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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
3章・アルバンの血戦

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第64話 再戦

森へ戻り、あの異形の所まで行くのに時間はかからなかった。

煌汰達が、ルートをよく覚えていたからだ。

「しかしナイア、姜芽が何かに目覚める、ってどういう意味だ?」


「そのまま。姜芽があの異形と再戦すれば、彼の今後を大きく左右する何かに目覚める。ただそれには、一度目と同じ編成で行かなければならない。…ってのが、私が受けた託宣」


「…?一体何に目覚めるんだ?」


「それはわからない。でも、どの道あいつを倒さなきゃないのには変わりないんだし、いいじゃない」

なんかワクワクするが、一体何に目覚めるのか気になる。

一方で、拭いきれぬ不安がつきまとう。

前と同じ面子で、いけるだろうか。



「あそこだ」

例の異形は、見事に凍りついていた。

それはきれいに氷で覆われ、さながら氷の像のようだった。

5メートルほどの所まで近づくと、冷気が伝わってきた。

「うわっ、冷たっ…完璧に凍ってるな。あっ、そうだ。このまま砕けないか?」


「瞬間的に凍らせた訳じゃないから、脆くはなってない。砕いて瞬殺するのは無理だな」

急速に凍らせた訳ではないなら、どうやって凍らせたのだろう。


「なら、むしろ好都合だな」

柳助がそんな事を言った。

「そりゃ、どういう意味だ?」


「容易く倒しては経験にならん。手を焼き、苦しんだ戦いこそ良い経験になる」

確かにそれはそうだろう。

それにそう考えると、ナイアが受けたというお告げも筋が通る。


「まあ、真っ向から戦う、ってのには文句はないぜ。問題は麻痺をどう対処するかだな」


「あ、それなら、解毒剤を持ってきた」

煌汰は、5本の黄色い薬品のビンを見せてきた。

「これがあれば、麻痺を受けてもすぐに治療できる」


「ならいいな。煌汰、こいつの氷取れるか?」


「もちろんだよ」

煌汰が手を払うと、氷は静かに消え去った。

そして、異形はすぐに蠢き出した。

「よーし、じゃあ行こう!リベンジマッチだ!」


俺の声に反応したのか、異形…メーディアはこちら目掛けて触手を振り下ろしてきた。

俺はそれを躱し、反撃する…所でまた新たな技を閃いた。

「斧技 [紅蓮割り]」

瞬間的に斧に火の力を宿らせ、斬りかかる。

植物相手なら、かなり効果があるはずだ。


と思ったのだが、触手に多少の切り込みが入っただけで切断までは至らなかった。

すぐに横に振ってきたので、ジャンプする。

するとまた(がく)の触手を伸ばしてきたので、俺はそれらの根本である萼に火球を放つ。

これは効いたようで、メーディアはうめき声を上げ、全身をくねらせた。


「効いたな…!」


「でも、触手には火が効きづらいかもしれない…っ!」

話す隙も与えないとばかりに茎から伸びる触手を振るってきた。

今になって気づいたが、触手が叩きつけられた地面には粘液が残っている。

また立ち入れば、ネズミ捕りのように粘りつけられるだろう。


それを見て、思いついた。

「…そうか、粘液か!」


「えっ…!?」


「粘液がどうかしたの?…きゃっ!」

俺に反応している間に、ナイアが茎の触手に捕まった。

「ナイア!」

煌汰が斬撃を飛ばすと、なんと葉っぱで受け流してきた。

それだけでなく、そのまま葉っぱを切り離して飛ばしてきた。


斧を横に持ってガードし、頭部への被弾は防いだが、左右の腕をスッと切られた。

やはり、草で手を切るのはなかなか痛いものである。

「…なんで結界を張らなかったんだ!?」

煌汰が焦ったように聞いてきたが、それに答える前に次の攻撃が来た。

俺達二人を同時に捕らえようと、俺と煌汰の間に触手を突き出してきたのだ。

「っ!」

間一髪回避すると、柳助の声が飛んできた。

「二人共!ナイアが!」


「あっ…!そうだ!」

慌てて見たが、幸いにもナイアを粘りつけた触手はまだ花弁の方へは向かっていない。


「よかった…でも、どうすれば…!」


「石を飛ばして切る手もあるが、粘液のせいで難しいだろう。となると…」


「だから、それだ!それがヒントなんだ!」

俺がそう言うと、柳助ははっとした顔でメーディアを見た。

「…もしかして」

再度の攻撃を躱しながら、柳助は言った。

「姜芽の言った意味がわかった!煌汰、あいつの粘液を凍らせられるか!?」


「え!?…で、出来なくはない!」


「なら、やってくれ!ただし、ナイアは凍らせるなよ!」


「…うん!」

そして、煌汰は手を伸ばす。

メーディアの根本から、その全体を暑く覆う粘液が凍っていく。

奴自身それに気づいたのか、驚いたような素振りを見せた。

「今だ!」

俺はもう一度「紅蓮割り」を繰り出す。


凍りついた粘液は一瞬で蒸発し、もうさっきのように主の体を守りはしなかった。

そして、その下の植物の茎そのものの肌を、俺は断ち切る。


触手の断面から、濁った緑色の液体が飛び散る。

そして、切断してもなお触手はウネウネと蠢く。

それは植物というより、さながらエイリアンのようだった。


飛び散った液体が腕に軽くかかったかと思うと、途端に腕の力が抜けた。

どうやら、この液体にも毒があるようだ。

「姜芽!飲んで!」

煌汰が薬を投げてくれた。


「こいつ、恐らく体液にも毒がある!全身に毒が回る前に治療しろ!」

全身に回る…そうなれば、またさっきのようになるのだろう。

そうなる前に、薬を使いたい。

不思議なもので、薬を飲むとすぐに腕に力が入るようになった。

俺は重い武器を使うので、やはり両腕が使えるに越したことはない。

やはり、ファンタジー世界の冒険に解毒薬は

必須である…味は微妙だが。


「…。よーし、後は…!」

俺は斧を抜き、そして…




待て。

決めようとしたはいいが、何の技を出そう?

ここに来て、何の技を出せばいいか迷った。

いや、そもそも技、でいいのか?

でも、でも術…というか魔法は…。


そうしている間に、長いようで短い時間が過ぎた。

「姜芽!」

煌汰の声を聞いて、頭に電光が走った。




俺は斧を収め、片手を伸ばす。

そして、うわ言のように呟く。


「炎法 [フェルバイアード]」

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