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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
3章・アルバンの血戦

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第58話 深夜の来訪者

ふと目が覚めた。

まだ部屋は暗い。

時計を見てみる。

何分かは…よく見えないが、とりあえず短針は2時を指しているようだった。


またすぐに寝ようかとも思ったが、その前に用足しにいく事にした。

俺は普段、夜中目覚める事は全くないのだが…珍しい事もあるものだ。

いつもと違う事が起きると、少しばかりドキドキするのは何故なのだろうか。



用を済ませ、部屋に戻ろうとしたその時、何やらリビングの方から物音がした。

もしかしたら、何かが落ちたのかもしれない。

そう思って部屋の前までくると、明らかに誰かがいる気配を感じた。

部屋の明かりはついていないが…まさか、泥棒か?


ゆっくりと扉を開くと、いつもと変わらない暗闇のリビングが広がっていた。

…いや、違う。

俺はキッチンの方に目を移した。

そこにはコンロやまな板の他、食料を入れている棚がある。

元々はただの棚だが、煌汰が魔法をかけているので、冷蔵庫の代わりになっているのだが…

その扉が、開いているのである。


(あれ…?)

あの棚は冷蔵庫と同じなので、ずっと開け放していれば意味がない。そしてそれは、馬車のみんなが認知している。

つまり、誰もいないのに開いてるなんて事があるはずないのだが…


それにも違和感を感じたが、その前をよく見てみて驚いた。

誰かが冷蔵庫の前に立ち、中身を漁って食べている。

しかも、それはこの馬車にいる誰でもない、知らない女だった。

思わず声を上げると、女は飛んで驚きつつも異様な速さでリビングの闇の中へ消えてしまった。


「どこ行った…!」

俺は一歩一歩前に進む。

斧を持ってくればよかったか…っていうか、まさかこの馬車に盗人が入ってこようとは。

透明魔法を使ってるはずなのに。


数秒間は闇の中を見回していたが、やがてふと気づいた。

暗いなら、明かりを灯せば良い。

手に火球を浮かべ、室内を照らす。

電気をつけず敢えて能力を使った理由は、万一の時はそのまま火球を飛ばして攻撃出来るからだ。


テーブルの下やソファの裏を覗いてみたが、女はいなかった。

この部屋で人が隠れられそうな場所は、あとは部屋の隅に置かれた衣装タンスの陰くらいだ。


恐る恐るタンスに向かって進む。

まだはっきり見えた訳では無いが、いなさそうだ。


…と思ったその瞬間、そいつは見事そこから飛び出してきた。

向こうの体は小さめだったが、勢いがあったために押し倒された。

女は変な湾曲した刃物で切りつけようとしてきたので、その手首を掴んで抵抗する。

しばらく抗っていたが、やがて能力を使って女の手首を発火させると、女は容易く怯んだ。

その隙に、女の顔面にアッパーを食らわせると、女は豪快に吹っ飛んだ。

そして床に倒れた所で、女の体を複数の炎のリングで縛って拘束した。

女は暴れる方が危険だと察したのか、パッと動かなくなった。


さらになんともタイミングが良いことに、誰かが起き出してきた。

「姜芽か…こんな時間に何してんだ?」

それは、猶だった。

「猶…!泥棒だ!こいつ…冷蔵庫を漁ってた!」


「はあ…?…えっ!?」

猶も驚いていた。

いや、驚いていたのだが…女の顔を見てさらに驚いていた。

「お前…紗妃(さき)じゃんか!」

それを聞いた女は、猶の顔を見て唸った。

「…?な、猶…!?」

どうやらこの2人、面識があったようである。

こんなご都合主義なこと、あるもんなのか。

「なんでこんなとこにいんだ?」


「そ、それは…とにかく、まずこいつを説得して!離させてよ!」


「…はあ。姜芽、離してやってくれ。こいつは俺の知り合いだ。大丈夫、悪い奴じゃない」

よくわからないが、猶がそう言うなら…と術を解除した。 

女は、さすがに暴れたり逃げたりはしなかった。




「で、どういう事なんだ?」

まずは猶に説明を乞う。

「こいつは篠霧(しのぎり)紗妃、昔俺と同じ暗殺組織にいた奴だ。種族は俺と同じ、殺人者だ」

女は猶とはチラチラと目を合わせるが、俺と目が合いそうになるとはっと猶の方を見た。

「ほう…」

俺は、女に聞いた。

「それで、なんでこんなことをした?」


「そんなの…生活のために決まってるでしょ!」


「生活の…?」


「そうよ…私は、普通のやり方では生きていけないの!だから、だから…」


「普通に生きてけない…ってどういう事だ?」


「それは…」

女は、口をつぐんだ。

代わりに、猶が説明してくれた。

「紗妃…というか俺達はな、種族上の特性としてルールを守らないとか、人に興味が薄いとかって性質があるんだ。そんでもって、大抵の奴はまともに働いて、稼いでくって事ができない。だから暗殺をやったり、戦いに傭兵として参加したりして生活する。『殺人者』って呼ばれてるのも、それが理由だ」


「それは聞いた。で、こいつは盗みをやって生活してると?」

すると、女はふてくされたように言った。

「し、仕方ないでしょ…!組織も潰れたし…」


「組織?」

これもまた、猶が説明してくれた。

「10年くらい前まで、俺は『ゼノス』っていう暗殺組織にいた。そこに、紗妃も所属してた。で、ちょくちょく暗殺をやって稼いでたんだ。

俺はあちこち一人で行きたかったから組織を抜けたが、紗妃は残った。てか、ゼノス潰れたのか」


「うん…5年前、セドラルの軍に潰された。他のメンツはみんな捕まって処刑されて、私だけ生き残った。それから、私はこの国に渡ってきて、それから…」


「盗賊をやってた、と?」

紗妃は、険しい目で俺を見てきた。

「…何よ、悪人を見るみたいな目で見てきて」


「いや、普通に考えて盗賊は悪人だろ」

そう返すと、紗妃は突然怒り出した。

「私を悪人扱いするな!私が、今までどれだけ苦労してきたかも…私のこと、何も知らないくせに!!」


「しっ、静かに…みんなが起きる」

猶に注意され、紗妃は大人しくなった。

「…。とにかく、私だって好きでこんな事してるんじゃない。私を受け入れてくれる場所があれば、相応の働きはしてみせるのに…」

紗妃は悲しげに言った。

「しかし、よりによってここに入ってくるとはなあ…」

猶の言葉で思い出した。

「そうだ、どうやって入ってきたんだ?魔法で見えないようにしてたはずなのに」


「野宿しようとしたら、何もないはずの所で頭をぶつけてね。手探りで何かあるか調べたら馬車だってわかったから、入り口を見つけて入ってきた。旅の商人か何かかなと思ったけど、中が異様に豪華でびっくりした」


「それだけは同意だな。で、なんで盗み食いを?」


「この所、まともな食事をしてなかったからつい…。最近は食べ物を持ち歩いてる奴も少ないし、店に行っても高いしで、食料の確保が大変なのよ。水はなんとかなるけどね」


「この国自体がか?うーん、補給してきといてよかったな」

すると、紗妃ははっと反応した。

「補給、ってどこでしたの?」


「カンレル…サンライトの首都だ。あそこには食料も水も十分にあったからな」


「カンレルか…ちょっと遠いなあ。

ならさ…私をあんた達の仲間に加えてくれない?」


「…はあ?」


「どうせ私は、このままいれば遅かれ早かれ野垂れ死ぬだけ。どうせなら、あんた達に協力する。私、こう見えても殺人者だからね。助けにはなれると思うけど?」

発言にも驚いたが、平然とそんな事を言える神経にも驚いた。

盗人猛々しい…というやつか。

まあ、戦闘が出来るなら…。


「戦えるなら…まあ…」


「なら大丈夫そうね。明日、お仲間にもよろしく言わないとね。あ、猶、部屋…ってある?」


「いや、既にいっぱいなんだよな…とりあえず俺の部屋来るか?」


「そうする。んじゃ、おやすみー」


紗妃は、猶と共にさっさと行ってしまった。

なんとも図々しいな、とは思ったが、放っておく気にもなれなかった。

何故なら、彼女は服や髪が酷く汚れており、ボロボロだったからである。

本当に働けないのかはさておき、野垂れ死にされても目覚めが悪い。

動向する仲間を増やす、という意味でも、加入させた方が良さそうに思えた。


ちなみに、彼女の名前は「紗妃」だが、漢字で書く場合は「沙妃」でもいいらしい。

人の名前なのにどっちでもいいってどういうことだよと思ったが、なんでも彼女自身が名前の書き方にこだわりがなく、そのように言っているらしい。


まあ表記ゆれの一種だろうし、発音は同じ「さき」だから、別に大したことじゃないと言っていいか。

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