第57話 脅威の山賊
外へ飛び出し、しばらく歩いて振り向くと、馬車は消えていた。
そう言えば、馬車を消せる魔法があったんだっけか。
とすると、みんなで来た方がよかったか?
…まあ、いいか。
奴らの中にいるであろう種族と同族の猶に加えて、回復役もいるのだ。
パーティのバランスは、決して悪くないはずだ。
「あそこですね?」
「しっ…静かに」
メニィに対し、吏廻琉は静かにするよう指示した。
どうせバレているのなら、別に静かにする必要はないと思うのだが。
その考えは、程なくして崩れ去った。
道の両脇の木の上からかすかに物音がした…と思ったら、次の瞬間には矢が飛んできた。
間一髪で躱したが、音が聞こえてなかったら当たっていただろう。
「静かにしてて、正解だったな」
「ええ」
メニィは、今矢が飛んできたそれぞれの木の上に手のひらを向けた。
「[ローグ]!」
手のひらに石の礫が生成され、一直線に飛んでいった。
すると、見事上にいたモノが落ちてきた。
どちらも弓を持った男で、質素な服を着ていた。
「今だな…」
猶は短剣を抜いて高々とジャンプし、右の男の胸に2本の短剣を刺してバツ字に切り裂いた。
そして、速やかに短剣を抜いて片方を左の男に向かって投げた。
短剣はちょうど起き上がってきた男の額に突き刺さり、男は無言で倒れた。
「おお…!」
「お見事です、猶さん」
猶が手を伸ばすと投げた短剣が手元に戻ってきたのを見て、直感的に短剣自体に魔法がかけられているのだと理解した。
あんな事も魔法で出来るのか。
「あっと、まだいるみたいだぜ?」
猶に言われ、辺りの気配に気づく。
俺達の周りには、木の他にも低木や茂み、岩などがたくさんある。
その裏側、あるいは上から、奴らは俺達をじっと狙っている。
「さて、どうしたもんか…」
メニィに、またさっきの魔法を使えないかと聞いてみたが、小声でそれはかえって危険です、と言われた。
下手にこちらから手を出せば、集中砲火を食らう事になるという。
となると、どうすればいいんだ。
「…」
4人で固まって硬直していると、やがて猶がぽつりと呟いた。
「面倒だ、もう行こうぜ」
奴はパッと姿を消した。
次の瞬間には、俺の右後ろの木から山賊が血を流して落ちてきた。
そしてこれを皮切りに、奴らは一斉に攻めてきた。
俺に向かってきたのは、メイスを持った男。身なりは少々汚かったが、髭面でも大柄でもない、ごく普通の盗賊のような格好をしていた。
…普通の盗賊、って何かよくわからんが。
向こうはシンプルにメイスを振り回してくるだけだったが、その勢いからパワーがあるのが伝わってきた。
やはり戦士なだけある…って何でわかるんだ。
「[ブレイクムーン]」
適当に振り下ろしを躱し、斧を振り上げる技を決めて倒せるかと思ったのだが、そうはいかなかった。
なんと、相手は膝をついて踏みとどまったのである。
そこで、今度はジャンプして頭を叩き割る。
すると、今度こそ奴は倒れた。
次は剣持ちが向かってきた。
正直分が悪いが逃げる訳にはいかないので、なんとか対処する。
振るってきた剣を「横弾き」でガードし、斜め下から振り上げる。
やはりこれでは死ななかったので、すぐに次の技につなげる…と思ったら、相手は高速で突っ込んできた。
慌てて斧を振るったが躱され、そのまま腹を突かれた。
痛みとともに後ろに倒れそうになるが、なんとか数歩の後退で持ちこたえる。
そして、相手の頭に斧を振るう。
躱されたかと思うと、すぐにまた攻めてくる。
やはり、剣の相手は辛い。
リーチが長く、「突き」ができ、機動力もある武器に斧で勝つのは、残念ながら難しい。
さっきも、振りかぶっている間に突きを食らった。
だがそれは武器の重さ故の事で、どうしようもない。
と、ここで閃いた。
「[ソロファイア]」
左手を斧から離し、掌を相手に向けて術を唱えた。
至近で命中したこともあってか、相手は3メートルほど後ろに飛んだ。
斧を振り上げるのには力がいる。だが、手を元の位置に戻すのには力はいらない。
そこで、斧を振るい切ったら素早く左手を離し、術を放てる用意をする。
これなら、攻撃直後の隙を減らせる。
それに、今回のように楽に倒せない相手が出てきた時でも、容易に追撃が出来る。
魔法が効かない相手はともかく、基本的にはこれだけでかなり戦いやすくなるだろう。
仲間たちの方を見てみると、吏廻琉はリスペア…キョウラも使っていた、確か白魔法…を使いこなし、山賊たちをほぼ一撃で倒している。
メニィは「ランド」や「ヒート」といった、地属性や火属性の魔導書で戦い、猶は短剣の二刀流で楽に相手を捌いていた。
特に猶は、護身術ばりの動きで相手の攻撃を躱しつつ、技も使わずに簡単に山賊を倒していた。
その動きからして、かなりの戦闘の経験者である事は容易に想像できた。
さすがは殺人者、といったところか。
そうして戦うこと数十分、どうにか待ち伏せしていた山賊は全て倒す事ができた。
ざっと、10人くらいだろうか。
「ふう…終わったな」
「ええ…あとは、あの柵を破壊するだけね」
吏廻琉は手を伸ばし、魔法…ではなく術を唱えた。
「風法 [エアグリル]」
局所的な突風が巻き起こり、行く手を塞ぐ柵は全て吹き飛ばされた。
「これでいいわ。馬車に戻りましょう」
後で聞いたのだが、今回襲ってきた山賊には2人だけ殺人者がおり、どちらも猶が相手したらしい。
そこまで鍛錬を積んではないようだったが、メニィや俺が戦っていれば危なかったかもしれない、とのことだ。
直接戦わずに済んだのは、運がよかったのだろうか。
その後もちょくちょく山賊…ガルメンの一味らしき異人を見かけたが、気づかれることはなかった。
馬車を透明にする魔法は、本当に便利である。
夕方には、山の中腹まで来た。
この辺りは木もまばらで十分なスペースがあるので、今日はここで停泊することになった。




