつつ倒す。
幸いにも奴らは体に火がつくとすぐ倒れるので、効率もいいし消費も少なくて済む。
亮が言っていた通り、火が効きやすいようだ。
斧で頭を狙うのは少々疲れるので、こっちでやるのがいいかもしれない。
…と、今ので倒しそびれたやつが1体だけいたので魔弾を放つ。
「フレイムレイト」
魔弾を当てたら、ゾンビは焼けるどころか一瞬で蒸発した。
火に弱いやつに火の魔力を直にぶつけると、こうなるのか。
あまり使わないような気もするが、一応覚えておこう。
「[メガストライク]」
目の前のゾンビが派手な技を食らってふっ飛ばされた…と思ったら、ラギルの技だった。
彼は俺の斧よりも長い大剣を軽々と振るい、斬り上げや打ち払いを繰り出してゾンビを片付けていく。
特に、「屍山割り」という技は個人的にインパクトがあった。
魔法で複数体のゾンビを一箇所にまとめ、大剣を振り下ろすというだけの技であるが、何体ものゾンビがギチギチに密着した所に大剣の一撃を振り下ろして叩き割る様は、飛び散るおびただしい血も相まってかなりインパクトのあるものだった。
さらに、ラギルは奥義もなかなか豪快だった。
ラギルの奥義は「断罪の炎撃」というもので、大剣に燃え盛る炎をまとわせて薙ぎ払う技である。
しかし、これも重たい武器を軽々しく振るって敵を焼き払う様はなかなかだった。
ラギルの大剣は、おそらく俺の斧より重い。
そんなものを容易く振るって敵を蹴散らす彼は、俺より強いようにも感じられる。
さて、しばらく戦い続けたが、こちらに押し寄せてくるゾンビの数は減らない。
基本一撃で倒せるとは言え、このまま長期戦になるとキツい…魔力的にも。
何となくわかるのだが、魔力には限度がある。
そして、もし切れれば回復には時間がかかる。
そうなれば術なしで奴らに立ち向かわねばならなくなり、一気にリスクが増す。
そうなる前に終われればよいのだが…。
「[牙竜乱撃]…!」
樹が技を出してゾンビを倒しつつ、息を切らす。
「キリがないな…なんかおかしいぞ!」
「ああ…このままでは…魔力切れは避けられん…!」
大剣を振り回し、豪快な奥義を出していたラギルも息を荒げていた。
「あのさ、思ったんだけど…」
青空が言い出した。
「これ、奴らを召喚してるものがあるんじゃない?」
「召喚、だと…?」
「そう…あの山の向こうに、こいつらを呼び出してる何かがあるのよ。でなきゃ…こんなのおかしいもの!」
彼女の言う事も一理あると思うが、ここを離れれば村にゾンビが押し寄せる。離れる事はできない。
「でも…私達が離れたら、村が…!」
紗妃がそう言うと、未菜が名乗りを上げた。
「それなら…わたしが!」
「…何か、策があるのか!?」
「まあ見ててよ…」
未菜は扇を閉じ、目をつぶった。
そして技の詠唱と同時に目を開き、扇を持った手を払った。
「奥義 [生き写しの顕現]」
すると、未菜にそっくりだが体が透けている分身のようなものが現れ、山の向こうへと飛んでいった。
そしてそれから数秒後、山の向こうに一筋の青い光の柱が立ち上り、同時に増援のゾンビがピタッと止まった。
こうなれば、もう後は楽である。
全員、全力を出して残りのゾンビを片付けた。




