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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
3章・アルバンの血戦

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第60話 王城の策略

アルバンの中央に位置する首都メゾーヌ。

ここには、この国の領主たる「戦士王」の居城であるアルバン城がある。

この城は至る所に高価な大理石や宝石がふんだんに使われており、その外見も「騎士の城のよう」と揶揄される美しさを持つ。


この城の現城主にしてアルバン王でもある戦士王エウルは、国のためならば自身の身を投げ出す事も厭わず、また人民想いでもある事から、もとより国民達からの人望が厚い人物であった。

しかし、そんな彼もまた、この大陸に迫る影に蝕まれつつあった…。








アルバン城の廊下にて、二人の兵士が一人の女に挨拶をしていた。

「デモリア様、お変わりはありませんか」


「ええ、(わたくし)はいつも通りです。あなた達こそ、大丈夫ですか?」


「はっ、もちろんでございます。デモリア様及び国王様をお守りするのが、我らの役目でありますので」


「ふふ、それは関心ね」


女が去ると、片方の兵士は突如へたれこんだ。

「おい、どうした?」


「どうしたもこうしたもあるか…腹が減って、キツいんだよ…」

ここ数か月、この国は原因不明の食料不足に悩まされている。

それはまるで、飢饉の時のように。

国民達は飢えに苦しみ、多くの者が命を落とした。

辺境の集落では、餓死した者をまだ息のある者が食した、という話まで聞こえてくる。

国で最大の都市である首都メゾーヌですら、やせ細った骸骨のような不気味な姿となった人々が闊歩する恐ろしい町と化している。


城の兵士達はしばらくは十分な食事にありつけていたのだが、一ヶ月ほど前からはそれもなくなり、今では数日に一度、一個のりんごやひと欠片のパンが手に入ればいい方という状況に陥っている。

そんな状況下でも、兵士達は国を、ひいては城を守るため、ひもじさをこらえて勤めを果たしている。

とは言え、彼のように空腹の悲鳴を叫ぶ者は決して少なくなかった。


「気持ちはわかるが、我々には勤めがあるのだ、それを優先せねばなるまい。どんなに辛くとも、今は耐えるしかない」


「そんな事言われたって…最後に食事をしたのはもう二週間も前だぜ…?このままじゃ、いずれ町の奴らみたいになっちまうよ」


「…。だが、この件に関して、我らに出来ることはなにもないだろう」


「それはそうだけどよ…これじゃ、勤めるどころじゃないぜ。

ああ、最後に家族の顔を見たかったなあ…」

彼は壁に寄りかかり、ぐったりとした。

「最後だなんて言うな…諦めなければ、必ず光が差す。我々にも、いつかきっと救いがくる。だから、その時まで…」

その時兵士は、同僚の違和感に気づいた。

彼は、既に息を絶やしていたのだ。








デモリアは城で一番大きな扉を開く。

そこには玉座の間があるが、玉座には王の姿はない。

しかしデモリアはそれに驚きもせず弐歩いて行き、玉座の後ろの壁を押す。

すると、隠された通路が現れる。

彼女は迷うことなくその奥へ進む。


デモリアは辺境の町ラノクの出身の戦士だ。

半年前、偶然にも王妃を探していた王の目に止まり、そのまま嫁ぐ事となった。

彼女が嫁いだ当初は、エウル王に妻が出来たという事で国民も大いに盛り上がった。

デモリア自身もエウルに愛と忠誠を誓い、エウルもまた彼女を大切にすると誓った。


ところが、これが誤算だった。

実は、デモリアは自身の経歴を偽っていた。

彼女はサンライト出身の祈祷師系種族であり、エウルに嫁いだのはとある目的のためだった。

エウルはじきに気づいたが、その頃にはもはや手遅れであった。


そして、エウルは…。



「さて…ご機嫌いかがかしら、陛下?」

デモリアは悪意を含ませた笑顔で語りかける。

「う…うぅぅ…」

粗末なベッドに寝かされ、青い顔をして唸る瀕死の男。

それが、かつてのこの国の王、エウルであった。


「だいぶ侵食が進んできたようですわね。『大切な』妻だと思っていた女に裏切られ、こんな惨めな姿にされた今のお気持ちはいかが?」


「…デモリア…」

エウルは、声を絞り出すようにして唸る。

「この感じだと、もう少しと言った所かしら。でもご安心なさって。あなたが死んでも、私が責任を持ってこの国を統治いたましますわ」


「…なに…?」 

実は、エウルは病気なのだ。

そして、それが原因も治療法もわからない未知のものであるがために、極秘の部屋で療養している。

そのため、当分は彼の仕事はデモリアが行うことになっている。


…城の者たちにはそういう事で伝わっているが、実はこれは全てデモリアがでっち上げた嘘であり、実際にはエウルの不調はデモリアがかけた呪いが原因である。

デモリアはエウルを王の座から引きずり下ろし、自身がその座に座る事が当初からの目的の一つであったのだ。

今となっては、この国は実質デモリアの支配する王国と化している。


呪いに蝕まれたエウルは、日に日に体が動かせなくなり、体力も気力もなくなり、今ではこうして、喋るのが精一杯という状態になっていた。


「この国は、あなたなどには勿体ない。よって、私が正しく使って差し上げますわ」


「デモ…リア…き…きさ…ま…」


「ふふ、いかに怒ろうと、もはや無駄なことです。…そうだ、せっかくですからお近くにいて差し上げましょうか?どうせ、あなたはもう長くないのですから」


「お…おの…れ…」


かつて「無双の戦神」と呼ばれた、伝説的な戦士。

その傍らに佇む悪役の王妃は、不敵に微笑んだ。






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