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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第618話 黒翼の龍

 黒い風が、辺りを塗りつぶしていく。

ゼルガの体から噴き出した闇が、まるで生き物のように蠢きながら、天井へと伸びていく。


石造りの広間が軋み、柱が砕け、空間そのものが悲鳴を上げた。


「っ・・・何、これ・・・!」


ミルエラの声が震える。

目の前のゼルガは、もはや“人”の形をしていなかった。


背から突き出した黒い翼が、ゆっくりと広がり、闇の羽がひとつ、またひとつと剥がれて舞う。

その一枚一枚が、空気を切り裂く音を立てていた。


「これが・・・“竜族”の本性か」


 喉が乾く・・・それは、恐怖じゃない。

しかし、理屈じゃどうにもならない圧力に、心臓が勝手に早鐘を打っていた。


「人の身でここまで戦ったことは、褒めてやる」

ゼルガの声は、低く、地の底から響いてくるようだった。

「だが――お前たちでは、この姿を止めることはできん」


 次の瞬間、風が爆ぜた。

翼が一振りされただけで、城壁が崩れ、瓦礫が嵐のように舞い上がる。

ルファリアたちが結界を展開して防御するが、その圧だけで容易く割れた。


「・・・はっ?冗談でしょ!?」

ミルエラの叫びが風にかき消される。


 俺は地を蹴り、炎を纏って跳んだ。

ゼルガの頭上に斧を構え、真っ直ぐに振り下ろす。

紅蓮の火線が走り、炎の斬撃が竜の額を焼く――だが、その鱗が弾いた。

まるで鉄壁。刃が通らない。


「なっ・・・効かない!?」


「姜芽、離れろ!」


マクシスの声と同時に、ゼルガの尾がしなった。

空気が裂け、巨大な衝撃が走る。

俺は炎で軌道を逸らしながら回避するが、熱風だけで肺が焼けた。


「ちっ・・・!こりゃもう、化け物だな!」


「違う、龍よ」

リュミエールが刀を構えながら、低く言う。

「遠い昔――すべての異形の頂点に君臨した、異形龍。今となっては、私たちからすれば敵だけどね」


 ゼルガの咆哮が広間を揺らす。

天井が崩れ、光が差し込んだ。

その光さえ、闇に染まっていく。


「――行くぞ、みんな!」


ルファリアの号令で、全員が一斉に散開した。

アムラが地面を踏み砕き、雷を地中に走らせる。雷光が竜の足元から炸裂し、巨体がわずかにぐらついた。


その隙を狙い、リュミエールが宙を舞う。

刀が、月光のような軌跡を描いて首筋を裂いた――が、浅い。


「・・・まだ、届かないか!」


「届かせる!」

レイヴェリアが叫び、大剣を両手で構える。

全身の筋肉が震え、魔力が刃を包む。

「[断崖・紅蓮斬]!」


 炎の奔流とともに、大剣がゼルガの胸を叩きつけた。

火花と血飛沫が弾け、ゼルガの巨体が僅かに後退する。だが、それでも奴は倒れない。


「・・・人の力、侮れぬな」

ゼルガが口を開いた。

さっきとはまるで違う、重苦しいその声が響くだけで、空気が重くなる。

「だが――その火も、雷も、風も、我らが黒き血に呑まれる」


 闇の魔力が再び波打つ。

それは渦となり、全方向から押し寄せてきた。

光が呑まれ、影が生まれる。

世界が、闇一色に染まろうとしていた。


「・・・姜芽、今よ!」


ミルエラの叫びに、俺は斧を握りしめる。

炎が軋み、視界が白く焼けるほどの熱を放つ。


「[紅蓮爆衝]!」


 叩きつけと共に、炎が爆ぜた。

空間を押し返し、闇と拮抗する。

ゼルガの身体が光と影の狭間で軋む。

その瞬間、ルファリアが詠唱を重ねた。


「仕方ないな──[風牙]!」


風の刃が、四方から吹き荒れた。

それぞれの魔力が結晶化し、ゼルガの翼と尾を貫く。


 咆哮が響く。闇が裂け、竜の血が地を染める。

ゼルガが膝をつき、俺の目を見た。


「っ・・・お前たちなどが・・・これほどまでに・・・!」


「ごとき、じゃないぜ」


俺は息を切らしながら、炎を収束させた。


「“混ざり者”だとか、“人”だとか・・・そんなのは関係ない。ここに立ってるのは、俺たちだ!」


炎が閃光を放ち、ゼルガの身体を包んだ。

光と闇がぶつかり、爆音が轟く。

世界が震え、視界が白く塗りつぶされる。




 光が収まった後、ゼルガは人の姿に戻っていた。

しかし戦意が喪失したわけではなく、鋭く光る赤い目と、殺意に溢れた表情は健在だった。


「ティファリクの・・・言っていた通りだったな」

奴は、ただ一言だけ言って、改めてこちらを睨んできた。

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