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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
3章・アルバンの血戦

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第63話 緊急離脱

気づいたら、木目の天井を見上げていた。

どうやら、どこかの屋内に連れ込まれたようだ。

一応確かめてみたが、体は動くようになっていた。

ゆっくりと体を起こすと、枕元には何かの液体が入ったビンが置かれていた。

恐らくは薬、だろうか。

俺はこれで治療されたのか。


その時、部屋の扉が開いた。

入ってきたのは、俺と一緒に森に言った3人だった。

「姜芽…」


「姜芽…!意識を取り戻したんだな…よかった!」


「ここは…?」


「町の宿だ。緊急を要する状態だったから、姜芽の体を凍らせて、ここまで急いで運んできたんだ」


「凍らせて…」

最後に感じた寒気は、それだったのか。

だとすると、異形はどうなったのだろう。

「そう。僕の術で、一時的な冷凍睡眠状態にして、ね。あ、あの異形は倒せなかったけど、凍らせておいたから僕らに被害はないし、あれ以上暴れる心配もないよ」


「…じゃ、今は安心なんだな」


「とりあえずはね…」


「そうか…」

ナイアに体は大丈夫?と聞かれたが、なんとも言えない。

どこか痛いとか、怪我しているという訳ではない。

だが、今のこの状態であの異形と戦って大丈夫なのかがよくわからない。


「しかし、助かってよかった…メーディアの毒は、対応が遅れれば呼吸や心臓の機能が麻痺して命を落とす」


「でも、毒ってのは血液や肉体を完全に凍らせれば回りは止まるんだ。だから、ここに運び込んで解凍してすぐに薬を打った。正直間に合うか微妙だったけど、大丈夫だったみたいだね」


「毒の他に多少の傷を負ってたけど、魔法使い組が献身的に回復してくれてたし、大丈夫だよね?」


「…ああ、特に痛い所とかはないな」


「そうよね。立てる?」

恐る恐る足を乗り出してみたが、普通に立てた。

「いけるね。じゃ、一回輝達の所に行こう。みんなあんたのこと心配してたから」


「…わかった。心配させちまったし、すぐに行こう」





そうして輝達の部屋へ向かった。

なんでも、馬車を改修している間は全員ここの宿に泊まっているのだそうだ。


扉を開けると、すぐに輝がお出迎えしてくれた。

そして、めちゃくちゃに喜んでくれた。

もちろん、同室のタッドも。

「姜芽が助かった…やったね!」


「いやー、よかったよかった!キョウラさん達に感謝だな!」


「キョウラ…?やっぱり、キョウラが助けてくれたのか?」


「まあ彼女だけじゃなく、魔法種族のみんながだけどね。でも、キョウラさんは一番姜芽さんの事を心配してたよ。解毒剤を用意したのも、投与したのもキョウラさんだったしね」


つくづく思うが、キョウラは一体何故にそこまで俺を想ってくれるのだろう。

俺は、彼女に何かした覚えは全くないのだが。

「樹がやきもち焼いてたよ。キョウラさんに看病されるなんて羨ましい…って」


「ふっ、相変わらずだな。それで、キョウラはどこにいるんだ?」


「吏廻琉さんとどこかに行ったよ。母娘水入らずで町めぐりでもしてるんじゃないかな」


そんなこと、あるだろうか。

何故だか、彼女に限ってそんな事はない、と思ってしまった。






「あ、いたいた」

キョウラ達を見つけたのは町中の武器屋の前だった。

彼女は俺に気づくとすぐに顔をほころばせ、俺の名前を呼んできた。

「姜芽様…回復なさったのですね!」


「ああ。心配かけて悪かったな」


「いえ、とんでもありません!姜芽様がご無事であって下さったなら、何よりです!」

子供のようにはしゃぐキョウラに、吏廻琉が言った。

「キョウラ…もう少し人目をはばかりなさい」


「…あっ。ですがお母様、姜芽様は初めて私が自作した薬を投与した方で…」


「えっ…?」

なんか、軽くアレな事を聞いた気がするんだが。

そう思ったら、吏廻琉が弁明してきた。

「ごめんなさい、変な勘違いをさせてしまったわね。修道士は修行の過程で光魔法の他に薬剤の調合も履修するのだけど、この子は自作の薬を人に投与した事がなかったの」


「私…自分で調合した薬剤で人を助ける、という事を一度してみたかったんです。それで、姜芽様が麻痺毒に侵されたと聞いて、どうしても解毒剤を作ってお助けしたいと思ってしまって…。お母様や皆様に無理を言って、解毒剤を作らせていただいたんです」


「そういう事なの。麻痺毒の解毒なんて普通に魔法で出来るのに、どうしても薬を自作して、それを使いたいって言うから…」


「姜芽様は、修道院を出たばかりの私を初めて助けて下さった方ですから。可能な限り、私がお助けしたいんです」


受けた恩は忘れないタイプなのか。

それは結構だが、ここまで献身的だと申し訳ないと思ってしまう。


「ありがとな。俺もキョウラみたいな可愛い子に助けてもらえて嬉しいよ」


すると、キョウラは顔を赤らめて黙ってしまい、

「あら、あまり娘をからかわないでくれるかしら。キョウラは初心な子なんだから」

と、吏廻琉が苦笑いした。


「それで、吏廻琉さん達はここで何をしてるの?」


「ああ…私達は色々と情報を集めてたの。あんまりキョウラが彼の近くから離れようとしないから、頭を冷やさせるために連れ出したついでに何か出来ないかと思ってね」

ナイアはふふっ、と微笑んで言った。

「キョウラさん、あんまり熱を持たない方が良いわよ。それと、吏廻琉さん、彼をもう戦わせて大丈夫だと思う?」

吏廻琉は俺の頭から足を一通り見て、

「そうね。一人で戦わせない限りは大丈夫だと思うわ」

と言った。


「なら良かった。早速だけど、私達すぐに森に戻らなきゃないの」


「えっ?どういうこと?」


「いや…実は、姜芽を連れて戻ってくる時に異能であの異形を凍らせたんだけど、僕の異能では、あの大きさの異形を凍らせておけるのは3日が限界なんだ。そして、姜芽が倒れてからもう2日経ってる。だから、遅くとも明日中にはあいつを倒さないといけないんだ」

もうそんなに経っていたのか。

地味に衝撃の事実である。


「そう…なら、早めに行ったほうがいいわね。でもあなた達だけでは危険よ、私も行くわ」


「その必要はない」

ナイアの言葉を聞いて、吏廻琉は驚いたようだった。


「私、今日の朝に託宣を受けたんだけどね。今度の異形との戦いは、彼の『何か』が目覚めるカギになるらしいの。そしてそれは、彼と私達だけで行かないとダメなんだって。だから、私達だけで行かせて」


「…わかった。あなたの異能でそう出たのなら、仕方ないわ。キョウラも、わかってるわね?」


「…はい、お母様」

吏廻琉は心配そうな顔でキョウラを見たが、彼女は素直に納得したようだった。


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