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第3話 異能

しばらくして、大きな岩山が見えてきた。

その根本には洞窟の入口が口を開けており、盗賊達はそこへ駆け込んでいった。

あそこが、奴らの巣窟か。


「あれだな…」

俺達は、洞窟から少し離れた森の中に身を潜めている。

俺は低木の後ろ、キョウラは木の陰に隠れて奴らを見ていた。

「姜芽様、このまま突入しますか?」


「いや、それはやめた方が良いだろう」

あの中には、恐らく相当数の盗賊がいる。

二人きりでそんな中に飛び込んでいくのは、自殺行為にも等しい。

そもそも、俺はここまで盗賊を倒してはきたが、何とか勝てているという感じだった。

まだ、戦いどころか武器の扱いにも慣れていないのだから当然であるが。


「確かにそうですね。では、いかがしましょう?」


「そうだな…」

と、キョウラが突然ビクッとした。

「どうした?」


「姜芽様、隠れて下さい。盗賊が出てきます!」

言われるがまま、しゃがんで低木に身を隠す。

数秒後、洞窟から二人の盗賊が現れた。

そいつらは何か喋っているが、よく聞こえない。

「何を喋ってやがる…」


「わかりません。…!」

キョウラは、再びビクッとした。

「今度はなんだ?」


「誰かがきます!」


「誰かって…また盗賊か?」


「いえ、これは…!」 

と、俺の視界の右端から一人の男が現れた。

綺麗な服を着ていて、見た感じ盗賊には見えない。

そいつは二人の前で歩みを止めると、何か話しだした。

そして少し話すと、男は回れ右をして走り出した。

盗賊たちは、そいつを追う。

「追いましょう!」


「ああ!」

あの男は、知らずに通りがかった旅人だろうか。

だとしたら、不運なものだ。

だが、あのまま身ぐるみを剥がされるのを黙って見てる訳にはいかない。

あくまでも森の中から、奴らを見失わないように追った。



しばらく走って、男は行き止まりに追い込まれた。

いや、正確には行き止まりではないが、まわりを森の木々に囲まれている。

逃げようとすれば、あの狭い木々の間を無理して通らねばならない。


振り向いた男に、盗賊達はじりじりと近づく。

「まずい…!」

もう、黙って見てられない。

低木をまたいで飛び出そうとしたその瞬間、

「お待ち下さい」

キョウラに止められた。

「な…何だ!?」


「あれを…」

キョウラは男を指差す。

何だと思って見ていたら、男は背負っていた何かを取り出した。

それは、一本の長い棒。

先端に何かついているというわけでもない、ごく普通の棒だ。


「棒…?あんなので盗賊を…」

と言いかけた次の瞬間、男は棒を手に盗賊達の中に飛び込んだ。

そして、華麗なまでの動きで盗賊の攻撃を避けつつ、棒をぶん回して盗賊の膝や顔を殴りつけた。


「なっ…!」


「やはり…あの方は、きっと棍の使い手です!」


「棍?」


「はい。棍は、打撃系統の武器の一種です。見た目はシンプルですが、上手く扱えればとても強力な武器であると聞きます」


「なるほど…な…」

俺は、しばし男の華麗な立ち振る舞いに見とれていた。


そして、ふと思った。

なんか、あれ…モ◯ハンの虫を飛ばす武器に似てる。

あの男の立ち振る舞いは、完全にあのゲームの某虫棍のアクションのそれである。

そう考えると、強力な武器だと言うのも納得がいくような気がした。


「姜芽様」


「…あっ、ああ」

結局、男は盗賊二人を容易く倒して見せた。

その様子は、とにかく圧巻だった。

まさか、あんな棒一本で盗賊を…それも、こんな短時間で倒せるとは。

俺だったら、今くらいの時間をかけても一人倒せればいいほうだろう。


「とりあえず、あの方にお話を伺いましょう」


「そうだな」

俺は道に飛び出した。

「なあ、あんた!」

男の顔を改めて見た。

青い短髪に水色の瞳で、凛々しい顔つき。

まさしく、イケメンだ。

人間界にいた時の、何とも言えない面構えをしていた俺とは偉い違いである。

「すごいな!盗賊二人をそんな棒きれ一本で、それもこんな短時間で倒しちまうなんて!」


「…そうか?」


「すげえよ。俺なら、今の時間で一人を倒すのが精一杯だ」

キョウラも、感心したように言った。

「私も、今のあなたの戦いには驚きました。きっと、豊富な戦闘の経験を積まれた方なのですね」


「…まあ、な。てかお嬢さん…その格好からすると、ひょっとして修道士か?」


「はい。キョウラと申します。修道院を出て、修行の旅に出たばかりです。こちらは姜芽様。種族は防人です。つい先程転移してきたばかりの白い人(パパラギ)ですが、お強い方です」

自己紹介する必要がないくらい、キョウラが喋ってくれた。


「姜芽…か。オレは…って、ん?」

男は、俺の顔をじっと見てきた。


「…なんだ?」

そして、男ははっとしたように言った。

「…お前、ひょっとして和人か?」


「え?なんでわかるんだ…」

と言いかけて、俺も気付いた。

こいつ、よく見たら(いつき)だ。

二海樹(にかいいつき)。小学生の時からの同級生であり、友人である。

中学卒業後に県外に引っ越していってしまい、連絡もここ十年間全く取っていなかったが、同じ部活だったし、休日はよく遊んでたので顔は覚えている。


「ありゃ、樹じゃんか。お前もこっちに来てたのか」


「こっちのセリフだよ。…てかお前、来るのおせーよ、全く。こっちは何年待ったと思ってんだよ」

と、ここでキョウラが入ってきた。

「あの…お聞きしますが、もしかしてご友人でらっしゃいますか?」


「ああ。こいつは俺の昔の友達なんだ。二海樹ってんだ」


「あーっと、違うぜ。今のオレは二海じゃない」


「え?」


「オレはな、今は楼海(ろうかい)樹って名乗ってるんだ」


「楼海…?」

珍しい苗字である。

まあ、生日…だっけ?俺の苗字も珍しいが。


「そう。こっちに来た時に変わったんだ。お前も変わっただろ?」


「あ、ああ…」

前の苗字なんて覚えてない…と思いきや、今この瞬間に思い出した。

そうだ、生野だ。俺は、生野和人。それが、もとの名前だ。

「今の俺は、生日姜芽…だ」


「へえ…あれ、下の名前も変わったんだな」


「ああ。なんでかはわかんないけど、桐生にそういう名前をつけられた」


「あー、そういうことな。オレもあいつに勝手に名前決められたんだ。あいつ、どういうセンスしてんだろうな」


「さあな。てか、樹も異世界転移…してきたのか?」


「ああ。なんか、一人目だとか何とか言われて連れてこられた。武器は棍で、異能は[水操(みずたぐり)]だった。和人…じゃなかった、姜芽は?」


「俺は斧をもらった。異能は…[炎繰(ほのおたぐり)]、だったかな」

ここで、ふと思った。

「なあ、異能…って何なんだ?」

すると、樹はえ?という顔をしてきた。

「なんだ、まだ使ったことないのか?」


「ああ…よくわかんなくてな」

すると、キョウラが喋りだした。

「異能は、異人が持っている事がある特殊能力です。自然事象を操ったり、考えた事を現実に出来たりと、魔法と同等か、それ以上の事ができます。

そして、同じ異能を持つ異人は基本的に一人しか存在しません」


「マジか!」

一人しかいない…つまりは、オンリーワン。

俺は、世界で一人だけの特殊能力持ちであるということか。

そう考えると、めちゃくちゃ興奮した。

「で、その異能ってのはどう使うんだ?」


「難しい事ではありません。意識を集中し、異能で何をしたいかを念じるだけです。因みに私は[空読(そらよみ)]…場の空気や魔力の流れや、強さを目で見る事ができる、という異能を持っています」


「なるほど…」

魔力というのがよくわからないが、まあとにかくすごそうだ。

てか、さっき盗賊が見えないうちに洞窟から出てくるってわかったのは、もしかしたらその異能によるものだったのか。

「姜芽様の異能は何なのでしょう。私も気になります」


「うーん…[炎繰]だから、火を操れるのかな」


「なら、試してみよう」

樹は、一本の木の枝を拾った。

「これの先っちょに火をつけてみろ」


「え…できるかな…?」


「大丈夫だって。ほら、集中して念じてみな」

言われるがまま、枝の先端を凝視して「発火しろ、発火しろ…」と念じる。

すると、なんと本当に火が着いた。


「おお…!」


「すごいです!姜芽様の異能は、火を扱うものなのですね!」


「な?だから言っただろ。…どうだ?すげえ興奮するだろ?」


「ああ…めちゃくちゃ興奮してる…!」

今のが、俺の能力。

火を操り、ものを自在に燃やす。

そんなことが、本当に…。


「ははは。今は火をつけるくらいしかできないかもしれないけど、使っていけば、そのうちもっと派手な事もできるようになるだろ」


「派手な事…?」


「例えば、火炎放射みたいに火を噴き出したり、デカい火の玉を撃ち出したり。…いいじゃん、めちゃくちゃ強そうだぜ!」


確かに…な。

考えてみると、いかにも強そうだ。

ちょっと単純すぎる気もするが、まあいいだろう。

異能力って感じするし、何よりカッコいい。


「…」

(てのひら)に小さな火を浮かべ、ぎゅっと握る。

不思議と、全く熱くない。

「…よーし。それじゃ、異能力者として暴れてやるか!」


「その意気だ、その意気!オレと合わせて、炎と水の双璧を成そうじゃんか!」

樹はめちゃくちゃノリノリだ。

この乗り気なのは、昔と同じである。


異能力…か。

これこそ、異世界ものの醍醐味だ。

いよいよ、異世界転移したって感じになってきた。

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