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黒界異人伝・異世界英雄譚 -ようこそ、造られた異世界へ-  作者: 明鏡止水
8章・エルメルの戦火

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第613話 憎しみの継承者

 室内に立ちこめる霧が、戦場を包んでいた。

三姉妹の奮闘でブルーは確かに傷つき、血を垂らしていた。それでも――その眼光は、獣のようであり続けた。


「・・・しぶとい奴だ」


ルファリアが小さく吐き捨てる。

レイヴェリアの大剣が下がり、ソティアの肩が荒く上下していた。

三人とも限界が近い。魔力はともかく、体力はあと数分も保たないだろう。


だが、それは相手もまた同じことだ。


「終わらせてやろう・・・異形であれ、すべて平等に滅する・・・!」


 ブルーが蒼光を纏う。

槍の穂先が天へと伸び、吹雪が渦を巻いた。

魔力の密度が一気に跳ね上がる――大技の前兆だ。


「下がれ、みんな!」

俺は叫ぶと同時に前へ出た。

斧を構え、炎の魔力を迸らせながら振るい、盾と剣に変形させる。


 全身を紅の光・・・炎の魔力が包み込む。

剣の刃と盾の表面が、熱を帯びて赤く輝く。


「姜芽・・・もしや、行く気か!?」

ルファリアの声に、俺は笑って返した。

「もちろんだ。あんたたちが削ってくれたおかげで、勝機は見えたからな」


 ブルーの動きが止まる。

空を裂くように蒼光が走り――次の瞬間、彼が槍を振り下ろした。


「――[蒼槍滅衝・終式]!」


暴風のような衝撃波が大地を薙ぐ。

床が爆ぜ、地面ごとえぐり取られる。

それでも俺は一歩も退かない。盾を構え、全魔力を集中させた。


「来いよ・・・!」


 蒼と紅がぶつかり合い、世界が裂けた。

光と音が混ざり、空間が震える。

だが、その中で俺は確かに感じた――背後から、仲間たちの気配を。


「ルファリア、今だ!」


俺の盾が衝撃を受け止めた瞬間、ルファリアが影のように滑り込み、刀を閃かせた。

ソティアが風を纏って跳び、ブルーの背へ突き込む。

レイヴェリアの大剣が追撃を重ね、重い金属音が響いた。


 ブルーが苦悶の叫びを上げる。

その隙を逃さず、リュミエールの癒光が仲間たちを包み、ミルエラが風の刃を飛ばす。

さらに亜李華の詠唱が重なり、氷の柱が蒼光を切り裂いた。


「――今だ、姜芽さん!」


セキアの声が響く。

俺は剣と盾を斧へと戻し、体勢を低くする。

全身の魔力を一点に集中――赤い光が、刃の中心で脈動する。


「奥義 [フレイムポール]!」


 久しぶりに、この世界で最初に編み出した奥義を繰り出した──長ったらしいので、セリフは省略だ。


渾身の一撃がブルーの槍を粉砕し、胸を貫いた。

蒼い光が弾け、轟音が鳴り響き、




 静寂の中で、ブルーの身体がゆっくりと崩れ落ちた。

そして、ぴくりとも動かなくなった。


だが、余韻に浸っている余裕はなかった。

なぜなら、すぐに残りの三人・・・ジェイルとマクシスとアムラと交戦とする仲間たちの動きが、目に入ったからだ。


特にアグレスは、他に誰とも協力し合わずに一人でジェイルと切り合っていた。

互いに鎌を持ち、結構な速度で鍔迫り合いをしている。


 何か言ってからだとジェイルに勘付かれると思い、無言で魔弾を撃ち込んだのだが、しっかりと避けられた。

さらに、アグレスから「手出しは無用だ!」という声が飛んできた。


「こいつはあたしに恨みがある・・・なら、それを受け止めてやるのが使命だ」


すると、ジェイルは一瞬首を傾げた。

「恨み?違うね・・・そんなんじゃあない。あたしにとっちゃ、あんたは仇だ。親父の・・・永久不変の、仇だ!」


 何があったんだ、と聞きたくなったが、その前にアグレスから話してくれた。


「こいつの父親は、ラフトレンジャーの創設者だ。10年前、あたしはエルドの命で、外に出稼ぎに来ていたこいつの父親を襲った。そして、喉を掻っ切ってやったのさ!」


やはり、ジェイルの父親はアグレスに殺されたようだ。そう考えると、アグレスがジェイルに恨まれるのも納得がいく。


「親父はいい奴だった・・・盗賊としても、父親としても。あたしが笑ってる間、親父は地に埋もれて腐って生きてた。・・・それを、あんたが殺した!命令されてだろうが、なんだろうが関係ない・・・あたしは、親父の仇を討つ!」


 ジェイルの目には、恨みと怒りが映し出されている。それを目の前にするアグレスは、冷静にジェイルを捉えて相手をする。


彼女は、ジェイルが自身を恨んでいることを承知の上で、あえて一対一で戦うことを選んだのだろう。それが自信によるものか、ジェイルの気持ちを尊重してかはわからないが。


 やがてジェイルは動きを止め、魔弾を数発アグレスに撃ち出す。

そのすべてを防がれると、ジェイルは「ははっ・・・」と乾いた笑いを口にした。


「そうかい、そうかい・・・やっぱり、あんたはそうやってあたしをバカにしてくるんだね!」


ジェイルは猛烈な速度で、アグレスに飛びかかった。

その目と刃に宿る恨みと怒りは、もはや純粋なる殺意へと昇華し、仇など関係なく、ただアグレスを殺すことだけを目的としているようだった。



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